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Ⅳ.追う者、追われる者
ヴァルスvsケイオス
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…が、それはすぐに冷めたものへと変わる。
そんな中、ふと、ケイオスが試しにヴァルスに問うた。
「ヴァルス、お前… 俺たちが誰の命令でユイに手出ししているのか、分かっているんだろう?」
「愚問過ぎるな。総統の命令だろう?」
ヴァルスは表情も変えずに答える。
「そもそも、組織でも高位にあるはずの幹部クラスに、直接命令を下せるのは、更にそれより格上の、総統と副総統の二人だけだからね」
「そこまで分かっているなら、何故今、この状況でユイに荷担する?」
ゼオンがその、薄冷めた瞳の様を声にも反映させる。
これにヴァルスは、敵対心も露わに、不敵に目を凍らせた。
「…さあ。戦いが終われば分かるんじゃない?」
この答えに、ケイオスは思わず、忌々しさに鼻を鳴らさずにはいられなかった。
…この状況下で、ヴァルスが余裕を崩さないのもその原因のひとつだが、ケイオスからしてみれば、自分たち幹部クラス二人を眼前にしているというのに、この恐ろしいまでの“焦りの無さ”。
まるで自分たちなど眼中に無いような。
芥にも恐れることなど無いような──
そんなヴァルスの態度が、どうにも鼻について仕方がなかったのだ。
「ふん…随分と余裕だな、“副総統様”。
なら、その鼻っ柱、俺とゼオンでへし折ってやるぜ」
「…、よほど“副総統”を敵に回したいんだね、お前たち二人は」
ヴァルスが意味ありげな笑みを浮かべる。
それに瞬時に反応したケイオスは、瞬きする暇すら与えない程の凄まじい速さで、ヴァルスの懐へと踏み込んだ。
「!」
とっさにヴァルスは後方へ飛び、その手に纏っていた、雷の魔術を解放する。
「──唸れ、冥の轟雷!」
「!はっ…高威力魔術か! そう来なきゃあ張り合いがないってもんだ! なあ!? 副総統よ!
じゃあこっちも、相応の同位魔術で相手してやるよ!」
不敵に笑ったケイオスの右手を、刹那のうちに風の刃が支配する。
これにヴァルスが警戒を一層強めると、同時にケイオスは編成した魔術を、ヴァルスの放った冥の轟雷へと直接ぶつけることで相殺を図った。
──2つの高威力魔術がぶつかり合った瞬間、その場の音という音全てが、周囲の空気と4人の鼓膜を震わせることだけにその意味を成し、影という影全てが形を潜めた。
それ程までにそれらのぶつかり合いは眩いもので、そしてそれに比例して、その威力も生半可なものではなかった。
「死の葬風…!」
ヴァルスが無意識に術の名前を呟く。
と同時にその爪先は、敵であるケイオスの方向を捉え、地を蹴った。
ケイオスが小馬鹿にしたように笑う。
「さすが、術に長けた副総統は違うねえ…
すぐに術の正体を見抜くとはね」
追われた形になったケイオスは、話しながらも的確に地を蹴ると、まるで重力など無くなってしまったかのように、容易に“壁に体重を預ける”。
そして一時すらも間を置かず、すかさず壁を蹴る。
すると次にはヴァルスの放った、先程とはまた別の雷の魔術が、たった今までケイオスの居た場所を直撃した。
見た目からして決して脆くはないはずの壁は、ヴァルスの放った強大な威力の、たった一撃の魔術に屈し、その身を一瞬にして粉へと変えた。
それを一瞥したケイオスが、思わず皮肉めいた賛辞の口笛を鳴らす。
「やるねえ、さすがは副総統!」
「…そんな余裕を見せていていいのか?」
ふん、と、今度は何故か、ヴァルスがあからさまに鼻を鳴らす。
そんな中、ふと、ケイオスが試しにヴァルスに問うた。
「ヴァルス、お前… 俺たちが誰の命令でユイに手出ししているのか、分かっているんだろう?」
「愚問過ぎるな。総統の命令だろう?」
ヴァルスは表情も変えずに答える。
「そもそも、組織でも高位にあるはずの幹部クラスに、直接命令を下せるのは、更にそれより格上の、総統と副総統の二人だけだからね」
「そこまで分かっているなら、何故今、この状況でユイに荷担する?」
ゼオンがその、薄冷めた瞳の様を声にも反映させる。
これにヴァルスは、敵対心も露わに、不敵に目を凍らせた。
「…さあ。戦いが終われば分かるんじゃない?」
この答えに、ケイオスは思わず、忌々しさに鼻を鳴らさずにはいられなかった。
…この状況下で、ヴァルスが余裕を崩さないのもその原因のひとつだが、ケイオスからしてみれば、自分たち幹部クラス二人を眼前にしているというのに、この恐ろしいまでの“焦りの無さ”。
まるで自分たちなど眼中に無いような。
芥にも恐れることなど無いような──
そんなヴァルスの態度が、どうにも鼻について仕方がなかったのだ。
「ふん…随分と余裕だな、“副総統様”。
なら、その鼻っ柱、俺とゼオンでへし折ってやるぜ」
「…、よほど“副総統”を敵に回したいんだね、お前たち二人は」
ヴァルスが意味ありげな笑みを浮かべる。
それに瞬時に反応したケイオスは、瞬きする暇すら与えない程の凄まじい速さで、ヴァルスの懐へと踏み込んだ。
「!」
とっさにヴァルスは後方へ飛び、その手に纏っていた、雷の魔術を解放する。
「──唸れ、冥の轟雷!」
「!はっ…高威力魔術か! そう来なきゃあ張り合いがないってもんだ! なあ!? 副総統よ!
じゃあこっちも、相応の同位魔術で相手してやるよ!」
不敵に笑ったケイオスの右手を、刹那のうちに風の刃が支配する。
これにヴァルスが警戒を一層強めると、同時にケイオスは編成した魔術を、ヴァルスの放った冥の轟雷へと直接ぶつけることで相殺を図った。
──2つの高威力魔術がぶつかり合った瞬間、その場の音という音全てが、周囲の空気と4人の鼓膜を震わせることだけにその意味を成し、影という影全てが形を潜めた。
それ程までにそれらのぶつかり合いは眩いもので、そしてそれに比例して、その威力も生半可なものではなかった。
「死の葬風…!」
ヴァルスが無意識に術の名前を呟く。
と同時にその爪先は、敵であるケイオスの方向を捉え、地を蹴った。
ケイオスが小馬鹿にしたように笑う。
「さすが、術に長けた副総統は違うねえ…
すぐに術の正体を見抜くとはね」
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そして一時すらも間を置かず、すかさず壁を蹴る。
すると次にはヴァルスの放った、先程とはまた別の雷の魔術が、たった今までケイオスの居た場所を直撃した。
見た目からして決して脆くはないはずの壁は、ヴァルスの放った強大な威力の、たった一撃の魔術に屈し、その身を一瞬にして粉へと変えた。
それを一瞥したケイオスが、思わず皮肉めいた賛辞の口笛を鳴らす。
「やるねえ、さすがは副総統!」
「…そんな余裕を見せていていいのか?」
ふん、と、今度は何故か、ヴァルスがあからさまに鼻を鳴らす。
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