†血族たちの秘密†

如月統哉

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†荊の道標†

将臣とマリィの、17年間の話(将臣視点)

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…あの日…

「!っ、親父っ…、早くしろ!」

…精の黒瞑界の皇家に、反乱さながらに乗り込んだ俺とマリィは、自然、それを阻止せんとする六魔将と対立することになった。

「マリィたちだけじゃ、いつまでも六魔将は抑えきれない…
レイヴァン、早くっ!」

あの時のマリィの声は、今も耳に残っている。

【六魔将】。
そのうちのひとりでもあり、自分の父親でもあるレイヴァンと、諸事情で、今はこの世界から離れているユリアス2人を差し引いても、それを補って余りあるほどに…

…それ程までに、残りの4人は強かった。

足止めを目的としていたというのに、こちらは幾度となくうち倒され、そして幾度となく殺されかけた。

俺を、かのレイヴァンの息子だと認識した彼らの攻撃には、もはや容赦などというものは、微塵も感じられなかった。

シンとサリアの相手はマリィに任せるも、それでもこちらはフェンネルとカイネルを同時に相手にせねばならず、正直、2対1はかなりきついものがあった。

…しかし。
俺たちは六魔将を倒すのが目的ではなかった。

最終目的は別にある。

…出来れば、カミュとは和解の上で、唯香と話をしたかったのだが…
父親に救い出された唯香は、目に見えてやつれていた。
そんな唯香の体調を危惧し、俺たちは城からの脱出を優先させた…はずだった。

…しかし。
そんな俺たちに、六魔将たちは、部下に命じて追撃をかけてきた。

部下をけしかけて来たことからして、我々を殺すのが目的なのではないことは明らかだった。
相手は、こちらの実力を良く知っている。
こちら側にレイヴァンがついていることも分かっているはずだ。
故に、殺すつもりなら…自分たちが動くはずだ。

恐らく、この時に彼らが真に狙っていたのは、こちら側の精神的な疲労だろう。
それを真綿に水が染み入るように、じわじわと部下による攻撃を加えることで、こちらが疲労し、音をあげるのを狙ってきたのだ。

だが。
…物事とは、そう巧くはいかないものだ。
それをいち早く察した父親・レイヴァンは、今後の拠点を自らの館であるゼファイル家とし、そこに我々を再び招き入れると、およそサヴァイス様でも破れるかどうかという強力な結界を、館全体に張り巡らせた。

そのまま再び外に出て、追撃者たちを片端から叩き伏せる。

そうして、六魔将の最高実力者が矢面に立ったことで、皇族側の戦意は半減したらしく、追っ手の数は目に見えて減っていき、やがては全ていなくなった。

それを確認し、館に引き上げたレイヴァンは、ふと、マリィに目を落とした。
…マリィは、何かに怯えるように、僅かに唇を震わせている。
それに気付いたレイヴァンは、つと、将臣を促した。

「何だ? 親父」
「…将臣、今はマリィの側にいてやれ」
「マリィの…?」

父親の真意を測りかねた将臣は、ふと、マリィに目をやった。
…マリィの顔は青ざめ、縋り頼るようにこちらを見ている。

(!…成る程な)

将臣は心の中で呻いた。

マリィは恐れているのだ。
父親に、そして兄に逆らったことが、どのような結果を齎すのか…
先が読めるだけに。

…だから怯えている。
肉親から拒まれ、果ては敵と見なされるのではないかと。
恐怖しているのだ…!

それに気付いた将臣は、まだ幼いマリィの気持ちを察して、いたたまれなくなった。

「…おいで、マリィ」

気付いた時には、言葉が先に出ていた。

「えっ…」

マリィは、些かの期待と、期待したそれを裏切られるのではないかという心境の狭間に陥り、葛藤する。
その感情を充分に心得た上で、将臣はもう一度繰り返した。

「おいで、マリィ…」

…今度は、明らかに意図的に告げたものだった。

“決して感情に流されたわけではない”。

すると、マリィは目に見えて顔を輝かせた。

「うん、将臣!」

大きく頷くと、マリィは将臣の側に駆け寄り、将臣を見上げる。
それに将臣は、マリィの高さに合わせるかのように、自らの膝を折った。

「…何も気に病むことはない。
かつてのカミュが唯香を守ろうとしたように…
お前のことは、俺が必ず守ろう」
「!…ほ、本当に…!?」

マリィの感情の大半を、期待が占める。
それに応えるように、将臣ははっきりと頷いた。

「ああ。だからお前も、肉親相手に怯えたりするな」
「うんっ!」

にこにこと笑みを浮かべたマリィは、目に見えて上機嫌だった。

…そんな微笑ましい様子を、レイヴァンがその傍らで、静かに見守っていた。
その、柔らかくも確実に標的を捉えたような…、特徴ある視線を、より強く感じた将臣は、ついに観念したように溜め息をついた。

「…分かったよ、親父。今後、マリィの面倒は…俺が見る」
「!? え…?」

聞き間違いかと、マリィが軽く首を傾げると、将臣は、是非の程を父親に問うた。

「…構わないか?」
「勿論だ」

レイヴァンは満足そうに頷く。

…そう、それこそが、かつてのサヴァイスとの画策そのものであり、そしてそれ自体が…自分たちの狙いでもあった。

だからこそ。
その意見に反対する理由はない。

「ま…、将臣、本当に? 本当に…マリィの傍にいてくれるの!?」
「ああ」

将臣は頷いた。

「俺では役不足かも知れないがな」
「!ううん、そんなことない!」

マリィは必死に首を横に振る。
…思ってもいなかった、将臣の言葉はとても嬉しかった。

マリィは頬を桜色に染めると、感謝の気持ちを込めて呟いた。

「…ありがとう、将臣」
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