3 / 35
バラのジャムと柑橘の蜂蜜
しおりを挟む
柑橘の蜂蜜か……。確かに蜜柑にしろ、レモンにしろ、香りが良さそうだ。それがなれば、果樹園、ひいては国が潤うだろう。
試してみる価値はありそうだな。
「ふーむ。エド」
「はい」
いろいろと考えながらエドに声をかけると、机で書類を睨んでいた侍従が、サッと我の元へ来る。
「信頼できる養蜂業者を3件ほど選べ。話を聞いて、巣箱作成用の材料を確保せよ。
使いやすい巣箱を作り、来春には希望者に貸し出せるようにしよう」
「すぐ手配にかかります。養蜂家が冬の間に果樹園を回れないかも調整してみましょう」
この男も、一を聞いて十を知る出来た側近だ。
「そうだな。実際に見てもらった方がよいだろう。
養蜂業者の蜂蜜が値崩れしないように、彼らの要望も訊いてくれ」
エドガーとの話を、にこにこしてロランダは聴いている。
我は自慢げに胸を張り、ティーカップを手にした。
「どうだ? ロランダ」
「素晴らしいですわ。税の代わりに納められれば、果樹が不作の年にも農民が安心しましょう」
「そうだな。それはよい。父上に奏上しよう」
ロランダの助言で何度助けられただろうか。
彼女が弟の妃となって皇家の一員となってくれるのを、我は誰よりも楽しみにしている。
ロランダがいれば、我が国をあまり知らない他国の姫が、我が妃になってもうまく導いてくれよう。
「このバラのジャムにも心惹かれるのだがな」
「私がヤアを治められれば特産にしますのに……」
ロランダが心底悔しそうに唇を噛む。
「レオに任せればよいではないか」
「そうですわね。ただ、兄は優秀ですが、ロマンチストではないのですわ」
「バラのジャムの価値が解らないということか?」
ロランダが、困ったように眉を下げる。
今は親しいものにしか向けない表情は、幼いときから変わらぬ。
「もともとバラのジャム自体は、ヤアの家庭料理ですし、誰でも出来るものと思っているのでしょう。特に珍しいものではないと。
それに祖母のために祖父が作ったバラを、金儲けに使いたくないのかもしれません」
「ロマンチストではないか」
からかいぎみにレオをかばうと、ロランダもふんわり笑った。
「そうでしょうか? ふふ、そうなのかもしれませんね」
冷めた紅茶をゆっくり飲み干して、ロランダは、ほぅと息を吐く。
「……ヤアには宝がたくさんありますわ。見つけにくいですけど。それを活かせないのはもったいないと思ってしまいますの……」
「レオでは上手く行かないと思うのかい?」
「兄もそれなりに上手く治めるでしょう、ただ……」
「ただ?」
「私が思い描くヤアには、女性を喜ばせるような想像力と創造力が必要なのですわ」
「それは、あの生真面目なレオの弱点だな」
「そうなのです」
ロランダは、愛しそうな、それでいて仕方なさそうで悔しそうな、不思議な笑みを作った。
試してみる価値はありそうだな。
「ふーむ。エド」
「はい」
いろいろと考えながらエドに声をかけると、机で書類を睨んでいた侍従が、サッと我の元へ来る。
「信頼できる養蜂業者を3件ほど選べ。話を聞いて、巣箱作成用の材料を確保せよ。
使いやすい巣箱を作り、来春には希望者に貸し出せるようにしよう」
「すぐ手配にかかります。養蜂家が冬の間に果樹園を回れないかも調整してみましょう」
この男も、一を聞いて十を知る出来た側近だ。
「そうだな。実際に見てもらった方がよいだろう。
養蜂業者の蜂蜜が値崩れしないように、彼らの要望も訊いてくれ」
エドガーとの話を、にこにこしてロランダは聴いている。
我は自慢げに胸を張り、ティーカップを手にした。
「どうだ? ロランダ」
「素晴らしいですわ。税の代わりに納められれば、果樹が不作の年にも農民が安心しましょう」
「そうだな。それはよい。父上に奏上しよう」
ロランダの助言で何度助けられただろうか。
彼女が弟の妃となって皇家の一員となってくれるのを、我は誰よりも楽しみにしている。
ロランダがいれば、我が国をあまり知らない他国の姫が、我が妃になってもうまく導いてくれよう。
「このバラのジャムにも心惹かれるのだがな」
「私がヤアを治められれば特産にしますのに……」
ロランダが心底悔しそうに唇を噛む。
「レオに任せればよいではないか」
「そうですわね。ただ、兄は優秀ですが、ロマンチストではないのですわ」
「バラのジャムの価値が解らないということか?」
ロランダが、困ったように眉を下げる。
今は親しいものにしか向けない表情は、幼いときから変わらぬ。
「もともとバラのジャム自体は、ヤアの家庭料理ですし、誰でも出来るものと思っているのでしょう。特に珍しいものではないと。
それに祖母のために祖父が作ったバラを、金儲けに使いたくないのかもしれません」
「ロマンチストではないか」
からかいぎみにレオをかばうと、ロランダもふんわり笑った。
「そうでしょうか? ふふ、そうなのかもしれませんね」
冷めた紅茶をゆっくり飲み干して、ロランダは、ほぅと息を吐く。
「……ヤアには宝がたくさんありますわ。見つけにくいですけど。それを活かせないのはもったいないと思ってしまいますの……」
「レオでは上手く行かないと思うのかい?」
「兄もそれなりに上手く治めるでしょう、ただ……」
「ただ?」
「私が思い描くヤアには、女性を喜ばせるような想像力と創造力が必要なのですわ」
「それは、あの生真面目なレオの弱点だな」
「そうなのです」
ロランダは、愛しそうな、それでいて仕方なさそうで悔しそうな、不思議な笑みを作った。
0
お気に入りに追加
125
あなたにおすすめの小説

【完結】ええと?あなたはどなたでしたか?
ここ
恋愛
アリサの婚約者ミゲルは、婚約のときから、平凡なアリサが気に入らなかった。
アリサはそれに気づいていたが、政略結婚に逆らえない。
15歳と16歳になった2人。ミゲルには恋人ができていた。マーシャという綺麗な令嬢だ。邪魔なアリサにこわい思いをさせて、婚約解消をねらうが、事態は思わぬ方向に。

【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ。
緑谷めい
恋愛
「むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ」
そう、むしゃくしゃしてやった。後悔はしていない。
私は、カトリーヌ・ナルセー。17歳。
ナルセー公爵家の長女であり、第2王子ハロルド殿下の婚約者である。父のナルセー公爵は、この国の宰相だ。
その父は、今、私の目の前で、顔面蒼白になっている。
「カトリーヌ、もう一度言ってくれ。私の聞き間違いかもしれぬから」
お父様、お気の毒ですけれど、お聞き間違いではございませんわ。では、もう一度言いますわよ。
「今日、王宮で、ハロルド様に往復ビンタを浴びせ、更に足で蹴りつけましたの」


この魔法はいつか解ける
石原こま
恋愛
「魔法が解けたのですね。」
幼い頃、王太子に魅了魔法をかけてしまい婚約者に選ばれたリリアーナ。
ついに真実の愛により、王子にかけた魔法が解ける時が訪れて・・・。
虐げられて育った少女が、魅了魔法の力を借りて幸せになるまでの物語です。
※小説家になろうのサイトでも公開しています。
アルファポリスさんにもアカウント作成してみました。

あなたを忘れる魔法があれば
美緒
恋愛
乙女ゲームの攻略対象の婚約者として転生した私、ディアナ・クリストハルト。
ただ、ゲームの舞台は他国の為、ゲームには婚約者がいるという事でしか登場しない名前のないモブ。
私は、ゲームの強制力により、好きになった方を奪われるしかないのでしょうか――?
これは、「あなたを忘れる魔法があれば」をテーマに書いてみたものです――が、何か違うような??
R15、残酷描写ありは保険。乙女ゲーム要素も空気に近いです。
※小説家になろう、カクヨムにも掲載してます

働かなくていいなんて最高!貴族夫人の自由気ままな生活
ゆる
恋愛
前世では、仕事に追われる日々を送り、恋愛とは無縁のまま亡くなった私。
「今度こそ、のんびり優雅に暮らしたい!」
そう願って転生した先は、なんと貴族令嬢!
そして迎えた結婚式――そこで前世の記憶が蘇る。
「ちょっと待って、前世で恋人もできなかった私が結婚!?!??」
しかも相手は名門貴族の旦那様。
「君は何もしなくていい。すべて自由に過ごせばいい」と言われ、夢の“働かなくていい貴族夫人ライフ”を満喫するつもりだったのに――。
◆メイドの待遇改善を提案したら、旦那様が即採用!
◆夫の仕事を手伝ったら、持ち前の簿記と珠算スキルで屋敷の経理が超効率化!
◆商人たちに簿記を教えていたら、商業界で話題になりギルドの顧問に!?
「あれ? なんで私、働いてるの!?!??」
そんな中、旦那様から突然の告白――
「実は、君を妻にしたのは政略結婚のためではない。ずっと、君を想い続けていた」
えっ、旦那様、まさかの溺愛系でした!?
「自由を与えることでそばにいてもらう」つもりだった旦那様と、
「働かない貴族夫人」になりたかったはずの私。
お互いの本当の気持ちに気づいたとき、
気づけば 最強夫婦 になっていました――!
のんびり暮らすつもりが、商業界のキーパーソンになってしまった貴族夫人の、成長と溺愛の物語!

あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。
ふまさ
恋愛
楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。
でも。
愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる