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序章 始まりの町

第10話 破滅の足音

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 時は少しさかのぼって、アルトがアクマリンに向かうために町を出たころ…

 アルトが働いていた魔道具店は大変なことになっていた。

「ふんっ、優秀なお前たちの足を引っ張る無能な下民はいなくなったぞ!これでもっと作業効率が上がるだろうな!」

 店長のザックレーは残っている職人たちに胸を張りながらそう聞いた。しかし、帰ってきた返答は彼が期待していたものとは全く異なるものばかりだった。

「彼が消えた?だったら私もここをやめさせていただきます!」
「同じく俺も今日限りでやめさせていただきます!」
「彼がいないのであれば私がここにいる理由もないですし。」
「今日までお世話になりました。もう二度とかかわらないでください。」

 職人たちは口々にこの職場を離れる旨を伝え、素早く荷物もまとめ、工房から出て行ってしまった。広い工房に残ったのは、彼らが作り残していった魔道具と屑ごみ、ザックレーだけだった。

「ふざけるなっ!!」

 ザックレーは作業台に両手を力強くたたきつけた。もう一度、この店の生産量を再現するには、途方のない時間をかけなければならず、今出て行ってしまった従業員の口伝いにこの店の内部情報も漏れ出て行ってしまうため、この町で再び商売を再開することはもはや不可能に近かった。

 また、ザックレー自身には魔道具を作る技術が全くないため、一人で細々と魔道具店を営むことすらできない、実質の破産と同じであった。

 しかし、ザックレーに降りかかる災難はこれだけでは終わらず、まだまだ続いていくのであった。

 一方そのころ、店をやめていった職人たちのほとんどは、前々から誘われていた魔道具の工房に足を運んでおり、早速職に就いていた。その中で、水色の髪の少女、サーシャはアクマリンの町に向かっていた。彼女が心酔する魔道具師のもとへと向かうために…


~~~~~


 セイリウムさんから依頼された仕事にとりかかって三日目の夜中、ついに俺はいい出来のゴーレムを完成させた。基本的な設計から付与魔法、外観のデザインに至るまで、アイアンゴーレムのものに大きく変更を加えた、俺オリジナルのゴーレムになった。

 アイアンゴーレムのような威圧的で、材質の鉄むき出しのデザインから、少年が喜びそうな機械的でありながらもどこかかっこよさのあるデザインに変更した。サイズもアイアンゴーレムの半分程度、2メートル弱まで小さくした。中の設計も、部品をより細かく多くしたため、人間とそん色ない動きを再現することもできる。

 極めつけは、頭部に収納している知覚領域だ。さすがに会話はできないものの、主の命令を遂行するための手段や選択肢を自分で考え、その中から最適なものを自分で選んで実行する。経験したものは記憶として残り、学習を積んでいく。

 おそらく現存するどんなゴーレムよりも人間に近いものになったと俺は思う。

 三日間寝ずに作業をし続けていたため、ゴーレムが完成したと同時に激しい睡魔に襲われる。俺はその睡魔に抗うこと適わずに、そのまま作業場のソファーで寝てしまうのだった。


~~~~~


 翌朝、俺が目を覚ますと、少年のように目をキラキラさせながら出来上がったばかりのゴーレムを眺めている赤毛の男性がいた。依頼主のセイリウムさんは、冗談抜きに目をキラキラさせながらいろいろな角度からゴーレムを観察していた。

 その後ろでは、アメリアお嬢様がこれまた興味深そうに俺の作ったゴーレムをじっと見ていた。

「すいません、寝てしまいました。おはようございます…」
「おひゃっ!お、おはようアルト君。ごめんね、待ちきれなくて見に来ちゃった。」
「すいませんアルト様、私も見に来てしまいました。」

 セイリウムさんとアメリアお嬢様が何やら申し訳なさそうに謝っていた。

「いえいえ、全然かまいませんよ。一応は完成したんですけど、まだ動作確認が全くできていないのでこれからしに行こうと思うんですけど、一緒に来ますか?」
「いいのかい!?」

 俺が何気なく誘ってみると、予想以上に食いついてきたセイリウムさん。その後ろではやっぱり興味深そうにゴーレムを見るお嬢様。

「もちろんかまいませんよ。他のみんなはどこにいますか?」
「僕の屋敷の賓客室にいるよ。呼んでこさせたほうがいいかい?」
「お願いします。」

 セイリウムさんが使用人の人にみんなを呼びに行かせている間に、俺はゴーレムの最終調整をしていた。最低限、歩行できるレベルの調整はしてあるので、動作確認の時に倒れまくってみっともないところを見せるということはなさそうだ。

 しばらくすると、みんながいつもの冒険者の装いになって集合してくれた。そのまま俺たちは馬車に乗り込み、町から離れた草原の真中へと向かった。

「とりあえず基本的な命令を遂行できるかチェックしてみますね。《コマンド:プロテクトマスター》」

 俺はゴーレムの操作をするための徽章に命令を発した。するとゴーレムは滑らかな動きで俺のすぐ後ろまで来て、俺が歩く速度に合わせてぴったりとついてきた。

「じゃあ、とりあえずライムさん。僕にナイフでも適当に投げつけてください。」
「大丈夫かい?」
「もしゴーレムが動かなくてもはじくくらいならできるので安心してください。」
「了解。」

 俺が合図すると、ライムは思いっきり短剣を俺に向かって投げつけてきた。なかなかゴーレムは動き出さず、そろそろはじく準備しないとなと思って腰の剣に手をかけた。

 そして短剣が俺の眼の前に来たというところでゴーレムの腕がものすごい速さで動く。飛んでくる短剣よりも早く動いたその腕は、がっちりとナイフの柄をつかんでいた。

「すごい!」

 後ろで見ていたセイリウムさんは拍手していた。その横にいたお嬢様も同じように拍手をしていた。

「ゴーレムとは思えない滑らかで素早い動き、そしてスムーズな魔力の流れ。僕が今まで見たゴーレムの中でも最高峰!もはやゴーレムの括りに収まってすらいないと思う!」

 少し心配だった依頼主の評価もなかなかに上々だった。
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