コカク

素笛ゆたか

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後編

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「おっし、ソーダ朱流っ。今日はドレでいくか!?」
「えっと、結構人気なグミゼリーにしよっか」
「よっし。昨日調達してきたこの材料を加えて、品種改良~」
「……あまり変な味作らないでよ」
「何言ってんだよ。お前の方が変なの多いだろ」
「……しかぁーさん。……ムカっぱら……」
「古っ。その言葉、めっちゃ古っ」

旭はあれから、ずっと朱流に会いに行っている。






新着ニュース。

『 new 『向こう』側のシャットダウンまで、あと三日。』

最近、旭は家に帰ってもパソコン画面を全く見ていない。

境界線よりも『向こう』側の、捨てられた大地。
そこからバイ菌や犯罪者が流れてくると、誰もが口を揃えて言う。だから隔離壁を降ろし、 『向こう』との断絶が決まっていた。
それが、あと三日後に迫ってきている。


「……空、よく見てるね」

旭は新しい駄菓子を作ろうとしている。
それは何だろうかと聞こうとしたが、出来上がってからの楽しみもある。
とりあえず朱流は、鍋の沸騰待ちの旭が空ばかり見ているのが気になった。

旭は我に返った。

「ああ、まーねっ」

こぽこぽ、と水が沸騰し出す音が聞こえてくる。新たな調味料を注いだ。

「なんつーか、向こうはあんま……ってか全然、空見えねぇんだよ」
「……そうなんだ」
「だからコッチ来て、初めてしっかりとナマの空見た。テレビのドラマとかそういうのじゃ
 沢山見てるけど、ナマでしっかりは初めて」

新たに牛乳と砂糖を入れた事で、煮沸は収まった。弱火にしてじっくりと煮込むつもりだ。

「……へぇー。綺麗だよ、空。僕は夕方とか、朝方とか特に好きだけど。
夕陽とか最高だし。すっごく好きだよ、〝アサヒ〟も」

旭はぎくりとしてしまった。

「は?」

思わず横から朱流を見る。

「へ?」

予想外の旭の反応に、同意は得られなかったのか、と朱流は困った顔をする。

「ああ、そ、そうだな。ってか朝陽もまともに見た事ねえけど。
 疲れてると見る暇ねーし。やっぱコッチとアッチは全然違うって感じ」
「――……」

〝違う〟の部分に、今度は朱流がドキリとした。しかし悟られないように上辺だけの相槌を打っておく。

半分開きの眼で、工場の淵にある机に視線を送った。木の机の上には破れかけた紙が置いてある。
コレは、昔時代の〝新聞〟のようなものだった。コチラ側では情報屋が仕入れてきた時事が紙に書かれて売られ、大抵の定住者はソレを読む。安価だからだ。

「……――……」

朱流はソコに書いてあった、『大都市』が起こそうとしている閉鎖計画に眼を通した後だった。
そして静かに俯いた。






「明日は何持ってこよっかね。特別、ほしーモンとかある?」

「…………」

朱流が視線をふい、と逸らしたのが分かった。明らかに不自然なその行動は旭の心を引っ掻く。

「おい、聞いてるのかよ」

「……もう、」

まるでその台詞を言いたくないと駄々を捏ねるような、嫌々とした口動き。

「…………もう、来ないで」

一瞬、何を言われたのか分からなかった旭はきょとん、とした。
これが学校で表面上だけ付き合っている友人から言われたなら、「はいはい」と、
軽く流しておくだろう。が、そうもいかない。旭の穏やかだった心はこれから荒れ始める水面のようにいくつもの波紋を作った。

「は? もう一回」
「…………もう来ないで、って言った」

途端。今までどういう表情を朱流に向けていたのかが分からなくなった。
「……ンでだよ! そんなに迷惑なら最初からキッパリ言えばいいだろっ?
 そんなトコまでもグダグダした言い方しやがってっ! うぜぇんだって」
「…………」
「んで、何も言わないんだよっ。――あ~~もう、ウザっ! すっげーウザっ!」

頭を横にブンブン振る旭は、自分を誤魔化していくのを理解していた。

「―――あーあーOKOK。んじゃ。短かったけど、サヨナラ」
「…………ぁ、」
「いいって。どうせお前のコトだって即行忘れるから、俺」
「――――――――」

旭はすぐに踵を返して、境界線の内の安全な場所……自分の家へと急いだ。
そして無性に、自分が写る鏡を片端から割りたい衝動に駆られた。





あれから二日が過ぎようとしている。


過ぎようと「している」、のは、今、三日目の朝と二日目の夜の中間点にいるからだ。
夜が降り立つはずもない、眠らない大都市。

「…………」

『 new とうとう、『向こう』側との断絶の日! 今日の17時、完全閉鎖』

つけっ放しになっているパソコン画面では、新着ニュースがお洒落な字体で様々な方向へと流れていっている。
旭は一回、頭を掻いた。
「今日かよ……。そういえば隔離壁降りるんだったよな。……なんか忘れてたし」


――――――――ピピピピ……。


途端、旭を起こす甲高い電子音が鳴る。

眉をひそめながらポケットや机の上を乱暴に探る旭。だが、携帯電話はもう無い事を思い出し、舌打ちを軽くした。

「何やってんだか……。
んと、これはパソコンの呼び出し音だっけ?」

予想通り、ほとんど使った事が無いネット電話の呼び出し音だった。
呼び出してきた相手の名前が画面に表示される。

『 志河 旭 様 からの電話です』

「……。俺?」

寝転がっていたせいでボサボサに乱れてしまった髪を掻き揚げる。
考えるまでもなく、電話をかけてきている相手は朱流しかいない。
あげた携帯電話は、まだ解体していないのか。
内蔵電話帳から自宅パソコンへの接続を選んだのだろう。

「……」

ゆっくりと、キーボードに人差し指を持っていき、ためらいながらエンターを押して電話をとった。


『……しかぁーさん?』

『向こう』側の住人の朱流は電話などした事がないのかもしれない。不安げな高い声を震わせている。

「…………何だよ」

ぶっきらぼうにしか返せれない旭は自分の性質を呪った。どうしても相手を遠ざける言い方しか出来ない。

『……電話を解体する前に、どうしてもしかぁーさんに言いたくて、』

こくん、と咽を鳴らす音が聞こえた。初めての機械媒体を通した会話に緊張しているのか。それとも。

『…………この携帯電話のお礼、ちゃんとするから。
 しかぁーさんが通っていた境界線近くの街に来て。夕方に』

いいよ、とも、嫌だ、とも言えなかった。
動揺を悟られずに、どのような言葉を返せば良いのか。
旭の頭は勉強する時以上にフル回転する。だが見つからない。

「…………」
『…………』

静寂が痛い。

『…………じゃあね』

朱流はギリギリ聞こえる大きさの声で終了を告げ、電話を一方的に切った。
旭はしばらく眼を閉じていた。







正午。

旭は家を飛び出した。

肩には必要最低限の荷物を詰めたリュックを下げている。

お昼という事で、街中は小休止をする社会人達で賑わっていた。
ビルの入り口や地面に何個もつけられた大型テレビは五月蝿く、何か緊急ニュースを叫んでいるが旭は聞き取ろうともしない。

指定された時刻までしばらくある。
旭は、中央道沿いにある大きくて白い建物の中に入っていった。
取り付けられた防犯コンピューターが自動で網膜検査をしてロック解除してくれる。
旭はエスカレーターに乗って二階にある一番大きな部屋に入っていった。

その部屋の中の住人達は、突然の来客にも平然として机に向かっていた

(あー……やっぱ分かんねぇや)

広いその部屋を見渡し、何百人もいる人々を眺めていたが、旭は特定の人物が割り出せないようだ。
諦めて、口を大きく開けて息を吸った。


「ミヤモトせんせ――――!! ……って、ドレっすか!?」

急に叫びだした一人の生徒に、今度こそ部屋――職員室に居た全員が驚いたが、該当者が手を挙げて慌てて納めようとした。

「……お、俺に決まってるだろう! 入り口で叫んでないでコッチへ来い!」

部屋の中央に机がある宮元は、旭に早く来いと促す。
行く途中でじろじろと他者からの冷たい視線を浴びせられたが、旭は至って平気だった。

「……ったく、いきなり学校来て、いきなり職員室で叫び出して。一体何なんだ。志河」
(お。コイツ、全然学校来ない俺の顔、覚えてたのか)

担任の宮元先生。
電話だけだったが、唯一、旭と連絡をとろうとしてくれる大人。

年齢は五十代くらいで、白髪が半分ほど混じっている。
黒ブチの眼鏡、閉まった首元の真っ白なシャツ。ネクタイは無名ブランドモノだった。眉の皺をしっかりと作っているが、眼鏡の下の瞳はどこか優しくも見える。

(宮元センセってこんな顔してるんだ)

全然彼の事を覚えていなかった旭は、今度こそきちんと記憶に刻もうと、椅子に腰掛けて彼を眺める。

「で、何だ? こんな時間から登校か?……まあ、来ただけ良い。次は俺の数学だから
 今までの遅れをみっちり、」
「や。俺、アンタに……――先生に言いたい事あって、来ました」

片手を宮元の前に突き出して、彼を止めた。

「……何だ」
宮元は指二本でずれた眼鏡を上げる。真面目に聞いてくれる事が空気で分かり、少しだけ旭は口角を上げた。

「やりたいコト……ってか、きょーみあるコト出来たから、俺、学校やめます」

「――な、お前っ……あと半年で卒業だぞ!? 今すぐ止めると言うのか!?」
「もち」

宮元がきつく睨んでも、旭は視線を逸らさない。もう、この道に関して迷う事も無いのだろう。
どう言っても無駄だろうと瞬時に理解出来た。長年やってきた教師の勘だ。

「お前は、生活態度とは裏腹に成績優秀だ。一流を目指せられる。
 だから……」

無駄だと分かっていても、優秀生徒を持った担任としては忠告を告げずにはいられない。

「やりたいコトと成績、関係ありませーん」
「……」

しばらく頭を抱えて、宮元は椅子から立った。ギギ、と軋む音がする。

「……頑張ってやってこい。その道で何があっても、決して諦めるなよ」

ありきたりな教師の台詞だが、旭の心にじんわりと温かいモノをもたらしてくれた。
宮元は一回だけ旭の頭をポン、と叩いてやった。



「――――なんだ、アレ?」
「え? えー、なにあれー」
「どれ…………って、なんだ!?」
「うわ、」

急激に。
職員室に異常の波紋が広がっていく。

宮元も旭も何事かと、他の先生達が注目している方向へと頭を向けた。

皆が見ているのは、大通りがある側の窓だった。
最初は通りで何か事件が起こったのかと薄く思った旭だったが、ちらりと眼に入ったモノに釘付けとなった。
慌てて窓際に駆け寄る。

――――大量の赤い球体が、地上から天に向かって昇って行く。

「何あれ……っ」
「すっごい!」 

路上の人々も『コレ』に注目していて、誰しもが眼で追っている。
ふわふわと、ゆっくりと風に揺られて空へと上り詰める『コレ』を。

「――――コレ、これが風船か……!」

朱流の目指していたモノ・風船。
夕陽にも負けないような原色の赤であるそれらは、ぱっと見た所、ゆうに三十個はある。
二階にいる旭にどんどん近づき、そして旭を軽く越してもっと高みへと昇って行く。


呆然と風船を追っている旭と、皆。
誰しもが、――疲れきったサラリーマンも、仕事途中の職人も、学校で勉強していた生徒も。
誰しもが、手元の端末の存在を忘れ、小さな空へと必死で駆け上がるソレを見ていた。そうしたら、本物の赤色――夕陽が眼に入った。

「綺麗……」

誰ともなく、そう感想を述べた。

「…………っ、アイツっ……!!」

旭は口元をきゅっと閉じ、全速力で職員室を飛び出して行った。






途中にあるセキュリティを解除するのが邪魔になって来る。どんどん苛立ってきた。
リュックに詰めた様々な必需品もぐしゃぐしゃになっているだろうが、お構いなしに走った。



――――境界線付近。

徐々に空から落ちてくる隔離壁がある為、民間人は退避して誰もいない。
境界線に壁が降りてくるまで、安全性を保つ目的の見張りロボットが二機だけ待機していた。

「――――――――おいっ! 待てよっ!」

ロボット。境界線。そしてその向こう側には――――朱流が立っていた。
境界線ギリギリで向こう側にいる。
おそらく風の流れに任せて、ここから風船を飛ばしたのだろう。

「……し、しかぁーさん!?」
「だから言えてマセンっ志河デス! って、何回言わせるんだコレ! 飽きたってのっ」

走って境界線に突進する旭は簡単に危険人物と認知された。
見張りロボットの目玉にレッドライトが点滅し、旭を行かせないようにとこちらに向かってくる。旭も朱流もぎょっとした。

「っわ、何だよこのタマゴ!」

丸くてつるつる滑りそうなロボット二機は旭に向けて展開し、四角い柵の形になって取り囲む。
途端、巨大スピーカーの大音量で警告音を鳴らしてきた。

「るっせ!! っち、これじゃあサツが来ちゃうだろっ! 黙れタマゴっ」

朱流の元まであと数十メートルといったところ。旭は必死で歩を進めるが、ロボットが強固なガードをしてきて、どうしようもない。

甲高く鳴り響く悲鳴のような警告音の中、潰されないように朱流は叫んだ。

「しかぁーさん……!! なんでここに来たの?」

「ばっか! お前さー、礼が足りねーんだよ。あんな風船だけで満足するとでも?」
朱流は「うっ……」と小さく唸る。

「……〝もう、来ないで〟って言ったはず。それに、高価なお礼をしてる暇ないよ。
 隔離壁がビルの高さまで降りてきてる。それに、この警告音で警察来ちゃうしさ……」

確かに巨大な隔離壁はすでにビルの屋上あたりまでを閉鎖していた。

「俺はさっ。その、駄菓子作りとか、昔時代のモン、もっと作りたいんだって!
 閉鎖されてないソッチでもっと空見たいし、……お前が迷惑とか思っても知らね!
 俺は……ソッチへ―――行きたい!」

警告音が二人を包む。旭が叫んだ、まとまっていない文章。
しかし、彼の言いたい事はしっかりと受け止めた。
朱流は決意をこめて、大きく頷いた。

「……僕の言ったことは嘘。迷惑じゃない……や、やっぱり迷惑かも。でも、分かった」
「どっちだよ!」
「しかぁーさん、自己中心的だもんっ!」

急に叫んだ朱流にビックリして「おお!?」と声をあげた旭だったが、更に驚く光景を眼にする。
朱流がツナギの胸ポケットから掌サイズの球体を取り出した。
カバーか何かを外し、キッとこちらを睨む。
生理的に、旭の中の危険信号が鳴り響いた。

「ちょ、ま、なにお前……待てっ、」

旭の静止の声も聞き入れず、朱流はその〝何か〟をこちらに向かって投げ放った。

――――ドォンッ!!

爆音が心臓まで響いた。
朱流の投げ放った球体は旭を取り囲んでいたロボットに直撃し、爆発を起こす。
きゅぃぃん……と鈍った音を立て、活動を停止する見張りロボット二機。最期に立てた音は子犬の鳴き声のようで同情を買う。

「これ、昔時代のオモチャの、爆竹。
……実は、軽く触れただけで凄い爆発起こる様に作っちゃって、不良品なんだ」
「…………こええ」

盛大な溜息を漏らしてから、旭はすぐに体勢を整えて駆け出した。

境界線の向こう側へと。
朱流の元へと。

「――――朱流っ、」
「!」










「しかぁーさん、重い」
「お前……それはないでっしょ」

壁は全て降り立った。
二人は無事に済んだ自分たちの身を確かめる。


旭は、相変わらず読み取りづらい朱流のその顔を今までで一番近い場所でじっくり見る。朱流を……これで回数的に二桁いったのだろうか、また困らせた。

「……なに?」
「やっぱ、全く似てねーな」
「?」

乱暴に飛び乗った朱流の上から降りて地面に座り、胡坐をかく旭。コチラ側の地は向こうと違って、柔らかかった。
汚れてしまっただろうズボンを思い、苦笑した。

「あ、色んな食糧や材料持って来たから。ちなみに服とか寝床とかは全く考えてなかったんで。
――てわけで、これからヨロシク」

のん気にこれからの話をしながら、歩き出した二人。
こちらの広い空は夕暮れ色一色で世界を紅に包んでいた。それは、酷く優しい。
まるでどこかに遊びに出ていた子ども達が帰路に着いたような、その光景。


旭と朱流が出会った事で、『大都市』側にもたらしたあの風に乗った球体は――――向こう側にも何かを与えられたのなら良いだろう。


――――宗功2019年。今日の空は見渡す限り雲一つ無い晴天で、夕陽が眩しい。



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