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ゲームだ。婚約破棄をかけて
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「クラウディア嬢だったか、クプスにお気に入りの令嬢がいることは知っている。ここのところ、二人がずいぶん親しいことも。
そなたには不快な思いをさせている。申し訳ない」
我は、軽く頭を下げた。
あいつが第一に大切にしないといけないのはロランダなのだから。
「…殿下が謝ることではありませんわ……。私が一緒におりませんから……」
ロランダが珍しく口ごもっている。諦めか、それともクプスを構わなくなった後ろめたさか……。
「婚約破棄されれば、そなたには傷が付くが、ヤアを治めたいなら、そうできるよう働きかけてやろう」
「それならば、私が身を引きます。クラウディア様をクプス様の婚約者に…」
ロランダが即座に哀願する。やはり、形だけの婚約者になっているのに気づいているか。
しかし、我にそのような力はないのだ。
「それはできぬ。それは……そなたが一番分かっておろう?」
ロランダがスカートをグッと握った。
「まず、父上と母上が簡単には許さぬ。よしんば、クプスとそなたの婚約解消が成立しても、クラウディア嬢が婚約者に選ばれることはないだろう。今のままでは」
「それは…」
ロランダも分かっているのだ。筆頭公爵家長女のロランダが退けば、別の公爵家か侯爵家の令嬢が候補として立つ。
子爵家の令嬢など、眼中にもされないはず。
「ロランダ、そなたが小さな頃から妃教育を受けていること、それを身に付けていることを我は知っている。
我の婚約者がなかなか決まらないばかりに、そなたへの負担が増えていることも」
我の婚約者が決まらぬばかりに、皇太子妃並の学びと役割をさせられているのを聞いている。
それに見事に応えているとも。
我は、ロランダを一度見つめ、頭を下げて掠れる声で呟いた。
「…すまぬ」
ロランダの息を呑む気配がする。
ゆっくりと頭を上げると、ロランダが居心地悪そうに、小さく首を横に降った。
「そなたの望むままにヤアを治めさせたい気もする。しかし、そなたが皇家の一員となってくれるのを心待ちにしているのも事実だ」
黙って聞いているロランダに、我は笑って声のトーンを上げた。
「久しぶりのゲームだ、ロランダ。ルールはひとつ。いつもと同じ生活をすること」
「いつもと同じとは?」
ロランダが小さく首を傾げた。
「んー、いつもと同じというのは少し語弊があるか…。
そなたは、クプスの婚約者として、オフィキス公爵令嬢として生活を。
我は、皇太子としての生活を。
それぞれにふさわしい振る舞いの中で作戦をとる。謗られないように。
それでクプスがそなたに婚約破棄を告げればそなたの勝ち。告げられなければ、我の勝ちだ」
明るく宣戦布告をすると、ロランダは小さな溜め息をついた。
「難しいですわね。クプス様はともかく、クラウディア様を知るのにも、接点がありませんもの」
「作ればよいではないか」
「作る?」
そなたには不快な思いをさせている。申し訳ない」
我は、軽く頭を下げた。
あいつが第一に大切にしないといけないのはロランダなのだから。
「…殿下が謝ることではありませんわ……。私が一緒におりませんから……」
ロランダが珍しく口ごもっている。諦めか、それともクプスを構わなくなった後ろめたさか……。
「婚約破棄されれば、そなたには傷が付くが、ヤアを治めたいなら、そうできるよう働きかけてやろう」
「それならば、私が身を引きます。クラウディア様をクプス様の婚約者に…」
ロランダが即座に哀願する。やはり、形だけの婚約者になっているのに気づいているか。
しかし、我にそのような力はないのだ。
「それはできぬ。それは……そなたが一番分かっておろう?」
ロランダがスカートをグッと握った。
「まず、父上と母上が簡単には許さぬ。よしんば、クプスとそなたの婚約解消が成立しても、クラウディア嬢が婚約者に選ばれることはないだろう。今のままでは」
「それは…」
ロランダも分かっているのだ。筆頭公爵家長女のロランダが退けば、別の公爵家か侯爵家の令嬢が候補として立つ。
子爵家の令嬢など、眼中にもされないはず。
「ロランダ、そなたが小さな頃から妃教育を受けていること、それを身に付けていることを我は知っている。
我の婚約者がなかなか決まらないばかりに、そなたへの負担が増えていることも」
我の婚約者が決まらぬばかりに、皇太子妃並の学びと役割をさせられているのを聞いている。
それに見事に応えているとも。
我は、ロランダを一度見つめ、頭を下げて掠れる声で呟いた。
「…すまぬ」
ロランダの息を呑む気配がする。
ゆっくりと頭を上げると、ロランダが居心地悪そうに、小さく首を横に降った。
「そなたの望むままにヤアを治めさせたい気もする。しかし、そなたが皇家の一員となってくれるのを心待ちにしているのも事実だ」
黙って聞いているロランダに、我は笑って声のトーンを上げた。
「久しぶりのゲームだ、ロランダ。ルールはひとつ。いつもと同じ生活をすること」
「いつもと同じとは?」
ロランダが小さく首を傾げた。
「んー、いつもと同じというのは少し語弊があるか…。
そなたは、クプスの婚約者として、オフィキス公爵令嬢として生活を。
我は、皇太子としての生活を。
それぞれにふさわしい振る舞いの中で作戦をとる。謗られないように。
それでクプスがそなたに婚約破棄を告げればそなたの勝ち。告げられなければ、我の勝ちだ」
明るく宣戦布告をすると、ロランダは小さな溜め息をついた。
「難しいですわね。クプス様はともかく、クラウディア様を知るのにも、接点がありませんもの」
「作ればよいではないか」
「作る?」
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