上 下
6 / 182
1章 ダンジョンと少女

第6話 少年と皇女③

しおりを挟む
 足元に積もった砂をものともしない身軽な動きで接近し、急所へ目がけて振り下ろす。首元を通り過ぎる曲刀と入れ替わるようにして、ナイフを繰り出した。

 「あきらめろ。そこの女もナイフで応戦しようとしてあのザマだ。帝国兵装にナイフごときで勝とうなど笑わせる」

 「分かってないのはあんたの方だよ。一流の武器でも使い手が三流なら武器も三流に成り下がるんだよ。逆も然りだ。それに……あの女性は守るために慣れない武器を使ったんだ。あんたがとやかく言う資格はない!」

 頭上から斜めに振るわれた曲刀を体さばきとナイフを使っていなし、切り込んだ。素早い身のこなしと残像さえ垣間見えるほどの突き。少年の大人顔負けの戦いぶりを見て、男は心の中で小さく拍手を送る。よくぞ、ナイフなどという凡庸な武器で己の帝国兵装に挑んできたと。

 「おいおい。さっきから避けてばかりじゃないか! 苦しいなら、あっちの道を塞いでいるハム野郎に加勢してもらったらどうだ?」

 挑発に対して男は顔色一つ変えることなく、鼻で笑った。圧倒的強者の立場にあるという考えからくる余裕の笑み。

 「必要ないな。獲物が全力で抵抗した後に、独力で殺すのが私の流儀だ」

 ナイフによる連撃の狭間を狙い、男が曲刀を突如振るった。

  (もらった!)

 地面を割るほどの威力を誇る武器だろうと当たらなければ問題ない。間合いと得物の長さから曲刀の軌道を予測した少年は右足を軸に大きく体をひねる。これで相手の刃は空を切り、がら空きの相手の体にナイフを突き立てる——はずだった。

 「っ!!」

 反撃に移ろうとしていた体を急停止し、後ろに大きく回避。相手との距離をとると、胸元に突然走った鋭い痛みに膝をついた。胸元を押さえた手の平を超えて広がる赤黒い液体。服の首元をつまんで体を見れば、女性が負っていた傷によく似たものがそこにあった。ズキズキと不快な痛みを与えてくる傷に、口から苛立ち混じりの舌打ちがこぼれる。

 (何でだ……刃は俺にかすりもしていないはずなのに)

 戸惑いと痛みに歪む少年の顔を見て、男の顔に喜びの色が広がる。そのまま威嚇するように何度も曲刀を振り回し——

 気付く。戦っている時には気付くことができなかった、男の周囲の違和感に。そして、なぜ巨漢の男が加勢に加わることができなかったのかに。少年はスッと目を細めると口を開いた。

 「地面を割るなんて荒技を最初に見せられたもんだから、それがあんたの帝国兵装の能力だって早とちりしてた。だけど違ったんだな」

 少年の言葉に、男は続きを促すように沈黙で答える。

 「えげつないな。本物の刃の後に、もう一本風の刃があるなんて聞いていないんだけどな」

 これほどの短い時間に己の帝国兵装の能力を見破られたのは初めてなのだろう。男の目が見開かれた。

 「これは驚いたな……この武器の秘密を暴いたのは貴様が初めてだ。知られたからには必ずここで殺すしかないがな!」

 振るわれた曲刀の軌道を後追いする不可視の刃に気がつけたのは、空中に舞い上がった砂が何かにぶつかるようにして不自然な動きをしていたからだ。だだっ広い荒野ならば、突如発生した風が漂う砂の動きを変えることは容易にあり得る。だが、ここは唯一の入り口を除けば四方を背の高い廃墟の残骸に囲まれた空間。風の局所発生が起きないのはもちろんのこと、強風が吹き込むことさえ年間で両手の指を使って余裕で数えられることは、何度もこの場所に足を運んだことのある少年だからこそ知っている。巨漢の男が加勢してこないのは、不可視の刃の間合いが曲刀を使っている本人しか分からないからとなれば、おかしな話ではない。

 (風の通る場所で戦っていたら、気付けなかったかもしれない)

 地の利がこちらに傾いていることを起点に、少年の頭の中で打開策が次々と考えられては却下されていく。正面から斬り合うのは難しい。得物の長さとしてはこちらが不利。

 ならば奇襲か——
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

転生王子の異世界無双

海凪
ファンタジー
 幼い頃から病弱だった俺、柊 悠馬は、ある日神様のミスで死んでしまう。  特別に転生させてもらえることになったんだけど、神様に全部お任せしたら……  魔族とエルフのハーフっていう超ハイスペック王子、エミルとして生まれていた!  それに神様の祝福が凄すぎて俺、強すぎじゃない?どうやら世界に危機が訪れるらしいけど、チートを駆使して俺が救ってみせる!

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

妹に出ていけと言われたので守護霊を全員引き連れて出ていきます

兎屋亀吉
恋愛
ヨナーク伯爵家の令嬢アリシアは幼い頃に顔に大怪我を負ってから、霊を視認し使役する能力を身に着けていた。顔の傷によって政略結婚の駒としては使えなくなってしまったアリシアは当然のように冷遇されたが、アリシアを守る守護霊の力によって生活はどんどん豊かになっていった。しかしそんなある日、アリシアの父アビゲイルが亡くなる。次に伯爵家当主となったのはアリシアの妹ミーシャのところに婿入りしていたケインという男。ミーシャとケインはアリシアのことを邪魔に思っており、アリシアは着の身着のままの状態で伯爵家から放り出されてしまう。そこからヨナーク伯爵家の没落が始まった。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

処理中です...