【完結】婚約破棄する?しない?~我は弟の婚約者がお気に入り

みなわなみ

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バラのジャムと柑橘の蜂蜜

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 柑橘の蜂蜜か……。確かに蜜柑にしろ、レモンにしろ、香りが良さそうだ。それがなれば、果樹園、ひいては国が潤うだろう。
 試してみる価値はありそうだな。

「ふーむ。エド」

「はい」

 いろいろと考えながらエドに声をかけると、机で書類を睨んでいた侍従エドガーが、サッと我の元へ来る。

「信頼できる養蜂業者を3件ほど選べ。話を聞いて、巣箱作成用の材料を確保せよ。
 使いやすい巣箱を作り、来春には希望者に貸し出せるようにしよう」

「すぐ手配にかかります。養蜂家が冬の間に果樹園を回れないかも調整してみましょう」

 この男も、一を聞いて十を知る出来た側近だ。

「そうだな。実際に見てもらった方がよいだろう。
 養蜂業者の蜂蜜が値崩れしないように、彼らの要望も訊いてくれ」

 エドガーとの話を、にこにこしてロランダは聴いている。
 我は自慢げに胸を張り、ティーカップを手にした。

「どうだ? ロランダ」

「素晴らしいですわ。税の代わりに納められれば、果樹が不作の年にも農民が安心しましょう」

「そうだな。それはよい。父上に奏上しよう」

 ロランダの助言アドバイスで何度助けられただろうか。
 彼女が弟の妃となって皇家の一員となってくれるのを、我は誰よりも楽しみにしている。
 ロランダがいれば、我が国をあまり知らない他国の姫が、我が妃になってもうまく導いてくれよう。


「このバラのジャムにも心惹かれるのだがな」

「私がヤアを治められれば特産にしますのに……」

 ロランダが心底悔しそうに唇を噛む。

「レオに任せればよいではないか」

「そうですわね。ただ、兄は優秀ですが、ロマンチストではないのですわ」

「バラのジャムの価値が解らないということか?」

 ロランダが、困ったように眉を下げる。
 今は親しいものにしか向けない表情この顔は、幼いときから変わらぬ。

「もともとバラのジャム自体は、ヤアの家庭料理ですし、誰でも出来るものと思っているのでしょう。特に珍しいものではないと。
 それに祖母のために祖父が作ったバラを、金儲けに使いたくないのかもしれません」

「ロマンチストではないか」

 からかいぎみにレオをかばうと、ロランダもふんわり笑った。

「そうでしょうか? ふふ、そうなのかもしれませんね」

 冷めた紅茶をゆっくり飲み干して、ロランダは、ほぅと息を吐く。

「……ヤアには宝がたくさんありますわ。見つけにくいですけど。それを活かせないのはもったいないと思ってしまいますの……」

「レオでは上手く行かないと思うのかい?」

「兄もそれなりに上手く治めるでしょう、ただ……」

「ただ?」

「私が思い描くヤアには、女性を喜ばせるような想像力イマジネーション創造力クリエイティビィが必要なのですわ」

「それは、あの生真面目なレオの弱点だな」

「そうなのです」

 ロランダは、愛しそうな、それでいて仕方なさそうで悔しそうな、不思議な笑みを作った。
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