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第一部【蠢く敵】
ファルス城に着いた
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【ファルス城・内部】
「うわー…綺麗だし、広いし、大きいしっ! 申し分のない、素敵なお城じゃないの、リック!」
興奮気味に、くるくるとターンすら折り混ぜて踊るライムに、すっかり呆れ返ったリックが、引きつりながら声をかけた。
「おい…、あっさり敬語を解いてくれたのは有り難いが、その妙なハイテンション、どうにかならないか?」
はたして指摘されたライムは、一転、その奇妙とも取れる踊りをぴたりと止め、じろりとリックの方を見やった。
「王子だってことを隠してた、リックには言われたくないわねぇ?
全く、シグマに輪をかけた大嘘つきなんだから…」
「誰に何をかけたって…?」
聞き捨てならないシグマの表情が引きつる。
…すると。
「すみません。…お話中失礼します、王子」
近くにいた兵士のうちのひとりが、リックに声をかけてきた。
リックは屈託なく答える。
「ああ、何だ?」
「陛下が御呼びです。王子と客人を、丁重にお連れするようにとの事です」
「俺も含めて“丁重に”ってのが、なんっか引っかかるな…」
紅髪が乱れることもまるで構わず、リックは軽く頭を掻いた。
王子のそれを肯定の返事であると受け取って、兵士は生真面目に先を続ける。
「王子とシグマ様には、案内の必要はないと思われますが、もう一人の客人がいるようですので、御案内させていただきます」
「そうだな、じゃあ頼む」
リックの促しに、兵士は頷き、誘導するために自らが先に立って歩き始めた。
その後ろから大人しくついていっていたはずのライムが、予想通りというべきか、またしても大人しくない行動を取る。
「!ねえ、リック」
「何だよライム、また何か思い付いたのか?」
この科白が出てくること自体、既にリックには信用のなくなっているライムだが、当の本人はそんな事にはまるで構わず、疑問を含めた上目遣いでリックに尋ねた。
「思いついたっていうか…、あのさぁ、さっきから思ってたんだけど、シグマって、もしかしてここでは超VIP扱い?」
「…なんで、そんな事を?」
リックは内心の、自らが知り得る事実を反復しながら答える。
…ライムの指摘は当たっている。
そりゃあそうだ。
なんせ、シグマは実は…
…そんな事を考えながら、リックがライムの反応を窺っていると、ライムはまだまだ残る疑問を口にする。
「だって、兵士がみんなシグマに対して礼をしていくんだもの。それに今、この兵士だって、様付けで呼んだでしょ?」
…“結構、目のつけどころはいいんだな”。
内心そう思ったリックだったが、それをおくびにも出さずに、代わりにその感心を笑みへと変える。
「なかなか鋭いな…と言いたい所だが、それは当然だ。お前は知らないだろうがな、なんせシグマは…」
「いいからさっさと行くぞ。王が呼んでいるんだろう?」
容赦なくもばっさりと会話を切り捨てられたライムは、思わずその場で地団駄を踏んだ。
「!くきーっ! また肝心なところではぐらかされたっ!」
その様がさすがに気の毒だと判断したらしいリックは、人差し指で軽く頬を掻きながら呟いた。
「大丈夫だよ、すぐに分かるさ。…奴だって、いくらなんでも俺の親父の前でまで、この調子じゃいられないだろうからな」
「!そーか…そりゃそーよね! なんて言ったって、ファルス王にご面会だもんね!」
「ま、そーいう事だ。…分かったら、さっさと行こうぜ」
「うわー…綺麗だし、広いし、大きいしっ! 申し分のない、素敵なお城じゃないの、リック!」
興奮気味に、くるくるとターンすら折り混ぜて踊るライムに、すっかり呆れ返ったリックが、引きつりながら声をかけた。
「おい…、あっさり敬語を解いてくれたのは有り難いが、その妙なハイテンション、どうにかならないか?」
はたして指摘されたライムは、一転、その奇妙とも取れる踊りをぴたりと止め、じろりとリックの方を見やった。
「王子だってことを隠してた、リックには言われたくないわねぇ?
全く、シグマに輪をかけた大嘘つきなんだから…」
「誰に何をかけたって…?」
聞き捨てならないシグマの表情が引きつる。
…すると。
「すみません。…お話中失礼します、王子」
近くにいた兵士のうちのひとりが、リックに声をかけてきた。
リックは屈託なく答える。
「ああ、何だ?」
「陛下が御呼びです。王子と客人を、丁重にお連れするようにとの事です」
「俺も含めて“丁重に”ってのが、なんっか引っかかるな…」
紅髪が乱れることもまるで構わず、リックは軽く頭を掻いた。
王子のそれを肯定の返事であると受け取って、兵士は生真面目に先を続ける。
「王子とシグマ様には、案内の必要はないと思われますが、もう一人の客人がいるようですので、御案内させていただきます」
「そうだな、じゃあ頼む」
リックの促しに、兵士は頷き、誘導するために自らが先に立って歩き始めた。
その後ろから大人しくついていっていたはずのライムが、予想通りというべきか、またしても大人しくない行動を取る。
「!ねえ、リック」
「何だよライム、また何か思い付いたのか?」
この科白が出てくること自体、既にリックには信用のなくなっているライムだが、当の本人はそんな事にはまるで構わず、疑問を含めた上目遣いでリックに尋ねた。
「思いついたっていうか…、あのさぁ、さっきから思ってたんだけど、シグマって、もしかしてここでは超VIP扱い?」
「…なんで、そんな事を?」
リックは内心の、自らが知り得る事実を反復しながら答える。
…ライムの指摘は当たっている。
そりゃあそうだ。
なんせ、シグマは実は…
…そんな事を考えながら、リックがライムの反応を窺っていると、ライムはまだまだ残る疑問を口にする。
「だって、兵士がみんなシグマに対して礼をしていくんだもの。それに今、この兵士だって、様付けで呼んだでしょ?」
…“結構、目のつけどころはいいんだな”。
内心そう思ったリックだったが、それをおくびにも出さずに、代わりにその感心を笑みへと変える。
「なかなか鋭いな…と言いたい所だが、それは当然だ。お前は知らないだろうがな、なんせシグマは…」
「いいからさっさと行くぞ。王が呼んでいるんだろう?」
容赦なくもばっさりと会話を切り捨てられたライムは、思わずその場で地団駄を踏んだ。
「!くきーっ! また肝心なところではぐらかされたっ!」
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「大丈夫だよ、すぐに分かるさ。…奴だって、いくらなんでも俺の親父の前でまで、この調子じゃいられないだろうからな」
「!そーか…そりゃそーよね! なんて言ったって、ファルス王にご面会だもんね!」
「ま、そーいう事だ。…分かったら、さっさと行こうぜ」
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