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1章 ダンジョンと少女
第6話 少年と皇女③
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足元に積もった砂をものともしない身軽な動きで接近し、急所へ目がけて振り下ろす。首元を通り過ぎる曲刀と入れ替わるようにして、ナイフを繰り出した。
「あきらめろ。そこの女もナイフで応戦しようとしてあのザマだ。帝国兵装にナイフごときで勝とうなど笑わせる」
「分かってないのはあんたの方だよ。一流の武器でも使い手が三流なら武器も三流に成り下がるんだよ。逆も然りだ。それに……あの女性は守るために慣れない武器を使ったんだ。あんたがとやかく言う資格はない!」
頭上から斜めに振るわれた曲刀を体さばきとナイフを使っていなし、切り込んだ。素早い身のこなしと残像さえ垣間見えるほどの突き。少年の大人顔負けの戦いぶりを見て、男は心の中で小さく拍手を送る。よくぞ、ナイフなどという凡庸な武器で己の帝国兵装に挑んできたと。
「おいおい。さっきから避けてばかりじゃないか! 苦しいなら、あっちの道を塞いでいるハム野郎に加勢してもらったらどうだ?」
挑発に対して男は顔色一つ変えることなく、鼻で笑った。圧倒的強者の立場にあるという考えからくる余裕の笑み。
「必要ないな。獲物が全力で抵抗した後に、独力で殺すのが私の流儀だ」
ナイフによる連撃の狭間を狙い、男が曲刀を突如振るった。
(もらった!)
地面を割るほどの威力を誇る武器だろうと当たらなければ問題ない。間合いと得物の長さから曲刀の軌道を予測した少年は右足を軸に大きく体をひねる。これで相手の刃は空を切り、がら空きの相手の体にナイフを突き立てる——はずだった。
「っ!!」
反撃に移ろうとしていた体を急停止し、後ろに大きく回避。相手との距離をとると、胸元に突然走った鋭い痛みに膝をついた。胸元を押さえた手の平を超えて広がる赤黒い液体。服の首元をつまんで体を見れば、女性が負っていた傷によく似たものがそこにあった。ズキズキと不快な痛みを与えてくる傷に、口から苛立ち混じりの舌打ちがこぼれる。
(何でだ……刃は俺にかすりもしていないはずなのに)
戸惑いと痛みに歪む少年の顔を見て、男の顔に喜びの色が広がる。そのまま威嚇するように何度も曲刀を振り回し——
気付く。戦っている時には気付くことができなかった、男の周囲の違和感に。そして、なぜ巨漢の男が加勢に加わることができなかったのかに。少年はスッと目を細めると口を開いた。
「地面を割るなんて荒技を最初に見せられたもんだから、それがあんたの帝国兵装の能力だって早とちりしてた。だけど違ったんだな」
少年の言葉に、男は続きを促すように沈黙で答える。
「えげつないな。本物の刃の後に、もう一本風の刃があるなんて聞いていないんだけどな」
これほどの短い時間に己の帝国兵装の能力を見破られたのは初めてなのだろう。男の目が見開かれた。
「これは驚いたな……この武器の秘密を暴いたのは貴様が初めてだ。知られたからには必ずここで殺すしかないがな!」
振るわれた曲刀の軌道を後追いする不可視の刃に気がつけたのは、空中に舞い上がった砂が何かにぶつかるようにして不自然な動きをしていたからだ。だだっ広い荒野ならば、突如発生した風が漂う砂の動きを変えることは容易にあり得る。だが、ここは唯一の入り口を除けば四方を背の高い廃墟の残骸に囲まれた空間。風の局所発生が起きないのはもちろんのこと、強風が吹き込むことさえ年間で両手の指を使って余裕で数えられることは、何度もこの場所に足を運んだことのある少年だからこそ知っている。巨漢の男が加勢してこないのは、不可視の刃の間合いが曲刀を使っている本人しか分からないからとなれば、おかしな話ではない。
(風の通る場所で戦っていたら、気付けなかったかもしれない)
地の利がこちらに傾いていることを起点に、少年の頭の中で打開策が次々と考えられては却下されていく。正面から斬り合うのは難しい。得物の長さとしてはこちらが不利。
ならば奇襲か——
「あきらめろ。そこの女もナイフで応戦しようとしてあのザマだ。帝国兵装にナイフごときで勝とうなど笑わせる」
「分かってないのはあんたの方だよ。一流の武器でも使い手が三流なら武器も三流に成り下がるんだよ。逆も然りだ。それに……あの女性は守るために慣れない武器を使ったんだ。あんたがとやかく言う資格はない!」
頭上から斜めに振るわれた曲刀を体さばきとナイフを使っていなし、切り込んだ。素早い身のこなしと残像さえ垣間見えるほどの突き。少年の大人顔負けの戦いぶりを見て、男は心の中で小さく拍手を送る。よくぞ、ナイフなどという凡庸な武器で己の帝国兵装に挑んできたと。
「おいおい。さっきから避けてばかりじゃないか! 苦しいなら、あっちの道を塞いでいるハム野郎に加勢してもらったらどうだ?」
挑発に対して男は顔色一つ変えることなく、鼻で笑った。圧倒的強者の立場にあるという考えからくる余裕の笑み。
「必要ないな。獲物が全力で抵抗した後に、独力で殺すのが私の流儀だ」
ナイフによる連撃の狭間を狙い、男が曲刀を突如振るった。
(もらった!)
地面を割るほどの威力を誇る武器だろうと当たらなければ問題ない。間合いと得物の長さから曲刀の軌道を予測した少年は右足を軸に大きく体をひねる。これで相手の刃は空を切り、がら空きの相手の体にナイフを突き立てる——はずだった。
「っ!!」
反撃に移ろうとしていた体を急停止し、後ろに大きく回避。相手との距離をとると、胸元に突然走った鋭い痛みに膝をついた。胸元を押さえた手の平を超えて広がる赤黒い液体。服の首元をつまんで体を見れば、女性が負っていた傷によく似たものがそこにあった。ズキズキと不快な痛みを与えてくる傷に、口から苛立ち混じりの舌打ちがこぼれる。
(何でだ……刃は俺にかすりもしていないはずなのに)
戸惑いと痛みに歪む少年の顔を見て、男の顔に喜びの色が広がる。そのまま威嚇するように何度も曲刀を振り回し——
気付く。戦っている時には気付くことができなかった、男の周囲の違和感に。そして、なぜ巨漢の男が加勢に加わることができなかったのかに。少年はスッと目を細めると口を開いた。
「地面を割るなんて荒技を最初に見せられたもんだから、それがあんたの帝国兵装の能力だって早とちりしてた。だけど違ったんだな」
少年の言葉に、男は続きを促すように沈黙で答える。
「えげつないな。本物の刃の後に、もう一本風の刃があるなんて聞いていないんだけどな」
これほどの短い時間に己の帝国兵装の能力を見破られたのは初めてなのだろう。男の目が見開かれた。
「これは驚いたな……この武器の秘密を暴いたのは貴様が初めてだ。知られたからには必ずここで殺すしかないがな!」
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ならば奇襲か——
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