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Ⅳ.追う者、追われる者
三者三様
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…元々セレンは、成り行きで連れ歩いているようなものだ。
日常生活に戻せば、当然、再び組織の者には狙われるだろうが…
あのレアンの元に在れば、さすがの組織もおいそれとは手出しは出来ないはずだ。
すると、そう考え答えたユイに対して、セレンは一転して表情を曇らせた。
「ユイ…、私、今、貴方の荷物になっている?」
「…?」
一瞬、問われた意味が分からず、ユイは反射的に訝しんだ。
するとセレンは、そんなユイの反応に、更に表情を曇らせる。
「私…出来れば、これからもユイと一緒にいたい。
殺されるのが嫌だとか、そういう訳ではないのだけれど…」
「物好きだな。そんなに死の危険に曝されたいのか?」
ユイは結果的に、そう問わずにはいられない。
何しろ、組織に狙われている自分の周囲こそが、死神に魅入られている。
死の危険のある領域に、自ら踏み込もうと考える者など…まともには居ない。
ましてやこんな、己の手すらも血で濡れ染まっているような男の側に留まるなど──
「…俺の目的は、お前も少なからず分かっているはずだ。
俺と一緒に居れば、今回の件とは関係のない所でも狙われる羽目になるが…?」
「構わないわ!」
セレンは至極はっきりと即答する。
それにユイは、尚も続けた。
「忠告はした。それでも付いて来ると言うのなら…いつ何処で殺されることになろうとも、責任は持たないぞ」
「望むところよ。ユイの方だって、足手まといを連れ歩く気はないのでしょう?
その時は遠慮なく切り捨ててくれて構わないわ。
その覚悟がなければ…貴方に付いて行きたいだなんて、我が儘は言えないもの」
「…そうか」
ユイの口元が、よく注意していなければ気付かない程に、わずかに弧を描く。
「その考え方…嫌いじゃないな」
「えっ?」
その、透明にも近い低い呟きは、セレンの耳には届かなかったらしく、セレンは怪訝そうに問い返す。
すると、それまでの一連の事象を、ログランドと共に傍観していたヴァルスが、両者の間に、すとん、と、軽く手刀を落とした。
「はーいはいはい、事は決まったんだろうし、話はそこまでね」
「!ヴァルスさん…」
幾ら本音であったとは言え、ヴァルスとログランドの目の前でユイに食い下がった所を見られた、セレンの顔が紅潮する。
そんなセレンを微笑ましげに見て、不意にヴァルスは真剣な面持ちで声をひそめた。
「…ユイ、気付いてるんだろう?」
「これ程あからさまに殺気を叩きつけられておいて、気が付かないとでも思うか?」
緩やかにその瞳を鋭利なものへと変えたユイは、グラスに継ぎ足された酒を一度に呷ると、それを手にしたまま立ち上がった。
──次の瞬間、一見、たいした力も込めていないように見えたそのグラスが、ユイの手によって粉々に砕かれる。
「!? …ユイ…」
セレンは思わず息を呑んだが、同様に、確実にそれを目にしたはずのヴァルスとログランドの二人は、顔色ひとつ変えない。
そのヴァルスの唇が、再び紐解かれた。
「…手伝おうか? ユイ…」
「…、断った所で、お前のことだ…
どうせ首を突っ込む気だろう」
「…当たり」
ヴァルスは好戦的に笑む。
「あのいちいち度が過ぎる狂犬コンビには、一度きっつい躾をしてやろうと思っていたからね。
でも、同じ幹部クラスが表立って事を構えれば、総統だって黙っちゃいないだろうし…」
「それもあるだろうが…
はなからお前は、俺と今回の一件を利用するつもりだろう?」
「…はぁ…全くもって人聞きが悪いねぇ。
利害の一致と言ってくれない?」
ヴァルスは軽く息をつくと、肩を竦めた。
日常生活に戻せば、当然、再び組織の者には狙われるだろうが…
あのレアンの元に在れば、さすがの組織もおいそれとは手出しは出来ないはずだ。
すると、そう考え答えたユイに対して、セレンは一転して表情を曇らせた。
「ユイ…、私、今、貴方の荷物になっている?」
「…?」
一瞬、問われた意味が分からず、ユイは反射的に訝しんだ。
するとセレンは、そんなユイの反応に、更に表情を曇らせる。
「私…出来れば、これからもユイと一緒にいたい。
殺されるのが嫌だとか、そういう訳ではないのだけれど…」
「物好きだな。そんなに死の危険に曝されたいのか?」
ユイは結果的に、そう問わずにはいられない。
何しろ、組織に狙われている自分の周囲こそが、死神に魅入られている。
死の危険のある領域に、自ら踏み込もうと考える者など…まともには居ない。
ましてやこんな、己の手すらも血で濡れ染まっているような男の側に留まるなど──
「…俺の目的は、お前も少なからず分かっているはずだ。
俺と一緒に居れば、今回の件とは関係のない所でも狙われる羽目になるが…?」
「構わないわ!」
セレンは至極はっきりと即答する。
それにユイは、尚も続けた。
「忠告はした。それでも付いて来ると言うのなら…いつ何処で殺されることになろうとも、責任は持たないぞ」
「望むところよ。ユイの方だって、足手まといを連れ歩く気はないのでしょう?
その時は遠慮なく切り捨ててくれて構わないわ。
その覚悟がなければ…貴方に付いて行きたいだなんて、我が儘は言えないもの」
「…そうか」
ユイの口元が、よく注意していなければ気付かない程に、わずかに弧を描く。
「その考え方…嫌いじゃないな」
「えっ?」
その、透明にも近い低い呟きは、セレンの耳には届かなかったらしく、セレンは怪訝そうに問い返す。
すると、それまでの一連の事象を、ログランドと共に傍観していたヴァルスが、両者の間に、すとん、と、軽く手刀を落とした。
「はーいはいはい、事は決まったんだろうし、話はそこまでね」
「!ヴァルスさん…」
幾ら本音であったとは言え、ヴァルスとログランドの目の前でユイに食い下がった所を見られた、セレンの顔が紅潮する。
そんなセレンを微笑ましげに見て、不意にヴァルスは真剣な面持ちで声をひそめた。
「…ユイ、気付いてるんだろう?」
「これ程あからさまに殺気を叩きつけられておいて、気が付かないとでも思うか?」
緩やかにその瞳を鋭利なものへと変えたユイは、グラスに継ぎ足された酒を一度に呷ると、それを手にしたまま立ち上がった。
──次の瞬間、一見、たいした力も込めていないように見えたそのグラスが、ユイの手によって粉々に砕かれる。
「!? …ユイ…」
セレンは思わず息を呑んだが、同様に、確実にそれを目にしたはずのヴァルスとログランドの二人は、顔色ひとつ変えない。
そのヴァルスの唇が、再び紐解かれた。
「…手伝おうか? ユイ…」
「…、断った所で、お前のことだ…
どうせ首を突っ込む気だろう」
「…当たり」
ヴァルスは好戦的に笑む。
「あのいちいち度が過ぎる狂犬コンビには、一度きっつい躾をしてやろうと思っていたからね。
でも、同じ幹部クラスが表立って事を構えれば、総統だって黙っちゃいないだろうし…」
「それもあるだろうが…
はなからお前は、俺と今回の一件を利用するつもりだろう?」
「…はぁ…全くもって人聞きが悪いねぇ。
利害の一致と言ってくれない?」
ヴァルスは軽く息をつくと、肩を竦めた。
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