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Ⅳ.追う者、追われる者
幹部クラスの居場所
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「!う…承りました!」
「必ずや、ユイを御前に!」
すっかり恐れを為した二人は、いよいよ低く、そして深く頭を下げる。
その二人の承諾に、目に潜む深淵の闇をわずかに緩和させた総統は、以前にも増して低く言い放った。
「良かろう。退け」
「!は… はい! では失礼致します!」
機敏に、揃って踵を合わせながらも顔を上げた二人は、再び一度だけ軽く頭を垂れると、よほど居心地が悪かったのか、すぐにそそくさと退室した。
その様子を呆れたように見やりながら、ロゼが本音を呟く。
「…奴らには相当に荷が重いように思われますが」
「当然だ。あのような奴らには、初めから期待などしていない」
いつの間にかその体勢を変え、机に肩肘をつく形で頬杖をついていた総統は、意外にも即答すると、さも愉しげな狂気の笑みを浮かべた。
「…ああ言えば後には退けないであろうことは、馬鹿でも分かる。
何しろユイを捕らえられなければ、自らが血祭りに上げられるのだからな。
鼠とて、追い詰められれば猫をも噛む。…ならば、犬がそれを出来ない道理はないだろう?」
「…成る程。“狂犬コンビ”に対する痛烈な皮肉ですね」
ロゼは総統の狂気に毒されたかのように、これまた気狂いの笑みを零す。
くすくすと屈託なく笑うロゼ。
彼を見ても分かるように、この組織に属する者は、皆、何処かが壊れている。
…ここに集い、生きる者たちを纏める名。
それはいつしか世間では、恐怖の、そして畏怖の象徴へとなり果てた。
──“Break Guns”。
この組織の名前。
壊れているのは、そしてこれから壊れていくのは…
体、心、精神、関係、日常、世界…
人によってそれは様々であろうとも。
この組織自体は確かに、そこに属する者の“何か”を蝕んでゆく。
…中には初めから毒されている者もいる。
快楽殺人者、ネクロフィリア等…
世間“一般での”呼ばれ方は様々だ。
ただしそれは、この組織においては、あくまで組織の名においての、己の趣味の延長上でのみ許されることであって…
独断で好きに事を興す者は、同じ組織に属する者の手によって、次々にその存在を消されていった。
この組織においての、暗黙のルールを守らないことが、そしてその組織自体に馴染めない…あるいは馴染まない者が、どのような末路を辿るのか、ロゼは知っていた。
…だから、笑わずにはいられないのだ。
今回の任務に失敗した場合の、あの二人の“末路が見えるから”。
事実、この組織を纏める総統には、それだけの強大な力がある。
…それ自体が常人より遥かにかけ離れた魔力を持った者を、いとも簡単に葬れるだけの、膨大な魔力が。
幹部クラスは、そもそもがなかなか成れないことは確かだが、実はその候補は、幾らでもいる。
現・幹部クラス…つまり今、上にあたる者は、寝首を掻かれないように常に気を巡らせ、その下に続く者は、上の隙や失脚を、虎視眈々と狙う…
元々Break Gunsは、そんな組織だ。
だからこそ、任務に失敗した時の二人の行く末は、まさしく目に見えるようだ。
幹部クラスからは引きずり下ろされ、下位の者に取って代わられた挙げ句、総統自ら手を下される…
それがこの組織においての、“当然”である以上は、下手をすればあの二人も、その運命を辿るであろうことは免れない。
…だが、今となっては、それはあの二人が一番、肝に銘じているだろう。
何しろ、失敗したら命がないのだから。
「…さて…どう出る…?」
それが誰に宛てたものなのかは分からなかったが。
ロゼは総統の傍らで、まだ逸る感情を抑えながらも、そう呟いた。
「必ずや、ユイを御前に!」
すっかり恐れを為した二人は、いよいよ低く、そして深く頭を下げる。
その二人の承諾に、目に潜む深淵の闇をわずかに緩和させた総統は、以前にも増して低く言い放った。
「良かろう。退け」
「!は… はい! では失礼致します!」
機敏に、揃って踵を合わせながらも顔を上げた二人は、再び一度だけ軽く頭を垂れると、よほど居心地が悪かったのか、すぐにそそくさと退室した。
その様子を呆れたように見やりながら、ロゼが本音を呟く。
「…奴らには相当に荷が重いように思われますが」
「当然だ。あのような奴らには、初めから期待などしていない」
いつの間にかその体勢を変え、机に肩肘をつく形で頬杖をついていた総統は、意外にも即答すると、さも愉しげな狂気の笑みを浮かべた。
「…ああ言えば後には退けないであろうことは、馬鹿でも分かる。
何しろユイを捕らえられなければ、自らが血祭りに上げられるのだからな。
鼠とて、追い詰められれば猫をも噛む。…ならば、犬がそれを出来ない道理はないだろう?」
「…成る程。“狂犬コンビ”に対する痛烈な皮肉ですね」
ロゼは総統の狂気に毒されたかのように、これまた気狂いの笑みを零す。
くすくすと屈託なく笑うロゼ。
彼を見ても分かるように、この組織に属する者は、皆、何処かが壊れている。
…ここに集い、生きる者たちを纏める名。
それはいつしか世間では、恐怖の、そして畏怖の象徴へとなり果てた。
──“Break Guns”。
この組織の名前。
壊れているのは、そしてこれから壊れていくのは…
体、心、精神、関係、日常、世界…
人によってそれは様々であろうとも。
この組織自体は確かに、そこに属する者の“何か”を蝕んでゆく。
…中には初めから毒されている者もいる。
快楽殺人者、ネクロフィリア等…
世間“一般での”呼ばれ方は様々だ。
ただしそれは、この組織においては、あくまで組織の名においての、己の趣味の延長上でのみ許されることであって…
独断で好きに事を興す者は、同じ組織に属する者の手によって、次々にその存在を消されていった。
この組織においての、暗黙のルールを守らないことが、そしてその組織自体に馴染めない…あるいは馴染まない者が、どのような末路を辿るのか、ロゼは知っていた。
…だから、笑わずにはいられないのだ。
今回の任務に失敗した場合の、あの二人の“末路が見えるから”。
事実、この組織を纏める総統には、それだけの強大な力がある。
…それ自体が常人より遥かにかけ離れた魔力を持った者を、いとも簡単に葬れるだけの、膨大な魔力が。
幹部クラスは、そもそもがなかなか成れないことは確かだが、実はその候補は、幾らでもいる。
現・幹部クラス…つまり今、上にあたる者は、寝首を掻かれないように常に気を巡らせ、その下に続く者は、上の隙や失脚を、虎視眈々と狙う…
元々Break Gunsは、そんな組織だ。
だからこそ、任務に失敗した時の二人の行く末は、まさしく目に見えるようだ。
幹部クラスからは引きずり下ろされ、下位の者に取って代わられた挙げ句、総統自ら手を下される…
それがこの組織においての、“当然”である以上は、下手をすればあの二人も、その運命を辿るであろうことは免れない。
…だが、今となっては、それはあの二人が一番、肝に銘じているだろう。
何しろ、失敗したら命がないのだから。
「…さて…どう出る…?」
それが誰に宛てたものなのかは分からなかったが。
ロゼは総統の傍らで、まだ逸る感情を抑えながらも、そう呟いた。
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