†血族たちの秘密†

如月統哉

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†六星の系譜†

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【サリア編】

…“今年もこの日がやってきた”。
それを事実として実感していたサリアは、知らずに口元を綻ばせながらも──
精の黒瞑界の城内にある自らの執務室に、大量の美花を飾っていた。

六魔将の間では、『親しき仲にも礼儀あり』を地で行くかのように、それぞれの誕生日には必ず何かを贈り合う。

それは時に、身につける物であったり、絵画であったりと、その都度違ってはいたが、それぞれ皆、その時の相手に、己が一番相応しいであろうと考えるものを贈っていた。

…そして、今回のサリアの場合は…

「…サリア、居るか?」

不意に執務室の扉の向こうから、六魔将のひとり・【時聖】レイヴァンの声が響いた。
それに気付いたサリアは、足取りも軽く扉に近づき、開く。

「…?」

レイヴァンはそんなサリアの様子に一時戸惑うも…
そこはさすがに六魔将の最高実力者、すぐに気持ちを冷静に保つと、手にしていたプレゼントを、今日の主役に手渡した。

「!あ…、有難うレイヴァン!」

サリアが満面の笑みを浮かべる。
…レイヴァンから受け取ったプレゼントは、その作りもラッピングも、小さな四角の形をしていた。
しかし小さいながらも、そのラッピングに使われている素材の高級さはただ事ではない。
サリアは思わず、レイヴァンを見上げていた。

「あ…開けてみていいかしら?」
「ああ」

レイヴァンは二つ返事で頷いた。
送り主からの了解が出たので、サリアはすぐにラッピングをほどき始める。

中から出てきたのは…

「…!? これって…まさか、ヴァンヘルのピアス!?」

…“ヴァンヘル”。
正式名をヴァンド=ヘルシングスという、精の黒瞑界でも上位一、二を争う、高貴アクセサリーを扱う超高級ブランドの略称だ。
中でもそこのピアスは、誕生日に身につけることで幸せな結婚が出来ると、若い娘の間では波紋も話題も広がり、現在、購入しようとしても、黙っていても向こう3年は待たなければならないような、極めて希少価値な代物なのだ。

そんな予想外に高価なプレゼントに、さすがのサリアの瞳も、一瞬ながら大きく見開かれた。

「!ほ…、ホントにこれ…、貰ってもいいの!?」
「…ああ。その為に買ったのだから、遠慮することはない」

レイヴァンは嬉しそうに笑った。
すると、いつの間に近付いて来ていたのか、その傍らで、ぴたりと足を止めた者が複数いた。

そこに居たのは、フェンネル、シン、ユリアスの三人だった。
皆、三者三様に、大小様々にラッピングされた贈り物を手にしている。
サリアの目が、レイヴァンの側にいる三人に向けられた。

…三人は示し合わせるふうもなく、ごく自然に頷く。
それでも代表したかのように、フェンネルが口を開いた。

「誕生日おめでとう、サリア」
「!あ、有難う…」
「おめでとう、サリア!」

三人は口々に祝いの言葉を述べながら、サリアに贈り物を手渡した。
嬉々としたサリアがプレゼントを開くと、

フェンネルからは色々な種類の香水一式、
シンからは真紅のドレス、
ユリアスからはオルゴールも兼ねた宝石箱だった。

サリアは思わず口元に手を当てた。
それらは皆、欲しかったものばかりで、そのツボを見事に突いてきた、彼らからのプレゼントが本当に嬉しかったからだ。

「うわぁ…、あ、有難う…!」

「…しかしカイネルの奴、一体どこで何してるんだ?」

シンの苦虫を噛み潰したような一言に、恍惚となりかけていたサリアは、はっと我に返った。

…そういえば、カイネルの姿が見えない。

サリアは先程までの暖かい気持ちは何処へやら、不意にむかむかと腹が立ってきた。
その理由はただひとつ。

(まさか、あの男…
あたしの誕生日、けろっと忘れてるんじゃないでしょうね?)

…本当はそれは図星だったのだが、それを今のサリアが知るよしもない。
するとそのサリアの顔色が変わったのを的確に察知したのか、レイヴァンが溜め息混じりに呟いた。

「…いつもながら、仕方のない奴だな」

しかしその呟きは火に油だったようで、サリアの表情は目に見えて引きつった。
…するとタイミングの悪いことに、その当の噂の主が、声をかけることで地雷を踏んだ。

「…何だよ、もうみんなお揃いなのか」
「!」

遅れてきてまるで悪びれないその様子に、今度はサリアを抜いた周囲の者の空気が固まる。
カイネルはそれに気付くふうもなく、皆の側まで歩を進めた。
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