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Ⅳ.追う者、追われる者
狂犬の襲撃
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「…あんたらしくないね、手を滑らせるなんて」
床に零れた、無数のグラスの破片を拾うログランドを見やりながら、ヴァルスが肩を竦める。
それにログランドは、妙な汗を頬に伝わせると、とってつけたような笑みを、無理やりヴァルスへと向けた。
「どの口がそんなことを言うのか、訊いても構わないですかね、ヴァルス」
「!か、構わないも何も、事実なんだし…」
「…余程くびり殺されたいようで」
「う"」
ログランドに殺気を帯びた目で睨まれたヴァルスは、術もなく怯む。
それによってセレンは、組織で真に恐ろしいのは、現在、表立って動いている幹部クラスよりも…
ある意味、ログランドの方なのではないかと、ひしひしと感じ取っていた。
一方のユイも、こういったやり取りは別段珍しくもないのか、止めようともせずに淡々と酒を呷っている…
と、その表情が不意に引き締まった。
「……」
ユイは無言のままグラスを置くと、鋭く店の入り口を見据える。
すると次にはその扉が、何者かによって、外から勢いよく蹴破られた。
「!」
辺りには扉の破片と、風と若干の埃が舞う。
ログランドとヴァルスは、瞬時にそちらに、警戒に満ちた瞳を向けた。
一瞬遅れて、セレンがそれに続いて視線を向けると、そこには少年とも青年とも形容し難い人物が二人、店の出入り口自体を、その体で塞ぐ形で存在していた。
…どうやら扉を蹴破った張本人らしい、手前に居た金髪碧眼の、整った容姿を持つ青少年が、その外見とは裏腹に…
蹴破るのに必要としたらしい自らの右足をゆっくりと下ろし、地に着けると、それに比なる動きで、醜悪で残酷な笑みを、緩やかに周囲の者へと見せつける。
「…ふん、余計な手間を取らせやがって。しばらく見なかったかと思えば、こんな辺鄙な場所に隠居してたのかよ、ユイ」
ぞっとする程の禍々しい殺気が込められた、その声。
怨念にも近い憎しみのこもったケイオスの呟きは、まるで亡霊のそれのように、聞く者の身を竦ませる。
対してユイは、度が過ぎた憎まれ口を叩く眼前のケイオスを、ひたすらに凍れる瞳で静かに睨み据えた。
「…組織絶対主義の狂犬が…
仲間を引き連れて何の用だ。まさか今更、俺やセレンを排除しよう等と、馬鹿げた考えで介入してきた訳じゃないだろうな?」
「──貴方にとっては馬鹿げたことでも、我々にとっては組織の…
総統の命令が最優先なのでね」
ぱきっ、と、砕けた扉の破片を踏みしめながら、後方に居たゼオンが、死をも恐れぬ殺人者特有の乾いた笑みを見せながらも、店内に侵入する。
と同時、ヴァルスは不意に、鋭く尖らせたその茶の瞳で、一瞬にして間合いを詰めたその者の姿を捉えた。
セレンの前方で、とっさに守護の動きを見せたヴァルスの右腕と、いつの間にか緩やかに、それでいて目にも止まらぬほど鮮やかに、セレンの前にその魔の手を伸ばしたケイオスの右腕が、擦れる程に近い位置で交差するのは、全く同時で。
冷めた瞳で瞬間、睨み合った二人は、その一連の互いの行動で、共にその力量をも推し量っていた。
…程なくして、余裕の笑みを見せたヴァルスの口元が緩む。
「──俺の前で女のコに手を出すつもりなのか?
よほど殺されたいようだな、ケイオス」
「…は。女となれば見境も節操も遠慮も、三拍子で皆無な奴に言われる筋合いはねぇよ!」
言うなりケイオスは、強く地を蹴って後方へと移動した。
そのまま、まるで何かを誘導するかのように、ヴァルスの方へと、ぴたりとその人差し指を向ける。
「…確かお前の属性は、雷だったな。
雷の魔術は、土と風のそれを極めた奴にしか、扱う事は出来ない…」
床に零れた、無数のグラスの破片を拾うログランドを見やりながら、ヴァルスが肩を竦める。
それにログランドは、妙な汗を頬に伝わせると、とってつけたような笑みを、無理やりヴァルスへと向けた。
「どの口がそんなことを言うのか、訊いても構わないですかね、ヴァルス」
「!か、構わないも何も、事実なんだし…」
「…余程くびり殺されたいようで」
「う"」
ログランドに殺気を帯びた目で睨まれたヴァルスは、術もなく怯む。
それによってセレンは、組織で真に恐ろしいのは、現在、表立って動いている幹部クラスよりも…
ある意味、ログランドの方なのではないかと、ひしひしと感じ取っていた。
一方のユイも、こういったやり取りは別段珍しくもないのか、止めようともせずに淡々と酒を呷っている…
と、その表情が不意に引き締まった。
「……」
ユイは無言のままグラスを置くと、鋭く店の入り口を見据える。
すると次にはその扉が、何者かによって、外から勢いよく蹴破られた。
「!」
辺りには扉の破片と、風と若干の埃が舞う。
ログランドとヴァルスは、瞬時にそちらに、警戒に満ちた瞳を向けた。
一瞬遅れて、セレンがそれに続いて視線を向けると、そこには少年とも青年とも形容し難い人物が二人、店の出入り口自体を、その体で塞ぐ形で存在していた。
…どうやら扉を蹴破った張本人らしい、手前に居た金髪碧眼の、整った容姿を持つ青少年が、その外見とは裏腹に…
蹴破るのに必要としたらしい自らの右足をゆっくりと下ろし、地に着けると、それに比なる動きで、醜悪で残酷な笑みを、緩やかに周囲の者へと見せつける。
「…ふん、余計な手間を取らせやがって。しばらく見なかったかと思えば、こんな辺鄙な場所に隠居してたのかよ、ユイ」
ぞっとする程の禍々しい殺気が込められた、その声。
怨念にも近い憎しみのこもったケイオスの呟きは、まるで亡霊のそれのように、聞く者の身を竦ませる。
対してユイは、度が過ぎた憎まれ口を叩く眼前のケイオスを、ひたすらに凍れる瞳で静かに睨み据えた。
「…組織絶対主義の狂犬が…
仲間を引き連れて何の用だ。まさか今更、俺やセレンを排除しよう等と、馬鹿げた考えで介入してきた訳じゃないだろうな?」
「──貴方にとっては馬鹿げたことでも、我々にとっては組織の…
総統の命令が最優先なのでね」
ぱきっ、と、砕けた扉の破片を踏みしめながら、後方に居たゼオンが、死をも恐れぬ殺人者特有の乾いた笑みを見せながらも、店内に侵入する。
と同時、ヴァルスは不意に、鋭く尖らせたその茶の瞳で、一瞬にして間合いを詰めたその者の姿を捉えた。
セレンの前方で、とっさに守護の動きを見せたヴァルスの右腕と、いつの間にか緩やかに、それでいて目にも止まらぬほど鮮やかに、セレンの前にその魔の手を伸ばしたケイオスの右腕が、擦れる程に近い位置で交差するのは、全く同時で。
冷めた瞳で瞬間、睨み合った二人は、その一連の互いの行動で、共にその力量をも推し量っていた。
…程なくして、余裕の笑みを見せたヴァルスの口元が緩む。
「──俺の前で女のコに手を出すつもりなのか?
よほど殺されたいようだな、ケイオス」
「…は。女となれば見境も節操も遠慮も、三拍子で皆無な奴に言われる筋合いはねぇよ!」
言うなりケイオスは、強く地を蹴って後方へと移動した。
そのまま、まるで何かを誘導するかのように、ヴァルスの方へと、ぴたりとその人差し指を向ける。
「…確かお前の属性は、雷だったな。
雷の魔術は、土と風のそれを極めた奴にしか、扱う事は出来ない…」
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