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Ⅳ.追う者、追われる者
…しつこいな、貴様ら…
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…その頃、暗殺組織・Break Gunsの幹部クラスであるはずのエルダを、それをも上回る魔術でもって退けたユイは、荒廃した屋敷を見つめたままへたり込んでいるセレンを、憐れみの瞳で見下ろしていた。
エルダが去ったことで気が抜けたらしいセレンは、同時に、今自らが置かれている現状全てを思い出したのか、元々傷めていた足の力が抜け、再度、へたへたとその場に座り込んでしまったのだ。
…ユイが、彼にしては珍しくその様子を気に留め、窺うそんな中…
セレンの口は、至極ゆっくりと動かされる。
「…ユイ…貴方の属していた組織って…
こんな残酷なことも、平気でしてしまえるの?」
「……」
それを聞いたユイの表情は複雑に曇る。
…分かっている。恐らくはセレンとて、かつて組織に属した自分を責めるのが目的でそれを口にしている訳ではない。
だが、相手にその誤解を、そして言いようのない不快感を与えると知っていても、尋ねずには居られないのだろう。
そんなセレンの気持ちを思うと、いたたまれなくなる反面、組織に属していた自分が、今だに酷く薄汚れている者であるかのように思えて来る。
…例え前者が同情、そして後者が紛れもない真実であっても。
「…そうだな。お前も知っているだろう。Break Gunsは、裏の世界でも有名な暗殺組織だ。
この国に住む者で、組織の名を知らない者など、ひとりとして存在しない」
「……」
今度はセレンが顔を曇らせる番だった。
…ユイの言っている事は正しく、まさしくその事実は、この国に住む老人から子どもまで、誰でも知っている。
残虐で、そして冷酷非道な犯罪組織・Break Guns。
その事実を充分に承知な上のはずの自分の家族が、自らの命を賭してまで、そんな危険な闇の暗殺組織に対抗した理由が分からない。
…だが、事情はどうあれ、その結果、自分の家族はひとり残さず殺されたのだ。
父親が、そして母親が、そして運転手までもが、組織に対立し、牙を剥いたことで、その命を情け容赦なく奪われた──
「…ユイ」
「何だ」
自分に呼びかけるセレンに、ユイは根気よく相手をした。
…捨て置いても己には全く支障のないはずの者を相手にしていることで、知らぬ間にユイの心には、己自身もまだ知らない、ある種の混迷と葛藤が浮かんで来ていた。
セレンはそんなユイの心境を知る事もなく先を続ける。
「…とりあえず、場所を移動しない?」
この意外な申し出に、ユイは一瞬、大きく目を見開いた。
「…いいのか?」
「うん」
セレンは、こっくりと深く頷く。
「…、私ね、家族が殺された理由を考えてみたの。
相手が幾ら残酷な暗殺組織だったとしても、組織という名前の通り、規模は大きい訳だし、些細な事ではいちいち目くじらなんか立てるはずがないと思うのよね。
ユイ、貴方はあの女の人…、エルダと呼んだあの人を幹部クラスと言ったけど、そんな人が家にわざわざ出向いてくるなんて、余程のことよ」
「……」
「つまり私の家族は、組織に対して、何か致命的な弱みを掴んだんだわ。そしてそれを公にする前に殺された…」
「つまり、幹部クラスのエルダを送り込んだのは、確実に家族を抹殺させる為だと…
お前はそう言いたいのか?」
「ええ。ついでにあの変態もね!」
セレンは憤然と鼻を鳴らす。
“あの変態”とは恐らく、ヴィルザーク家の運転手に手を下したカインの事だろう。
…確かに奴の性格から考えれば、そう言われるのもやぶさかではないが…
それを察したユイは、一瞬だけ呆然としたが、やがて堪えきれなくなったのか、その口元に笑みを浮かべた。
「…本当にいい性格してるよ、お前」
「そうでしょ?」
セレンは怒ることもなく、挑戦的に肯定する。
「だってあの変態… カインとか言ったかしら、あの人が家族の直接の仇なのは間違いないし。
大体、元々その事実が無くたって、例え相手がBreak Gunsの一員だからって…
あんな危険人物を野放しにしてはおけないわ!」
言うだけ言ったセレンは、格式高い女性にはあるまじき態度で腕を組む。
これにはさすがに、ユイも内心で舌を巻かずにはいられなかった。
…家族が残らず殺され、文字通りの天涯孤独となった少女。
なのに、何故こうも強くいられる。
この、開き直りにも近い図太さは、どこに端を発しているのだろうか…
「悲しくはないのか、お前は」
ユイは結果的に、そう問わずにはいられない。
だがそれにセレンは、きょとんとした表情でユイを見つめた。
「そりゃ勿論、悲しいわよ? 当然じゃない」
その割には、やけにあっけらかんと答えたセレンに、ユイの眉が自然、顰められる。
それにセレンは、いつになく真顔になると、それ自体を打ち消すかのように答えた。
「だけど、いつまでも悲しんでいる訳にもいかないでしょ?
…唯一生き延びた私が、家族みんなの仇を取らないとね」
エルダが去ったことで気が抜けたらしいセレンは、同時に、今自らが置かれている現状全てを思い出したのか、元々傷めていた足の力が抜け、再度、へたへたとその場に座り込んでしまったのだ。
…ユイが、彼にしては珍しくその様子を気に留め、窺うそんな中…
セレンの口は、至極ゆっくりと動かされる。
「…ユイ…貴方の属していた組織って…
こんな残酷なことも、平気でしてしまえるの?」
「……」
それを聞いたユイの表情は複雑に曇る。
…分かっている。恐らくはセレンとて、かつて組織に属した自分を責めるのが目的でそれを口にしている訳ではない。
だが、相手にその誤解を、そして言いようのない不快感を与えると知っていても、尋ねずには居られないのだろう。
そんなセレンの気持ちを思うと、いたたまれなくなる反面、組織に属していた自分が、今だに酷く薄汚れている者であるかのように思えて来る。
…例え前者が同情、そして後者が紛れもない真実であっても。
「…そうだな。お前も知っているだろう。Break Gunsは、裏の世界でも有名な暗殺組織だ。
この国に住む者で、組織の名を知らない者など、ひとりとして存在しない」
「……」
今度はセレンが顔を曇らせる番だった。
…ユイの言っている事は正しく、まさしくその事実は、この国に住む老人から子どもまで、誰でも知っている。
残虐で、そして冷酷非道な犯罪組織・Break Guns。
その事実を充分に承知な上のはずの自分の家族が、自らの命を賭してまで、そんな危険な闇の暗殺組織に対抗した理由が分からない。
…だが、事情はどうあれ、その結果、自分の家族はひとり残さず殺されたのだ。
父親が、そして母親が、そして運転手までもが、組織に対立し、牙を剥いたことで、その命を情け容赦なく奪われた──
「…ユイ」
「何だ」
自分に呼びかけるセレンに、ユイは根気よく相手をした。
…捨て置いても己には全く支障のないはずの者を相手にしていることで、知らぬ間にユイの心には、己自身もまだ知らない、ある種の混迷と葛藤が浮かんで来ていた。
セレンはそんなユイの心境を知る事もなく先を続ける。
「…とりあえず、場所を移動しない?」
この意外な申し出に、ユイは一瞬、大きく目を見開いた。
「…いいのか?」
「うん」
セレンは、こっくりと深く頷く。
「…、私ね、家族が殺された理由を考えてみたの。
相手が幾ら残酷な暗殺組織だったとしても、組織という名前の通り、規模は大きい訳だし、些細な事ではいちいち目くじらなんか立てるはずがないと思うのよね。
ユイ、貴方はあの女の人…、エルダと呼んだあの人を幹部クラスと言ったけど、そんな人が家にわざわざ出向いてくるなんて、余程のことよ」
「……」
「つまり私の家族は、組織に対して、何か致命的な弱みを掴んだんだわ。そしてそれを公にする前に殺された…」
「つまり、幹部クラスのエルダを送り込んだのは、確実に家族を抹殺させる為だと…
お前はそう言いたいのか?」
「ええ。ついでにあの変態もね!」
セレンは憤然と鼻を鳴らす。
“あの変態”とは恐らく、ヴィルザーク家の運転手に手を下したカインの事だろう。
…確かに奴の性格から考えれば、そう言われるのもやぶさかではないが…
それを察したユイは、一瞬だけ呆然としたが、やがて堪えきれなくなったのか、その口元に笑みを浮かべた。
「…本当にいい性格してるよ、お前」
「そうでしょ?」
セレンは怒ることもなく、挑戦的に肯定する。
「だってあの変態… カインとか言ったかしら、あの人が家族の直接の仇なのは間違いないし。
大体、元々その事実が無くたって、例え相手がBreak Gunsの一員だからって…
あんな危険人物を野放しにしてはおけないわ!」
言うだけ言ったセレンは、格式高い女性にはあるまじき態度で腕を組む。
これにはさすがに、ユイも内心で舌を巻かずにはいられなかった。
…家族が残らず殺され、文字通りの天涯孤独となった少女。
なのに、何故こうも強くいられる。
この、開き直りにも近い図太さは、どこに端を発しているのだろうか…
「悲しくはないのか、お前は」
ユイは結果的に、そう問わずにはいられない。
だがそれにセレンは、きょとんとした表情でユイを見つめた。
「そりゃ勿論、悲しいわよ? 当然じゃない」
その割には、やけにあっけらかんと答えたセレンに、ユイの眉が自然、顰められる。
それにセレンは、いつになく真顔になると、それ自体を打ち消すかのように答えた。
「だけど、いつまでも悲しんでいる訳にもいかないでしょ?
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