†Break Guns†

如月統哉

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Ⅵ.因縁の魔窟

拐われたセレン

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組織を抜けた時から、追っ手を掛けられ、そして今なお、そう宣告されている。
故に、ユイは訝しんだ…が、総統の目的は…その矛先は、その予想とは違っていた。

《お前が余りにも聞き分けがないのでな…
これまでのお前の業は、全てヴィルザーク家の娘に負って貰うとしよう》

「!」

何かを察して、ユイが反射的に立ち上がる…その瞬間に、たった今まで傍にいた、セレンの姿が消えた。
それこそ言葉はおろか、何の声も無しに…だ。

「!えっ…、セレン!?」

ヴァルスが驚愕と焦りで青ざめる。
そしてそれは、レアンも同じだった。


…この場に、自分以外にも、二人も…
それも、組織の幹部クラスが居たのに。
この総統は気配なく、現れるのも、セレンを拐うのも、それこそほんの刹那に…!


だが、青ざめた二人とは対極に、ユイは明らかな怒りの赤を見せた。
ユイの手できつく握り込まれた、テーブルクロスがその場一点に引き寄せられ、上に置かれていたものが、割れたり傾いたり、場所によっては落ちたりと、ことごとく、その形を変えてゆく。

「光の屈折率を利用し、幻影を送り込んで来たのかと思えば… よもや、使う魔術は本物とはな。姑息な真似をする…!」
「…総統の使う魔術は、光属性だからな。
あの程度の幻影など、お手のものだろう…けど、ユイ…!」
「──分かっている…!」

“現時点まで、ロゼが動きを見せていない以上、総統が直に動く可能性もある──”
それはヴァルスとも、先の話し合いで既に予測していたことだ。


だが、よもや、よりによって…
【魔公】と呼ばれる、屈指の魔力の持ち主である、レアンの館で…
それも、その当のレアンにヴァルス、更に自分までもが傍に居たというのに──
…目の前で、みすみす…拐われるとは…!


ユイは、ぎりっ、と強く片歯を軋ませた。
一方、ユイのそんな怒りを滅多に見たことのないヴァルスは、総統の持つカリスマ性とは、また別の意味でも、ぞっとする。

…重ねて言うまでもなく、ユイは、組織の副総統だ。
“副総統”。つまり総統に次ぐ、第2の実力者。
そんな彼を、そしてその桁違いの人間離れした魔力の規模を知っていれば、その怒りの深さや激しさも、推して知るべし。

「…済まない、ユイ」

恐らくは、ユイと同一の考えをしていたであろうレアンが、沈痛な面持ちで謝罪する。
すると、そんなレアンに、ユイはその苛立ちを、若干ながら和らげた。

「俺もヴァルスも、似た立場に在ることは分かるだろう…
むしろ、あの総統を知る身でありながら、こういった動きに出ることが予測出来なかった、我々側の非の方が、よほど重い。
…だが今は、責任や非のことで揉めている場合ではない」
「そうだね。とっとと組織に乗り込んで、お姫様ならぬ、ヴィルザーク侯爵令嬢奪還!といかないとね」

通常の国民なら、遥かに困難、かつ無謀にあたるはずのことを、ヴァルスはいとも簡単に口にする。
…だが、これはいい意味での、彼なりの、場を和ませるための軽口なのだ。

そう、“通常の民なら”、冗談でもこんなことは口に出来はしない。
戯れにもそのような言葉を口にしたが最後、その者はどのような手段であれ、必ず組織の人間に殺されるからだ。

組織・Break Gunsは、それ程までに、この国においての、絶対的な畏怖と恐怖、そして権力の象徴。
…つまり裏を返せば、冗談でもこのような発言が出来るヴァルスが、組織において、かなり(幹部クラス)の高位にあることが分かるということだ。

だがそれでも、逆に、“組織に属しているからこそ”、その力は──
その恐ろしさは… よく、理解している。
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