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第2話
しおりを挟む竜之介は185センチの高身長と、生まれ持ったハッキリしている目鼻立ち、そして蕩けるような美声を合わせて最高のビジュアルをしている。営業スマイルだとしても、少し口角を上げるだけで、見た者の心を射抜いてしまう。顔だけで主役をとってしまうのも納得の、天性の美形だ。
実は央夏は、そんな竜之介をなるべく直視したくないと感じていた。
しかし先輩として、態度に出さないように努めるしかない。
「うん、お互いに頑張ろう。僕は君の先輩だ。しっかりリードするよ。
ほら……好きなご飯奢ってやるから」
「あのさ央夏。奢りっつったって、この一週間の食事は全て事務所もち」
「……奢ってやるから好きなのを頼みなさい」
「言いたかっただけかよ!
んじゃ、俺、焼肉定食弁当にしよーっと」
央夏は、ホテルの密室で焼肉弁当はにおいが籠ると思ったが、あえて言葉にしなかった。
自分は先輩だから、と。
食事を取りながら、二人は演じるキャラクターについて話し合いをした。
「『アーノ』は誰もが見惚れる極上の金髪で、とても可愛い顔をしているが、性格は男前だ。主人公の『トーラー』を親友としてしっかり支えている」
竜之介は自分より背丈が小さい央夏を見下ろし、つむじから髪先までを見定める。
「央夏の金髪、そのまま使えるよな。
俺の『トーラー』は紫髪の独特な髪型。ウィッグになるから蒸れそうだな。ハゲそうで怖~」
「君の髪型は全然違うな。竜之介が今しているその頭、その刈り上げくんの髪型は何なんだ?」
「いやこれどう見てもツーブロックっしょ。大丈夫?あんた……」
誤魔化す時、央夏は、とりあえず人が良さそうに微笑めばいいと思っている。
「竜之介、SNSでサーチはしているかい?
今月号の原作漫画で、『トーラー』が『アーノ』にあげた水晶の話は知っているか?
その贈られた水晶は『アーノ』の髪に見立てた黄金色で、ファン達は、ニコイチが尊い……と涙している」
竜之介は身を乗り出した。
一般人だった頃はただ何となく写真を撮ってアップするだけだったSNSが、今や仕事の情報収集ツールと化すことを学んだ。
「へー!『トーラー』から『アーノ』へプレゼントか!金色の水晶ねえ。
何かに使えそうだな。俺らも水晶買ってくるか? でも今月発売したばかりの原作ネタを再現しちまうと、ネタバレがヤバイか」
「いや……、そうだな、わかる人にだけわかる写真を撮ろう」
言うなり、央夏は事務所が持たせたキャリーケースの中身を漁った。さすが事務所はマネージメントのプロだけあって、ケースの中には、あらゆる方向性の物品が詰められていた。
央夏は、金色パッケージのバスボムを取り出した。
「うん、それっぽいな、このバスボム。ちょうど水晶に見立てて使えるんじゃないか」
「ああ?これで一緒に風呂に入れって⁉︎」
「ははは、おいおい、何言ってるんだ竜之介。これを君から僕にプレゼント、という体の写真を撮るんだよ。
ほら、こっちへ来い」
央夏は竜之介を手招き、事務所支給のスマホで自撮りを始めた。
竜之介は持たされたバスボムを央夏へ突き出した味気ないポーズをしていたため、央夏が手を添えて形を整えてやった。
央夏はバスボムの上に自分の金髪が少し垂れるようにして、更に二人の肩と肩とを遠慮なく触れ合わせた。
「……」
「竜之介、距離が変に空いていると、不自然な写真になる。仲が悪いって邪推されてもつまらんだろう」
「……ああ」
「緊張は写真でも映るから、リラックスしなさい」
「そんなん分かるもんかよ」
「分かるんだよ。ファンの目を侮るな」
そつなくこなす央夏に、竜之介は感心するしかない。
まるで動じていない彼に比べて、自分は大分ぎこちなかった。
「……あ、央夏、待って。そのまま画像アップするつもりかよ? 俺に加工させて」
「いいけど、最近の人がやってる人形みたいになる写真加工は止めてくれよ。夜に暗闇から追ってきそうだからね」
「は? めっちゃかわいいじゃん、目デカ加工」
「いややめよう。流行の顔の比率がおかしい加工、本当にやめよう。そのままでいい。本当に。
明るさだけをイジって、後はそのままでいこう」
控えめな加工も終わり、早速マネージャーへ画像を送付すると、すぐに事務所アカウントから投稿された。所属事務所は動きが早い。
#ニコイチ #トラアノコンビ
#りゅうおうコンビ #竜之介からのプレゼント #ありがとう #金色 #今日のお風呂はこれに決定!
……と、タグつけされている。
早速エゴサーチをしてみると、ファンが狂喜乱舞している。
竜之介から央夏へのプレゼントとされたバスボムは、「今日の風呂で使う」だろう事はタグから分かるのだが、「央夏が一人で使う」とは、書いていない。そして二人は、写真から読み取ると、ホテルの同室に宿泊している。
後はご想像にお任せをする。
余白があってこそ、盛り上がるものもある。
「……俺は今、プロの仕事を見させてもらってる……」
唖然とする竜之介の横で満足そうにしていた央夏だったが、すぐに態度を変えた。
「——っ、いや、いかんなこれは」
竜之介は「何が?」と思った。ふと見ると、ファンの呟きの中に気になるものが混ざっていた。
「おー、投稿後一分で、もうどこのバスボム商品なのか特定されてんの! すっげー。ニコイチバスボムって言われてるの笑うわ。
え? バスボムのオンラインショップのサーバーが落ちたって?」
「違う馬鹿! 早く部屋を出るぞ!」
央夏はお互いの荷物の区別を厭わず、全ての物品をバックへ詰め込んだ。状況が飲み込めていない竜之介の手を引く。
央夏は自分よりも一回り大きい竜之介を軽く引っ張り、部屋から飛び出した。
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