10 / 59
序章 始まりの町
第10話 破滅の足音
しおりを挟む
時は少しさかのぼって、アルトがアクマリンに向かうために町を出たころ…
アルトが働いていた魔道具店は大変なことになっていた。
「ふんっ、優秀なお前たちの足を引っ張る無能な下民はいなくなったぞ!これでもっと作業効率が上がるだろうな!」
店長のザックレーは残っている職人たちに胸を張りながらそう聞いた。しかし、帰ってきた返答は彼が期待していたものとは全く異なるものばかりだった。
「彼が消えた?だったら私もここをやめさせていただきます!」
「同じく俺も今日限りでやめさせていただきます!」
「彼がいないのであれば私がここにいる理由もないですし。」
「今日までお世話になりました。もう二度とかかわらないでください。」
職人たちは口々にこの職場を離れる旨を伝え、素早く荷物もまとめ、工房から出て行ってしまった。広い工房に残ったのは、彼らが作り残していった魔道具と屑ごみ、ザックレーだけだった。
「ふざけるなっ!!」
ザックレーは作業台に両手を力強くたたきつけた。もう一度、この店の生産量を再現するには、途方のない時間をかけなければならず、今出て行ってしまった従業員の口伝いにこの店の内部情報も漏れ出て行ってしまうため、この町で再び商売を再開することはもはや不可能に近かった。
また、ザックレー自身には魔道具を作る技術が全くないため、一人で細々と魔道具店を営むことすらできない、実質の破産と同じであった。
しかし、ザックレーに降りかかる災難はこれだけでは終わらず、まだまだ続いていくのであった。
一方そのころ、店をやめていった職人たちのほとんどは、前々から誘われていた魔道具の工房に足を運んでおり、早速職に就いていた。その中で、水色の髪の少女、サーシャはアクマリンの町に向かっていた。彼女が心酔する魔道具師のもとへと向かうために…
~~~~~
セイリウムさんから依頼された仕事にとりかかって三日目の夜中、ついに俺はいい出来のゴーレムを完成させた。基本的な設計から付与魔法、外観のデザインに至るまで、アイアンゴーレムのものに大きく変更を加えた、俺オリジナルのゴーレムになった。
アイアンゴーレムのような威圧的で、材質の鉄むき出しのデザインから、少年が喜びそうな機械的でありながらもどこかかっこよさのあるデザインに変更した。サイズもアイアンゴーレムの半分程度、2メートル弱まで小さくした。中の設計も、部品をより細かく多くしたため、人間とそん色ない動きを再現することもできる。
極めつけは、頭部に収納している知覚領域だ。さすがに会話はできないものの、主の命令を遂行するための手段や選択肢を自分で考え、その中から最適なものを自分で選んで実行する。経験したものは記憶として残り、学習を積んでいく。
おそらく現存するどんなゴーレムよりも人間に近いものになったと俺は思う。
三日間寝ずに作業をし続けていたため、ゴーレムが完成したと同時に激しい睡魔に襲われる。俺はその睡魔に抗うこと適わずに、そのまま作業場のソファーで寝てしまうのだった。
~~~~~
翌朝、俺が目を覚ますと、少年のように目をキラキラさせながら出来上がったばかりのゴーレムを眺めている赤毛の男性がいた。依頼主のセイリウムさんは、冗談抜きに目をキラキラさせながらいろいろな角度からゴーレムを観察していた。
その後ろでは、アメリアお嬢様がこれまた興味深そうに俺の作ったゴーレムをじっと見ていた。
「すいません、寝てしまいました。おはようございます…」
「おひゃっ!お、おはようアルト君。ごめんね、待ちきれなくて見に来ちゃった。」
「すいませんアルト様、私も見に来てしまいました。」
セイリウムさんとアメリアお嬢様が何やら申し訳なさそうに謝っていた。
「いえいえ、全然かまいませんよ。一応は完成したんですけど、まだ動作確認が全くできていないのでこれからしに行こうと思うんですけど、一緒に来ますか?」
「いいのかい!?」
俺が何気なく誘ってみると、予想以上に食いついてきたセイリウムさん。その後ろではやっぱり興味深そうにゴーレムを見るお嬢様。
「もちろんかまいませんよ。他のみんなはどこにいますか?」
「僕の屋敷の賓客室にいるよ。呼んでこさせたほうがいいかい?」
「お願いします。」
セイリウムさんが使用人の人にみんなを呼びに行かせている間に、俺はゴーレムの最終調整をしていた。最低限、歩行できるレベルの調整はしてあるので、動作確認の時に倒れまくってみっともないところを見せるということはなさそうだ。
しばらくすると、みんながいつもの冒険者の装いになって集合してくれた。そのまま俺たちは馬車に乗り込み、町から離れた草原の真中へと向かった。
「とりあえず基本的な命令を遂行できるかチェックしてみますね。《コマンド:プロテクトマスター》」
俺はゴーレムの操作をするための徽章に命令を発した。するとゴーレムは滑らかな動きで俺のすぐ後ろまで来て、俺が歩く速度に合わせてぴったりとついてきた。
「じゃあ、とりあえずライムさん。僕にナイフでも適当に投げつけてください。」
「大丈夫かい?」
「もしゴーレムが動かなくてもはじくくらいならできるので安心してください。」
「了解。」
俺が合図すると、ライムは思いっきり短剣を俺に向かって投げつけてきた。なかなかゴーレムは動き出さず、そろそろはじく準備しないとなと思って腰の剣に手をかけた。
そして短剣が俺の眼の前に来たというところでゴーレムの腕がものすごい速さで動く。飛んでくる短剣よりも早く動いたその腕は、がっちりとナイフの柄をつかんでいた。
「すごい!」
後ろで見ていたセイリウムさんは拍手していた。その横にいたお嬢様も同じように拍手をしていた。
「ゴーレムとは思えない滑らかで素早い動き、そしてスムーズな魔力の流れ。僕が今まで見たゴーレムの中でも最高峰!もはやゴーレムの括りに収まってすらいないと思う!」
少し心配だった依頼主の評価もなかなかに上々だった。
アルトが働いていた魔道具店は大変なことになっていた。
「ふんっ、優秀なお前たちの足を引っ張る無能な下民はいなくなったぞ!これでもっと作業効率が上がるだろうな!」
店長のザックレーは残っている職人たちに胸を張りながらそう聞いた。しかし、帰ってきた返答は彼が期待していたものとは全く異なるものばかりだった。
「彼が消えた?だったら私もここをやめさせていただきます!」
「同じく俺も今日限りでやめさせていただきます!」
「彼がいないのであれば私がここにいる理由もないですし。」
「今日までお世話になりました。もう二度とかかわらないでください。」
職人たちは口々にこの職場を離れる旨を伝え、素早く荷物もまとめ、工房から出て行ってしまった。広い工房に残ったのは、彼らが作り残していった魔道具と屑ごみ、ザックレーだけだった。
「ふざけるなっ!!」
ザックレーは作業台に両手を力強くたたきつけた。もう一度、この店の生産量を再現するには、途方のない時間をかけなければならず、今出て行ってしまった従業員の口伝いにこの店の内部情報も漏れ出て行ってしまうため、この町で再び商売を再開することはもはや不可能に近かった。
また、ザックレー自身には魔道具を作る技術が全くないため、一人で細々と魔道具店を営むことすらできない、実質の破産と同じであった。
しかし、ザックレーに降りかかる災難はこれだけでは終わらず、まだまだ続いていくのであった。
一方そのころ、店をやめていった職人たちのほとんどは、前々から誘われていた魔道具の工房に足を運んでおり、早速職に就いていた。その中で、水色の髪の少女、サーシャはアクマリンの町に向かっていた。彼女が心酔する魔道具師のもとへと向かうために…
~~~~~
セイリウムさんから依頼された仕事にとりかかって三日目の夜中、ついに俺はいい出来のゴーレムを完成させた。基本的な設計から付与魔法、外観のデザインに至るまで、アイアンゴーレムのものに大きく変更を加えた、俺オリジナルのゴーレムになった。
アイアンゴーレムのような威圧的で、材質の鉄むき出しのデザインから、少年が喜びそうな機械的でありながらもどこかかっこよさのあるデザインに変更した。サイズもアイアンゴーレムの半分程度、2メートル弱まで小さくした。中の設計も、部品をより細かく多くしたため、人間とそん色ない動きを再現することもできる。
極めつけは、頭部に収納している知覚領域だ。さすがに会話はできないものの、主の命令を遂行するための手段や選択肢を自分で考え、その中から最適なものを自分で選んで実行する。経験したものは記憶として残り、学習を積んでいく。
おそらく現存するどんなゴーレムよりも人間に近いものになったと俺は思う。
三日間寝ずに作業をし続けていたため、ゴーレムが完成したと同時に激しい睡魔に襲われる。俺はその睡魔に抗うこと適わずに、そのまま作業場のソファーで寝てしまうのだった。
~~~~~
翌朝、俺が目を覚ますと、少年のように目をキラキラさせながら出来上がったばかりのゴーレムを眺めている赤毛の男性がいた。依頼主のセイリウムさんは、冗談抜きに目をキラキラさせながらいろいろな角度からゴーレムを観察していた。
その後ろでは、アメリアお嬢様がこれまた興味深そうに俺の作ったゴーレムをじっと見ていた。
「すいません、寝てしまいました。おはようございます…」
「おひゃっ!お、おはようアルト君。ごめんね、待ちきれなくて見に来ちゃった。」
「すいませんアルト様、私も見に来てしまいました。」
セイリウムさんとアメリアお嬢様が何やら申し訳なさそうに謝っていた。
「いえいえ、全然かまいませんよ。一応は完成したんですけど、まだ動作確認が全くできていないのでこれからしに行こうと思うんですけど、一緒に来ますか?」
「いいのかい!?」
俺が何気なく誘ってみると、予想以上に食いついてきたセイリウムさん。その後ろではやっぱり興味深そうにゴーレムを見るお嬢様。
「もちろんかまいませんよ。他のみんなはどこにいますか?」
「僕の屋敷の賓客室にいるよ。呼んでこさせたほうがいいかい?」
「お願いします。」
セイリウムさんが使用人の人にみんなを呼びに行かせている間に、俺はゴーレムの最終調整をしていた。最低限、歩行できるレベルの調整はしてあるので、動作確認の時に倒れまくってみっともないところを見せるということはなさそうだ。
しばらくすると、みんながいつもの冒険者の装いになって集合してくれた。そのまま俺たちは馬車に乗り込み、町から離れた草原の真中へと向かった。
「とりあえず基本的な命令を遂行できるかチェックしてみますね。《コマンド:プロテクトマスター》」
俺はゴーレムの操作をするための徽章に命令を発した。するとゴーレムは滑らかな動きで俺のすぐ後ろまで来て、俺が歩く速度に合わせてぴったりとついてきた。
「じゃあ、とりあえずライムさん。僕にナイフでも適当に投げつけてください。」
「大丈夫かい?」
「もしゴーレムが動かなくてもはじくくらいならできるので安心してください。」
「了解。」
俺が合図すると、ライムは思いっきり短剣を俺に向かって投げつけてきた。なかなかゴーレムは動き出さず、そろそろはじく準備しないとなと思って腰の剣に手をかけた。
そして短剣が俺の眼の前に来たというところでゴーレムの腕がものすごい速さで動く。飛んでくる短剣よりも早く動いたその腕は、がっちりとナイフの柄をつかんでいた。
「すごい!」
後ろで見ていたセイリウムさんは拍手していた。その横にいたお嬢様も同じように拍手をしていた。
「ゴーレムとは思えない滑らかで素早い動き、そしてスムーズな魔力の流れ。僕が今まで見たゴーレムの中でも最高峰!もはやゴーレムの括りに収まってすらいないと思う!」
少し心配だった依頼主の評価もなかなかに上々だった。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
頭が花畑の女と言われたので、その通り花畑に住むことにしました。
音爽(ネソウ)
ファンタジー
見た目だけはユルフワ女子のハウラナ・ゼベール王女。
その容姿のせいで誤解され、男達には尻軽の都合の良い女と見られ、婦女子たちに嫌われていた。
16歳になったハウラナは大帝国ダネスゲート皇帝の末席側室として娶られた、体の良い人質だった。
後宮内で弱小国の王女は冷遇を受けるが……。
実家が没落したので、こうなったら落ちるところまで落ちてやります。
黒蜜きな粉
ファンタジー
ある日を境にタニヤの生活は変わってしまった。
実家は爵位を剥奪され、領地を没収された。
父は刑死、それにショックを受けた母は自ら命を絶った。
まだ学生だったタニヤは学費が払えなくなり学校を退学。
そんなタニヤが生活費を稼ぐために始めたのは冒険者だった。
しかし、どこへ行っても元貴族とバレると嫌がらせを受けてしまう。
いい加減にこんな生活はうんざりだと思っていたときに出会ったのは、商人だと名乗る怪しい者たちだった。
騙されていたって構わない。
もう金に困ることなくお腹いっぱい食べられるなら、裏家業だろうがなんでもやってやる。
タニヤは商人の元へ転職することを決意する。
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
【完結】婚約破棄されて修道院へ送られたので、今後は自分のために頑張ります!
猫石
ファンタジー
「ミズリーシャ・ザナスリー。 公爵の家門を盾に他者を蹂躙し、悪逆非道を尽くしたお前の所業! 決して許してはおけない! よって我がの名の元にお前にはここで婚約破棄を言い渡す! 今後は修道女としてその身を神を捧げ、生涯後悔しながら生きていくがいい!」
無実の罪を着せられた私は、その瞬間に前世の記憶を取り戻した。
色々と足りない王太子殿下と婚約破棄でき、その後の自由も確約されると踏んだ私は、意気揚々と王都のはずれにある小さな修道院へ向かったのだった。
注意⚠️このお話には、妊娠出産、新生児育児のお話がバリバリ出てきます。(訳ありもあります)お嫌いな方は自衛をお願いします!
2023/10/12 作者の気持ち的に、断罪部分を最後の番外にしました。
2023/10/31第16回ファンタジー小説大賞奨励賞頂きました。応援・投票ありがとうございました!
☆このお話は完全フィクションです、創作です、妄想の作り話です。現実世界と混同せず、あぁ、ファンタジーだもんな、と、念頭に置いてお読みください。
☆作者の趣味嗜好作品です。イラッとしたり、ムカッとしたりした時には、そっと別の素敵な作家さんの作品を検索してお読みください。(自己防衛大事!)
☆誤字脱字、誤変換が多いのは、作者のせいです。頑張って音読してチェックして!頑張ってますが、ごめんなさい、許してください。
★小説家になろう様でも公開しています。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
追放王子の隠居生活
こうじ
ファンタジー
ドリアナ王国の第1王子グランは1年前に当時の婚約者だった公爵令嬢に婚約破棄を一方的に宣言し、その責任を問われ王位継承権を剥奪、平民堕ちしてしまった。しかし、実は婚約破棄騒動は腐敗した貴族社会に嫌気が差したグランが自ら縁を切る為に作った計画だった。これは自ら平民になった元王子の物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる