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腹の探り愛の恋をします
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殿下の侍従が私の元へ捧げ持ってきたのは、見事なレースが美しい、シルバーのハイヒール。
「我が金で買える『そなたの一番欲しいもの』だ」
「……」
「違うておるか?」
私はふるふると首を横に振りました。
宝石より、ドレスより欲しかったのはハイヒール。
それは誰も知らないはずなのに。
「我の本気だ。そなたの道を応援するが、我はそなたを諦めぬ。いつかこの靴を履いたそなたをエスコートさせてくれ」
「私がヤアにいても待ってくださると?」
「あぁ」
「……考えておきますわ」
「用心深いな。それでこそ我の欲しいロランダだ」
殿下がフッと微笑みます。
侍女の手を借りて、靴を履き替えたら、視線が一段高くなりました。
殿下の口元が目の高さにあるな……と思ったら、軽く口づけされました。
「我のことを覚えておいて欲しい」
いつも堂々とされる殿下が、すがるような声で望まれました。
ずるいですわ、ヤアのことで頭が一杯の私の中に入ってくるなんて。
でも、これも殿下の作戦かもしれませんね。簡単には心を許さないことにしましょう。
「姫君方の話を失くされれば、お言葉に沿いますわ」
恥ずかしいのを堪えて、優雅に微笑みます。
皇太子妃候補の各国の姫君方には、我が国の貴族の派閥が付いています。それを黙らせていただきませんと。
それくらいの意地悪はお許しいただけるでしょう。
「わかった。我が貴族連中を黙らせるのと、そなたがヤアを富ませるのと、どちらが先に結果が出るかな。
無論、我だな」
「さぁ、どうでしょうか」
私は既に根回しは済んでいますのよ。
「皇帝陛下と皇妃殿下のご説得もですわ」
そう言うと、殿下がプッと吹き出しました。
「それはもう済んでおる」
え?
「婚約破棄をあれほど反対していた父上と母上が、何故、寛大にクプスを赦したと思う?」
まさか……
「『我の妃にロランダを望みます』と申し上げたからだ。母上など大喜びであったぞ」
なんてこと…。
外堀を半分埋められた気がしますわ。
「ロランダ、すぐに我に心を寄せてくれとは言わぬ。ただ、我がそなたに心を寄せるのを厭わないで欲しい。ダメか?」
「それぐらいは……」
あまりにもまっすぐに見つめる碧い瞳から逃れるように、目を伏せてしまいます。
「それと、ヤアの経営に必要があれば、我を使え」
「それは畏れ多いです」
思いがけない申し出に、私は顔をあげて、首を横に振ります。
「我がそうして欲しいのだ。皇太子としても、男としても。きいてくれぬか?」
えっと、なんだか殿下のペースでは?
落ち着かなくてはマズいと思うのに、殿下が畳み掛けてきます。
「きいてくれぬのか?」
ううっ。
「…ヤアのためになりましたら」
「うむ。それで良い」
「ありがとうございます」
「邪魔をした。体をいとえ。息災でな」
もてなしも断られてサッサと帰っていかれました。
ハイヒールを履いたまま、ステップを踏んでみました。
なんだか、心がほんわりします。
私が皇都を離れても待ってくださるならば、お心に応えたい気がします。
まだオトフリート殿下には内緒ですが。
私の幸せは私が決めるのですもの。
ー了ー
「我が金で買える『そなたの一番欲しいもの』だ」
「……」
「違うておるか?」
私はふるふると首を横に振りました。
宝石より、ドレスより欲しかったのはハイヒール。
それは誰も知らないはずなのに。
「我の本気だ。そなたの道を応援するが、我はそなたを諦めぬ。いつかこの靴を履いたそなたをエスコートさせてくれ」
「私がヤアにいても待ってくださると?」
「あぁ」
「……考えておきますわ」
「用心深いな。それでこそ我の欲しいロランダだ」
殿下がフッと微笑みます。
侍女の手を借りて、靴を履き替えたら、視線が一段高くなりました。
殿下の口元が目の高さにあるな……と思ったら、軽く口づけされました。
「我のことを覚えておいて欲しい」
いつも堂々とされる殿下が、すがるような声で望まれました。
ずるいですわ、ヤアのことで頭が一杯の私の中に入ってくるなんて。
でも、これも殿下の作戦かもしれませんね。簡単には心を許さないことにしましょう。
「姫君方の話を失くされれば、お言葉に沿いますわ」
恥ずかしいのを堪えて、優雅に微笑みます。
皇太子妃候補の各国の姫君方には、我が国の貴族の派閥が付いています。それを黙らせていただきませんと。
それくらいの意地悪はお許しいただけるでしょう。
「わかった。我が貴族連中を黙らせるのと、そなたがヤアを富ませるのと、どちらが先に結果が出るかな。
無論、我だな」
「さぁ、どうでしょうか」
私は既に根回しは済んでいますのよ。
「皇帝陛下と皇妃殿下のご説得もですわ」
そう言うと、殿下がプッと吹き出しました。
「それはもう済んでおる」
え?
「婚約破棄をあれほど反対していた父上と母上が、何故、寛大にクプスを赦したと思う?」
まさか……
「『我の妃にロランダを望みます』と申し上げたからだ。母上など大喜びであったぞ」
なんてこと…。
外堀を半分埋められた気がしますわ。
「ロランダ、すぐに我に心を寄せてくれとは言わぬ。ただ、我がそなたに心を寄せるのを厭わないで欲しい。ダメか?」
「それぐらいは……」
あまりにもまっすぐに見つめる碧い瞳から逃れるように、目を伏せてしまいます。
「それと、ヤアの経営に必要があれば、我を使え」
「それは畏れ多いです」
思いがけない申し出に、私は顔をあげて、首を横に振ります。
「我がそうして欲しいのだ。皇太子としても、男としても。きいてくれぬか?」
えっと、なんだか殿下のペースでは?
落ち着かなくてはマズいと思うのに、殿下が畳み掛けてきます。
「きいてくれぬのか?」
ううっ。
「…ヤアのためになりましたら」
「うむ。それで良い」
「ありがとうございます」
「邪魔をした。体をいとえ。息災でな」
もてなしも断られてサッサと帰っていかれました。
ハイヒールを履いたまま、ステップを踏んでみました。
なんだか、心がほんわりします。
私が皇都を離れても待ってくださるならば、お心に応えたい気がします。
まだオトフリート殿下には内緒ですが。
私の幸せは私が決めるのですもの。
ー了ー
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