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オトフリート・クロンプリンツ・ハーヴィー
我が名である。
ハーヴィー皇国の第一王子として生まれ、小さな頃から将来の皇帝として育てられてきた。
二年前、前皇帝陛下のお祖父様が体調を崩したのを機に皇位を退いた。
父上が即位して皇帝となり、我は皇太子になった。
我の人生全ては、ハーヴィー国のために整えられている。
そう。婚姻さえも。
二十歳間近になった皇太子でありながら婚約者がいないのは、周りの国々の情勢が今一つ落ち着かないため。
この国とは縁を結ばねば……という国がないのだ。
そのために、ここ3年ほどは、それぞれの国と取引があったりする貴族の後押し合戦になっている。
父上もそろそろ辟易しているはず。
我が国の貴族と他国の繋がりも見えたことだし、そろそろ結論を……と考えておられよう。
誰になるのだろうか……
考え事をしつつ、書類に目を通していると、ドアをノックする音がする。
「ロランダです。クプスリスト殿下はいらっしゃいませんか?」
侍従のエドガーに目配せしてドアを開けさせる。
艶やかなココアブラウンの髪を結い上げ、落ち着いたローズマダー色のドレスを着た少女が、少し息を切らせつつ、きれいなカーテシーをする。
「またクプスが逃げたのかい?」
エドガーに頷いて、ロランダに入室を促しつつ訊くと、彼女は立ち止まって深々と頭を下げた。
「申し訳ありません」
「逃げたのであれば、そなたが謝ることではないだろう?」
「いえ、また間違いを指摘してしまいました」
「はは、やり込められたか。しかし、正論なのだろう? そなたが気に病むことはない」
そう声をかけると、ロランダは、ホッとしたような笑みを見せた。
「ありがとうございます。でも、ここにもいらっしゃらないのですね……。他を当たってみます。失礼いたします」
「まぁ待て。お茶でも飲んで一息いれろ」
「ですが……」
「クプスなら、そろそろ城から逃亡して孤児院ではないか?」
「ご存知でしたか……」
「まぁ、噂程度だがな」
ロランダが探しているのは、すぐ下の弟、第二皇子であるクプスリスト。ロランダはその婚約者である。
とはいえ、ロランダがクプスを探し回っているのは、いわゆる女性が好きな男性を追いかけ回すのとは異なる。
まだまだ未熟な第二皇子を、我の片腕に相応しいように鍛えるためだ。
我が名である。
ハーヴィー皇国の第一王子として生まれ、小さな頃から将来の皇帝として育てられてきた。
二年前、前皇帝陛下のお祖父様が体調を崩したのを機に皇位を退いた。
父上が即位して皇帝となり、我は皇太子になった。
我の人生全ては、ハーヴィー国のために整えられている。
そう。婚姻さえも。
二十歳間近になった皇太子でありながら婚約者がいないのは、周りの国々の情勢が今一つ落ち着かないため。
この国とは縁を結ばねば……という国がないのだ。
そのために、ここ3年ほどは、それぞれの国と取引があったりする貴族の後押し合戦になっている。
父上もそろそろ辟易しているはず。
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誰になるのだろうか……
考え事をしつつ、書類に目を通していると、ドアをノックする音がする。
「ロランダです。クプスリスト殿下はいらっしゃいませんか?」
侍従のエドガーに目配せしてドアを開けさせる。
艶やかなココアブラウンの髪を結い上げ、落ち着いたローズマダー色のドレスを着た少女が、少し息を切らせつつ、きれいなカーテシーをする。
「またクプスが逃げたのかい?」
エドガーに頷いて、ロランダに入室を促しつつ訊くと、彼女は立ち止まって深々と頭を下げた。
「申し訳ありません」
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「いえ、また間違いを指摘してしまいました」
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「ありがとうございます。でも、ここにもいらっしゃらないのですね……。他を当たってみます。失礼いたします」
「まぁ待て。お茶でも飲んで一息いれろ」
「ですが……」
「クプスなら、そろそろ城から逃亡して孤児院ではないか?」
「ご存知でしたか……」
「まぁ、噂程度だがな」
ロランダが探しているのは、すぐ下の弟、第二皇子であるクプスリスト。ロランダはその婚約者である。
とはいえ、ロランダがクプスを探し回っているのは、いわゆる女性が好きな男性を追いかけ回すのとは異なる。
まだまだ未熟な第二皇子を、我の片腕に相応しいように鍛えるためだ。
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