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Ⅴ.背徳の墓標
継続する戦闘
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その光の中でユイとアベルは、各々、次の魔術の構成を左手に留めたまま、鏡に向かい合わせたように、右腕をクロスさせる形で、相手の動きを止めることで拮抗していた。
強く押され、ぎりっ、と軋む骨。
それ自体がどちらのものであるか認識する間もなく、二人は相手の腕を弾く形で一時退き、瞬時に攻撃体勢を整える。
そして再び踏み込んだ際。
また、ひときわ大きな爆発が起きた。
…大きく揺れる館。
二度は耐えきれずに割れ吹き飛ぶ窓のガラス。
周囲を覆い尽くす、破壊の光──
「…、これが…」
図らずもレアンは、眉根を寄せる形で声を洩らす。
そもそもが彼らの正体を知らなかった訳ではないというのに、今、明らかに自分は、全てにおいて未知であったかのように驚愕している。
これが組織の幹部クラス。
これが組織の者の持つ魔力。
そしてこれが、副総統の──
「【ユイ】の、実力か…!」
生半可な者なら、確実に初撃で殺されているであろう、アベルのその速さと攻撃の重さ。
それに当然のように対抗するユイ。
「…成る程…」
レアンは感嘆せざるを得ない。
否、全ての裏を理解した今となっては…
“感嘆しない訳にはいかなかった”。
拮抗する魔力。
負荷により弾け飛ばされる体。
その中央に、間髪入れず再び踏み込む、二つの影。
アベルが魔力を発動させようと構えた右腕を、ユイがすかさず左手で押さえ込む。
それをただの一瞥もすることもなく、触覚のみで認識したアベルは、瞬間、反射的に左足を引いた。
「!」
同時にユイは右肘を折り、自らの顔近くまで引くことで、次に来たアベルの巧みな足技を受ける形で防ぐと、そのまま瞬間的にその手首の向きを変え、アベルの足首近くを難なく捕らえた。
「!ユイ…」
忌々しげに眉を顰め、掴まれた足首を、そしてユイを強く睨み据えるアベル。
対してユイは、ふん…、と僅かに一息入れると、その右手に、微かながら力を込めた。
「…っ!」
アベルの顔が微かに歪む。
…大して力を入れたようには見えないのに、まるで万力でぎりぎりと締め付けられたかのようだ。
「──誰が、誰を殺すだと…?」
静かな怒りを含んだ、恐ろしい程に冷淡な声。
同時に、凍てつくように鋭い、獣のような残虐性を帯びた瞳が、アベルへと向けられる。
「…!」
そのあまりの変わりように、アベルは戦いの最中ながら、ユイを凝視せずにはいられなかった。
「俺の闇の魔術を封じて、それだけで勝ったつもりでいるのか? 貴様っ!」
ユイは言葉の最後に、これ以上ない不快感を織り交ぜて吐き捨てると、その勢いのまま両手を離し、そうすることで無防備になったアベルの体を、次には思い切り蹴り飛ばした。
瞬間、アベルの体は術もないままに窓枠に激突し、更にその勢いで、それごと外へ吹っ飛ぶことを余儀なくされる。
それを目の当たりにしたレアンの口から、さすがに感嘆と、それを上回って複雑な心境の入り混じったらしい、深い溜め息が洩れた。
「…壊すなとは言わないが、副総統よ…
せめてもう少し加減は…」
「理解している。でなければセレンに気付かれると言うのだろう?
だが侮るな。…俺が、何のために“あの”ヴァルスをセレンの傍近くに置いていると思っている」
これだけの戦いを繰り広げておきながらの、ユイの冷静な物言いに、レアンは些か安堵したかのように、再度、短い息をつく。
「…ヴァルス=ブラウン=レイ。
成る程、彼をあえてセレンの側に付かせたのは…」
「奴の性格は、それだけでいい目眩ましになるからな」
言いながらもユイは、窓の外を睨むように見つめた。
強く押され、ぎりっ、と軋む骨。
それ自体がどちらのものであるか認識する間もなく、二人は相手の腕を弾く形で一時退き、瞬時に攻撃体勢を整える。
そして再び踏み込んだ際。
また、ひときわ大きな爆発が起きた。
…大きく揺れる館。
二度は耐えきれずに割れ吹き飛ぶ窓のガラス。
周囲を覆い尽くす、破壊の光──
「…、これが…」
図らずもレアンは、眉根を寄せる形で声を洩らす。
そもそもが彼らの正体を知らなかった訳ではないというのに、今、明らかに自分は、全てにおいて未知であったかのように驚愕している。
これが組織の幹部クラス。
これが組織の者の持つ魔力。
そしてこれが、副総統の──
「【ユイ】の、実力か…!」
生半可な者なら、確実に初撃で殺されているであろう、アベルのその速さと攻撃の重さ。
それに当然のように対抗するユイ。
「…成る程…」
レアンは感嘆せざるを得ない。
否、全ての裏を理解した今となっては…
“感嘆しない訳にはいかなかった”。
拮抗する魔力。
負荷により弾け飛ばされる体。
その中央に、間髪入れず再び踏み込む、二つの影。
アベルが魔力を発動させようと構えた右腕を、ユイがすかさず左手で押さえ込む。
それをただの一瞥もすることもなく、触覚のみで認識したアベルは、瞬間、反射的に左足を引いた。
「!」
同時にユイは右肘を折り、自らの顔近くまで引くことで、次に来たアベルの巧みな足技を受ける形で防ぐと、そのまま瞬間的にその手首の向きを変え、アベルの足首近くを難なく捕らえた。
「!ユイ…」
忌々しげに眉を顰め、掴まれた足首を、そしてユイを強く睨み据えるアベル。
対してユイは、ふん…、と僅かに一息入れると、その右手に、微かながら力を込めた。
「…っ!」
アベルの顔が微かに歪む。
…大して力を入れたようには見えないのに、まるで万力でぎりぎりと締め付けられたかのようだ。
「──誰が、誰を殺すだと…?」
静かな怒りを含んだ、恐ろしい程に冷淡な声。
同時に、凍てつくように鋭い、獣のような残虐性を帯びた瞳が、アベルへと向けられる。
「…!」
そのあまりの変わりように、アベルは戦いの最中ながら、ユイを凝視せずにはいられなかった。
「俺の闇の魔術を封じて、それだけで勝ったつもりでいるのか? 貴様っ!」
ユイは言葉の最後に、これ以上ない不快感を織り交ぜて吐き捨てると、その勢いのまま両手を離し、そうすることで無防備になったアベルの体を、次には思い切り蹴り飛ばした。
瞬間、アベルの体は術もないままに窓枠に激突し、更にその勢いで、それごと外へ吹っ飛ぶことを余儀なくされる。
それを目の当たりにしたレアンの口から、さすがに感嘆と、それを上回って複雑な心境の入り混じったらしい、深い溜め息が洩れた。
「…壊すなとは言わないが、副総統よ…
せめてもう少し加減は…」
「理解している。でなければセレンに気付かれると言うのだろう?
だが侮るな。…俺が、何のために“あの”ヴァルスをセレンの傍近くに置いていると思っている」
これだけの戦いを繰り広げておきながらの、ユイの冷静な物言いに、レアンは些か安堵したかのように、再度、短い息をつく。
「…ヴァルス=ブラウン=レイ。
成る程、彼をあえてセレンの側に付かせたのは…」
「奴の性格は、それだけでいい目眩ましになるからな」
言いながらもユイは、窓の外を睨むように見つめた。
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