上 下
3 / 17

またぞうの平凡な一日

しおりを挟む
 さて、今回のお話は、またぞうがいつもどのように過ごしているかを、しょうかいしていこう。
 またぞうの朝は、早い。はれていたら5時にきしょう。しかし、雨の日は一日中ねむくてたまらないらしく、体調のコンディションは、天気でかなりさゆうされるらしい。このあたりは妖怪でも、ねことたいしてかわらないようだ。ねこも雨の日は、カゴの中なとでゴロゴロ寝ているイメージだろう。またぞうも天気の悪い日はそんなようすで、おひるくらいまでおふとんでまどろんでいたりするらしい。冬の雪の日なんて、コタツから出られないとしていた。わかる。わたしも冬は、つねにそうしたいものだ。
 またぞうがいつもねているベッドは、猫足《ねこあし》になっているた木のベッドだ。自分で作ったという。なんともキヨウというか、変な妖怪だ。妖怪自体がへんな存在なので、『へんな妖怪』という表現もなんだかモヤモヤするが、そこはスルーしてもらいたい。話を戻そう。
 はれの日は、ねどこから出るとお水でかおを洗う。タオルは、フワフワなのじゃないと許せないらしい。
 お次は歯をみがく。

「おきたばかりの口の中は、おしりをなめたあとよりきたないからね!」
 
こればかりは、口ぐせのようにいう。妖怪になってからは、おしりはなめなくなったというが、ねこまたになる前から、朝のお口をゆすぐのは、やっているそうだ。めずらしいねこである。まあ、しりをなめるなどと、またぞうは元がねこなので、こちらの人間との価値観カチカンがちがうが、なんというか、……お食事中の方は、大変失礼をした。
 まあ、このようにまたぞうは、ものすごくけんこうに気を使っている。はみがきも毎朝かかさない。
 さて、はみがきが終わると、白湯をゆっくりすすりながら一ぱいのむ。そういえば、ねこの時からくらべると、飲み物が飲みやすくなったとまたぞうはよろこんでいた。2本足で立てて、ものを飲めることが、こんなにもべんりなんて!と、ねこまたになりたての頃は、とても感動したものだという。ねこがやる下をむいてペロペロして飲み物を飲むあの体制は、やはりきついものなのだなとわかった。ねこや犬はいつも大変なのである。
 白湯を飲み終わると、こんどはたいそうだ。ゆーっくりと中国的なメロディにあわせて手や足をのばしたり、片足でたったりと、たいきょくけんをやるのだ。しぶいしゅみだとおもいきや、じつはまたぞう、こうみえてたいきょくけんの名人ならぬ、名妖怪なのだ。
 ねこまたにとって朝に行う体操は、エネルギーのミナモトをつよくするこうかがあるという。からだにエネルギーがみちあふれ、とてもつよいねこまたになれるそうだ。『ねこまたマニュアル第9条』にものっているらしい。
 妖怪になりたてのわかいねこまたなどでは、「あさからたいそうなどめんどうだ」とちゃんとやらない者もいるらしいが、毎日やらないと、うまくエネルギーが使えなくなるので、結局は自分が困ることから、その内ちゃんとやるようになるらしい。中でもまたぞうは、妖怪のエネルギーをつかって、地球の研究や、動物たちのちりょうをしたりもするので、まじめにキチンと必ずやっているのだ。かれらのこういうところは、人も見習っていきたいものである。
 
 さて、ここでまたぞうのはみがきについての#__こばなし__#をはさもう。というのが、ほとんどのはみがきこにはスースーするな。あれは『ミント』が入っているのは、よい子のみんなは知っていたかな?実はあれ、妖怪にとってはあぶないアイテムなのだそうだ。
 妖怪はミントを食べると、エネルギーがよわくなるらしい。悪い妖怪などは、ミントを噛んだだけで、この世から消えてしまうほどだ。浄化力というものが半端ないそうだ。ねこまたは良い妖怪なので、ミントが原因でこの世から消えてしまうことはないが、妖怪の『陰』のエネルギーがへり、全体のバランスがくずれ、すこしの間だけ身体がふつうの猫になってしまうらしい。
 たまに、ねこまた達の中にも急にふつうの猫をたいけんしたくなるという変わり者がいたりして、わざわざ手間をとって噛むものもいたりするそうだ。ちなみに、またぞうも妖怪としての仕事の関係で、ミントを噛む時もあるという。ちなみに、ミントを噛んでも放っておけば1週間で妖怪のからだにはもどれるらしい。が、しかし、自然に戻れるからといって安心ではないのだ。計画もなしにうっかりやってしまうと、えらいことになる。
 またぞうの場合も、とてもじゃないがふつうの猫ではお店に立てなくなってしまう。ふだんのまたぞうは、実は強い妖怪なので、悪い妖怪もお店では大人しく客として買い物をしているのだ。だが、もし、またぞうがうっかりふつうの猫になっているなんてことがわかったら最期、そんな悪い奴らが、店で何をしでかすかわかったもんじゃないのだ。と、いうことで、はみがきこはねこまたにとってはNGということなのである。
 ミントの話が長くなってしまったな。 
 時を戻そう。
 体操の最後にシッポ回しを50回。
 これはとても重要らしい。われわれ人間にはしっぽがないので、とりあえず「そうか」としておこう。
 体ならしがおわるとまたぞうは、からだじゅうをなめ、身だしなみをととのえ、かがみで自分の姿をかくにんする。
 ん?またぞうがなにか、かがみに向かってぶつぶつ言っているな。どれ、聞いてみよう。

「きょうもぼくはいいおとこ♫きょうもぼくはいいおとこ♫」

‥…きかなかったことにしよう。
 
 さて、これでまたぞうにとっての朝のメンテナンスは終わりだ。
 ん?またぞうがこちらに向かって何か言っている。なになに?おしりはなめていないからね?はいはい、わかったわかった。
 さて、気を取り直していこう。
 からだづくりがおわると、朝ごはんのしたくだ。朝ごはんのメニューはいつも同じだ。
 白いごはん、ネバネバのなっとう、味噌汁。そして、ぬか漬け。一汁一菜というやつだな。
 昔、パン食にした事があったらしいが、美味しくて食べすぎてしまい、1ヶ月で12キロ太っちゃったらしい。どんだけ食べたんだか。こりゃいかん!と、いうことで、それからは朝は白いごはんか、むぎごはん。たまに玄米にしているという。それでも、白めしがいちばん好きだという。それにはわたしも同意だ。
 やっぱ、お米の国の猫だもの。ということで、和食ばんざい!
 さあ、ごはん食べたら、しょくごは妖怪新聞《ようかいしんぶん》を読みながら、お気に入りの『つばくろ珈琲《コーヒー》』さんから買ってひいてもらっているブレンドコーヒーを味わうのが、またぞうのにっかだ。まあ、なんともおしゃれな。
 さて、つばくろ珈琲さんのお店は、またぞうの店のごきんじょさんだ。
 ここのマスターは萩原さん。彼はなんと、またぞうがいつも見えるのだ。またぞうは言う。
「ぼくは妖怪だから仕方ないけど、やっぱり気付いてもらえるとうれしいね!道ばたで声をかけてくれてね、コーヒーが好きなことをはなしたら、お店によって行かないか?と、さそってくれたんだ。これがきっかけでこのお店のコーヒー豆を買って、家でも飲むようになったんだ」

 またぞうがコーヒーさいしょにのんだのは、今から100年くらい前だという。日本に黒船でペルリがらいこうし、日本中がバタバタして、明治維新《めいじいしん》となった。それから少しし、ようやくコーヒーが飲めるお店が、まちなかでもみられるようになったということだ。
 とうじ、またぞうは東京というところにすんでいた。もちろん、ねこまたとして。

 「あのころは、東京というところが1番、色んな珍しいものがみられたから、気に入って住んでいたんだ。東京の空気はすごく悪かったから、今思い出すだけでもセキが出そうになるけどね。のどもよくいたくなってたから、たまにミントをかんで、ついでに、猫のフリをして、人のかい猫になったりして、楽しんでいたんだ」

 またぞうをかってくれていた人はやさしいおじさんで、かきものをする人だったらしい。猫のお話を書いたりして有名になったそうな。昔過ぎて、その人の名前は忘れてしまったらしいが、もし有名な人なら、どうか思い出してほしいものである。

 さてと、コーヒーの話をしだすとむかし話がとまらなくなるまたぞうなので、ここで話をもどすことにしよう。

 そのご、またぞうはこのへんでお店をあける。
 お昼まではお店のおそうじをしながら店内のかざりつけをしたり、商品がこわれていないかをみたり、お店におく妖怪用のりょうりをつくったり、ネットで買いものをしたりする。
 じつは、これでも猫又亭《ねこまたてい》は妖怪のあいだでは知る人ぞ知る、大人気店なのだ。

 妖怪の世界でも、ミュージシャンはいる。妖怪の人気アーティストが、じきじきにまたぞうのお店に、がっきを買いに来たりもするのだ。
 このあいだは、妖怪ミュージシャンの先生とも、レジェンドとも言われる「スティービー・ニャンダー」や、「ウィルコ・ニャンソン」がギターなどを買いにきた。日本ぶもんでは、ユミリンゴ・シーナ・ベンジー(あだ名は、ユミリンゴ)もしょっちゅう遊びにくる。
 つい先日は、久しぶりに『たきさん』がお店に買いものにきた。かれはいつも、富士山《ふじさん》のようなあおいふくをきている。彼はミュージシャン妖怪ではめずらしく、悪い妖怪だ。しかし、そんなに悪いやつじゃないとまたぞうは言っていた。
 『こどくの電気グルメ』というバンドらしい。やはり、悪い妖怪だからなのか、こどくなのだろうか。ちなみに、卓球が大好きという。
 先日来たとき、またぞうはこんなことを話していた。

「あれ、たぶんおくさんのイタズラだと思うんだけど、たきさんのせなかに『タキが悪い!』ってラクガキされてたんだけど何したんだろうね』

 そんなこんなしてる間に、あっという間にお昼になる。この日のお昼は、『そば』だそうだ。お休みの日はまたぞうもそばを打つ。が、この日は、ごきんじょさんのおそば屋さんから買ったらしく、お汁と揚げ玉のセットを買って家でアレンジして、たぬきそばにしていた。なんともうまそうだ。
 もちろんのりもカマボコもそえる。ネギは苦手なので入れないらしい。またぞうはねこ舌だ。ねこ舌だけど、温度を緩くすれば大丈夫らしい。お昼ご飯の後は、2時間たっぷりとおひるね。その後は、気が向けばお店に出、気が向かなければしめてさんぽやかいものなどに行ったりする。

 お店にいる時は、妖怪の接客や、迷い込んできた人間のお子などと遊んだりする。ちっちゃい人間の子供は、ほとんどのお子が、またぞうのことがはっきりみえるようだ。にゃんにゃーん!とか、ワンワン!などと言いながら、うれしそうにまたぞうを指差してくる。すると、子供が好きなまたぞうは、かれらに手を振る。それをへんに思うのはもちろん一緒にいる親ごさんだ。みんなまたぞうもお店も見えないので妙な顔をしている。
 そこでやめればいいものを、その空気かんがおもしろいらしく、またぞうはお子の目の前でパラパラをおどったり、ツイストをしたりする。お子はみんなゲラゲラと笑うもんだから、親ごさんはみんな気味がわるいようで、子どもの手をひっぱり、足早にそこをはなれるのだ。
 まあ、わたしもまたぞうなら同じイタズラをするかもしれない。

 お店の前の通りは、夕方になると人も引き、すると、店の前のベンチにいつもいつのまにかろうがいる。
そう、前回とうまがあったあのろうばだ。
 ちなみにこのベンチは、元々ここにあった人間界のものらしく、お店が見えなくてもベンチは見える。またぞうがいうには、そのろうばは土の精だという。
 土の精とは、まあ、一重にいえば妖怪でもあるのだが、とにかくナマズ顔が多いらしい。たしかに、ナマズは泥の中に住んでいる。
 ろうばもそんな顔していて、いつもキセルでうまそうにタバコをふかしている。子どもたちもまたぞうと同じく、ろうばも見えるらしい。でも、またぞうとちがい、ビジュアルがこわいためか、ろうばと目が合うと、泣き出すお子もおおい。悪い妖怪ではないのだが、人間も妖怪もとしが長けると、子どもに悪ふざけをする。お子がかわいいからだろうが、まあ、イタズラする。
 お子がしばらくろうばを見てたりすると、急にでっかい口をさらに大きくあけ、自分の目玉をドーンとひんむき、煙をブワーっといきおいよく空にはきだすのだ。小さなお子はびっくりする。して、親にしがみついたり、中には泣き出したりする。ろうばは、それを見て満足そうにニヤリとしてるから、本当困ったもんだ。
 人間でもこんなタイプはいる。酔っ払いに多くみられるな。よく、猫とかにもしつこくちょっかいをだして、ガブリとされちゃう奴とか、自業自得だ。

 またぞうは夕方になると、日がおちる前にお店をしめ、夕はんの買い物に行く。やさいなどは、近くのきまった農家の人から買わせてもらっているようだ。 
 田舎だとこういった交流もできるからすてきだ。
 今日のメニューはしろめしと、にざかなと、みそ汁、つけもの、昨日の残ったおいものにっころがし。またぞうは、ごはんはぜんぶ自分でりょうりをする。
 てまえのぬか床も、100年ものだ。
 ごはんをおいしくたべ終え、片付けをし、ゆあみをする。
 「ゆあみ」とは、おふろのことだ。
 またぞうは、きれいずきだ。
 湯船にもちゃんとつかる。5秒だが。
 まあ、もともと猫なのでよしとしよう。お昼寝の時は身体を舐めるが、夜はゆあみがしたいらしい。
 そのごは、少しだけおさけをたしなむ。好きなのはにほんしゅだ。
 今日のつけあわせは、つけものと、メザシだそうだ。
 またぞうは、おんがくもだいすきだ。
 きょうは、むかしの日本の曲らしい。
 「かようきょく」というんだ。
 よい子のみんなも、おんがくはたくさんきこう。はやりのきょくもいいが、たまにはむかしのおんがくもいいもんだ。きかいがあったら、おじいちゃんやおばあちゃんたちときいてみるといい。
 しあわせな今日もそろそろふけ、またぞうもねるしたくだ。あまりおそいと、さわぎだすオニや、ようかいがいるからな。
 今日も一日楽しかったな。おやすみなさい。またぞう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

マッチ箱のウンチ

はまだかよこ
児童書・童話
尾籠な話で申し訳ありません。昭和の中頃。小学生の大半に寄生虫がいた頃の話です。美弥子の検便の顛末、読んでください。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

小さな王子さまのお話

佐宗
児童書・童話
『これだけは覚えていて。あなたの命にはわたしたちの祈りがこめられているの』…… **あらすじ** 昔むかし、あるところに小さな王子さまがいました。 珠のようにかわいらしい黒髪の王子さまです。 王子さまの住む国は、生きた人間には決してたどりつけません。 なぜなら、その国は……、人間たちが恐れている、三途の河の向こう側にあるからです。 「あの世の国」の小さな王子さまにはお母さまはいませんが、お父さまや家臣たちとたのしく暮らしていました。 ある日、狩りの最中に、一行からはぐれてやんちゃな友達と冒険することに…? 『そなたはこの世で唯一の、何物にも代えがたい宝』―― 亡き母の想い、父神の愛。くらがりの世界に生きる小さな王子さまの家族愛と成長。 全年齢の童話風ファンタジーになります。

千尋の杜

深水千世
児童書・童話
千尋が祖父の家の近くにある神社で出会ったのは自分と同じ名を持つ少女チヒロだった。 束の間のやりとりで2人は心を通わせたかに見えたが……。 一夏の縁が千尋の心に残したものとは。

かわいいお話

文野志暢
児童書・童話
思わずかわいいって言いたくなる短編をまとめています。

妻の死を人伝てに知りました。

あとさん♪
恋愛
妻の死を知り、急いで戻った公爵邸。 サウロ・トライシオンと面会したのは成長し大人になった息子ダミアンだった。 彼は母親の死には触れず、自分の父親は既に死んでいると言った。 ※なんちゃって異世界。 ※「~はもう遅い」系の「ねぇ、いまどんな気持ち?」みたいな話に挑戦しようとしたら、なぜかこうなった。 ※作中、葬儀の描写はちょっとだけありますが、人死の描写はありません。 ※人によってはモヤるかも。広いお心でお読みくださいませ<(_ _)>

Alice〜Another Story〜

三毛猫
児童書・童話
不思議の国の住人達の怪しい企てと、出口を探し彷徨うアリス、誰の味方なのか分からない白兎。 あの夢とはまた違う、これは別の夢物語。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

処理中です...