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Ⅴ.背徳の墓標
新しい鍵
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しかしセレンは、その持ち前の勘からか、この周囲の反応に、何か言いようのない胸騒ぎがしていた。
それ故に、本来なら躊躇い、断も辞さないであろうこの申し出に、セレンはすぐには判断を下せないままでいた。
それでもユイとヴァルス、その双方が頷くことで、セレンのそんな気持ちは僅かながら、心強さと共に払拭される。
そしてその反応で、どうやらセレンの感情が、そこそこながらも落ち着いたらしいと判断したレアンは、徐に部屋の外へと歩き出した。
残りの三人は黙ったまま、それに続く。
そうして幾つかの通路を左右に曲がりながら、黙々と数分ばかり進んで行くと…
ふと皆の眼前に、地下へと続く階段が開けた。
「……」
ユイは黙ったまま、ひんやりとした空気が誘う階段を見据える。
そんな彼には、これから起こるであろうこと、そして起こり得るであろうことの、完全な予想がついていた。
「なあ、ユイ… これって…」
これまでのレアン公爵の言動から、ユイ同様、何かを察したらしいヴァルスが、遠慮がちに囁く。
それにユイは、再び頷いた。
「お前の予想通りだ」
「…、参ったね、これは…」
ヴァルスはセレンに聞こえないように嘆息した。
嫌な予感ほど的中する。
当たって欲しくない予想に限って当たってしまう。
「酷…なんじゃねぇの、今のセレンには…さ」
「確かにな」
意外にもユイは冷静に言葉を押し進める。
「だが、それは公爵にも分かっている。
自身でも言っていただろう? …時期尚早だと」
…かつん、かつんと先頭きって階段を降りていくレアンの歩を、この時ばかりはユイも、心に刻むように聞く。
「……」
それにヴァルスは何も言えなくなり、黙り込んだ。
──その階段自体は、地下へ続いていると言えど、そう長くはない。
そして所々に、ランプというよりは外灯に近いような照明が取り付けられており、灯りには不自由しなくなっている。
その恩恵で足元を危ぶむことなく目的地に着いたレアンは、突き当たりの扉の前で、ぴたりと足を止めた。
「レアン公爵」
ここにきて再度、ユイが口を開いた。
しかしそれをレアンは読んでいたらしく、返事を声に出すこともなく振り返る。
それを待たずして、ユイは告げた。
「…悪いが、俺とヴァルスはここで、事が終わるまで待たせて貰う。
中には貴方とセレンだけが入るべきだ」
「えっ…」
ユイの言葉がよほど意外だったのか、セレンがまじまじとユイを見る。
「…ユイ…」
ユイの気持ちを酌んだのか、レアンが思わず名を呼び漏らす。
それにユイは、瞬きをすることで肯定し、返答とした。
「…分かった」
レアンは服のポケットから、鈍く銀色に光る鍵を取り出した。
それはつい最近作られた鍵なのか、それを扉にある鍵穴に差し込み、回すと、あっけないほど簡単にその錠は開けられた。
「…セレン、俺たちはここで待っている。
不安だろうが… レアン公爵が付いているなら大丈夫だろう。
安心して行ってこい」
「…ええ」
…本当は、ユイと離れること自体に抵抗がある。
セレンからしてみれば、今となってはユイが自分を置き去りになどしないのは、良く分かっている…
けれど襲い来るのは不安。
ここに現実として、ヴァルスとレアンと…ユイがいても。
この場に居ても、離れること自体が不安であり、心配の根源。
それでも、付いて行きたいと我が儘を言ったのは、他ならぬセレンの側だから。
だからこそセレンは、それ以上は言わなかった。
…否、言えるはずがなかった。
「じゃあ…行って来るから、待っててね」
それ故に、本来なら躊躇い、断も辞さないであろうこの申し出に、セレンはすぐには判断を下せないままでいた。
それでもユイとヴァルス、その双方が頷くことで、セレンのそんな気持ちは僅かながら、心強さと共に払拭される。
そしてその反応で、どうやらセレンの感情が、そこそこながらも落ち着いたらしいと判断したレアンは、徐に部屋の外へと歩き出した。
残りの三人は黙ったまま、それに続く。
そうして幾つかの通路を左右に曲がりながら、黙々と数分ばかり進んで行くと…
ふと皆の眼前に、地下へと続く階段が開けた。
「……」
ユイは黙ったまま、ひんやりとした空気が誘う階段を見据える。
そんな彼には、これから起こるであろうこと、そして起こり得るであろうことの、完全な予想がついていた。
「なあ、ユイ… これって…」
これまでのレアン公爵の言動から、ユイ同様、何かを察したらしいヴァルスが、遠慮がちに囁く。
それにユイは、再び頷いた。
「お前の予想通りだ」
「…、参ったね、これは…」
ヴァルスはセレンに聞こえないように嘆息した。
嫌な予感ほど的中する。
当たって欲しくない予想に限って当たってしまう。
「酷…なんじゃねぇの、今のセレンには…さ」
「確かにな」
意外にもユイは冷静に言葉を押し進める。
「だが、それは公爵にも分かっている。
自身でも言っていただろう? …時期尚早だと」
…かつん、かつんと先頭きって階段を降りていくレアンの歩を、この時ばかりはユイも、心に刻むように聞く。
「……」
それにヴァルスは何も言えなくなり、黙り込んだ。
──その階段自体は、地下へ続いていると言えど、そう長くはない。
そして所々に、ランプというよりは外灯に近いような照明が取り付けられており、灯りには不自由しなくなっている。
その恩恵で足元を危ぶむことなく目的地に着いたレアンは、突き当たりの扉の前で、ぴたりと足を止めた。
「レアン公爵」
ここにきて再度、ユイが口を開いた。
しかしそれをレアンは読んでいたらしく、返事を声に出すこともなく振り返る。
それを待たずして、ユイは告げた。
「…悪いが、俺とヴァルスはここで、事が終わるまで待たせて貰う。
中には貴方とセレンだけが入るべきだ」
「えっ…」
ユイの言葉がよほど意外だったのか、セレンがまじまじとユイを見る。
「…ユイ…」
ユイの気持ちを酌んだのか、レアンが思わず名を呼び漏らす。
それにユイは、瞬きをすることで肯定し、返答とした。
「…分かった」
レアンは服のポケットから、鈍く銀色に光る鍵を取り出した。
それはつい最近作られた鍵なのか、それを扉にある鍵穴に差し込み、回すと、あっけないほど簡単にその錠は開けられた。
「…セレン、俺たちはここで待っている。
不安だろうが… レアン公爵が付いているなら大丈夫だろう。
安心して行ってこい」
「…ええ」
…本当は、ユイと離れること自体に抵抗がある。
セレンからしてみれば、今となってはユイが自分を置き去りになどしないのは、良く分かっている…
けれど襲い来るのは不安。
ここに現実として、ヴァルスとレアンと…ユイがいても。
この場に居ても、離れること自体が不安であり、心配の根源。
それでも、付いて行きたいと我が儘を言ったのは、他ならぬセレンの側だから。
だからこそセレンは、それ以上は言わなかった。
…否、言えるはずがなかった。
「じゃあ…行って来るから、待っててね」
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