【完結】婚約破棄する?しない?~我は弟の婚約者がお気に入り

みなわなみ

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ロランダへプレゼント

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 エドが捧げ持っているのは、見事なレースが美しい、シルバーのハイヒール。

われが金で買える『そなたの一番欲しいもの』だ」 

 ロランダが口許を引いてただ黙っている。
 違ったか?

ちごうておるか?」

 おそるおそる尋ねると、ロランダは、ふるふると小さく首を横に振った。
 あー、よかった。

「我の本気だ。そなたの道を応援するが、我はそなたを諦めぬ。いつかこの靴を履いたそなたをエスコートさせてくれ」

「私がヤアにいても待ってくださると?」

「あぁ」

「……考えておきますわ」

「用心深いな。それでこそ我の欲しいロランダだ」

 ほんのりと頬を染めながらも、警戒する答えに我の頬が緩む。
 嫌われてはないらしい。

 ロランダが、靴を履き替えてくれる。皇家や公爵家御用達の靴屋だから、問題はないと思うが。

 ロランダが侍女の手をとってソッと立ち上がる。
 ピッタリのようだ。よかった。

 ロランダの嬉しそうな口元が、いつもより一段高い位置にある。
 たまらずにソッと口づけを落とした。 

「我のことを覚えておいて欲しい」

 ロランダが皇宮に来ない、何時でも会えないのだと思うと、切なくてたまらぬ。

「姫君方の話を失くされれば、お言葉に沿いますわ」

 首筋まで赤いのに、ロランダが落ち着いて微笑む。
 それぞれの姫君についている貴族を黙らせろと。

「わかった。我が貴族連中を黙らせるのと、そなたがヤアを富ませるのと、どちらが先に結果が出るかな。
 無論、我だな」

 その程度で良いならすぐに済む。

「さぁ、どうでしょうか。皇帝陛下と皇妃殿下のご説得もですわ」

 ツンと背筋を伸ばしたロランダに、我はニヤリと笑みを返した。

「それはもう済んでおる」

「え?」

「婚約破棄をあれほど反対していた父上と母上が、何故、寛大にクプスをゆるしたと思う?」

 ロランダが大きく開きそうな口許を隠し、忙しなく瞳を動かす。

「『我の妃にロランダを望みます』と申し上げたからだ。母上など大喜びであったぞ」

 ふふっと笑うと、ロランダが目を見開いた。
 レオポルドも味方なのだがな。それはまだ黙っておこう。
 
「ロランダ、すぐに我に心を寄せてくれとは言わぬ。ただ、我がそなたに心を寄せるのをいとわないで欲しい。ダメか?」

「それぐらいは……」

 まっすぐに見つめて乞えば、ロランダは目を伏せる。

「それと、ヤアの経営に必要があれば、我を使え」

「それは畏れ多いです」

 ロランダが顔を上げて首を横に振る。

「我がそうして欲しいのだ。皇太子としても、男としても。きいてくれぬか?」

 きっと、今までになく情けない顔になっているような気がする。

「きいてくれぬのか?」

「…ヤアのためになりましたら」

 すがるような我の声に、ロランダがやっと答えた。
 それで良いとも!
 
 お茶を誘われたが、時間がないので戻る。
 ロランダは、ハイヒールのまま見送ってくれた。
 希望をもってよいのだろうか。



 
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