【完結】婚約破棄する?しない?~我は弟の婚約者がお気に入り

みなわなみ

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我の人生は我のものではない

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「最近のクプスは、そなたをないがしろにしておらぬか?」

 紅茶を飲みながら、さりげなく問うてみる。

「私から逃げるのは、今に始まったことではございませんわ。夜会のファーストダンスはきちんと踊ってくださいますし」

 ほんのりと口角を上げるロランダは、どのようなときも微笑みを絶やさない訓練を受けている。
 が、先ほどのヤアの話をしていたときとは、ほんのわずかにロランダの声のトーンが違う。
 普通の人には判らないほどだが、付き合いの長い我には判る。

「ふむ。しかし、学園の新入生と近しいと聞くが」

「クラウディア様ですね。可愛いお嬢様で、頼られるのが嬉しいようですわ。私はそういうのが苦手ですから」

 そこは微笑むところなのか? ロランダ。
 申し訳なさに、我の心がズキンとする。

「そうか。しかし、我はそなたがいて随分助かっておる」

「ありがとうございます。光栄ですわ」

 微笑んで礼を述べると、ロランダは一度、眼を閉じて柔らかに笑った。

「クプスは探させておこう。そなたも忙しいのだろう? たまには早く帰ってゆっくり休め。皆によろしくな」

「ありがとうございます。では、お言葉に甘えまして失礼いたしますわ」

 来たときよりも、ゆったりとしたロランダの口調に、我も知らずと微笑みが浮かぶ。

「また来てくれ」

「はい。お邪魔いたしました。
エドガー様、美味しいお茶をありがとうございました」

 我に礼をしたあと、エドガーにもきちんと礼を述べて去る。
 周りの人物すべてに気配りができている証だ。
 それもこれも、幼い頃から未来の第二皇子妃として、厳しく躾けられるのに応えてきたゆえ。
 あまりにも出来すぎるので、クプスは少し息苦しいようだが、ロランダに愛想を尽かされては困る。
 ロランダが部屋を辞したあと、我はひとつ長い溜め息をついた。


「エド、クプスの様子を探ってくれ」

「かしこまりました。お相手については」

「そうだな、まずはクプスの出方によるから、ついで程度でよい」

「御意」

 我は周りの国情を見て、ハーヴィー国に一番利の在る姫と婚姻を結ばねばならぬ。
 小さな頃からそう言い聞かせられているし、世子とはそういうものだと思っている。
 だから、前皇帝陛下おじじさまは、第二皇子クプスリストと国内最高位の公爵令嬢ロランダの婚約を幼いうちに結んだのだ。
 ロランダもそれをよく解って小さい頃から努力をしている。
 とはいえ、国内女性の最高の嫁ぎ先である第二皇子妃を狙う令嬢は多い。
 第二皇子というのを差し引いても、柔らかな金の髪とアイスブルーの美丈夫だから、モテるのだろうと思うが。
 我ほどではないだろうがな。
 ロランダくらいだ。追いかけてこない女性は。

 クプスがもう少ししっかりしてくれればなぁ……。
 ロランダの支えがなくてもしっかり公務がこなせれば、好きな令嬢と結ばれるよう父上皇帝陛下にお願いするものを。

 国のために婚姻まで決められるのは、我だけでよい。

 ロランダが皇家に入らないのは痛いがな……。
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