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ロランダの策略
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ヤアで我らをまず迎えてくれたのは、ゲフォーア伯爵夫妻である。
クラウディアの実家は、第二皇子妃の家であるとともに、ヤアでの働きが認められて伯爵位が与えられた。
その際、ゲフォーア伯爵は領地拝領を固持し、その代わりにクラウディアがクプスに嫁いだら、一家でヤアに移ることを願った。
今ではレオの片腕として、領主代行も務める。
広い草原で動物たちも伸び伸び過ごしているが、なによりゲフォーア伯爵夫人が伸び伸びしている。
「ロランダ様には感謝しきれません。慣れない皇都の社交界から離していただいて」
第二皇子妃の母とはいえ、平民出身の奥方は、社交界で好奇の目に晒され、噂の的になっていたのだろう。
動物たちとのんびり暮らしていたのが、急に社交界に引き出され、注目される戸惑いだけでも察するに余りある。
それを見越して、ゲフォーア親子をヤアで使っていたとすれば、見事な策略だ。
ヤアへの移転の許可がでた日、我はロランダに尋ねた。
「ローラ、ゲフォーア家をヤアに引っ越させるのも君の策略かい?」
「なんのお話ですの?」
しらばっくれるのか?
「ゲフォーア伯爵がヤアへ引っ越したいというから、オフィキス公爵に話すとあっさり許可が出たぞ。ローラが手を回したのだろう?」
「さぁ、どうでしょうか」
小首を傾げ、ロランダはふんわり微笑む。
「誉めておるのだぞ、奥様」
手をとると、ロランダがニコッと心からの笑みを見せる。
「自分らしく生きてほしいだけですわ。ヤアも助かりますし」
転んだ子どもに手を差し伸べただけ、とでも言うような口調に、我も微笑み、抱き寄せてしまった。
今では、少し耳が遠くなったマダムに変わって、ゲフォーア伯爵夫人がヤアの女性たちを上手く取りまとめているという。
苦手だった社交界も、「着ているヤアの生地を感心される」とかで、たまに出るのは楽しいらしい。
皇都から実家が消えたクラウディアは悲しむだろうと思いきや、社交界でさまざまな噂が消えて、こちらも生き生きとしている。
実家が近くにないため、頼るのはロランダか母上で、これまた皇家に早く馴染んだ。
クプスの妃として双子の皇子の母となった今も、親しみやすい雰囲気は変わらず、リトルローゼもよく懐いている。
そして、デビュタント前後の若い貴族女性とお茶会をして、流行や本音を探るのも彼女の役目だ。
第二皇子妃として力を発揮するクラウディアだが、ヤアに出掛けたときには、孤児院や子どもの施設を巡り、周りの目を気にせず家族で伸び伸びしているらしい。
ローラはクプスと婚約破棄のゲームをしている時、ここまで考えていたのだろうか? と思うと、恐ろしいくらいに頼もしい。
「偶然ですわ」と涼しげな微笑みで言うが、チャンスを逃がさず、偶然を必然に変える力に魅了される。
ロランダの手腕を感心したのは我だけではない。領地経営に悩みを持つ貴族たちは、こぞってロランダに相談を始めた。
皇家から命令は出来ないが、相談されるのならアドバイスをする。それが的確で、貴族の中にロランダの信奉者が増えた。
相談されたことは、もれなく我やエドにも伝えられ、より良い形を探る。
おかげで貴族の内情が解るだけでなく、まとめやすくもなった。
よくロランダを手に入れたと、自分で自分を誉めたい。
いや、我がロランダの手に落とされたのか?
どちらでもよいか。国民が潤うておるのだから。
クラウディアの実家は、第二皇子妃の家であるとともに、ヤアでの働きが認められて伯爵位が与えられた。
その際、ゲフォーア伯爵は領地拝領を固持し、その代わりにクラウディアがクプスに嫁いだら、一家でヤアに移ることを願った。
今ではレオの片腕として、領主代行も務める。
広い草原で動物たちも伸び伸び過ごしているが、なによりゲフォーア伯爵夫人が伸び伸びしている。
「ロランダ様には感謝しきれません。慣れない皇都の社交界から離していただいて」
第二皇子妃の母とはいえ、平民出身の奥方は、社交界で好奇の目に晒され、噂の的になっていたのだろう。
動物たちとのんびり暮らしていたのが、急に社交界に引き出され、注目される戸惑いだけでも察するに余りある。
それを見越して、ゲフォーア親子をヤアで使っていたとすれば、見事な策略だ。
ヤアへの移転の許可がでた日、我はロランダに尋ねた。
「ローラ、ゲフォーア家をヤアに引っ越させるのも君の策略かい?」
「なんのお話ですの?」
しらばっくれるのか?
「ゲフォーア伯爵がヤアへ引っ越したいというから、オフィキス公爵に話すとあっさり許可が出たぞ。ローラが手を回したのだろう?」
「さぁ、どうでしょうか」
小首を傾げ、ロランダはふんわり微笑む。
「誉めておるのだぞ、奥様」
手をとると、ロランダがニコッと心からの笑みを見せる。
「自分らしく生きてほしいだけですわ。ヤアも助かりますし」
転んだ子どもに手を差し伸べただけ、とでも言うような口調に、我も微笑み、抱き寄せてしまった。
今では、少し耳が遠くなったマダムに変わって、ゲフォーア伯爵夫人がヤアの女性たちを上手く取りまとめているという。
苦手だった社交界も、「着ているヤアの生地を感心される」とかで、たまに出るのは楽しいらしい。
皇都から実家が消えたクラウディアは悲しむだろうと思いきや、社交界でさまざまな噂が消えて、こちらも生き生きとしている。
実家が近くにないため、頼るのはロランダか母上で、これまた皇家に早く馴染んだ。
クプスの妃として双子の皇子の母となった今も、親しみやすい雰囲気は変わらず、リトルローゼもよく懐いている。
そして、デビュタント前後の若い貴族女性とお茶会をして、流行や本音を探るのも彼女の役目だ。
第二皇子妃として力を発揮するクラウディアだが、ヤアに出掛けたときには、孤児院や子どもの施設を巡り、周りの目を気にせず家族で伸び伸びしているらしい。
ローラはクプスと婚約破棄のゲームをしている時、ここまで考えていたのだろうか? と思うと、恐ろしいくらいに頼もしい。
「偶然ですわ」と涼しげな微笑みで言うが、チャンスを逃がさず、偶然を必然に変える力に魅了される。
ロランダの手腕を感心したのは我だけではない。領地経営に悩みを持つ貴族たちは、こぞってロランダに相談を始めた。
皇家から命令は出来ないが、相談されるのならアドバイスをする。それが的確で、貴族の中にロランダの信奉者が増えた。
相談されたことは、もれなく我やエドにも伝えられ、より良い形を探る。
おかげで貴族の内情が解るだけでなく、まとめやすくもなった。
よくロランダを手に入れたと、自分で自分を誉めたい。
いや、我がロランダの手に落とされたのか?
どちらでもよいか。国民が潤うておるのだから。
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