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~ ジーク編 1 ~

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『お前の顔を見ているとイライラするわ、何処かへ行っておしまい!』



俺の顔を見るたびにヒステリックに女は叫んだ。



竜族の呪いに抗う時に見る、いつもの夢だ。

成人を前に呪いが強まり、最近は頻繁に見るようになってきた。



幼い頃の記憶は曖昧だ。

物心つく頃にはどこかの神殿で生活していた。

自分が何処からやって来たのか分からない。

自分の親が誰かも知らない。



女は側にいると不機嫌になり、言うことに従わないと俺を殴った。

食事を抜かれることも多かった。

周りの人間が止めるまで折檻されることもあった。

女はいつも白装束の巫女姿だったが、俺を殴るその顔は獣のようで狂気が滲んでいた。

最初にあった痛みは無くなり、気が付くと体中に傷痕があるだけで、感覚は麻痺していった。

泣きたいとも、叫びたいとも思わなかった。

何も感じなかった。

自分はどうしてここに居るのかと、そう思うだけだった。



女のヒステリーは年々激しさを増していった。

ある日、一日中殴られた後、冬の寒空の下に放り出され、このまま永遠の眠りにつくのだろうと思った。

だが、運命はそれを許しはしなかった。

翌日、身体の動かなくなった俺を、白髪の長い髭を蓄えた老人が引き取りに来た。

老人はタ―バルナの大神官だと言った。



連れられた先に、もう女はいなかった。

殴られることも、食事を抜かれることもなくなった。

だが、周りから無視されることは変わらなかった。

それすら、特に何も思わなかった。

触れるもの、聞こえるもの、目にするもの、全て興味が無かった。



毎日規則正しい生活だった。

朝早く起きて祈りを捧げ、食事の後掃除をして座学を受ける。

魔力があった俺は、魔法の指導と体術・武術の指導も受けた。

周りの同じ年頃の子供たちとは、少し異なる生活だった。



そんな生活を淡々とこなし2年が過ぎた頃、神殿に一人の子供が連れられて来た。

俺よりふたつ下のその男の子は、リアンと呼ばれていた。

初めこそよく泣いていたが、時間が経つと誰にでも懐き神殿生活も楽しそうに過ごしていた。

リアンは俺の後をよく追いてくるようになった。

暇さえあれば、俺に話かけてくるようになった。

振り返れば彼が居ることも、話しかけられることも、特に興味は無かった。

彼と居た短い時間の中で心動かされたのは、ある一言だけだった。



『僕が竜の血を持っているから、お母さまに捨てられちゃったんだ』



ーーー竜の血。



どこかで聞いたことのある言葉だった。

ただ、漠然と、何かを、思い出さなければならないとも思った。

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