【完結】婚約破棄する?しない?~我は弟の婚約者がお気に入り

みなわなみ

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ガゼボにて

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 久しぶりの剣術の稽古だった。しかし、エドに遅れを取るとは……。
 あいつ、隠れて特訓したな。
 我と共に忙しいのによくやるぞ。

 今度、長めの休みをやるか。前々からせっつかれていたしな。

 そんなことを考えながら奥庭近くを通ると、ガゼボで人の気配がした。
 ここは皇宮の奥庭プライベートガーデンなので、入れる人は限られる。皇族か許された人間だけだ。

 今頃、誰だ?

 剣に手をかけつつ、花々の中をそっと近づくと、艶やかなココア色の髪が見えた。

 ロランダ?
 うつむいて何を見ているんだ?
 そんなところに花はないはず。

 いつもと様子の違うロランダを、我は花の薫りに包まれて凝視した。

 不意にロランダがゴソゴソ動き、我は反射的に身を隠す。
 なぜ隠れてしまうんだろう。
 いつものように声をかけられない。

 ロランダが取り出したのは、ハンカチか?

 え? 泣いている?

 後ろ姿のロランダはハンカチで、そっと目元を押さえ、しばらくジッとしたあと、グッと顔を上げた。
 たぶん、もう微笑んでいるだろう。

 花の薫りを吸い込むように我もひとつ深呼吸をする。

「美味しそうなチョコレートケーキだと思ったら、ロランダであったか」

 少し大きめの声をおどけた調子でかけると、ひっそりと微笑んだロランダが振り返った。

ロランダはチョコレートではありません」

 同じからかいに、小さな頃から何度となく返された答え。

「そなたの艶やかな髪を見てると、ついチョコレートが食べたくなるのだがな」

 冗談めかすが、これは本心だ。ロランダの髪は、とても艶やかで美しい。

「そのからかいも古くなりましたわね?」

「誉めておるのだぞ? 小さな頃から」

「そうは聞こえませんが」

 ロランダの咎めるような視線に生真面目な顔を返すと、ロランダがクスリと笑う。

「チョコレートではないが、お茶を付き合え。我も剣術の稽古のあとで休憩するところだ」

「いえ、今日は皇妃様とお茶をすることに」

 ロランダの顔は、もういつもと同じ微笑みを湛えている。

「そうか。では母上によろしく伝えてくれ」

 我もいつもと同じ笑みで返すと、ロランダが綺麗な一礼をした。

 暖かな陽射しのようなオレンジの一重菊を短剣タガーで摘む。

「母上に」

 そう告げてロランダに渡す。
 母上の好きな花だが、彼女のチョコレート色の髪に映える色だった。

 彼女が立ち去ったあと、ガゼボへ座った。ロランダが座っていた足元のレンガの色が変わっている。

 彼女はいつもあのように泣いているのか?
 いつからだ?

 小さい頃を思い出すが、泣いているのは、クプスや妹のリーリェ。
 ロランダは、その横で困った顔をしていた。

 そういえば、ロランダの泣き顔を見たことはないな……。

 そんなロランダが泣いていたことに、我はなぜか少しホッとしたのだ。
 同時に胸の奥がチリッと傷んだけれど。
 
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