【完結】婚約破棄する?しない?~我は弟の婚約者がお気に入り

みなわなみ

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さあ、本番だ

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 座をまとめてパーティーの開始を告げ、壇上から降りる。
 黙って近づいてきたクプスの肩を「これからだぞ」とポンポンと叩くと、神妙に頷いていた。
 学園長や教師陣に軽く挨拶し、ロランダの元へ歩む。
 駆け出したいのを堪えて。

 ロランダは父親オフィキス公爵と談笑していた。
 そこへ割って入り、まずは公爵にこの度のことを詫びる。
 そして、今夜のロランダのファーストダンスの栄誉を乞うた。

 婚約破棄をされたときのダンスパートナーとして、公爵父親を連れてきたのだろうがそうはいかぬ。
 このチャンスを逃すものか。

 いつも落ち着いたダークトーンのドレスを着ているロランダだが、今日はふんわりとしたライトグリーンのドレスにブルーのリボンをアクセントにしている。
 ロランダのチョコレート色の髪を引き立て、まるで春の女神だ。
 見ているだけで甘く微笑んでしまう。
 ロランダが、そんな我を見て、ほんのりと朱くなった。
 心臓がドキンと跳ねる。

 快く公爵が譲ってくれたので、我はロランダの手を取り、ホール中央へと向かう。流れてきた音楽に合わせて、ゆるりと踊り出した。
 ローヒールを履いているのがクプスへの思いやりだと思うと、胸がチクリとする。

「これで我もそなたに求婚できる」

 そっと告げると、ロランダが一瞬目を見開いたが、
「今度はなんのお戯れです?」
と、軽くいなして微笑んだ。

 さすがは用心深いロランダだ。

 本気だと伝えても、我の婚姻は外交の要であるとはぐらかされた。だが、釣り合う姫がいないのも知っていた。

 だから、そなたしかいないのだ。

「なぁ、スピース王家に連なる姫」

 我がニヤッと笑うと、ロランダが「バレましたか」と上目遣いで我を見る。
 そんなかわいい顔、初めて間近で見たぞ。
 抱き締めてしまいたい……。

 ロランダがこんなにも好きだったことに、自分でも驚いてしまう。
 しかし、落ち着いて行動せねば。ヤアで一杯のロランダの心を動かさねば、我に勝機はない。

「この賭け、我は勝っても負けても良いと言うたであろう?」

 嬉しくて、ついニヤリとしてしまった。
 ロランダが我の顔を強い瞳で見る。警戒させたか。
 しかし、周りには恋人どうしに見えておるかも。

 ロランダが「一番欲しいものを下さったら」というので、

「それは無理だな」

 と即答する。

「そなたが望むのは『自由』であろう?」

 我と同じく……。という言葉を自分の中に残し、ロランダを見つめる。

「そこまでお解りなら、私の思うとおりにさせてくださいませ」

 ロランダは申し訳なさそうに少し我から視線を外した。

「ふむ。そうだな。そなたが思い描くヤアは面白い。我も見てみたいのであったぞ」

 さっと引いた我の言葉に、ロランダの瞳がわずかに揺れた。
 今夜は我を意識してくれればよい。

 曲が終わり、ロランダが優雅なカーテシーをする。
 この後、誰と踊るのだろう……と思ったときには、我が手はロランダを引き寄せ、口はロランダの頬にキスを落としていた。

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