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第二夜

参 秀吉の問い

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「もう感じておるのであろう? 思い出してぼんやりしておったのであろう? そなたは淫らじゃ。江が、いや、皆が思うのとは正反対にの。」 
「…いや…」 
 茶々がイヤイヤと子供のように首を振った。 
「淫らで、大層美しい。」 
 囁いたあと、秀吉は茶々の小さな耳を噛み、またペロリと耳の穴を舐めた。 
「…ん…」 
「乱れるほどに美しい。」 
 秀吉が茶々のあごに手をかけ、顔をあげる。 
「そなたは淫らじゃ。儂だけにその姿をみせよ。儂だけに。乱れる美しい姿を。」 
「…殿下……」 
 乙女に似合わぬとろりとした瞳を、茶々は秀吉に返した。 
「茶々のまことの姿は、儂だけのものじゃ。ゆえに、儂が守るのじゃ。」 
「…殿下……」 
 秀吉が茶々の小さな唇をそっと噛む。茶々が、男の舌を招き入れるために、扉を開いた。 
 秀吉は口づけながら、茶々を撫でる。茶々の躰にゾワゾワする悦びが駆け巡った。 

「淫らでよき女子じゃ。」 
「…いや…恥ずかしゅうござりまする。」 
 茶々が何かを思い出したように、正気に返ってあらがった。 
「なにがじゃ?」 
 秀吉の指が、夜着の上から茶々の脇腹をスススッと撫でた。 
 ピクッと茶々の躰が動く。 
「ほれ、このように淫らではないか。」 
 茶々がふるふると首を振る。「慎ましやかに」という乳母の言葉と、その言いつけを守らなければと思うのに、感じてしまう自分の間で、茶々は戸惑っていた。 
 (わたくしは、慎みのない悪い子なのか……) 

 子供のように躰を丸めて、己の胸に潜り込んでいる茶々に秀吉は思案した。 
 (何かがひっかかっておるか。) 
「お茶々。」 
 秀吉がゆっくりと茶々の髪を撫でる。 
「乳母どのにいさめられたか?」 
 茶々の躰がモゾッとまた丸まった。 
「淫らであったからのぅ……」 
 茶々が聞きたくないとばかりに首を振る。 
「『慎み深く』とでも言われたか。」 
 (何故わかるのじゃろう)そう思いながらも、茶々は動かなかった。 
「そうか。小言を受けたか。」 
 秀吉は小さく丸まった茶々をあやすように抱き抱え、フフフと笑う。 
「お茶々は悪い子じゃな。」 
 茶々の躰が、固く固く縮んだ。 
「じゃが、よき女子じゃ。」 
 秀吉が茶々を抱き締め、揺り籠のようにゆらゆらと動いた。 
「悪い子なのに、よき女子なのですか?」 
 丸まったまま、茶々は呟いた。 
「そうじゃー。子供はややを生めぬゆえ、淫らでは困るが、女子は淫らがよい。女子の力が強い証拠じゃ。」 
 秀吉は、惑う茶々をまた優しく撫でた。昨夜の心地よさが茶々の躰を駆け巡る。 
「お茶々は、儂に子供扱いされたいのか?それとも、女子として扱われたいのか?どちらじゃ? ん?」 
「…殿下の……女子として……」 
「そうか。ならば、思うままに乱れるがよい。」 
 秀吉は、茶々の豊かな髪に口づけた。

「辛抱などしてはならぬ。儂からのめいじゃ。ありのままを見せてくれるそなたを守りたいのじゃ。分かったな。」 
「…はい…」 
「で、お茶々、ぼんやりするほど、何を思っていたのじゃ? ん?」 
 再び、秀吉が囁く。 
「…それは…」 
「思い出しておったのか?」 
 茶々が首を振る。 
「偽りはならぬぞ。」 
「知らずに…頭に浮かぶのです。」 
「なにがじゃ?」 
 秀吉がニンマリと微笑み、茶々の髪を撫でる。 
「…わかりませぬ……」 
「わからぬ…」 
 秀吉が、「フム」と小首をかしげた。 
「…いえ…。殿下の…」 
「わしの?」 
「『辛抱してはならぬ』というお声が……」 
「そうか。それで?」 
 恥ずかしげな小さな声に、満足げに微笑んで、秀吉は問いかける。 
「それで……」 
 茶々が言葉に詰まった。その代わりに秀吉があとを継ぐ。 

「…躰が疼くか…。お茶々はやはり、淫らな女子じゃ。」 
 茶々が頬を染め、秀吉の胸で首を振る。 
「茶々、じつは先程から、感じておるのであろう?身が疼くのであろう?」 
 再び、秀吉は茶々の耳に唇を近づけ、微かな声で囁く。茶々の躰の火照ほてりを秀吉はすでに感じていた。 
「辛抱してはならぬ。辛抱せずともよい。どうしてほしいと思っていたのじゃ? ん?」 
 (そのように恥ずかしいことを……) 
 と、思うだけで、茶々の躰の芯が熱くなる。 
「茶々、……言うてみよ…」 
 ささやかな、ささやかな声に耳がくすぐられ、身がゾクゾクとした。 
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