†Break Guns†

如月統哉

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Ⅴ.背徳の墓標

築かれる協力体制

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★☆★☆★


その中央で、魔術のぶつかり合いは今だに続いていた。


ユイが先に放った、死葬の闇。
これを沈黙させるべく放たれた、アベルの狂嵐の風と風の砕牙。

ふたつとひとつの魔術が、両者の中央で、現状維持状態で拮抗している。
つまりユイは、その裏を掻く形でアベルを仕留めた訳だが、その当のユイは、3つの魔術から奏でられる、火花のような音の耳障りさに、不愉快そうに眉を顰めていた。

見かねたレアンが、軽く右手を挙げる。
するとその部屋の中央でくすぶっていた魔術は、まるで元から何事も無かったかのように消滅した。

「!」

だが、これに瞬時に警戒を固めたのはユイだ。
レアンは今、魔術発動に必要不可欠な“声”を、一切発しなかった。
ということは、それだけを見ても彼は、相当なレベルの魔力の持ち主であることが分かる。

…そんなユイの目に自然に浮かぶ、警戒と殺気の入り混じった拒絶を、レアンは苦笑気味に払拭させた。

「…そう警戒することはない、副総統よ」
「それは無理な話だ」

思いの外、やんわりとしたレアンの口振りに業を煮やしたのか、ユイはいつになくきっぱりとはねつけた。
次いでじろりとレアンを見やると、戦いも辞さないといった様子も露わに、厳しく口を開く。

「…全てをうやむやにしたままのお前が、信用に足るはずがない」
「成る程、痛烈な皮肉だ。そしてその洞察力…、さすがだな」
「嫌味も世辞も結構だ」

ユイは頑なな言動を崩さず、なおも吐き捨てるように告げた。

「…俺が真に知りたいのは、その偽り作られた書類の内容ではない──
お前の脳内にある、真実の方だ」
「!だから…さすがだと言うんだ。
誓って言うが、先程のは決して世辞などではないよ」

根負けしたように、レアンが肩を竦める。
常人であればその時点で、ある程度の追随は緩和されるのだろうが、ユイは全くその手を緩めることなく、レアンを攻略しにかかった。

「その書類は、まるっきりの囮だろう?
【魔公】とまで謡われるお前が、暗殺組織の者が狙っていると知りながらも、保険も掛けずにのうのうとしているとは思えないからな」
「──ふ…、果たしてどちらが買い被っていたものかな」
「ふん…あれが囮でなければ、そうもあっさりと俺に手渡そうとしたりするものか。
つまりあれは、盗まれ奪われても構わなかった代物…
組織の者の目を欺く為のフェイクだ」
「…、脱帽だ、副総統── いや…【ユイ】」

レアンは深く長い息をつくと、心からの笑みを浮かべた。

「その若さで、有名な暗殺組織を掌握していただけのことはある…
しかも、“今は”…辛うじてでも、味方であるのが心強いな」
「……」

ユイはまだ警戒を崩さない。
だがその瞳に宿る殺気は、確実に、そして静かに緩和されてゆく。

「──ユイ、この書類にはひと通り、目を通しただろう…
だがお前の推察通り、これにはまだ、先がある」

ここでレアンは話を切ると、いきなり手にしていた書類を、炎の魔術によって焼き付かせた。
だが、またもその発動の要となる“声”を聞いていなかったことから、ユイの瞳は自然、再び訝の光を垣間見せる。

「【魔公】レアン…」
「全てはヴィルザーク侯爵こと、アーサーから聞いている…
ユイ、お前に関することも、総統に関することも、組織のことも…
そしてセレンが、それらにどう関わるのか…その全てをな」
「……」
「あの書類には、本当に初歩的なことしか記載されていなかった。
しかしながら…だ、その事実から、書類を見た相手がどこまで嗅ぎつけるか。
ユイ…貴方が真に気に掛けているのは、そこだろう?」
「…、まあ、奴ら如きに感づかれるはずはないと思うが…」

ユイはそこで視線を僅かに逸らす。

「秘密を過剰に知る者が居れば、その存在が総統の耳に入らないはずはない。
となれば、その者の扱いは、こちらが傍観していた所で何のことはない…が」
「飛び火や誘爆を恐れているのか?」

このレアンの問いに、ユイは視線を戻しつつ答えた。

「…勿論、組織内のみならず、大衆に知られることも問題ではある。だが、それ以上に厄介なのは──」
「総統の存在だな」

呟いたレアンが眉根を寄せると同時に、ユイは頷いた。

「そうだ。…もし件の秘密が口外されれば、あの総統のこと…
およそ関わり知ることのない者まで、予断なく抹殺するに決まっている」
「…、その、当の総統だが…」

レアンが僅かに言い淀む。
同時に、ユイが以降の言葉を遮った。

「そこで止めておくんだな、レアン公爵。
自ら、事を知っていると公言する必要はないだろう?」
「…そうだな」

レアンは口調を濁らせながらも頷いてみせる。
…このやり取りの内容からすると、ユイは間違いなく、事実を知った自分を黙認し、見逃そうとしてくれている。

そしてそれが何故なのかは、今までの流れ及びやり取りで、既に明白。

「セレンの為…か」

レアンはうっすらと瞳を細めて呟いた。
経緯からも知れる通り、自分はセレンの父・アーサー=ヴィルザークを通じて、組織・Break Gunsのトップシークレットを知った。
となれば、以降も組織の者に狙われ、場合によっては総統自らが動くであろうことも、容易に想定出来る。

そしてユイに関わる事実を知った今。
本来ならば、ユイ自身に刃を向けられ、敵対されてもおかしくはない。

だが、ユイがそうしない理由。
それどころか、明らかに敵方の存在にも近い、自分を擁護するかのようなこの発言。
“それは何故なのか”──


「…アーサー、安心するがいい…」


いつの間にか、柔らかくも静かな安寧の台詞が口をついた。
志半ばで死んだ友人に、これ以上はないと思われる、最上の餞。
…娘が、強力な人材に護られていること。


「ユイが、貴方の娘を守ってくれるよ」
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