上 下
13 / 14

腹の探り愛の恋をします

しおりを挟む
 殿下の侍従が私の元へ捧げ持ってきたのは、見事なレースが美しい、シルバーのハイヒール。

われが金で買える『そなたの一番欲しいもの』だ」 

「……」

ちごうておるか?」

 私はふるふると首を横に振りました。
 宝石より、ドレスより欲しかったのはハイヒール。
 それは誰も知らないはずなのに。


「我の本気だ。そなたの道を応援するが、我はそなたを諦めぬ。いつかこの靴を履いたそなたをエスコートさせてくれ」

「私がヤアにいても待ってくださると?」

「あぁ」

「……考えておきますわ」

「用心深いな。それでこそ我の欲しいロランダだ」

 殿下がフッと微笑みます。

 侍女の手を借りて、靴を履き替えたら、視線が一段高くなりました。
 殿下の口元が目の高さにあるな……と思ったら、軽く口づけされました。 

「我のことを覚えておいて欲しい」

 いつも堂々とされる殿下が、すがるような声で望まれました。

 ずるいですわ、ヤアのことで頭が一杯の私の中に入ってくるなんて。
 でも、これも殿下の作戦かもしれませんね。簡単には心を許さないことにしましょう。

「姫君方の話を失くされれば、お言葉に沿いますわ」

 恥ずかしいのを堪えて、優雅に微笑みます。

 皇太子妃候補の各国の姫君方には、我が国の貴族の派閥が付いています。それを黙らせていただきませんと。
 それくらいの意地悪はお許しいただけるでしょう。

「わかった。我が貴族連中を黙らせるのと、そなたがヤアを富ませるのと、どちらが先に結果が出るかな。
 無論、我だな」

「さぁ、どうでしょうか」

 私は既に根回しは済んでいますのよ。

「皇帝陛下と皇妃殿下のご説得もですわ」

 そう言うと、殿下がプッと吹き出しました。

「それはもう済んでおる」

 え?

「婚約破棄をあれほど反対していた父上と母上が、何故、寛大にクプスをゆるしたと思う?」

 まさか……

「『我の妃にロランダを望みます』と申し上げたからだ。母上など大喜びであったぞ」

 なんてこと…。
 外堀を半分埋められた気がしますわ。

「ロランダ、すぐに我に心を寄せてくれとは言わぬ。ただ、我がそなたに心を寄せるのをいとわないで欲しい。ダメか?」

「それぐらいは……」

 あまりにもまっすぐに見つめるあおい瞳から逃れるように、目を伏せてしまいます。

「それと、ヤアの経営に必要があれば、我を使え」

「それは畏れ多いです」

 思いがけない申し出に、私は顔をあげて、首を横に振ります。

「我がそうして欲しいのだ。皇太子としても、男としても。きいてくれぬか?」

 えっと、なんだか殿下のペースでは?
 落ち着かなくてはマズいと思うのに、殿下が畳み掛けてきます。

「きいてくれぬのか?」

 ううっ。

「…ヤアのためになりましたら」

「うむ。それで良い」

「ありがとうございます」

「邪魔をした。体をいとえ。息災でな」

 もてなしも断られてサッサと帰っていかれました。

 
 ハイヒールを履いたまま、ステップを踏んでみました。
 なんだか、心がほんわりします。

 私が皇都を離れても待ってくださるならば、お心に応えたい気がします。
 まだオトフリート殿下には内緒ですが。
 私の幸せは私が決めるのですもの。


ー了ー
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

私の婚約者が変態紳士で困ります!~変態を取り除く為、伯爵令嬢は奮闘する~

怪ジーン
恋愛
 アイことアイリッシュ・スタンバーグは転生してきた伯爵令嬢。元々物作りが好きなこともあり、夢中になっていたら気づけば二十八歳とこの世界では完全なる行き遅れ。  夢中になりすぎたと後悔するアイであったが、父親の奮闘のお陰もあってか、婚約者が決まる。それは、なんと奇跡の相手。王国随一の力を持つブルクファルト辺境伯の嫡男。しきし、年は、まだ十一歳と子供であった為に婚約という形となった。  そして遂に対面する日が。婚約者の部屋に呼ばれたアイが扉を開いて見たもの、それは、縄に下着姿で縛られ天井に吊るされた美少年リーンであった。 「やぁ、来たね。僕の子猫ちゃん」  アイはそっとその扉を閉めた。  アイは結婚迄にリーンの性格を改善出来るのだろうか?

婚約破棄ですか?それは死ぬ覚悟あっての話ですか?

R.K.
恋愛
 結婚式まで数日という日──  それは、突然に起こった。 「婚約を破棄する」  急にそんなことを言われても困る。  そういった意味を込めて私は、 「それは、死ぬ覚悟があってのことなのかしら?」  相手を試すようにそう言った。 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆  この作品は登場人物の名前は出てきません。  短編の中の短編です。

【完結】許婚の子爵令息から婚約破棄を宣言されましたが、それを知った公爵家の幼馴染から溺愛されるようになりました

八重
恋愛
「ソフィ・ルヴェリエ! 貴様とは婚約破棄する!」 子爵令息エミール・エストレが言うには、侯爵令嬢から好意を抱かれており、男としてそれに応えねばならないというのだ。 失意のどん底に突き落とされたソフィ。 しかし、婚約破棄をきっかけに幼馴染の公爵令息ジル・ルノアールから溺愛されることに! 一方、エミールの両親はソフィとの婚約破棄を知って大激怒。 エミールの両親の命令で『好意の証拠』を探すが、侯爵令嬢からの好意は彼の勘違いだった。 なんとかして侯爵令嬢を口説くが、婚約者のいる彼女がなびくはずもなく……。 焦ったエミールはソフィに復縁を求めるが、時すでに遅し──

悪役令嬢は婚約破棄され、転生ヒロインは逆ハーを狙って断罪されました。

まなま
恋愛
悪役令嬢は婚約破棄され、転生ヒロインは逆ハーを狙って断罪されました。 様々な思惑に巻き込まれた可哀想な皇太子に胸を痛めるモブの公爵令嬢。 少しでも心が休まれば、とそっと彼に話し掛ける。 果たして彼は本当に落ち込んでいたのか? それとも、銀のうさぎが罠にかかるのを待っていたのか……?

平和的に婚約破棄したい悪役令嬢 vs 絶対に婚約破棄したくない攻略対象王子

深見アキ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢・シェリルに転生した主人公は平和的に婚約破棄しようと目論むものの、何故かお相手の王子はすんなり婚約破棄してくれそうになくて……? タイトルそのままのお話。 (4/1おまけSS追加しました) ※小説家になろうにも掲載してます。 ※表紙素材お借りしてます。

【完結】ご安心を、問題ありません。

るるらら
恋愛
婚約破棄されてしまった。 はい、何も問題ありません。 ------------ 公爵家の娘さんと王子様の話。 オマケ以降は旦那さんとの話。

公爵子息に気に入られて貴族令嬢になったけど姑の嫌がらせで婚約破棄されました。傷心の私を癒してくれるのは幼馴染だけです

エルトリア
恋愛
「アルフレッド・リヒテンブルグと、リーリエ・バンクシーとの婚約は、只今をもって破棄致します」 塗装看板屋バンクシー・ペイントサービスを営むリーリエは、人命救助をきっかけに出会った公爵子息アルフレッドから求婚される。 平民と貴族という身分差に戸惑いながらも、アルフレッドに惹かれていくリーリエ。 だが、それを快く思わない公爵夫人は、リーリエに対して冷酷な態度を取る。さらには、許嫁を名乗る娘が現れて――。 お披露目を兼ねた舞踏会で、婚約破棄を言い渡されたリーリエが、失意から再び立ち上がる物語。 著者:藤本透 原案:エルトリア

愚者(バカ)は不要ですから、お好きになさって?

海野真珠
恋愛
「ついにアレは捨てられたか」嘲笑を隠さない言葉は、一体誰が発したのか。 「救いようがないな」救う気もないが、と漏れた本音。 「早く消えればよろしいのですわ」コレでやっと解放されるのですもの。 「女神の承認が下りたか」白銀に輝く光が降り注ぐ。

処理中です...