【完結】婚約破棄する?しない?~我は弟の婚約者がお気に入り

みなわなみ

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ロランダが望んだもの

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 ロランダが父上に褒美としてねだったのは休暇。
 我々皇族が学園を公務で休むときには、レポート提出で済むが、それも適応させたのだろう。ロランダなら、2~3ヶ月休んでもなんということはないだろうが……。

 いや、違う。そうじゃない。

 夜会に出なくていいのか? クプスはどうなる?
 とりあえずはそのような思いは隠して、ロランダに尋ねる。

「十日もヤアに?」

 ロランダがコックリと頷く。

「祖母念願の孤児院と託児所がやっと完成したのですわ。その手伝いに」

 感慨深げに微笑む様子を見ると、ロランダの念願でもあったのだろう。しかし…

「ヤアは高級別荘も多く、スラムはないだろう? なのに孤児院が必要なのか?」

「貴族の、別荘地だからですわ」

 能天気な我の質問に、ロランダは顎に手を当てて、ゆっくりと答える。
 兄貴レオそっくりの仕草だ。

 全てを話さないその様子で我は気づく。

「…庶子か……」

 我の答えに、ロランダが声を低めた。

「はい。隠して産むのには別荘は便利です。スピース国にありながらハーヴィー国というヤアは特に……。
スピース国の貴族もハーヴィー国の貴族も便利なのでしょう。
そのため、孤児だけではなく、父親がいない子もよく見ます。その多くが、貴族の庶子です」

「それは、ひとつ間違えば……」

 血筋によっては内乱を起こす温床になるではないか。

「えぇ。なので、きちんと導く必要があるのですわ。今までは祖父母が周りの手を借りながら育てていましたが、このところ増えておりまして」

「増えた?」

「産まれる子は宝だからという祖母が、知人で腕のよい産婆を数年前に呼び寄せましたの。それで元気に産まれてくるのがひとつ。
もうひとつは、貴族関係だけでなく、望まぬ妊娠をした女性がヤアに逃げてくるのですわ。
ヤアで産んだ女性達が、こっそり教えるようです。『ヤアあそこは安全だ』と。
母親がそのままヤアに留まれば孤児にはなりませんが、母親が働く間、世話をしてくれる所が必要になってきたのです」

「それで託児所もか」

 ヤアは特殊な土地だが、そのような事情があるとは知らなかった。あの秀才レオがてこずるはずだ。

「そのような孤児院を作ると、余計に訳アリの孤児が増えるのではと兄は心配していましたが、祖母の情熱と祖父の説得には敵いませんでした。」

「前公爵婦人の発案か?」

「はい。託児所もヤア全ての子どもに門戸を開くようにと。小さな頃から関われば、孤児や片親への偏見もなくなるはずだと押しきりましたの。
大抵は祖母が思いついたことを細かく考え、具体的にしていくのです。祖父はそれを聴いて、予算や届けなど、実務的な問題提起をするのですわ」

 前公爵は夫人の発想でどんどん領地改革を行ったと聞く。
 ロランダは祖母殿に似ているのだろう。
 
「相変わらず、仲が良さそうだな」

「えぇ。素晴らしいパートナー同士です。祖父は植物研究をする時間をもう少し欲しいかもしれませんが」

 ロランダが「ふふ」と笑う。
 いつまでもお互いを思い合う祖父母は、彼女の自慢で憧れなのであろうな。

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