29 / 65
Ⅳ.追う者、追われる者
ひとつの伏線
しおりを挟む
「!…っ」
ケイオスは、羞恥に紅潮した顔で視線を逸らした。
──それと同時に思い出される、あの時のヴァルスとのやり取り。
「ふん…随分と余裕だな、“副総統様”。
なら、その鼻っ柱、俺とゼオンでへし折ってやるぜ」
「…、よほど“副総統”を敵に回したいんだね、お前たち二人は」
…あの時、ヴァルスが何故、意味ありげな笑みを浮かべたのか。
何故、“副総統”という言葉を、ああまで強調したのか…
エルダとの会話と照らし合わせると、その全ての真実が理解できる。
…“看破できる”。
「…お前ら…二人は、ユイが副総統だと…
はなから気付いて──」
ケイオスが、壁に縫い止められた自らの服を、若干緩ませながら訊ねる。
それを油断なく見下したヴァルスは、無表情のまま…
それでいて、はっきりと深く、頷いてみせた。
「もうひとりが誰を指すのかは分からないが… 俺の場合、気付いていたのとはまた…訳が違うな」
「!それは…それは一体、どういうことだ!?」
「…ヒントは充分に与えているだろうに、まだ分からないのか?」
ヴァルスは呆れたように息をついた。
「俺が副総統だというのは、お前らみたいな奴らに対してのカモフラージュ。
…本当の副総統は、ユイ… いや、ユイ様だよ」
「!」
ケイオスの表情が、恐怖と驚きの入り混じったものへと変わる。
一方のゼオンも、特有の緊張のあまり、すっかり干上がったらしい喉から、やっとのことで掠れた声を絞り出した。
「じゃあ…もしかして、お前の今までの、一連の言動は…」
「そう。ユイ様こと、副総統の命令」
ヴァルスはあっさりと種明かしをし、屈託なく笑んだ。
その笑顔に毒気を抜かれたケイオスとゼオンの二人は、顔を見合わせると、苦虫を噛み潰したような表情で俯いた。
それにヴァルスは、先程からの笑みを崩さずに続ける。
「さて、お前たち二人の処分… どうしようねえ?
まあ…もしもお前らに、幹部クラスの誇りがそれなりにでもあるなら、ユイ様や総統直々に手を下される前に、自ら謹慎するか、命を絶つのが妥当だと思うんだけど」
「!…っ」
あまりにもヴァルスの言うことが的確すぎて、幹部クラスの二人が、揃って返す言葉もなく、深く項垂れる。
…すると。
「──いい、ヴァルス。放っておけ」
ユイが素っ気なく呟いた。
それにヴァルスは頷くと、一転してユイの方へと身を翻そうとする。
その足が、何かを思い出したかのように、ぴたりと止まった。
「…とりあえず今回は、ユイの方にも同伴者がいるし、見逃してくれるみたいだね。
…でもこれに懲りたら、今後は俺たちに、中途半端にちょっかいを掛けてこないことだ。
分かっているだろうが、勿論、あの少女…
セレンにもね」
凄みと共に、しっかり警告をするヴァルスを相手に、ケイオスとゼオンは、頭を垂れたまま、きつく唇を噛み締めた。
それを幹部クラスが持つ、特有の雰囲気を醸し出す、厳しい瞳で見定めると、ヴァルスはユイとセレンの元へととって返した。
…その時点では既に、普段の飄々とした、気安さを思わせる彼に戻って。
「…ヴァルス、大丈夫だったの?」
事の成り行きを知らないセレンが、不安げに問う。
「大丈夫大丈夫。何たってユイがついてるからね。ねえ? “ユイ”」
「いざとなれば、ヴァルスを盾に逃げればいいだけだからな」
ユイが笑みながら、さらりと答える。
それにヴァルスは、不満そうに口を尖らせた。
ケイオスは、羞恥に紅潮した顔で視線を逸らした。
──それと同時に思い出される、あの時のヴァルスとのやり取り。
「ふん…随分と余裕だな、“副総統様”。
なら、その鼻っ柱、俺とゼオンでへし折ってやるぜ」
「…、よほど“副総統”を敵に回したいんだね、お前たち二人は」
…あの時、ヴァルスが何故、意味ありげな笑みを浮かべたのか。
何故、“副総統”という言葉を、ああまで強調したのか…
エルダとの会話と照らし合わせると、その全ての真実が理解できる。
…“看破できる”。
「…お前ら…二人は、ユイが副総統だと…
はなから気付いて──」
ケイオスが、壁に縫い止められた自らの服を、若干緩ませながら訊ねる。
それを油断なく見下したヴァルスは、無表情のまま…
それでいて、はっきりと深く、頷いてみせた。
「もうひとりが誰を指すのかは分からないが… 俺の場合、気付いていたのとはまた…訳が違うな」
「!それは…それは一体、どういうことだ!?」
「…ヒントは充分に与えているだろうに、まだ分からないのか?」
ヴァルスは呆れたように息をついた。
「俺が副総統だというのは、お前らみたいな奴らに対してのカモフラージュ。
…本当の副総統は、ユイ… いや、ユイ様だよ」
「!」
ケイオスの表情が、恐怖と驚きの入り混じったものへと変わる。
一方のゼオンも、特有の緊張のあまり、すっかり干上がったらしい喉から、やっとのことで掠れた声を絞り出した。
「じゃあ…もしかして、お前の今までの、一連の言動は…」
「そう。ユイ様こと、副総統の命令」
ヴァルスはあっさりと種明かしをし、屈託なく笑んだ。
その笑顔に毒気を抜かれたケイオスとゼオンの二人は、顔を見合わせると、苦虫を噛み潰したような表情で俯いた。
それにヴァルスは、先程からの笑みを崩さずに続ける。
「さて、お前たち二人の処分… どうしようねえ?
まあ…もしもお前らに、幹部クラスの誇りがそれなりにでもあるなら、ユイ様や総統直々に手を下される前に、自ら謹慎するか、命を絶つのが妥当だと思うんだけど」
「!…っ」
あまりにもヴァルスの言うことが的確すぎて、幹部クラスの二人が、揃って返す言葉もなく、深く項垂れる。
…すると。
「──いい、ヴァルス。放っておけ」
ユイが素っ気なく呟いた。
それにヴァルスは頷くと、一転してユイの方へと身を翻そうとする。
その足が、何かを思い出したかのように、ぴたりと止まった。
「…とりあえず今回は、ユイの方にも同伴者がいるし、見逃してくれるみたいだね。
…でもこれに懲りたら、今後は俺たちに、中途半端にちょっかいを掛けてこないことだ。
分かっているだろうが、勿論、あの少女…
セレンにもね」
凄みと共に、しっかり警告をするヴァルスを相手に、ケイオスとゼオンは、頭を垂れたまま、きつく唇を噛み締めた。
それを幹部クラスが持つ、特有の雰囲気を醸し出す、厳しい瞳で見定めると、ヴァルスはユイとセレンの元へととって返した。
…その時点では既に、普段の飄々とした、気安さを思わせる彼に戻って。
「…ヴァルス、大丈夫だったの?」
事の成り行きを知らないセレンが、不安げに問う。
「大丈夫大丈夫。何たってユイがついてるからね。ねえ? “ユイ”」
「いざとなれば、ヴァルスを盾に逃げればいいだけだからな」
ユイが笑みながら、さらりと答える。
それにヴァルスは、不満そうに口を尖らせた。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
支配するなにか
結城時朗
ミステリー
ある日突然、乖離性同一性障害を併発した女性・麻衣
麻衣の性格の他に、凶悪な男がいた(カイ)と名乗る別人格。
アイドルグループに所属している麻衣は、仕事を休み始める。
不思議に思ったマネージャーの村尾宏太は気になり
麻衣の家に尋ねるが・・・
麻衣:とあるアイドルグループの代表とも言える人物。
突然、別の人格が支配しようとしてくる。
病名「解離性同一性障害」 わかっている性格は、
凶悪な男のみ。
西野:元国民的アイドルグループのメンバー。
麻衣とは、プライベートでも親しい仲。
麻衣の別人格をたまたま目撃する
村尾宏太:麻衣のマネージャー
麻衣の別人格である、凶悪な男:カイに
殺されてしまう。
治療に行こうと麻衣を病院へ送る最中だった
西田〇〇:村尾宏太殺害事件の捜査に当たる捜一の刑事。
犯人は、麻衣という所まで突き止めるが
確定的なものに出会わなく、頭を抱えて
いる。
カイ :麻衣の中にいる別人格の人
性別は男。一連の事件も全てカイによる犯行。
堀:麻衣の所属するアイドルグループの人気メンバー。
麻衣の様子に怪しさを感じ、事件へと首を突っ込んでいく・・・
※刑事の西田〇〇は、読者のあなたが演じている気分で読んで頂ければ幸いです。
どうしても浮かばなければ、下記を参照してください。
物語の登場人物のイメージ的なのは
麻衣=白石麻衣さん
西野=西野七瀬さん
村尾宏太=石黒英雄さん
西田〇〇=安田顕さん
管理官=緋田康人さん(半沢直樹で机バンバン叩く人)
名前の後ろに来るアルファベットの意味は以下の通りです。
M=モノローグ (心の声など)
N=ナレーション
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
彼女が愛した彼は
朝飛
ミステリー
美しく妖艶な妻の朱海(あけみ)と幸せな結婚生活を送るはずだった真也(しんや)だが、ある時を堺に朱海が精神を病んでしまい、苦痛に満ちた結婚生活へと変わってしまった。
朱海が病んでしまった理由は何なのか。真相に迫ろうとする度に謎が深まり、、、。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/essay.png?id=5ada788558fa89228aea)
死者からのロミオメール
青の雀
ミステリー
公爵令嬢ロアンヌには、昔から将来を言い交した幼馴染の婚約者ロバートがいたが、半年前に事故でなくなってしまった。悲しみに暮れるロアンヌを慰め、励ましたのが、同い年で学園の同級生でもある王太子殿下のリチャード
彼にも幼馴染の婚約者クリスティーヌがいるにも関わらず、何かとロアンヌの世話を焼きたがる困りもの
クリスティーヌは、ロアンヌとリチャードの仲を誤解し、やがて軋轢が生じる
ロアンヌを貶めるような発言や行動を繰り返し、次第にリチャードの心は離れていく
クリスティーヌが嫉妬に狂えば、狂うほど、今までクリスティーヌに向けてきた感情をロアンヌに注いでしまう結果となる
ロアンヌは、そんな二人の様子に心を痛めていると、なぜか死んだはずの婚約者からロミオメールが届きだす
さらに玉の輿を狙う男爵家の庶子が転校してくるなど、波乱の学園生活が幕開けする
タイトルはすぐ思い浮かんだけど、書けるかどうか不安でしかない
ミステリーぽいタイトルだけど、自信がないので、恋愛で書きます
【完結】何んでそうなるの、側妃ですか?
西野歌夏
恋愛
頭空っぽにして読んでいただく感じです。
テーマはやりたい放題…だと思います。
エリザベス・ディッシュ侯爵令嬢、通称リジーは18歳。16歳の時にノーザント子爵家のクリフと婚約した。ところが、太めだという理由で一方的に婚約破棄されてしまう。やってられないと街に繰り出したリジーはある若者と意気投合して…。
とにかく性的表現多めですので、ご注意いただければと思います。※印のものは性的表現があります。
BL要素は匂わせるにとどめました。
また今度となりますでしょうか。
思いもかけないキャラクターが登場してしまい、無計画にも程がある作者としても悩みました。笑って読んでいただければ幸いです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
エリカ
喜島 塔
ミステリー
藍浦ツバサ。21歳。都内の大学に通う普通の大学生。ただ、彼には、人を愛するという感情が抜け落ちていたかのように見えた。「エリカ」という女に出逢うまでは。ツバサがエリカと出逢ってから、彼にとっての「女」は「エリカ」だけとなった。エリカ以外の、生物学上の「女」など、すべて、この世からいなくなればいい、と思った。そんなふたりが辿り着く「愛」の終着駅とはいかに?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる