【完結】婚約破棄する?しない?~我は弟の婚約者がお気に入り

みなわなみ

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我のお気に入り

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「オットー、またそのマフラー。こちらの新しいのにしてくださいな」

「我はこれが気に入っている」

「お願いですから」

「嫌だ」

 ロランダが大きな溜め息をつく。



 我のお気に入りのマフラーは、ロランダに真を捧げた日の夜にもらった。

「夜は冷えますので」

 我の首にマフラーをかけるロランダの頬が赤い。不思議に思いながら、礼を言うと、

「ロランダが編んだのよ」

 と、マダムのおっとりした声が告げた。ロランダの顔がますます赤くなる。

「未熟ですが……」

 小さな声で申し訳なさそうにロランダが告げる。
 そうなのか? 見る人が見ればそうなのかもしれぬが、恋人ロランダの髪と同じチョコレート色のマフラーを、我は一目で気に入った。

「縄の模様が入っているでしょう? ヤアの伝統模様のひとつなのだけれど」

 マダムがニコニコと説明する横で、ロランダの赤くなるのが止まらない。大丈夫か?

「『永遠』を意味するの。こちらに来てからやけに熱心に習うと思ったら……」

 可笑しげなマダムの言葉を博士が受けとる。

「数年前からやっているのに、なかなか身が入らなかったのにねぇ……」

 チロリと愛しげに孫娘を見る博士を、真っ赤な顔のロランダが睨む。

「おじいさまっ」

「苦手だとぼやいてたじゃないか」

「おじいさまったら!」

 ロランダはこんなにも表情豊かな令嬢レディーだったのか。

「恋は人を変えますねぇ」

 黙っていたエドガーが、ニヤリと笑ってポツリと呟いた。

「エドは私が編んだもので我慢してね」

 マダムが編んだマフラーを貰ったエドは、えらく恐縮していた。

「これからもレオやロランダをよろしく」とエドに渡したマフラーにも、小さな縄模様があった。
 我らの永遠の心の繋がりを願われたのだろう。お二人の心遣いに我は心が熱くなったのだ。



 もう十年前になるが、このマフラーを見るたびに、その夜を思い出す。
 ロランダはくたびれてきたから、ほどいて編み直すというが、そんなことはさせない。
 会えない我を思って編んでくれたものは、これ一つしかない。
だから、新しく編んでもらうのだ。
 それでも気の置けない人と会うときには、つい、このマフラーに手が伸びる。

「もうすぐ皇帝を継がれる御方が……」

 ロランダがまた溜め息をつく。

「ローラが我を鎖で繋いだのであろう?」

 マフラーの縄模様をロランダの目の前で広げる。

「もう、人聞きの悪い」

「ローラこそ、まだその靴を履くのかい? 新しいのがあるだろう?」

「馴染んでいるから楽なの」

「我も同じだよ」

 抱き寄せて口づけを落とすと、「もう」と言いながら口づけを返された。

「おとうちゃま、おかあちゃま、おちたくまだ?」

 バンと勢いよく扉を開けて入ってきたリトルローゼの後ろで、新しい侍女が赤い顔をして立っていた。
 その隣で、リトルローゼの乳母がニマッと笑っている。
 扉が開いた瞬間に我から離れたロランダが、リトルローゼを抱きしめた。

「出来ましたよ」

「レディ、どこへ行くのでしたか?」

 リトルローゼを抱き上げ訊いてみる。

「レオおぢちゃまのとこよ。ひつじしゃん見ゅーの」

 父上はまだまだお元気だが、母上と旅がしたいと退位することになった。
 父上のことだ。気楽な旅行と見せかけて、あちこちの様子を探られるだろう。

 戴冠式の衣装は、布地をヤアで作っている。それが出来上がったようだ。


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