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初夜
弐 秀吉、策を労す
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「殿下?」
(睦事のために呼ばれたのではないのか?)
「茶々様のお美しいお体を目の当たりにしたら、某の目がつぶれまするゆえ、こうしておきまする。」
(この男のものになるのだ……)
秀吉の言葉に、今までになく茶々の躰に緊張が走った。目の前には手拭いの端をきっちりと固く結んでいる憎い男がいる。
(今なら……)
帯に挟んだ懐剣に手を触れた。その瞬間、
「殺すなら、今にございまするぞ。」
真面目な低い声の呟きが放たれた。
その声に茶々の手は、わずかに惑い、そっと懐剣から離れた。
(父上…)
「殺すなら、今にございまするぞ。」
まっすぐ頭をあげた男が、静かに、静かに繰り返した。
(母上……)
大きく息を吸った茶々は、手拭いの下にあるだろう目をしかと見つめる。
「そのように卑怯な真似はいたしませぬ。」
「これはこれは…ちと耳が痛うござりまするな。」
秀吉が頭を掻く間に、茶々は立ち上がり、懐剣を枕元へと置いた。
「茶々様はいずこに?」
秀吉がいくらか皺だった手をユラユラと前にさしのべる。
惑うように己を探し求めている手を、しばらく眺めていた茶々だが、秀吉の前に座ると黙って手に取った。
「なんとすべすべしたお手じゃ。」
男は女の手を撫でる。女の緊張が男に伝わったが、それでも手が払われないのを感じて、男はその手を頬擦りした。
ゆっくりと茶々を抱き寄せ、そっと髪を撫で、感触を楽しむ。
(父上、母上、お許しくださいませ。)
なすがままにされている茶々は、グッと目をつぶり、心の中で両親に詫びた。その刹那、秀吉が口を開いた。
「今、お市様に、お母上にお詫びされましたかな? お父上にも。」
茶々の体が、ピクリと動く。返事のない茶々を、秀吉はゆっくりと撫で続ける。
「あの世とやらに行ったら、お市様にもお館様にも罵倒される覚悟にございます。長政殿には首をかかれるやもしれませぬなぁ… 。……ん?はて?あの世で殺されたらどこへ行くのでございましょう。」
茶々が、「ふふふ」と笑った。
「笑うておられまするな、どのようなお顔をされておりますかな。」
秀吉の手が、茶々の顔の上を滑っていく。
「長いまつげに可愛らしい御鼻、頬もなんとまぁすべすべで…柔らかなここがお口ですな。」
男の指が、少女の唇の上で止まり、そっと押した。
間近でみる男の顔に、男の香りに、茶々の躰は知らずと力が入る。
秀吉が、ゆっくり指を離した。
「茶々様、この目が見えぬ哀れな男を褥に連れていってくだされ。」
手をとられ、褥へたどり着いた秀吉は、茶々の手を両手で恭しく包んだ。
「さぁ、おやすみなされませ。」
しばらく褥を見つめていた茶々は、ゴクリと唾を飲み込み、横たわる。
秀吉は目隠しをしている分、他の感覚が研ぎ澄まされていた。数々の戦をくぐり抜けてきた秀吉にとって、目隠しくらい何ほどでもなかった。 茶々の様子は手に取るようにわかる。
しかし、今宵、茶々を十分満足させなければ、二度目はないやもしれぬ。
秀吉はそう思っている。茶々の不安を軽くするため、秀吉はわざとおどけて見せた。
「茶々様は、休まれましたかな?」
手をうろうろと暗闇に動かしながら、茶々を探り当てる。その手は、茶々の頭から、産毛を撫でるように所々をそっと触れていく。
足元まで行き着くと、そこに畳まれていた絹の薄い布団を引き寄せ、茶々の体に被せた。そして、また、布団の上から茶々の体を撫でる。
「さぁ、おやすみなされませ。」
(大きな手…)
布団を被せられ、茶々はどこか安堵しながら、黙って横たわっていた。
小さな男の、体に似合わぬ大きな手に黙って撫でられている。
秀吉の手は、するすると絹を撫でるように、赤子を撫でるように、力を入れず、ただするすると優しく布団の上を滑っていた。
遠い遠い幼い日、父に撫でられたことを、茶々の躰は思い出している。
(この方は、仇じゃ。)
そう思うのに、布団の上から体を撫でられるのは嫌ではなかった。
(睦事のために呼ばれたのではないのか?)
「茶々様のお美しいお体を目の当たりにしたら、某の目がつぶれまするゆえ、こうしておきまする。」
(この男のものになるのだ……)
秀吉の言葉に、今までになく茶々の躰に緊張が走った。目の前には手拭いの端をきっちりと固く結んでいる憎い男がいる。
(今なら……)
帯に挟んだ懐剣に手を触れた。その瞬間、
「殺すなら、今にございまするぞ。」
真面目な低い声の呟きが放たれた。
その声に茶々の手は、わずかに惑い、そっと懐剣から離れた。
(父上…)
「殺すなら、今にございまするぞ。」
まっすぐ頭をあげた男が、静かに、静かに繰り返した。
(母上……)
大きく息を吸った茶々は、手拭いの下にあるだろう目をしかと見つめる。
「そのように卑怯な真似はいたしませぬ。」
「これはこれは…ちと耳が痛うござりまするな。」
秀吉が頭を掻く間に、茶々は立ち上がり、懐剣を枕元へと置いた。
「茶々様はいずこに?」
秀吉がいくらか皺だった手をユラユラと前にさしのべる。
惑うように己を探し求めている手を、しばらく眺めていた茶々だが、秀吉の前に座ると黙って手に取った。
「なんとすべすべしたお手じゃ。」
男は女の手を撫でる。女の緊張が男に伝わったが、それでも手が払われないのを感じて、男はその手を頬擦りした。
ゆっくりと茶々を抱き寄せ、そっと髪を撫で、感触を楽しむ。
(父上、母上、お許しくださいませ。)
なすがままにされている茶々は、グッと目をつぶり、心の中で両親に詫びた。その刹那、秀吉が口を開いた。
「今、お市様に、お母上にお詫びされましたかな? お父上にも。」
茶々の体が、ピクリと動く。返事のない茶々を、秀吉はゆっくりと撫で続ける。
「あの世とやらに行ったら、お市様にもお館様にも罵倒される覚悟にございます。長政殿には首をかかれるやもしれませぬなぁ… 。……ん?はて?あの世で殺されたらどこへ行くのでございましょう。」
茶々が、「ふふふ」と笑った。
「笑うておられまするな、どのようなお顔をされておりますかな。」
秀吉の手が、茶々の顔の上を滑っていく。
「長いまつげに可愛らしい御鼻、頬もなんとまぁすべすべで…柔らかなここがお口ですな。」
男の指が、少女の唇の上で止まり、そっと押した。
間近でみる男の顔に、男の香りに、茶々の躰は知らずと力が入る。
秀吉が、ゆっくり指を離した。
「茶々様、この目が見えぬ哀れな男を褥に連れていってくだされ。」
手をとられ、褥へたどり着いた秀吉は、茶々の手を両手で恭しく包んだ。
「さぁ、おやすみなされませ。」
しばらく褥を見つめていた茶々は、ゴクリと唾を飲み込み、横たわる。
秀吉は目隠しをしている分、他の感覚が研ぎ澄まされていた。数々の戦をくぐり抜けてきた秀吉にとって、目隠しくらい何ほどでもなかった。 茶々の様子は手に取るようにわかる。
しかし、今宵、茶々を十分満足させなければ、二度目はないやもしれぬ。
秀吉はそう思っている。茶々の不安を軽くするため、秀吉はわざとおどけて見せた。
「茶々様は、休まれましたかな?」
手をうろうろと暗闇に動かしながら、茶々を探り当てる。その手は、茶々の頭から、産毛を撫でるように所々をそっと触れていく。
足元まで行き着くと、そこに畳まれていた絹の薄い布団を引き寄せ、茶々の体に被せた。そして、また、布団の上から茶々の体を撫でる。
「さぁ、おやすみなされませ。」
(大きな手…)
布団を被せられ、茶々はどこか安堵しながら、黙って横たわっていた。
小さな男の、体に似合わぬ大きな手に黙って撫でられている。
秀吉の手は、するすると絹を撫でるように、赤子を撫でるように、力を入れず、ただするすると優しく布団の上を滑っていた。
遠い遠い幼い日、父に撫でられたことを、茶々の躰は思い出している。
(この方は、仇じゃ。)
そう思うのに、布団の上から体を撫でられるのは嫌ではなかった。
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