†Break Guns†

如月統哉

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Ⅳ.追う者、追われる者

ひとつの伏線

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「!…っ」

ケイオスは、羞恥に紅潮した顔で視線を逸らした。
──それと同時に思い出される、あの時のヴァルスとのやり取り。



「ふん…随分と余裕だな、“副総統様”。
なら、その鼻っ柱、俺とゼオンでへし折ってやるぜ」
「…、よほど“副総統”を敵に回したいんだね、お前たち二人は」



…あの時、ヴァルスが何故、意味ありげな笑みを浮かべたのか。
何故、“副総統”という言葉を、ああまで強調したのか…


エルダとの会話と照らし合わせると、その全ての真実が理解できる。
…“看破できる”。


「…お前ら…二人は、ユイが副総統だと…
はなから気付いて──」

ケイオスが、壁に縫い止められた自らの服を、若干緩ませながら訊ねる。
それを油断なく見下したヴァルスは、無表情のまま…
それでいて、はっきりと深く、頷いてみせた。

「もうひとりが誰を指すのかは分からないが… 俺の場合、気付いていたのとはまた…訳が違うな」
「!それは…それは一体、どういうことだ!?」

「…ヒントは充分に与えているだろうに、まだ分からないのか?」

ヴァルスは呆れたように息をついた。


「俺が副総統だというのは、お前らみたいな奴らに対してのカモフラージュ。
…本当の副総統は、ユイ… いや、ユイ様だよ」


「!」

ケイオスの表情が、恐怖と驚きの入り混じったものへと変わる。
一方のゼオンも、特有の緊張のあまり、すっかり干上がったらしい喉から、やっとのことで掠れた声を絞り出した。

「じゃあ…もしかして、お前の今までの、一連の言動は…」
「そう。ユイ様こと、副総統の命令」

ヴァルスはあっさりと種明かしをし、屈託なく笑んだ。
その笑顔に毒気を抜かれたケイオスとゼオンの二人は、顔を見合わせると、苦虫を噛み潰したような表情で俯いた。

それにヴァルスは、先程からの笑みを崩さずに続ける。

「さて、お前たち二人の処分… どうしようねえ?
まあ…もしもお前らに、幹部クラスの誇りがそれなりにでもあるなら、ユイ様や総統直々に手を下される前に、自ら謹慎するか、命を絶つのが妥当だと思うんだけど」
「!…っ」

あまりにもヴァルスの言うことが的確すぎて、幹部クラスの二人が、揃って返す言葉もなく、深く項垂れる。

…すると。

「──いい、ヴァルス。放っておけ」

ユイが素っ気なく呟いた。
それにヴァルスは頷くと、一転してユイの方へと身を翻そうとする。

その足が、何かを思い出したかのように、ぴたりと止まった。


「…とりあえず今回は、ユイの方にも同伴者がいるし、見逃してくれるみたいだね。
…でもこれに懲りたら、今後は俺たちに、中途半端にちょっかいを掛けてこないことだ。
分かっているだろうが、勿論、あの少女…
セレンにもね」


凄みと共に、しっかり警告をするヴァルスを相手に、ケイオスとゼオンは、頭を垂れたまま、きつく唇を噛み締めた。

それを幹部クラスが持つ、特有の雰囲気を醸し出す、厳しい瞳で見定めると、ヴァルスはユイとセレンの元へととって返した。
…その時点では既に、普段の飄々とした、気安さを思わせる彼に戻って。

「…ヴァルス、大丈夫だったの?」

事の成り行きを知らないセレンが、不安げに問う。

「大丈夫大丈夫。何たってユイがついてるからね。ねえ? “ユイ”」
「いざとなれば、ヴァルスを盾に逃げればいいだけだからな」

ユイが笑みながら、さらりと答える。
それにヴァルスは、不満そうに口を尖らせた。
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