12 / 35
賭けをしよう
しおりを挟む
それにしても、10日ヤアへ行くとは……。
「その孤児院にそなたが託しているものはなんだ」
ロランダが、黙ってティーカップを持ち上げる。
「わざわざ10日も出向くのだ。ただの慈善事業ではなかろう?」
「フフ、さすが殿下ですわ。
出来る子ども達には、ヤアの技術を継いでもらおうと思っています。一人立ちのためにも」
「以前、遺したいと言った技術だな」
「そうです。祖母に言われたのです。『思っている形で叶わないのなら、違う形で叶う方法を考えなさい。ゴールが同じになればいいのよ』と」
「策士だな……」
「そうですね。祖母にそう言われたとき、私が一番守りたいのはヤアの技術だと気づいたのです。それを祖母に伝えたのですわ」
わずかにでも自分の夢が叶ったからか、ロランダは満ち足りた笑顔を見せる。
長く見せなかった笑顔だ。
我の胸がズクンと痛む。
「ロランダ、そなたはヤアの地が大切か?」
「もちろんですわ」
愚問とばかりに、ロランダに即答された。
「ヤアを治めたいと思うか?」
「それは叶いません。クプス様の婚約者ですから」
これもそう言い聞かせているためか、即答した。
即答できるのに、何故最近夜会に出かけぬ?
ロランダ、クプスとでは祖父母殿のような関係になれぬのではないか?
そなたは……。
チョコレートを一粒食べ、我はゆっくりと口を開いた。
「そなたはそれでよいのか?」
「「殿下?」」
ロランダだけでなく、近くにいたエドも声を上げた。
ロランダが見たこともないほど目を見張っている。不思議なものを見るように。
今一度、我はゆっくりと問うた。
「そなたはそれでよいのか?」
「私はクプス様の婚約者でございます……そのように生きてまいりました」
じっと見つめる我に、ロランダは微笑みを作って繰り返す。
「ふむ。確かにそなたがクプスの妃になってくれるのを我は楽しみにしているがな」
「……」
「クプスの婚約者でなければ、ヤアを治めたいか?」
「そのようなこと、考えたことはございませんわ」
ほんのり微笑みながらも、ロランダの栗色の瞳はわずかに潤んでいる。
ジッと見る我から目を逸らすように、ロランダはナッツクッキーを手にして一口かじり、「おいしい」と微笑んだ。
まったく、困ったときに食べ物で解決しようとするのは、小さな時から変わらぬ。
ほっそりしているが、美味しいものには目がないのがロランダだ。
まぁ、我も人のことは言えぬがな。
「ロランダ、賭けをせぬか」
「賭け?」
我の言葉に、ロランダがまた眉根を寄せる。
「そうだ。クプスがそなたとの婚約破棄を宣言するかどうか」
ロランダとエドの動きがピタリと止まった。
「その孤児院にそなたが託しているものはなんだ」
ロランダが、黙ってティーカップを持ち上げる。
「わざわざ10日も出向くのだ。ただの慈善事業ではなかろう?」
「フフ、さすが殿下ですわ。
出来る子ども達には、ヤアの技術を継いでもらおうと思っています。一人立ちのためにも」
「以前、遺したいと言った技術だな」
「そうです。祖母に言われたのです。『思っている形で叶わないのなら、違う形で叶う方法を考えなさい。ゴールが同じになればいいのよ』と」
「策士だな……」
「そうですね。祖母にそう言われたとき、私が一番守りたいのはヤアの技術だと気づいたのです。それを祖母に伝えたのですわ」
わずかにでも自分の夢が叶ったからか、ロランダは満ち足りた笑顔を見せる。
長く見せなかった笑顔だ。
我の胸がズクンと痛む。
「ロランダ、そなたはヤアの地が大切か?」
「もちろんですわ」
愚問とばかりに、ロランダに即答された。
「ヤアを治めたいと思うか?」
「それは叶いません。クプス様の婚約者ですから」
これもそう言い聞かせているためか、即答した。
即答できるのに、何故最近夜会に出かけぬ?
ロランダ、クプスとでは祖父母殿のような関係になれぬのではないか?
そなたは……。
チョコレートを一粒食べ、我はゆっくりと口を開いた。
「そなたはそれでよいのか?」
「「殿下?」」
ロランダだけでなく、近くにいたエドも声を上げた。
ロランダが見たこともないほど目を見張っている。不思議なものを見るように。
今一度、我はゆっくりと問うた。
「そなたはそれでよいのか?」
「私はクプス様の婚約者でございます……そのように生きてまいりました」
じっと見つめる我に、ロランダは微笑みを作って繰り返す。
「ふむ。確かにそなたがクプスの妃になってくれるのを我は楽しみにしているがな」
「……」
「クプスの婚約者でなければ、ヤアを治めたいか?」
「そのようなこと、考えたことはございませんわ」
ほんのり微笑みながらも、ロランダの栗色の瞳はわずかに潤んでいる。
ジッと見る我から目を逸らすように、ロランダはナッツクッキーを手にして一口かじり、「おいしい」と微笑んだ。
まったく、困ったときに食べ物で解決しようとするのは、小さな時から変わらぬ。
ほっそりしているが、美味しいものには目がないのがロランダだ。
まぁ、我も人のことは言えぬがな。
「ロランダ、賭けをせぬか」
「賭け?」
我の言葉に、ロランダがまた眉根を寄せる。
「そうだ。クプスがそなたとの婚約破棄を宣言するかどうか」
ロランダとエドの動きがピタリと止まった。
0
お気に入りに追加
125
あなたにおすすめの小説

家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。

【完結】ええと?あなたはどなたでしたか?
ここ
恋愛
アリサの婚約者ミゲルは、婚約のときから、平凡なアリサが気に入らなかった。
アリサはそれに気づいていたが、政略結婚に逆らえない。
15歳と16歳になった2人。ミゲルには恋人ができていた。マーシャという綺麗な令嬢だ。邪魔なアリサにこわい思いをさせて、婚約解消をねらうが、事態は思わぬ方向に。

むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ。
緑谷めい
恋愛
「むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ」
そう、むしゃくしゃしてやった。後悔はしていない。
私は、カトリーヌ・ナルセー。17歳。
ナルセー公爵家の長女であり、第2王子ハロルド殿下の婚約者である。父のナルセー公爵は、この国の宰相だ。
その父は、今、私の目の前で、顔面蒼白になっている。
「カトリーヌ、もう一度言ってくれ。私の聞き間違いかもしれぬから」
お父様、お気の毒ですけれど、お聞き間違いではございませんわ。では、もう一度言いますわよ。
「今日、王宮で、ハロルド様に往復ビンタを浴びせ、更に足で蹴りつけましたの」


【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。
ふまさ
恋愛
楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。
でも。
愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。

あなたを忘れる魔法があれば
美緒
恋愛
乙女ゲームの攻略対象の婚約者として転生した私、ディアナ・クリストハルト。
ただ、ゲームの舞台は他国の為、ゲームには婚約者がいるという事でしか登場しない名前のないモブ。
私は、ゲームの強制力により、好きになった方を奪われるしかないのでしょうか――?
これは、「あなたを忘れる魔法があれば」をテーマに書いてみたものです――が、何か違うような??
R15、残酷描写ありは保険。乙女ゲーム要素も空気に近いです。
※小説家になろう、カクヨムにも掲載してます

この魔法はいつか解ける
石原こま
恋愛
「魔法が解けたのですね。」
幼い頃、王太子に魅了魔法をかけてしまい婚約者に選ばれたリリアーナ。
ついに真実の愛により、王子にかけた魔法が解ける時が訪れて・・・。
虐げられて育った少女が、魅了魔法の力を借りて幸せになるまでの物語です。
※小説家になろうのサイトでも公開しています。
アルファポリスさんにもアカウント作成してみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる