11 / 35
ロランダが望んだもの
しおりを挟む
ロランダが父上に褒美としてねだったのは休暇。
我々皇族が学園を公務で休むときには、レポート提出で済むが、それも適応させたのだろう。ロランダなら、2~3ヶ月休んでもなんということはないだろうが……。
いや、違う。そうじゃない。
夜会に出なくていいのか? クプスはどうなる?
とりあえずはそのような思いは隠して、ロランダに尋ねる。
「十日もヤアに?」
ロランダがコックリと頷く。
「祖母念願の孤児院と託児所がやっと完成したのですわ。その手伝いに」
感慨深げに微笑む様子を見ると、ロランダの念願でもあったのだろう。しかし…
「ヤアは高級別荘も多く、スラムはないだろう? なのに孤児院が必要なのか?」
「貴族の、別荘地だからですわ」
能天気な我の質問に、ロランダは顎に手を当てて、ゆっくりと答える。
兄貴そっくりの仕草だ。
全てを話さないその様子で我は気づく。
「…庶子か……」
我の答えに、ロランダが声を低めた。
「はい。隠して産むのには別荘は便利です。スピース国にありながらハーヴィー国というヤアは特に……。
スピース国の貴族もハーヴィー国の貴族も便利なのでしょう。
そのため、孤児だけではなく、父親がいない子もよく見ます。その多くが、貴族の庶子です」
「それは、ひとつ間違えば……」
血筋によっては内乱を起こす温床になるではないか。
「えぇ。なので、きちんと導く必要があるのですわ。今までは祖父母が周りの手を借りながら育てていましたが、このところ増えておりまして」
「増えた?」
「産まれる子は宝だからという祖母が、知人で腕のよい産婆を数年前に呼び寄せましたの。それで元気に産まれてくるのがひとつ。
もうひとつは、貴族関係だけでなく、望まぬ妊娠をした女性がヤアに逃げてくるのですわ。
ヤアで産んだ女性達が、こっそり教えるようです。『ヤアは安全だ』と。
母親がそのままヤアに留まれば孤児にはなりませんが、母親が働く間、世話をしてくれる所が必要になってきたのです」
「それで託児所もか」
ヤアは特殊な土地だが、そのような事情があるとは知らなかった。あの秀才がてこずるはずだ。
「そのような孤児院を作ると、余計に訳アリの孤児が増えるのではと兄は心配していましたが、祖母の情熱と祖父の説得には敵いませんでした。」
「前公爵婦人の発案か?」
「はい。託児所もヤア全ての子どもに門戸を開くようにと。小さな頃から関われば、孤児や片親への偏見もなくなるはずだと押しきりましたの。
大抵は祖母が思いついたことを細かく考え、具体的にしていくのです。祖父はそれを聴いて、予算や届けなど、実務的な問題提起をするのですわ」
前公爵は夫人の発想でどんどん領地改革を行ったと聞く。
ロランダは祖母殿に似ているのだろう。
「相変わらず、仲が良さそうだな」
「えぇ。素晴らしいパートナー同士です。祖父は植物研究をする時間をもう少し欲しいかもしれませんが」
ロランダが「ふふ」と笑う。
いつまでもお互いを思い合う祖父母は、彼女の自慢で憧れなのであろうな。
我々皇族が学園を公務で休むときには、レポート提出で済むが、それも適応させたのだろう。ロランダなら、2~3ヶ月休んでもなんということはないだろうが……。
いや、違う。そうじゃない。
夜会に出なくていいのか? クプスはどうなる?
とりあえずはそのような思いは隠して、ロランダに尋ねる。
「十日もヤアに?」
ロランダがコックリと頷く。
「祖母念願の孤児院と託児所がやっと完成したのですわ。その手伝いに」
感慨深げに微笑む様子を見ると、ロランダの念願でもあったのだろう。しかし…
「ヤアは高級別荘も多く、スラムはないだろう? なのに孤児院が必要なのか?」
「貴族の、別荘地だからですわ」
能天気な我の質問に、ロランダは顎に手を当てて、ゆっくりと答える。
兄貴そっくりの仕草だ。
全てを話さないその様子で我は気づく。
「…庶子か……」
我の答えに、ロランダが声を低めた。
「はい。隠して産むのには別荘は便利です。スピース国にありながらハーヴィー国というヤアは特に……。
スピース国の貴族もハーヴィー国の貴族も便利なのでしょう。
そのため、孤児だけではなく、父親がいない子もよく見ます。その多くが、貴族の庶子です」
「それは、ひとつ間違えば……」
血筋によっては内乱を起こす温床になるではないか。
「えぇ。なので、きちんと導く必要があるのですわ。今までは祖父母が周りの手を借りながら育てていましたが、このところ増えておりまして」
「増えた?」
「産まれる子は宝だからという祖母が、知人で腕のよい産婆を数年前に呼び寄せましたの。それで元気に産まれてくるのがひとつ。
もうひとつは、貴族関係だけでなく、望まぬ妊娠をした女性がヤアに逃げてくるのですわ。
ヤアで産んだ女性達が、こっそり教えるようです。『ヤアは安全だ』と。
母親がそのままヤアに留まれば孤児にはなりませんが、母親が働く間、世話をしてくれる所が必要になってきたのです」
「それで託児所もか」
ヤアは特殊な土地だが、そのような事情があるとは知らなかった。あの秀才がてこずるはずだ。
「そのような孤児院を作ると、余計に訳アリの孤児が増えるのではと兄は心配していましたが、祖母の情熱と祖父の説得には敵いませんでした。」
「前公爵婦人の発案か?」
「はい。託児所もヤア全ての子どもに門戸を開くようにと。小さな頃から関われば、孤児や片親への偏見もなくなるはずだと押しきりましたの。
大抵は祖母が思いついたことを細かく考え、具体的にしていくのです。祖父はそれを聴いて、予算や届けなど、実務的な問題提起をするのですわ」
前公爵は夫人の発想でどんどん領地改革を行ったと聞く。
ロランダは祖母殿に似ているのだろう。
「相変わらず、仲が良さそうだな」
「えぇ。素晴らしいパートナー同士です。祖父は植物研究をする時間をもう少し欲しいかもしれませんが」
ロランダが「ふふ」と笑う。
いつまでもお互いを思い合う祖父母は、彼女の自慢で憧れなのであろうな。
0
お気に入りに追加
125
あなたにおすすめの小説

家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。

【完結】ええと?あなたはどなたでしたか?
ここ
恋愛
アリサの婚約者ミゲルは、婚約のときから、平凡なアリサが気に入らなかった。
アリサはそれに気づいていたが、政略結婚に逆らえない。
15歳と16歳になった2人。ミゲルには恋人ができていた。マーシャという綺麗な令嬢だ。邪魔なアリサにこわい思いをさせて、婚約解消をねらうが、事態は思わぬ方向に。

嘘をありがとう
七辻ゆゆ
恋愛
「まあ、なんて図々しいのでしょう」
おっとりとしていたはずの妻は、辛辣に言った。
「要するにあなた、貴族でいるために政略結婚はする。けれど女とは別れられない、ということですのね?」
妻は言う。女と別れなくてもいい、仕事と嘘をついて会いに行ってもいい。けれど。
「必ず私のところに帰ってきて、子どもをつくり、よい夫、よい父として振る舞いなさい。神に嘘をついたのだから、覚悟を決めて、その嘘を突き通しなさいませ」

冤罪から逃れるために全てを捨てた。
四折 柊
恋愛
王太子の婚約者だったオリビアは冤罪をかけられ捕縛されそうになり全てを捨てて家族と逃げた。そして以前留学していた国の恩師を頼り、新しい名前と身分を手に入れ幸せに過ごす。1年が過ぎ今が幸せだからこそ思い出してしまう。捨ててきた国や自分を陥れた人達が今どうしているのかを。(視点が何度も変わります)

むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ。
緑谷めい
恋愛
「むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ」
そう、むしゃくしゃしてやった。後悔はしていない。
私は、カトリーヌ・ナルセー。17歳。
ナルセー公爵家の長女であり、第2王子ハロルド殿下の婚約者である。父のナルセー公爵は、この国の宰相だ。
その父は、今、私の目の前で、顔面蒼白になっている。
「カトリーヌ、もう一度言ってくれ。私の聞き間違いかもしれぬから」
お父様、お気の毒ですけれど、お聞き間違いではございませんわ。では、もう一度言いますわよ。
「今日、王宮で、ハロルド様に往復ビンタを浴びせ、更に足で蹴りつけましたの」


あなたを忘れる魔法があれば
美緒
恋愛
乙女ゲームの攻略対象の婚約者として転生した私、ディアナ・クリストハルト。
ただ、ゲームの舞台は他国の為、ゲームには婚約者がいるという事でしか登場しない名前のないモブ。
私は、ゲームの強制力により、好きになった方を奪われるしかないのでしょうか――?
これは、「あなたを忘れる魔法があれば」をテーマに書いてみたものです――が、何か違うような??
R15、残酷描写ありは保険。乙女ゲーム要素も空気に近いです。
※小説家になろう、カクヨムにも掲載してます

この魔法はいつか解ける
石原こま
恋愛
「魔法が解けたのですね。」
幼い頃、王太子に魅了魔法をかけてしまい婚約者に選ばれたリリアーナ。
ついに真実の愛により、王子にかけた魔法が解ける時が訪れて・・・。
虐げられて育った少女が、魅了魔法の力を借りて幸せになるまでの物語です。
※小説家になろうのサイトでも公開しています。
アルファポリスさんにもアカウント作成してみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる