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エピローグ~永遠に
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「レオおぢちゃま!」
リトルローゼがテクテク走る先で、レオがしゃがんで満面の笑みで両手を広げている。
お前がそんなに子ども好きだとは知らなかったよ。
戴冠式用の我のマントの生地は素晴らしかった。
一見無地に見えるが、細やかな織り込み模様が入っている。毛糸で作られているのに、滑らかな肌触りで軽く、色も黒に近い赤で重厚感もある。
「これは凄いな」
「驚くのは早いですわ」
ロランダが生地を抱え、日当たりのよい窓際に移動した。
そこで生地を広げるとマントは鮮やかな赤だ。ロランダが日差しを遮ると、そこだけまた暗赤色になる。
「どうなっているんだ?」
「織り方を工夫させましたの。強い光の元では、より赤く見えるように。皇帝として国民を照らすマントになりますわ。
お気に召していただけましたか?」
「うむ。素晴らしい。気に入った」
「ありがとうございます。お褒めいただき光栄ですわ。
ただ、手はかかっておりますので、それなりのお値段はいたします。皇太子殿下」
ロランダが、にっこり微笑む。
「う、うむ」
ヤアは現在、表向きはレオポルドが治めていることになっている。が、レオは直接ヤアを治められなくなったロランダの手足にすぎぬ。
今でもトップはロランダなのだ。
「即位祝いの献上品ではないのか?」
我が強がって見せると、
「嫌ですわ。国民にタダ働きをしろと?」
「そういうわけではない」
「そうでございましょう? あとでエドガー様に請求書を回しておきます」
ロランダが微笑んだまま、実務的な話をする。エドに怒られない値段だとよいが……
「兄上」
リトルローゼと遊んでいたレオにロランダが声をかける。
レオが合図をすると、使用人が白い布が被ったワゴンを押して入ってきた。
「ヤアが献上するのはこちらですわ」
白い布の下にあったのは、くすんだ赤黄色の絹地。
ロランダが我の肩に絹布をかけ、カーテシーをする。
「お似合いですわ」
窓辺へ誘われ、日差しが当たると、艶やかな絹布は金色に輝いた。
「お気に召しまして? オットー」
ロランダが柔らかな笑みを見せる。
絹の美しさに言葉も出ず、ただ頷いた我の頬にロランダが口づける。
「良かった。嬉しい。これで式服を作ってくださいませ」
「あぁ。これも織りが変わっているのかい?」
我の質問にレオが答える。
「織りもあるが、繭の種類と染めだよ。
7年前に林で金色の繭を見付けた子がいてね。調べて増やしたのさ。
その金色の糸を横に、特殊な草木染した絹糸を縦に織り上げたものだ。
『光輝く皇帝』を演出したいとロランダが腐心した」
この生地とマントを纏ってバルコニーに出たら、確かに我は光に包まれるだろう。
全く、我が奥方には驚かされる。
「金の糸はヤアの特産の一つに加えようと思いますの。
ただ、この布の色は皇家にしか納めませんわ。
それと、暖かな本国で、秋から冬の養蚕が出来ればと思いまして。卵を移動させるのは簡単ですから。そして、繭をスピース国に安く売りましょう」
「我が国で糸にせぬのか?」
「糸にするには熟練の技術が必要です。スピース国の人たちには叶いません。
でも、スピース国は冬が長く、材料の繭が足りなくなるのですわ」
「なるほど」
「良い外交でございましょう?」
「本当に君には驚かされるよ。ローラ。
ただ、金の繭のことを7年も黙っていたのはけしからんが」
「ふふっ、ハイヒールのお返しです」
スカートを少し持ち上げ、ロランダがハイヒールを見せた。
「レオおぢちゃま、ひつじしゃん」
リトルローゼが泣きそうな顔でレオの服を掴んだ。
「あらあら、ごめんなさい。リトルローゼ。これを片付けるまで待ってね」
「レオおぢちゃま、行くの」
「そうだな。伯父ちゃまと先に行こうか」
「はい!」
レオに抱かれたリトルローゼがバイバイと手を振って出た後、生地を片付けるため使用人も下がった。
我はロランダの前に跪く。
「ローラ、改めて我の真をそなたに捧げる。
我のただ一人の人として、これからも隣にいてほしい」
手を取り、口づけを落とすと、ロランダが膝を折り、我の頬に口づけをくれた。
「オットーのお相手が出来るのは、私だけでしょう?」
と、いたずらっぽく微笑む。
「そなたの真は……」
「私の真は、とうに我が国皇太子に捧げておりますわ。間もなく皇帝となる方に」
我は立ち上がり、ロランダを抱き締めて口づけを落とす。
我が名はオトフリート・クロンプリンツ・ハーヴィー。
間もなくカイザー・ハーヴィーを名乗る我の隣では、誰よりも愛する女神が微笑んでいる。
【完】
◾◽◾◽◾◽
御高覧ありがとうございました。
3万字程度の短編と思っていたのですが、4万字越えになってしまいました。
最後までお付き合いいただきましたことに感謝いたします。
みなわなみ 拝
リトルローゼがテクテク走る先で、レオがしゃがんで満面の笑みで両手を広げている。
お前がそんなに子ども好きだとは知らなかったよ。
戴冠式用の我のマントの生地は素晴らしかった。
一見無地に見えるが、細やかな織り込み模様が入っている。毛糸で作られているのに、滑らかな肌触りで軽く、色も黒に近い赤で重厚感もある。
「これは凄いな」
「驚くのは早いですわ」
ロランダが生地を抱え、日当たりのよい窓際に移動した。
そこで生地を広げるとマントは鮮やかな赤だ。ロランダが日差しを遮ると、そこだけまた暗赤色になる。
「どうなっているんだ?」
「織り方を工夫させましたの。強い光の元では、より赤く見えるように。皇帝として国民を照らすマントになりますわ。
お気に召していただけましたか?」
「うむ。素晴らしい。気に入った」
「ありがとうございます。お褒めいただき光栄ですわ。
ただ、手はかかっておりますので、それなりのお値段はいたします。皇太子殿下」
ロランダが、にっこり微笑む。
「う、うむ」
ヤアは現在、表向きはレオポルドが治めていることになっている。が、レオは直接ヤアを治められなくなったロランダの手足にすぎぬ。
今でもトップはロランダなのだ。
「即位祝いの献上品ではないのか?」
我が強がって見せると、
「嫌ですわ。国民にタダ働きをしろと?」
「そういうわけではない」
「そうでございましょう? あとでエドガー様に請求書を回しておきます」
ロランダが微笑んだまま、実務的な話をする。エドに怒られない値段だとよいが……
「兄上」
リトルローゼと遊んでいたレオにロランダが声をかける。
レオが合図をすると、使用人が白い布が被ったワゴンを押して入ってきた。
「ヤアが献上するのはこちらですわ」
白い布の下にあったのは、くすんだ赤黄色の絹地。
ロランダが我の肩に絹布をかけ、カーテシーをする。
「お似合いですわ」
窓辺へ誘われ、日差しが当たると、艶やかな絹布は金色に輝いた。
「お気に召しまして? オットー」
ロランダが柔らかな笑みを見せる。
絹の美しさに言葉も出ず、ただ頷いた我の頬にロランダが口づける。
「良かった。嬉しい。これで式服を作ってくださいませ」
「あぁ。これも織りが変わっているのかい?」
我の質問にレオが答える。
「織りもあるが、繭の種類と染めだよ。
7年前に林で金色の繭を見付けた子がいてね。調べて増やしたのさ。
その金色の糸を横に、特殊な草木染した絹糸を縦に織り上げたものだ。
『光輝く皇帝』を演出したいとロランダが腐心した」
この生地とマントを纏ってバルコニーに出たら、確かに我は光に包まれるだろう。
全く、我が奥方には驚かされる。
「金の糸はヤアの特産の一つに加えようと思いますの。
ただ、この布の色は皇家にしか納めませんわ。
それと、暖かな本国で、秋から冬の養蚕が出来ればと思いまして。卵を移動させるのは簡単ですから。そして、繭をスピース国に安く売りましょう」
「我が国で糸にせぬのか?」
「糸にするには熟練の技術が必要です。スピース国の人たちには叶いません。
でも、スピース国は冬が長く、材料の繭が足りなくなるのですわ」
「なるほど」
「良い外交でございましょう?」
「本当に君には驚かされるよ。ローラ。
ただ、金の繭のことを7年も黙っていたのはけしからんが」
「ふふっ、ハイヒールのお返しです」
スカートを少し持ち上げ、ロランダがハイヒールを見せた。
「レオおぢちゃま、ひつじしゃん」
リトルローゼが泣きそうな顔でレオの服を掴んだ。
「あらあら、ごめんなさい。リトルローゼ。これを片付けるまで待ってね」
「レオおぢちゃま、行くの」
「そうだな。伯父ちゃまと先に行こうか」
「はい!」
レオに抱かれたリトルローゼがバイバイと手を振って出た後、生地を片付けるため使用人も下がった。
我はロランダの前に跪く。
「ローラ、改めて我の真をそなたに捧げる。
我のただ一人の人として、これからも隣にいてほしい」
手を取り、口づけを落とすと、ロランダが膝を折り、我の頬に口づけをくれた。
「オットーのお相手が出来るのは、私だけでしょう?」
と、いたずらっぽく微笑む。
「そなたの真は……」
「私の真は、とうに我が国皇太子に捧げておりますわ。間もなく皇帝となる方に」
我は立ち上がり、ロランダを抱き締めて口づけを落とす。
我が名はオトフリート・クロンプリンツ・ハーヴィー。
間もなくカイザー・ハーヴィーを名乗る我の隣では、誰よりも愛する女神が微笑んでいる。
【完】
◾◽◾◽◾◽
御高覧ありがとうございました。
3万字程度の短編と思っていたのですが、4万字越えになってしまいました。
最後までお付き合いいただきましたことに感謝いたします。
みなわなみ 拝
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