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第一章 龍殺しの騎士

第31話 空を劈く

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 ビマコの町の中にあったそこそこの広さの空き地に転送の魔道具を広げ、マリアを残して一度俺は拠点に戻った。拠点の転送先にはすでに準備を終えたみんなが待っていた。

「みんなもう行ける?」
「もちろんだ。」
「大丈夫です!」

 俺の問いにライムさんとサーシャが答える。俺は簡単にビマコの町の状況を出征メンバーに伝え、全員がそれぞれで作戦を振り返り、地図を見ながら配置を再確認した。特にギッツさんは今までほとんど触ったことのない対物ライフル《リーパー》を握りしめながらかなり緊張している様子だった。彼の獲物は今までランスだったのだからそれも仕方がないだろう。

 しかし彼もさすがはベテランというべきか、この暴れ馬の制御をしっかりとできるようになった。魔改造を施したリーパーに触るのは俺と魔道具班のみんな以外では初めてなので、レベッカさんが暴れだすかもしれない。何せ、見た目は変わっていないが、その威力や機能面は以前とは比べ物にならないレベルで向上している。

 正直俺一人ではここまでの水準までは持ってこれなかったと思う。素晴らしい技術を持ったカルテラの魔道具師のアイデアと技術力があってこそのリーパー改だ。彼らには本当に感謝してもしきれないほどの技術と知識をもらった。

 帰ったら彼らには飛び切りのお礼をしなければ。

 俺はそう思いながら出征メンバーを率いて紫の光の中に入っていく。


~~~~~~~~~~

 ビマコの町に再びやってきた俺は、町に残って治療に当たるサーシャとディナルドと別れてミズ・ロックと呼ばれるとても大きな一枚岩の上に自作の魔導兵器を設置する。重量のある魔導兵器を設置するのにはやはり全員の力を借りる必要があり、思っていた以上に時間がかかってしまった。

 設置が完了し、その場にはレベッカさんだけを残して、各自邪龍のいるケレンケン山脈を囲むような位置に移動する。マリアの話では、龍種は、飛行に特化した飛竜種、圧倒的な巨体と重量を誇る巨龍種、そして龍種の中でも最高級の戦闘力を持つ龍王種の三種類に分類されるそうだ。

 今回ケレンケン山脈にやってきた邪龍種がもともとどの種類だったのか全くの不明だが、誰もがその姿を肉眼でとらえることができていないことから巨龍種ではないことは確かだ。

 しかし、万が一龍王種だった場合はかなり苦戦を強いられることになるとマリアは言っていた。飛竜種よりも素早く空を飛びまわり、巨龍種よりも頑丈な鱗を持つ。そのうえ体長は飛竜種とさほど変わらないそうなので硬いくせにそもそも攻撃を充てることすら難しいそうだ。

 そんな相手が邪龍になっていたら正直俺にはどうしようもないと思う。しかしさすがはマリア先生。邪龍が龍王種だった場合の作戦もすでに考えてくれており、みんなもすでに把握している。俺は数パターン用意された作戦の復讐をしながら邪龍を探しているマリアの報告を待っていると、すぐにマリアから念話が届いた。

『邪龍を発見しました。龍王種です。まだ寝ている様子なので地縛弾は不要かと思います。』
『了解、下山したらまた念話を飛ばしてくれ。』

 なぜ念話を使っているのかというと、どうやら龍種はかなり魔力に敏感らしく、魔道具を使った交信にすぐに気が付いてしまうそうだ。そのため、通信の魔道具は偵察中使うことができない。契約によって確立された魂のつながりを介して会話をする念話のほうがいいのだそうだ。理屈は全くと言っていいほど理解できていない。

 念話は残念ながら俺とマリアの二人しか使うことができないため、ほかのみんなとは通信魔道具を使って連絡している。こちらは邪龍のいるケレンケン山脈から十分離れているので魔道具を使っていても問題はないそうだ。俺はマリアの位置から邪龍のいる場所を把握し、みんなに連絡した。

 正確な位置情報は今回の作戦においてかなり重要になってくる。外せば次弾が無い魔導兵器が主体な作戦で、相手は龍王種。とてもじゃないが魔導兵器無しでは全くと言ってもいいほど勝てる気がしない。

 逆に言えば、正確な位置情報さえあれば危なげもなくこの邪龍を討伐することができる。一度位置を把握すれば、あとはレベッカさんが正確に砲撃してくれることだろう。

 マリアから下山したという連絡が入った。周辺に一般人がいないことも確認した。諸々の確認を済ませ、あとはぶっ放すだけ。

 俺たちは各々の中距離攻撃の用意をしながらレベッカさんの声を待った。

ドォン

「だんちゃ~く…」

ヒューーーーー

「今!」

ドゴォーーーーーン!!!!!
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