DRAGON FOURTH

如月統哉

文字の大きさ
上 下
20 / 21
第一部【蠢く敵】

王族や令嬢、それは美味しいのか?

しおりを挟む
「そういう事だ。…だから残る手は、極めて成功確率の低いものが、二つしかない」
「成功確率が低い…?」

ライムは訳も分からず問い返す。

「ああ。…ひとつは、奴を挑発する事だ。少なくとも、興味心を煽るような真似をすれば、奴は必ず姿を見せる」
「成程。…だから、“成功確率が低い”のね?」

ライムがうんうんと頷く。しかしそれに釈然としないクレアは、その策の穴を指摘するべく、シグマに尋ねる。

「だが、シグマ。軽く言うが、一体どうやって奴を…」

すると、そんなクレアの危惧をシグマは読んでいたらしく、軽く頷いた。

「だから、この考えは一応、保留だ。…俺はどちらかというと、残った、もうひとつの考えの方が、奴をよく知る上でも、確率が高いだろうと踏んでいるんだが…」
「何だ? その、“もうひとつ”って」

リックが首を捻る。対して、シグマは僅かばかりその目に鋭さを見せた。

「…俺が先程、剣で奴に切りつけた事は覚えているな」
「? …ああ。だが、それが一体…」
「ふん──成程。血液鑑定か」

クレアが先を見越して呟く。
それにシグマは、珍しく苦笑した。

「正解だ。さすがだな、クレア」
「あぁあもうっ! ちょっと! そっちで納得してたって、こっちは、さっぱり訳が分かんないわよ!」

やはりと言うべきか、ライムが不機嫌そうに噛みつく。
するとリアナも首を傾げ、うーんと考え込んだ。

「私にも分かりませんわ。…どういう事ですの? シグマ様」

このやり取りによって、女性陣が、今までの話の意味自体、まるで分からないのだということが判明し、シグマは軽い目眩を覚えたが、この二人ならまあ致し方ないと決め込んだのか、どこか諦めたように口を開いた。

「…ウインダムズの“軍事技術”のひとつに、血液鑑定がある。
これは簡単に言えば、原型(オリジナル)の血液と、データの中の血液を照合し、そのデータのいずれかが、その原型の血液と一致すれば、その者の素性が安易に分かるという代物だ」

シグマは淡々と、自らの知識をさも当然のように語る。
これは言うなれば、こちらの世界でいうところのDNA鑑定のようなものだが、この世界ではそれはあくまで、軍事帝国を冠するウインダムズのみが有する技術なため、当然ながら一般の、しかも他国の者の知識にまでは浸透していなかった。

…結果。
当然、ライムの頭がウニになる。

「何だか…良く分からないけど、つまりは…その…」

既にライムの頭からは、理解不能を示す、白い煙が吹き出している。
シグマは溜め息をつくと、目を据わらせつつも言い方を変えた。

「つまりだ、今回のルーファスの血液が、そのデータの中にあるものと、どれであろうが一致すれば──ルーファスの正体に、確実に迫れるという訳だな」
「!あ、なーるほど…」

ようやく理解し、ぽんと手を叩くライムを、ちらりと冷めた目で一瞥したクレアが、悪びれる事なく、ごく普通に呟く。

「言い直さないと分からない辺りが、理解力に欠けているな」
「!うっさいな、もうっ!」

事実なだけにろくな反論も出来ず、頬を膨れさせて黙るライムをスルーし、シグマは先を続ける。

「だが、それにもひとつ欠点がある。…それは、ウインダムズとファルスの人間でない限り、判別が不可能だという事だ」
「!う"…、また分からなくなってきた…」

ライムが両拳でこめかみを押さえる。それに憐れみの視線をさらりとくれたのは、意外にもリックだった。

「…お前って、ほんっと、つくづくバカだよな…」
「何よ! あんたにバカ呼ばわりされる筋合いはないでしょ! じゃあリック、あんたには分かってるっていうの!?」

子どもさながらにムキになりながらも、ライムはひたすらリックに噛みついた。
するとリックは変に余裕を見せ、軽く肩をすくめて見せる。

「当然! …簡単な事だろ。国ってのは、ひとつだけでも人間が沢山いるもんだし、データを入れるにしたって、限度がある。
だからウインダムズでは、自国と、それから…同盟及び友好協定を結んでいる、ここファルスのデータだけを入れてるって事なんだろ。…まあ、これは俺の推測だけどな」

リックにしては感心なまでに鋭いその考えを聞いたシグマは、じっとリックを凝視した。

「長い台詞だが、珍しく鋭いな。その読みは正解だ」
「ほら、お前より俺の方が賢いじゃねーか」

リックが軽率にも、いらぬ一言を、あっさりとそして簡単に口にする。
それに対してライムは、活火山顔負けの勢いで爆発した。

「!むっか──! 最っっっ高にムカつくっ!」

これ以上ないほどのライムの怒りに、シグマは自然、再度の感情の低迷を覚えた。

このやり取りを傍で聞いていたクレアも、一国の王子とその国の上流貴族の娘とは凡そ思えない、この子ども同士の喧嘩のような応酬には、一時、無言になり、次いで呆れにも似た溜め息が自然と口から漏れる。

「…とにかく、詳しい事については、明日でもいいだろう。とりあえず今は、少しでも寝ておくべきだな」
「そうだな。…俺も疲れた」

恐らくは今までの人生の中で一番、といった様子を隠せるわけもなく、シグマはやんわりとではあるが肩を落とす。
するとリアナは、何故か顔を紅潮させ、同時に目を輝かせた。

「そうですわよねっ。シグマ様には、充分に体力を回復していただかなくては困りますわ☆」
「…お前が言うと、何だか別の事に聞こえるぜ…」

こちらもどんよりとした表情を、隠す事もなくひけらかすリック。
この発言は、リアナの場合…というより、リアナに限っての事だろうが、兄であるが故に妹の性格を嫌というほど理解している自分には、どう控え目に聞いてもこれは別の意味に聞こえる。

結果、ライムの全ての体の力が抜けた。

「もういい…反論する元気もないわ。…お休み」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ある国の王の後悔

黒木メイ
恋愛
ある国の王は後悔していた。 私は彼女を最後まで信じきれなかった。私は彼女を守れなかった。 小説家になろうに過去(2018)投稿した短編。 カクヨムにも掲載中。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処理中です...