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友、来る
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そろそろレオが来る頃か。
扉がノックされ、入室を許可すると護衛が扉を開けて来客を伝える。
「レオポルド=オフィキス氏がまいられました」
まだレオの姿は見えない。
「通せ」
一言言えば、エドが扉近くに行く。
開いた扉のところで立ち止まったレオが、
「レオポルド=オフィキス、御前にまいりました」
と、名乗ったあと深く一礼する。
ロランダより少し明るいココアブラウンの髪が、サラリと落ちた。
「入れ」
そう言っても動かない。
エドが「どうぞ」と促してやっと部屋に入ってくる。
貴族として完璧な礼儀だ。
しかし、友人として私室に呼んだときもこうだ。
「崩せ」と言っても、こういうところは崩さない。
そして、こちらから話しかけない限り黙っている。
以前、話しかけずに変顔をしても、涼やかな顔で待っていた。ある意味、変な奴だ。
「なぜ呼ばれたんだ? と思ってないか?」
「久方ぶりに皇宮に上がったゆえでしょうか」
「そうだ。我に会わず帰ろうとしただろう」
「殿下も今はお忙しい身。お邪魔などできません」
「お前が来れば、休憩ができるのだ。こうやって。
レオポルドとロランダくらいだ。茶を飲みに寄って欲しいと思うのは」
我は仕事の手を止めてソファに座り、レオに座るように促す。
なにも言わずともエドはお茶を入れ始めた。
「ロランダをお呼びになるのですか?」
「いや、呼ぶわけではない。クプスを探して、たまにやってくる」
「クプスリスト殿下を?」
「あぁ、一緒に学んでいるときになんだかうまく逃げるようでな。ロランダには世話をかける」
裏を読める言葉で静かにやり取りをする。
レオが顎に手を当てて申し訳なさそうな声を出した。
「それは、ロランダがクプスリスト殿下になにか失礼なことをしているのでは……」
「何を言うておる。お前もクプスの勉強嫌いを、知っておろう?」
「えぇ、まぁ。ただ、ロランダがクプスリスト殿下に寄り添えているのかと思いまして」
「まぁ、今は姉と弟のようだな」
しっかり者のロランダと、甘え上手のクプスを思い出して、我は苦笑いを浮かべる。
「クプスリスト殿下にプライドを傷つけていなければよいのですが……」
レオの眉間に薄く寄ったシワは、紅茶を飲んでも消えなかった。
「どうした?」
「はっ?」
「ロランダがクプスの世話を焼くのは今に始まったことじゃない。いつもはロランダを誉めていたではないか。何かあったのか?」
「いえ…」
珍しくレオが口ごもる。
我は紅茶を飲むように、レオから視線を外して問うた。
「兄妹喧嘩でもしたのか?」
「喧嘩といいますか……」
「なんだ」
「ヤアの経営に口を挟んできたのです。ロランダの言うことは確かに素晴らしいのですが、あまりにも理想が高すぎるので、叱ってしまって……。
父と話をしていたところに割って入ったので、ロランダは父にも少し叱られまして」
少し後悔があるのか、いつもよりさらに静かな声でレオが語る。
「珍しいな。いつの話だ」
「一昨日です」
一昨日と言えば、ロランダが裏庭にいた日。
ヤアへの思いが届かなくて泣いていたのか?
それほどロランダのヤアへの思いは強いのだろうか。
「殿下?」
レオの声で我に返った。
扉がノックされ、入室を許可すると護衛が扉を開けて来客を伝える。
「レオポルド=オフィキス氏がまいられました」
まだレオの姿は見えない。
「通せ」
一言言えば、エドが扉近くに行く。
開いた扉のところで立ち止まったレオが、
「レオポルド=オフィキス、御前にまいりました」
と、名乗ったあと深く一礼する。
ロランダより少し明るいココアブラウンの髪が、サラリと落ちた。
「入れ」
そう言っても動かない。
エドが「どうぞ」と促してやっと部屋に入ってくる。
貴族として完璧な礼儀だ。
しかし、友人として私室に呼んだときもこうだ。
「崩せ」と言っても、こういうところは崩さない。
そして、こちらから話しかけない限り黙っている。
以前、話しかけずに変顔をしても、涼やかな顔で待っていた。ある意味、変な奴だ。
「なぜ呼ばれたんだ? と思ってないか?」
「久方ぶりに皇宮に上がったゆえでしょうか」
「そうだ。我に会わず帰ろうとしただろう」
「殿下も今はお忙しい身。お邪魔などできません」
「お前が来れば、休憩ができるのだ。こうやって。
レオポルドとロランダくらいだ。茶を飲みに寄って欲しいと思うのは」
我は仕事の手を止めてソファに座り、レオに座るように促す。
なにも言わずともエドはお茶を入れ始めた。
「ロランダをお呼びになるのですか?」
「いや、呼ぶわけではない。クプスを探して、たまにやってくる」
「クプスリスト殿下を?」
「あぁ、一緒に学んでいるときになんだかうまく逃げるようでな。ロランダには世話をかける」
裏を読める言葉で静かにやり取りをする。
レオが顎に手を当てて申し訳なさそうな声を出した。
「それは、ロランダがクプスリスト殿下になにか失礼なことをしているのでは……」
「何を言うておる。お前もクプスの勉強嫌いを、知っておろう?」
「えぇ、まぁ。ただ、ロランダがクプスリスト殿下に寄り添えているのかと思いまして」
「まぁ、今は姉と弟のようだな」
しっかり者のロランダと、甘え上手のクプスを思い出して、我は苦笑いを浮かべる。
「クプスリスト殿下にプライドを傷つけていなければよいのですが……」
レオの眉間に薄く寄ったシワは、紅茶を飲んでも消えなかった。
「どうした?」
「はっ?」
「ロランダがクプスの世話を焼くのは今に始まったことじゃない。いつもはロランダを誉めていたではないか。何かあったのか?」
「いえ…」
珍しくレオが口ごもる。
我は紅茶を飲むように、レオから視線を外して問うた。
「兄妹喧嘩でもしたのか?」
「喧嘩といいますか……」
「なんだ」
「ヤアの経営に口を挟んできたのです。ロランダの言うことは確かに素晴らしいのですが、あまりにも理想が高すぎるので、叱ってしまって……。
父と話をしていたところに割って入ったので、ロランダは父にも少し叱られまして」
少し後悔があるのか、いつもよりさらに静かな声でレオが語る。
「珍しいな。いつの話だ」
「一昨日です」
一昨日と言えば、ロランダが裏庭にいた日。
ヤアへの思いが届かなくて泣いていたのか?
それほどロランダのヤアへの思いは強いのだろうか。
「殿下?」
レオの声で我に返った。
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