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ロランダとクプスと
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「殿下?」
ロランダが泣いていたことに心を奪われていた我は、レオの呼びかけに改めて皇太子然として微笑む。
「そうか。しかし、政の議論が出来る兄弟がいるのは羨ましいぞ」
「クプスリスト殿下に同じようにしておらねばよいのですが」
レオの眉間の皺はまだ取れない。
結構やりあって、兄のプライドを傷つけられたか?
「ロランダはだいぶ我慢していると思うぞ?
我は手加減して欲しくないと思うのだがな」
「もう少し、女らしいことに励んでくれれば」
「ハハハッ、心にもないことを言うな。あのようなロランダだから、お前も可愛いのだろう?」
「………まぁ、頑張り屋で自慢の妹です」
我が笑い飛ばすと、やっとレオの眉間の皺が取れ、ほんのり微笑んだ。
「うむ。ヤアも上手く治められるよう励んでくれ」
それ以外にもいくらか世間話をして、友は帰っていった。
バラのジャムも出したが、特に感想はなかった。
オフィキス家にはあって当たり前のものなのかも知れぬな。
ふぅ。
知らずと溜め息が出る。
ヤアはハーヴィー国だが、オフィキス公爵家の領地だ。
我が口出しを出来るものではない。
レオはレオで頑張っているのだし。
が、ロランダが思い描くヤアを見てみたい、とも思ってしまうのだ。
「殿下」
考え込んでいると、エドが声をかけて来た。
「あぁ、悪い。すぐ執務に戻る」
「いえ、クプス殿下なのですが」
「何かあったのか?」
執務机に向かいながら、エドに問う。
「ゲフォーア子爵令嬢と随分近しい御様子」
「近づいているのか?」
「はい」
「どのような令嬢だ」
淡々と答えていたエドが、眼を一度キョロリと動かした。
「それが」
「なんだ」
「貴族令嬢にあるまじきほど……」
問題ありか?
「…素直で…」
「素直?」
思いがけない単語に、我は素で聞き返してしまった。
「はい。孤児院の訪問などでは子どもたちとすぐ一緒に遊んでいます」
ふむ。よく言えば無邪気、悪く言えば精神年齢が低いってところか。
「最近クプスが孤児院訪問に熱心だと聞いていたが……」
「はい。クプスリスト殿下は、頼られるのが嬉しい以上に楽なのかと」
「なるほど」
「令嬢の方は、子爵令嬢として蔑まれることが多かったようですが、クプスリスト殿下はそのようなこともなく優しく接してくれるので、随分慕っていると」
「分かりやすく慕ってくれる令嬢にクプスも絆されているか……」
「ロランダ様が婚約者であることは忘れていないようです。常に集団行動ですし、上級生として下級生の世話を焼いているように傍目には見えます」
「傍目には…か、クプスもやるではないか」
皇族としての自覚があるようで、安堵する。
「はい。ご令嬢が噂話に上らないようにのご配慮でしょう」
クプスとロランダは政略での婚約だ。幼い頃婚約したから、同い年だが姉弟のように育っている。
愛はあるが、恋は育ってないのかもな。
クプスにはクラウディア嬢だったかという令嬢が初恋なのかも知れぬ。
さて、どうしたものか……。
机の書類に向かう脳裏に浮かんだのは、ひっそりと涙するロランダの姿だった。
ロランダが泣いていたことに心を奪われていた我は、レオの呼びかけに改めて皇太子然として微笑む。
「そうか。しかし、政の議論が出来る兄弟がいるのは羨ましいぞ」
「クプスリスト殿下に同じようにしておらねばよいのですが」
レオの眉間の皺はまだ取れない。
結構やりあって、兄のプライドを傷つけられたか?
「ロランダはだいぶ我慢していると思うぞ?
我は手加減して欲しくないと思うのだがな」
「もう少し、女らしいことに励んでくれれば」
「ハハハッ、心にもないことを言うな。あのようなロランダだから、お前も可愛いのだろう?」
「………まぁ、頑張り屋で自慢の妹です」
我が笑い飛ばすと、やっとレオの眉間の皺が取れ、ほんのり微笑んだ。
「うむ。ヤアも上手く治められるよう励んでくれ」
それ以外にもいくらか世間話をして、友は帰っていった。
バラのジャムも出したが、特に感想はなかった。
オフィキス家にはあって当たり前のものなのかも知れぬな。
ふぅ。
知らずと溜め息が出る。
ヤアはハーヴィー国だが、オフィキス公爵家の領地だ。
我が口出しを出来るものではない。
レオはレオで頑張っているのだし。
が、ロランダが思い描くヤアを見てみたい、とも思ってしまうのだ。
「殿下」
考え込んでいると、エドが声をかけて来た。
「あぁ、悪い。すぐ執務に戻る」
「いえ、クプス殿下なのですが」
「何かあったのか?」
執務机に向かいながら、エドに問う。
「ゲフォーア子爵令嬢と随分近しい御様子」
「近づいているのか?」
「はい」
「どのような令嬢だ」
淡々と答えていたエドが、眼を一度キョロリと動かした。
「それが」
「なんだ」
「貴族令嬢にあるまじきほど……」
問題ありか?
「…素直で…」
「素直?」
思いがけない単語に、我は素で聞き返してしまった。
「はい。孤児院の訪問などでは子どもたちとすぐ一緒に遊んでいます」
ふむ。よく言えば無邪気、悪く言えば精神年齢が低いってところか。
「最近クプスが孤児院訪問に熱心だと聞いていたが……」
「はい。クプスリスト殿下は、頼られるのが嬉しい以上に楽なのかと」
「なるほど」
「令嬢の方は、子爵令嬢として蔑まれることが多かったようですが、クプスリスト殿下はそのようなこともなく優しく接してくれるので、随分慕っていると」
「分かりやすく慕ってくれる令嬢にクプスも絆されているか……」
「ロランダ様が婚約者であることは忘れていないようです。常に集団行動ですし、上級生として下級生の世話を焼いているように傍目には見えます」
「傍目には…か、クプスもやるではないか」
皇族としての自覚があるようで、安堵する。
「はい。ご令嬢が噂話に上らないようにのご配慮でしょう」
クプスとロランダは政略での婚約だ。幼い頃婚約したから、同い年だが姉弟のように育っている。
愛はあるが、恋は育ってないのかもな。
クプスにはクラウディア嬢だったかという令嬢が初恋なのかも知れぬ。
さて、どうしたものか……。
机の書類に向かう脳裏に浮かんだのは、ひっそりと涙するロランダの姿だった。
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