30 / 35
ロランダへプレゼント
しおりを挟む
エドが捧げ持っているのは、見事なレースが美しい、シルバーのハイヒール。
「我が金で買える『そなたの一番欲しいもの』だ」
ロランダが口許を引いてただ黙っている。
違ったか?
「違うておるか?」
おそるおそる尋ねると、ロランダは、ふるふると小さく首を横に振った。
あー、よかった。
「我の本気だ。そなたの道を応援するが、我はそなたを諦めぬ。いつかこの靴を履いたそなたをエスコートさせてくれ」
「私がヤアにいても待ってくださると?」
「あぁ」
「……考えておきますわ」
「用心深いな。それでこそ我の欲しいロランダだ」
ほんのりと頬を染めながらも、警戒する答えに我の頬が緩む。
嫌われてはないらしい。
ロランダが、靴を履き替えてくれる。皇家や公爵家御用達の靴屋だから、問題はないと思うが。
ロランダが侍女の手をとってソッと立ち上がる。
ピッタリのようだ。よかった。
ロランダの嬉しそうな口元が、いつもより一段高い位置にある。
たまらずにソッと口づけを落とした。
「我のことを覚えておいて欲しい」
ロランダが皇宮に来ない、何時でも会えないのだと思うと、切なくてたまらぬ。
「姫君方の話を失くされれば、お言葉に沿いますわ」
首筋まで赤いのに、ロランダが落ち着いて微笑む。
それぞれの姫君についている貴族を黙らせろと。
「わかった。我が貴族連中を黙らせるのと、そなたがヤアを富ませるのと、どちらが先に結果が出るかな。
無論、我だな」
その程度で良いならすぐに済む。
「さぁ、どうでしょうか。皇帝陛下と皇妃殿下のご説得もですわ」
ツンと背筋を伸ばしたロランダに、我はニヤリと笑みを返した。
「それはもう済んでおる」
「え?」
「婚約破棄をあれほど反対していた父上と母上が、何故、寛大にクプスを赦したと思う?」
ロランダが大きく開きそうな口許を隠し、忙しなく瞳を動かす。
「『我の妃にロランダを望みます』と申し上げたからだ。母上など大喜びであったぞ」
ふふっと笑うと、ロランダが目を見開いた。
レオポルドも味方なのだがな。それはまだ黙っておこう。
「ロランダ、すぐに我に心を寄せてくれとは言わぬ。ただ、我がそなたに心を寄せるのを厭わないで欲しい。ダメか?」
「それぐらいは……」
まっすぐに見つめて乞えば、ロランダは目を伏せる。
「それと、ヤアの経営に必要があれば、我を使え」
「それは畏れ多いです」
ロランダが顔を上げて首を横に振る。
「我がそうして欲しいのだ。皇太子としても、男としても。きいてくれぬか?」
きっと、今までになく情けない顔になっているような気がする。
「きいてくれぬのか?」
「…ヤアのためになりましたら」
すがるような我の声に、ロランダがやっと答えた。
それで良いとも!
お茶を誘われたが、時間がないので戻る。
ロランダは、ハイヒールのまま見送ってくれた。
希望をもってよいのだろうか。
「我が金で買える『そなたの一番欲しいもの』だ」
ロランダが口許を引いてただ黙っている。
違ったか?
「違うておるか?」
おそるおそる尋ねると、ロランダは、ふるふると小さく首を横に振った。
あー、よかった。
「我の本気だ。そなたの道を応援するが、我はそなたを諦めぬ。いつかこの靴を履いたそなたをエスコートさせてくれ」
「私がヤアにいても待ってくださると?」
「あぁ」
「……考えておきますわ」
「用心深いな。それでこそ我の欲しいロランダだ」
ほんのりと頬を染めながらも、警戒する答えに我の頬が緩む。
嫌われてはないらしい。
ロランダが、靴を履き替えてくれる。皇家や公爵家御用達の靴屋だから、問題はないと思うが。
ロランダが侍女の手をとってソッと立ち上がる。
ピッタリのようだ。よかった。
ロランダの嬉しそうな口元が、いつもより一段高い位置にある。
たまらずにソッと口づけを落とした。
「我のことを覚えておいて欲しい」
ロランダが皇宮に来ない、何時でも会えないのだと思うと、切なくてたまらぬ。
「姫君方の話を失くされれば、お言葉に沿いますわ」
首筋まで赤いのに、ロランダが落ち着いて微笑む。
それぞれの姫君についている貴族を黙らせろと。
「わかった。我が貴族連中を黙らせるのと、そなたがヤアを富ませるのと、どちらが先に結果が出るかな。
無論、我だな」
その程度で良いならすぐに済む。
「さぁ、どうでしょうか。皇帝陛下と皇妃殿下のご説得もですわ」
ツンと背筋を伸ばしたロランダに、我はニヤリと笑みを返した。
「それはもう済んでおる」
「え?」
「婚約破棄をあれほど反対していた父上と母上が、何故、寛大にクプスを赦したと思う?」
ロランダが大きく開きそうな口許を隠し、忙しなく瞳を動かす。
「『我の妃にロランダを望みます』と申し上げたからだ。母上など大喜びであったぞ」
ふふっと笑うと、ロランダが目を見開いた。
レオポルドも味方なのだがな。それはまだ黙っておこう。
「ロランダ、すぐに我に心を寄せてくれとは言わぬ。ただ、我がそなたに心を寄せるのを厭わないで欲しい。ダメか?」
「それぐらいは……」
まっすぐに見つめて乞えば、ロランダは目を伏せる。
「それと、ヤアの経営に必要があれば、我を使え」
「それは畏れ多いです」
ロランダが顔を上げて首を横に振る。
「我がそうして欲しいのだ。皇太子としても、男としても。きいてくれぬか?」
きっと、今までになく情けない顔になっているような気がする。
「きいてくれぬのか?」
「…ヤアのためになりましたら」
すがるような我の声に、ロランダがやっと答えた。
それで良いとも!
お茶を誘われたが、時間がないので戻る。
ロランダは、ハイヒールのまま見送ってくれた。
希望をもってよいのだろうか。
0
お気に入りに追加
125
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】ええと?あなたはどなたでしたか?
ここ
恋愛
アリサの婚約者ミゲルは、婚約のときから、平凡なアリサが気に入らなかった。
アリサはそれに気づいていたが、政略結婚に逆らえない。
15歳と16歳になった2人。ミゲルには恋人ができていた。マーシャという綺麗な令嬢だ。邪魔なアリサにこわい思いをさせて、婚約解消をねらうが、事態は思わぬ方向に。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
嘘をありがとう
七辻ゆゆ
恋愛
「まあ、なんて図々しいのでしょう」
おっとりとしていたはずの妻は、辛辣に言った。
「要するにあなた、貴族でいるために政略結婚はする。けれど女とは別れられない、ということですのね?」
妻は言う。女と別れなくてもいい、仕事と嘘をついて会いに行ってもいい。けれど。
「必ず私のところに帰ってきて、子どもをつくり、よい夫、よい父として振る舞いなさい。神に嘘をついたのだから、覚悟を決めて、その嘘を突き通しなさいませ」
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ。
緑谷めい
恋愛
「むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ」
そう、むしゃくしゃしてやった。後悔はしていない。
私は、カトリーヌ・ナルセー。17歳。
ナルセー公爵家の長女であり、第2王子ハロルド殿下の婚約者である。父のナルセー公爵は、この国の宰相だ。
その父は、今、私の目の前で、顔面蒼白になっている。
「カトリーヌ、もう一度言ってくれ。私の聞き間違いかもしれぬから」
お父様、お気の毒ですけれど、お聞き間違いではございませんわ。では、もう一度言いますわよ。
「今日、王宮で、ハロルド様に往復ビンタを浴びせ、更に足で蹴りつけましたの」
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。
ふまさ
恋愛
楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。
でも。
愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
あなたを忘れる魔法があれば
美緒
恋愛
乙女ゲームの攻略対象の婚約者として転生した私、ディアナ・クリストハルト。
ただ、ゲームの舞台は他国の為、ゲームには婚約者がいるという事でしか登場しない名前のないモブ。
私は、ゲームの強制力により、好きになった方を奪われるしかないのでしょうか――?
これは、「あなたを忘れる魔法があれば」をテーマに書いてみたものです――が、何か違うような??
R15、残酷描写ありは保険。乙女ゲーム要素も空気に近いです。
※小説家になろう、カクヨムにも掲載してます
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
この魔法はいつか解ける
石原こま
恋愛
「魔法が解けたのですね。」
幼い頃、王太子に魅了魔法をかけてしまい婚約者に選ばれたリリアーナ。
ついに真実の愛により、王子にかけた魔法が解ける時が訪れて・・・。
虐げられて育った少女が、魅了魔法の力を借りて幸せになるまでの物語です。
※小説家になろうのサイトでも公開しています。
アルファポリスさんにもアカウント作成してみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる