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ドラゴンさんの背中の上で
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あの後、バラーさまにお暇を告げて、ジークさんと帝都への帰路に着いた。
お互い戦場から休みなしでターバルナまで来たので、汗や血や埃まみれで臭いの何のって、涙。
乙女ゲーでは全く語られない部分だね、笑。
ジークさんも疲れているだろうし、もう夕方だ。
宿で休んでいこうと提案したけれど、ジークさんに却下された。
敵が何処に潜んでいるか分からないと、夜通しで移動し屋敷に戻ると言い出した。
馬上で寝ぼけて落馬止む無しと考えていたのだが、何とジークさん、疲れているにも関わらずドラゴンさんになって私を背に乗せてくれると言うのだ。
黒竜さんよりも随分小型のドラゴンさんに、久しぶりに興奮してしまう。
「お久しぶりです、ドラゴンさん!お元気でしたか?」
「今の今まで一緒にいただろうに」
「いえ、前にも言いましたが、ジークさんとドラゴンさんは別人格です」
「・・・ルナはドラゴンの俺の方が好きなのか?」
「はい!あ、そう言えばジークさんのドラゴンさん変化は3段階ありますよね?」
「・・・」
「ちびドラさんにドラゴンさんに黒竜さん、皆んな個性があって良いですね!」
「・・・」
「ちびドラさんはお腹のもきゅもきゅした触り心地が最高です!ドラゴンさんは私を背中に乗せてくれるサイズ感がぴったりですし、黒竜さんとはこれからもっと親交を深めて良いところを見つけます!」
私が鼻息荒くドラゴンさんに熱い思いを語るのとは反対に、ドラゴンさんの口調は静かだった。
「・・・俺は?」
「俺?ですからドラゴンさんは、」
「ジークの俺は?」
ドラゴンさんの問いにはたと考える。
ドラゴンさんの金眼がじっと私を見つめている。
「・・・ジークの俺は嫌いなのか?」
拗ねてる様子のドラゴンさんに、私は一瞬固まってしまった。
ドラゴンさんはいつも私を諭し導いてくれる、頼れる存在なのだ。
その彼が、今は何だか子供のように見える。
ジークさんは嫌いじゃないけど、好きでもないけど、うーん、意地悪するからやっぱり嫌いかな?
うん。
「ジークさんは意地悪ばかりするから嫌いです」
私の言葉を聞いてドラゴンさんの金眼が揺れ始めた。
「私に意地悪ばかりするって事は、ジークさんも私が嫌いなんですね?」
「そんな事は無い」
息を飲んで直ぐに反論したドラゴンさん。
「では、どうしてジークさんはそんなに意地悪するんですか?大事なことをちゃんと話してくれないし、自分で勝手に決めて私の意思は確認してくれないし、私を荷物扱いで肩に担ぐし、物みたいに地面に突き飛ばすし、怒鳴るし、怒るし、」
「わ、悪かった。そんな事はしない、もう・・・」
ドラゴンさんの眉根が困ったようにハの字になった。
「ドラゴンさんやちびドラさんはそんな事しないから、謝る必要無いですよ」
「俺は、ジークでいる時もルナに嫌われたくない」
ドラゴンさんは辛そうに金眼を細めた。
私に嫌われたら呪いの解呪に影響が出ると、心配しているのかな?
「大丈夫ですよ。心配要りません。好きでも嫌いでも、ちゃんとジークさんには協力しますから。もちろん、私を怒らせないのは大前提ですけど?」
ドラゴンさんは私を見たまま口を閉じてしまった。
そして、ゆっくりと私に背中を向けて身体を屈めた。
「乗れ。飛んでいる間は休むといい。落としはしない」
「ありがとうございます!ドラゴンさん」
私は上機嫌で、久しぶりのドラゴンさんの背中に飛び付いた。
背中に跨らせてもらうと、ついつい温かくて柔らかな鬣の生えた背中に顔を擦り付けてしまう。
スリスリしていたら、ドラゴンさんの身体が少し強張ったようだった。
「ごめんなさい、くすぐったかったですか?久しぶりで、つい大好きなドラゴンさんの感触を堪能してしまいました」
「いや、いい・・・」
ドラゴンさんの元気の無い様子に心配になってきた。
「やっぱり疲れてますよね?何処かで休んでいきましょう」
「大丈夫だ。飛ぶぞ」
そう言って、ドラゴンさんは両の翼を羽ばたかせ、夕陽が沈みかけた空へ高く舞い上がった。
空気清浄機付きヒーターを完備したドラゴンさんの背中は快適だ。
初めて背中に乗せて貰って薬草を取りに行った帰りも、こうやって夕焼けが近くに見えた。
沈む夕陽にドラゴンさんの鱗が煌めいて、あの時も魅入ってしまった事を覚えている。
今日も、ドラゴンさんは虹色の光を纏いながら優雅に大空を羽ばたいている。
地上から見たら神々しい光景だろう。
その神にも等しいドラゴンさまに乗せて頂いている私は愉悦に浸っていた。
これぞドラゴンさまを愛する者の特権だ。
夕闇が迫ってきてもドラゴンさんの背中は温かく、疲れも相まって私の瞼は次第に落ちてきてしまった。
「ドラゴンさん、ごめんなさい。先に休ませて貰っても良いですか?」
「気にするな。ゆっくり眠るといい」
ドラゴンさんの穏やかな声に安心する。
「ありがとうございます。ドラゴンさんは優しくて温かくて居心地が良いです。大好き」
私は彼の背中に顔を預けて眼を閉じた。
ドラゴンさんに出会って今日まで、楽しかったり、辛かったり、痛かったり、怖かったり、色々あったけど。
こうして温かな背中に身体を預けていると身も心も癒されて、楽しかった以外の記憶は薄れていく。
乙女ゲーのヒロインって、やっぱりおめでたく出来ているんだなー。
自分の事ながら単純な頭で良かったと笑ってしまう。
死亡フラグの脅威は、このおめでたさで乗り切るのがヒロインの醍醐味だろう。
明日もドラゴンさんと沢山お話したい。
黒竜さんともお話し出来たら竜毒さんとのわだかまり?解消に、何か良いアイデアをくれるかも知れない。
そんな明るい未来に少しワクワクしながら、ドラゴンさんの背中で私は眠りについた。
お互い戦場から休みなしでターバルナまで来たので、汗や血や埃まみれで臭いの何のって、涙。
乙女ゲーでは全く語られない部分だね、笑。
ジークさんも疲れているだろうし、もう夕方だ。
宿で休んでいこうと提案したけれど、ジークさんに却下された。
敵が何処に潜んでいるか分からないと、夜通しで移動し屋敷に戻ると言い出した。
馬上で寝ぼけて落馬止む無しと考えていたのだが、何とジークさん、疲れているにも関わらずドラゴンさんになって私を背に乗せてくれると言うのだ。
黒竜さんよりも随分小型のドラゴンさんに、久しぶりに興奮してしまう。
「お久しぶりです、ドラゴンさん!お元気でしたか?」
「今の今まで一緒にいただろうに」
「いえ、前にも言いましたが、ジークさんとドラゴンさんは別人格です」
「・・・ルナはドラゴンの俺の方が好きなのか?」
「はい!あ、そう言えばジークさんのドラゴンさん変化は3段階ありますよね?」
「・・・」
「ちびドラさんにドラゴンさんに黒竜さん、皆んな個性があって良いですね!」
「・・・」
「ちびドラさんはお腹のもきゅもきゅした触り心地が最高です!ドラゴンさんは私を背中に乗せてくれるサイズ感がぴったりですし、黒竜さんとはこれからもっと親交を深めて良いところを見つけます!」
私が鼻息荒くドラゴンさんに熱い思いを語るのとは反対に、ドラゴンさんの口調は静かだった。
「・・・俺は?」
「俺?ですからドラゴンさんは、」
「ジークの俺は?」
ドラゴンさんの問いにはたと考える。
ドラゴンさんの金眼がじっと私を見つめている。
「・・・ジークの俺は嫌いなのか?」
拗ねてる様子のドラゴンさんに、私は一瞬固まってしまった。
ドラゴンさんはいつも私を諭し導いてくれる、頼れる存在なのだ。
その彼が、今は何だか子供のように見える。
ジークさんは嫌いじゃないけど、好きでもないけど、うーん、意地悪するからやっぱり嫌いかな?
うん。
「ジークさんは意地悪ばかりするから嫌いです」
私の言葉を聞いてドラゴンさんの金眼が揺れ始めた。
「私に意地悪ばかりするって事は、ジークさんも私が嫌いなんですね?」
「そんな事は無い」
息を飲んで直ぐに反論したドラゴンさん。
「では、どうしてジークさんはそんなに意地悪するんですか?大事なことをちゃんと話してくれないし、自分で勝手に決めて私の意思は確認してくれないし、私を荷物扱いで肩に担ぐし、物みたいに地面に突き飛ばすし、怒鳴るし、怒るし、」
「わ、悪かった。そんな事はしない、もう・・・」
ドラゴンさんの眉根が困ったようにハの字になった。
「ドラゴンさんやちびドラさんはそんな事しないから、謝る必要無いですよ」
「俺は、ジークでいる時もルナに嫌われたくない」
ドラゴンさんは辛そうに金眼を細めた。
私に嫌われたら呪いの解呪に影響が出ると、心配しているのかな?
「大丈夫ですよ。心配要りません。好きでも嫌いでも、ちゃんとジークさんには協力しますから。もちろん、私を怒らせないのは大前提ですけど?」
ドラゴンさんは私を見たまま口を閉じてしまった。
そして、ゆっくりと私に背中を向けて身体を屈めた。
「乗れ。飛んでいる間は休むといい。落としはしない」
「ありがとうございます!ドラゴンさん」
私は上機嫌で、久しぶりのドラゴンさんの背中に飛び付いた。
背中に跨らせてもらうと、ついつい温かくて柔らかな鬣の生えた背中に顔を擦り付けてしまう。
スリスリしていたら、ドラゴンさんの身体が少し強張ったようだった。
「ごめんなさい、くすぐったかったですか?久しぶりで、つい大好きなドラゴンさんの感触を堪能してしまいました」
「いや、いい・・・」
ドラゴンさんの元気の無い様子に心配になってきた。
「やっぱり疲れてますよね?何処かで休んでいきましょう」
「大丈夫だ。飛ぶぞ」
そう言って、ドラゴンさんは両の翼を羽ばたかせ、夕陽が沈みかけた空へ高く舞い上がった。
空気清浄機付きヒーターを完備したドラゴンさんの背中は快適だ。
初めて背中に乗せて貰って薬草を取りに行った帰りも、こうやって夕焼けが近くに見えた。
沈む夕陽にドラゴンさんの鱗が煌めいて、あの時も魅入ってしまった事を覚えている。
今日も、ドラゴンさんは虹色の光を纏いながら優雅に大空を羽ばたいている。
地上から見たら神々しい光景だろう。
その神にも等しいドラゴンさまに乗せて頂いている私は愉悦に浸っていた。
これぞドラゴンさまを愛する者の特権だ。
夕闇が迫ってきてもドラゴンさんの背中は温かく、疲れも相まって私の瞼は次第に落ちてきてしまった。
「ドラゴンさん、ごめんなさい。先に休ませて貰っても良いですか?」
「気にするな。ゆっくり眠るといい」
ドラゴンさんの穏やかな声に安心する。
「ありがとうございます。ドラゴンさんは優しくて温かくて居心地が良いです。大好き」
私は彼の背中に顔を預けて眼を閉じた。
ドラゴンさんに出会って今日まで、楽しかったり、辛かったり、痛かったり、怖かったり、色々あったけど。
こうして温かな背中に身体を預けていると身も心も癒されて、楽しかった以外の記憶は薄れていく。
乙女ゲーのヒロインって、やっぱりおめでたく出来ているんだなー。
自分の事ながら単純な頭で良かったと笑ってしまう。
死亡フラグの脅威は、このおめでたさで乗り切るのがヒロインの醍醐味だろう。
明日もドラゴンさんと沢山お話したい。
黒竜さんともお話し出来たら竜毒さんとのわだかまり?解消に、何か良いアイデアをくれるかも知れない。
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