上 下
11 / 14

わたくしの秘密をご存知でしたか。

しおりを挟む
「なぁ、スピース王家に連なる姫」

 優雅にステップを踏み、私をリードするオトフリート殿下がこんな黒い声を出していると誰が想像するでしょう。

 まぁ、オトフリート殿下のこと。クプスリスト殿下と違い、私のことも調べあげているのでしょう。

 実は私が望んだヤアは、元々おばあさまのもの。
 今もそこで前公爵のおじいさまと仲良く暮らしておられるおばあさまは、先々代スピース王家の長子で、王位継承権第一位の王女でした。
 前のスピース国王の姉になります。
 それが、留学生のおじいさまと恋に落ち、全てを捨てておじいさまのところへお嫁にきたのです。
 小さい頃からおばあさまが大好きだった私は、スピース語を知らずと聞き覚えたのですわ。

 なにせ、おばあさまと訪れるヤアは、スピース国の中に離れ小島のように浮かんでいます。
 ハーヴィ国公爵家領地となっても、スピース語が日常的に使われているのですわ。
 元々、おばあさまのおばあさま、元王妃様の御料地だったとか。
 建前としては、スピース国の食料増産研究を成功させた、おじいさまへの勲功褒賞になっていますが、実際はおばあさまの里帰り場所を与えたかったようです。
 
 ヤアは意外とややこしい土地ですの。

 おまけに王位継承権を捨てたのはおばあさまだけだからと、お父様にも、その子どもの私たちにも末席のスピース国王位継承権がありますの。まぁ、ないにも等しいのと、面倒を避けるために秘しておりますが。
 気にかけてくださるスピース国のためにも、私はヤアを富ませたいのですわ。


「この賭け、我は勝っても負けても良いと言うたであろう?」

 オトフリート殿下が、またニヤリと笑います。
 遠くから見ると微笑んでいるように見えるでしょうね。
 でも、私は黒さが分かるので警戒します。

「そうですね。殿下が私の一番欲しいものを下されたら考えますわ」

「それは無理だな」

 即答される殿下に、ほんの少し首をかしげました。

「そなたが望むのは『自由』であろう?」

 バレていましたか。ヤアを富ませ、そこでのんびりと生きるのが私の夢ですわ。
 忙しい皇太子妃などくそくらえです。あら、ワタクシとしたことが。

「そこまでお解りなら、私の思うとおりにさせてくださいませ」

「ふむ。そうだな。そなたが思い描くヤアは面白い。我も見てみたいのであったぞ」

 あら、すんなりと引かれますのね。なぜかしら、ちょっと残念な気も……。

 そう思っているうちに、曲が終わりましたわ。
 殿下に軽くカーテシーをしたら、グイと抱き寄せられて頬にキスをされました。



 
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

婚約破棄ですか?それは死ぬ覚悟あっての話ですか?

R.K.
恋愛
 結婚式まで数日という日──  それは、突然に起こった。 「婚約を破棄する」  急にそんなことを言われても困る。  そういった意味を込めて私は、 「それは、死ぬ覚悟があってのことなのかしら?」  相手を試すようにそう言った。 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆  この作品は登場人物の名前は出てきません。  短編の中の短編です。

【完結】許婚の子爵令息から婚約破棄を宣言されましたが、それを知った公爵家の幼馴染から溺愛されるようになりました

八重
恋愛
「ソフィ・ルヴェリエ! 貴様とは婚約破棄する!」 子爵令息エミール・エストレが言うには、侯爵令嬢から好意を抱かれており、男としてそれに応えねばならないというのだ。 失意のどん底に突き落とされたソフィ。 しかし、婚約破棄をきっかけに幼馴染の公爵令息ジル・ルノアールから溺愛されることに! 一方、エミールの両親はソフィとの婚約破棄を知って大激怒。 エミールの両親の命令で『好意の証拠』を探すが、侯爵令嬢からの好意は彼の勘違いだった。 なんとかして侯爵令嬢を口説くが、婚約者のいる彼女がなびくはずもなく……。 焦ったエミールはソフィに復縁を求めるが、時すでに遅し──

悪役令嬢は婚約破棄され、転生ヒロインは逆ハーを狙って断罪されました。

まなま
恋愛
悪役令嬢は婚約破棄され、転生ヒロインは逆ハーを狙って断罪されました。 様々な思惑に巻き込まれた可哀想な皇太子に胸を痛めるモブの公爵令嬢。 少しでも心が休まれば、とそっと彼に話し掛ける。 果たして彼は本当に落ち込んでいたのか? それとも、銀のうさぎが罠にかかるのを待っていたのか……?

平和的に婚約破棄したい悪役令嬢 vs 絶対に婚約破棄したくない攻略対象王子

深見アキ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢・シェリルに転生した主人公は平和的に婚約破棄しようと目論むものの、何故かお相手の王子はすんなり婚約破棄してくれそうになくて……? タイトルそのままのお話。 (4/1おまけSS追加しました) ※小説家になろうにも掲載してます。 ※表紙素材お借りしてます。

【完結】ご安心を、問題ありません。

るるらら
恋愛
婚約破棄されてしまった。 はい、何も問題ありません。 ------------ 公爵家の娘さんと王子様の話。 オマケ以降は旦那さんとの話。

公爵子息に気に入られて貴族令嬢になったけど姑の嫌がらせで婚約破棄されました。傷心の私を癒してくれるのは幼馴染だけです

エルトリア
恋愛
「アルフレッド・リヒテンブルグと、リーリエ・バンクシーとの婚約は、只今をもって破棄致します」 塗装看板屋バンクシー・ペイントサービスを営むリーリエは、人命救助をきっかけに出会った公爵子息アルフレッドから求婚される。 平民と貴族という身分差に戸惑いながらも、アルフレッドに惹かれていくリーリエ。 だが、それを快く思わない公爵夫人は、リーリエに対して冷酷な態度を取る。さらには、許嫁を名乗る娘が現れて――。 お披露目を兼ねた舞踏会で、婚約破棄を言い渡されたリーリエが、失意から再び立ち上がる物語。 著者:藤本透 原案:エルトリア

愚者(バカ)は不要ですから、お好きになさって?

海野真珠
恋愛
「ついにアレは捨てられたか」嘲笑を隠さない言葉は、一体誰が発したのか。 「救いようがないな」救う気もないが、と漏れた本音。 「早く消えればよろしいのですわ」コレでやっと解放されるのですもの。 「女神の承認が下りたか」白銀に輝く光が降り注ぐ。

【完結】もしかして悪役令嬢とはわたくしのことでしょうか?

桃田みかん
恋愛
ナルトリア公爵の長女イザベルには五歳のフローラという可愛い妹がいる。 天使のように可愛らしいフローラはちょっぴりわがままな小悪魔でもあった。 そんなフローラが階段から落ちて怪我をしてから、少し性格が変わった。 「お姉様を悪役令嬢になんてさせません!」 イザベルにこう高らかに宣言したフローラに、戸惑うばかり。 フローラは天使なのか小悪魔なのか…

処理中です...