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†星の幻夢†
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累世が浅く溜め息をつく。
するとライセは、徐にレイセを抱き上げると、その勢いのままに強くハグをした。
途端にレイセの絶叫じみた声があがる。
「ぎゃあ! …ら、ライセ兄上がハグ!?
助けてルイセ兄上… 殺されるー!」
「…、何でレイセの嫌がることをわざわざするのが好きなんだ? ライセは」
傍らで傍観しつつも、髪に指を埋めて頭を押さえる累世。
それにヴァルディアスが話しかけた。
「ルイセか。いきなり賑やかなことだな」
「…賑やかなのはあっち限定だろ?」
累世は悶々とし、更に閉口加減になりつつも、ライセとレイセを指す。
ヴァルディアスは愉しげに笑った。
「違いない」
「…、ヴァルディアス、もういいだろう?
唯香を返してくれないか?」
言いながら累世は、唯香にその蒼の視線を走らせた。
唯香はすっかり話しかけるタイミングを失ったようで、ライセに絡まれるレイセを見て、どうしたものかと固まり、呆然としている。
そんな唯香の様を見て、ヴァルディアスは更に柔らかく笑った。
「カミュ皇子に頼まれでもしたか?」
「まさか。あの父さんが、俺たちにそんなことを依頼するとでも思うか?」
「成る程な。皇子共の独断か」
「…後のことを考えると怖いけどな」
そう呟く累世の頬には、文字通りの冷や汗が伝う。
…何しろあの父親のことだ。
こんな先走った真似を二人揃ってした挙げ句、それが父親や母親を思ったが故の行動だと知れば、父親が、まさしく烈火の如く怒ることは間違いない。
「…お前が唯香に危害を加えないのは分かっているが、唯香は俺たちの母親でもあるからな。
ここまで来ておきながら放置して、おめおめと手ぶらで精の黒瞑界になんて帰ろうものなら──」
「…さすがのルイセも、カミュ皇子のそういった面は苦手なようだな」
ヴァルディアスは累世を慮ったが故、苦笑せざるを得ない。
「いいだろう、ルイセ… お前の顔を立てるため、今回は唯香を返してやろう」
「…え、本当か!?」
まさかヴァルディアスが素直に唯香を返すとは思わなかった累世は、あまりの驚きに、その蒼の目をぱちくりさせる。
「…言ってみるもんだな…
済まない、感謝する…ヴァルディアス」
「礼なら俺により、むしろライセ皇子に言うのだな」
「え、何でライセに?」
不思議そうに、なおも目を瞬かせた累世を、ヴァルディアスはその蒼銀の視線のみで促した。
「…ライセ兄上のS気質ー!
僕はルイセ兄上に“はぐ”したいんだって言ってるのにー!」
「煩い。それ程の暴言をぶつけておいて、俺が“はいそうですか”と素直にルイセを与えるか」
「!う゛… る、ルイセ兄上ぇ…
サドのライセ兄上がいじめるー!」
「なっ!? …お前、またそんなことを…!
もういい! もうお前には絶対にルイセを貸してやらん!」
「!ぅわぁあぁん…ルイセ兄上ー!」
「…、子ども同士の喧嘩かよ…」
すっかり呆れ返ったルイセが、いつになく子供じみた言動のライセと、いかにも弟らしい、遊ばれている感の反応を示すレイセに対して、相応の思いを込めた息をつく。
「随分と愛されているな」
「…やめてくれよヴァルディアス…
あれを見て、本当にそう思うか?」
いつしか累世の表情は、どんよりとしたものへと変わる。
…年季で言えば無理もない。
何しろライセとは新米双子。
そしてレイセは、外見こそああだが、実質まだ産まれたばかりなのだから。
「世間一般の兄弟とか家族って…、まさかみんなこんな苦労をしているのか?」
「…いや、これはかなり特殊なケースだろうな」
「…やっぱりか」
そんな累世の鈍くも頭痛を帯びた呟きは、空間に溶けるようにして消え失せた。
†完†
執筆開始日:2009/02/22
執筆終了日:2009/02/23
【後書き】
この小説は、キリ番150000を踏まれた方からのキリ番リクエストでした。
ここでお題をもう一度。
お題
『皇帝と唯香とレイセの家族話
ライセやルイセも登場希望』
今更ながら、ここで若干の違和感があるとすれば、本編でも記載の通り、ヴァルディアスと唯香は、その立場関係からして、元来は相容れない者同士であるということですね。
結果、この小説は、唯香が闇魔界に留まるという、いわばパラレル要素が強い、上記の人物中心に織り成される話となっております。
本編では、カミュ以外を頑として受け入れることが無かったはずの唯香が、このお題に添うと、一転、どのように変化するのか…
その辺りが見物となるのではないかと思います。
…さて、今となって読み返してみると、自分の書いたものながら、唯香の息子三兄弟のやり取りのくだりが、やっぱり好きですね。これが書きたかったといっても過言ではありません。
特にライセとレイセの絡み。
兄弟ではありますが、ライセはこの辺りはしっかりとカミュに似たものがありますし、レイセはレイセで、累世大好き弟設定なあまり、ライセを相手にすればこうなるだろう…という面が、がっちり書かれていることに、当時の自分が相当に楽しんで(というより面白がって)書いていたのだろうな、というのが、今となっては苦笑で表れます。
何にしても興味深いお題なのは確かでした。
さて、以降、短編としては、不届きながらも完結したものは、あまりストックがありません。
それでも可能な限り、こちらに載せられればとは思っております。
今回も長くなりましたが、ここまでのお目通し、本当にありがとうございます。
するとライセは、徐にレイセを抱き上げると、その勢いのままに強くハグをした。
途端にレイセの絶叫じみた声があがる。
「ぎゃあ! …ら、ライセ兄上がハグ!?
助けてルイセ兄上… 殺されるー!」
「…、何でレイセの嫌がることをわざわざするのが好きなんだ? ライセは」
傍らで傍観しつつも、髪に指を埋めて頭を押さえる累世。
それにヴァルディアスが話しかけた。
「ルイセか。いきなり賑やかなことだな」
「…賑やかなのはあっち限定だろ?」
累世は悶々とし、更に閉口加減になりつつも、ライセとレイセを指す。
ヴァルディアスは愉しげに笑った。
「違いない」
「…、ヴァルディアス、もういいだろう?
唯香を返してくれないか?」
言いながら累世は、唯香にその蒼の視線を走らせた。
唯香はすっかり話しかけるタイミングを失ったようで、ライセに絡まれるレイセを見て、どうしたものかと固まり、呆然としている。
そんな唯香の様を見て、ヴァルディアスは更に柔らかく笑った。
「カミュ皇子に頼まれでもしたか?」
「まさか。あの父さんが、俺たちにそんなことを依頼するとでも思うか?」
「成る程な。皇子共の独断か」
「…後のことを考えると怖いけどな」
そう呟く累世の頬には、文字通りの冷や汗が伝う。
…何しろあの父親のことだ。
こんな先走った真似を二人揃ってした挙げ句、それが父親や母親を思ったが故の行動だと知れば、父親が、まさしく烈火の如く怒ることは間違いない。
「…お前が唯香に危害を加えないのは分かっているが、唯香は俺たちの母親でもあるからな。
ここまで来ておきながら放置して、おめおめと手ぶらで精の黒瞑界になんて帰ろうものなら──」
「…さすがのルイセも、カミュ皇子のそういった面は苦手なようだな」
ヴァルディアスは累世を慮ったが故、苦笑せざるを得ない。
「いいだろう、ルイセ… お前の顔を立てるため、今回は唯香を返してやろう」
「…え、本当か!?」
まさかヴァルディアスが素直に唯香を返すとは思わなかった累世は、あまりの驚きに、その蒼の目をぱちくりさせる。
「…言ってみるもんだな…
済まない、感謝する…ヴァルディアス」
「礼なら俺により、むしろライセ皇子に言うのだな」
「え、何でライセに?」
不思議そうに、なおも目を瞬かせた累世を、ヴァルディアスはその蒼銀の視線のみで促した。
「…ライセ兄上のS気質ー!
僕はルイセ兄上に“はぐ”したいんだって言ってるのにー!」
「煩い。それ程の暴言をぶつけておいて、俺が“はいそうですか”と素直にルイセを与えるか」
「!う゛… る、ルイセ兄上ぇ…
サドのライセ兄上がいじめるー!」
「なっ!? …お前、またそんなことを…!
もういい! もうお前には絶対にルイセを貸してやらん!」
「!ぅわぁあぁん…ルイセ兄上ー!」
「…、子ども同士の喧嘩かよ…」
すっかり呆れ返ったルイセが、いつになく子供じみた言動のライセと、いかにも弟らしい、遊ばれている感の反応を示すレイセに対して、相応の思いを込めた息をつく。
「随分と愛されているな」
「…やめてくれよヴァルディアス…
あれを見て、本当にそう思うか?」
いつしか累世の表情は、どんよりとしたものへと変わる。
…年季で言えば無理もない。
何しろライセとは新米双子。
そしてレイセは、外見こそああだが、実質まだ産まれたばかりなのだから。
「世間一般の兄弟とか家族って…、まさかみんなこんな苦労をしているのか?」
「…いや、これはかなり特殊なケースだろうな」
「…やっぱりか」
そんな累世の鈍くも頭痛を帯びた呟きは、空間に溶けるようにして消え失せた。
†完†
執筆開始日:2009/02/22
執筆終了日:2009/02/23
【後書き】
この小説は、キリ番150000を踏まれた方からのキリ番リクエストでした。
ここでお題をもう一度。
お題
『皇帝と唯香とレイセの家族話
ライセやルイセも登場希望』
今更ながら、ここで若干の違和感があるとすれば、本編でも記載の通り、ヴァルディアスと唯香は、その立場関係からして、元来は相容れない者同士であるということですね。
結果、この小説は、唯香が闇魔界に留まるという、いわばパラレル要素が強い、上記の人物中心に織り成される話となっております。
本編では、カミュ以外を頑として受け入れることが無かったはずの唯香が、このお題に添うと、一転、どのように変化するのか…
その辺りが見物となるのではないかと思います。
…さて、今となって読み返してみると、自分の書いたものながら、唯香の息子三兄弟のやり取りのくだりが、やっぱり好きですね。これが書きたかったといっても過言ではありません。
特にライセとレイセの絡み。
兄弟ではありますが、ライセはこの辺りはしっかりとカミュに似たものがありますし、レイセはレイセで、累世大好き弟設定なあまり、ライセを相手にすればこうなるだろう…という面が、がっちり書かれていることに、当時の自分が相当に楽しんで(というより面白がって)書いていたのだろうな、というのが、今となっては苦笑で表れます。
何にしても興味深いお題なのは確かでした。
さて、以降、短編としては、不届きながらも完結したものは、あまりストックがありません。
それでも可能な限り、こちらに載せられればとは思っております。
今回も長くなりましたが、ここまでのお目通し、本当にありがとうございます。
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