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第四部
第二十一章 薄、尾花に変ず 其の四
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◆◇◆
今日も大姥局の部屋には、笑いの花が咲いている。
「近頃なにやら賑やかじゃの。」
ひょいと顔を出した秀忠が、笑い声につられるように入ってきた。
「まぁ、これは上様。」
立ち歩いていた大姥局が、慌てて自分の位置に座って迎える。
「よいのか、大姥。そのように動いて。」
「じっとしていると、なにやらムズムズいたしまする。」
フフと笑って、乳母が伝えた。
「そうか。息災ならなによりじゃ。」
上座に腰を下ろしながら、秀忠が柔らかな笑みを乳母に返す。
「ホホ、静が戻って参りましたゆえ。」
老乳母はそれは嬉しそうに報告した。その笑みを見て、静も嬉しくまた有り難く、面映ゆいような笑顔を見せた。
「ほう、戻ったか。」
「静、ご挨拶せよ。」
「戻りましてございまする。」
静は末座から少し前ににじり出ると、秀忠に向き直り、笑顔のまま、より美しくなった礼をした。
「うむ。具合が悪かったと聞いたが、よいのか。」
「はい。すっかりようございます。」
「そうか、また大姥をしっかり助けてやってくれ。」
「はい。身に余るお言葉、心して励みまする。」
秀忠からの言葉が心より嬉しく、静は柔らかな極上の笑みと礼を返した。その笑顔に、自然と秀忠の頬も緩んだ。
「静の笑顔があれば、寿命が延びまする。」
「『女は愛嬌』。じゃものな、静。」
浅茅もふっくらした顔に、二パッと親しみのある笑みを作り、静に目配せする。
「はいっ。さように、ございまする。」
静も気を入れて、大袈裟に、にーっこりと微笑んでみせる。
糸のように細くなった目と深く凹んだえくぼに秀忠が吹き出し、局の中に大きな笑いの花が咲いた。
「これは上様の前で。」
「「失礼つかまつりました。」」
浅茅が平伏し、声を揃えて静が続く。
「よいよい。大姥の寿命を充分延ばしてやってくれ。私の憂いも吹き飛びそうじゃ。」
(久しぶりに腹から笑った)。秀忠はそう思う。
「それはようございました。」
大姥局は、笑いに涙を滲ませつつ、秀忠をいたわった。
このところの秀忠は眉間に皺を寄せ、難しい顔をしていた。大姥局は、それも心配事のひとつであった。
◆◇◆
十三夜の月が上がった夜、秀忠はなんとか政務を切り上げ、家族と共に月見をした。
子供達は順々に寝入り、名残を惜しむように最後までいた勝姫も下がり、今は夫婦水入らずである。
「そなたも飲め。」
「はい。いただきまする。」
江が秀忠に酒を注ぎ、秀忠が江に酒を注いだ。
「完、いえ、忠栄殿よりお礼の文をいただきました。産後ゆえ完が祐筆に書かせたと思ったら、忠栄殿直々のお文で。」
「そうか。もう一月か。直々とは関白殿らしい。」
「はい。『完さんの代わりに』と、なんとも忠栄殿らしゅうございます。完も若君も元気そうで安堵しました。早う完に似た姫がほしいとも書いてございました。」
江が穏やかな微笑みを浮かべ、報告する。
「ふふ、さようか。相変わらず『麿の若紫』と大事にしておられるのであろう。」
秀忠が笑いながら、団子をひとつ、一口で口に入れた。
「はい。よい殿方と巡りあえて安堵しております。」
江は、「姉上のお陰」という言葉が出そうになったのを口の中に残した。
「秀勝殿の血も繋がっていくの。」
月を見上げ、団子を食べながらの秀忠の言葉であった。
「……はい。」
江も月を見上げて、小さく返事をする。
(千に秀頼殿の血を残させたい。)
どちらも声に出さなかったが、二人とも同じように思っていた。
黙り込んだ秀忠の横顔を江が見つめる。
「なんじゃ?」
「あなた様がお疲れだろうから、気を付けてあげてほしいともありましたが。」
忠栄に言われるまでもなく、このところの秀忠の激務を江は案じていた。
「余計なことを。」
盃を飲み干し、秀忠は小さく溜め息をついた。
「なにやら難しいことでもおありなのですか?京との間で。」
江が秀忠の盃に酒を注ぐ。
「大したことではない。」
憮然とした顔の秀忠に、江が目を伏せる。
京では大きな事件が起きていたが、それは、江の耳に入れるにはおぞましいものだった。
少ししょげた顔は、美しい睫毛が格別で、娘時代と変わらず美しい。
「忠栄殿が力になってくれておるゆえ、案ぜずともよい。」
「そうなのですか……。もし、秀頼殿が京にいて、主上のために働いてくれれば、あなた様の、徳川のお役に立つのでしょうか。」
秀忠は、頭を小さく掻き、また黙ってしまった。
家康が将軍について以来、関白の座が空く度に「次の関白さんは太閤さんとこの坊」との噂が京雀の間に拡がった。しかし、それも忠栄が就任する頃には聞かれなくなっていた。
豊臣の力が民からも削がれようとしている。
江は秀忠が疲れているのは豊臣が大坂城から出ないからだと思っていた。
(姉上があの城から動くだろうか……。なにより女として愛された、幸せな時が詰まったあの城から……)
北ノ庄城の落城が甦る。義父上が戦に行かれるまでは幸せな時であった。そして、母上は義父上との死を選ばれた。
(母上も柴田の義父上の元、女子としてもお幸せであったのではなかろうか。)
江の大きな瞳に涙が滲み、月の光を映した。
「…何を考えておる。」
「母上のことを。」
「そうか。江、淀の方様にまた文を書いてくれ。江戸に出て来たいと思うような。」
「はい。」
人差し指で目尻の涙をぬぐう江を、秀忠はそっと抱き締める。
「そのような顔をするな。愛しゅう思うてしまうではないか。」
「あなた様ったら…」
耳元で囁かれる言葉と、秀忠の温かさに、江はまた涙が出そうになった。
パタパタという足音が回廊を近づいてくる。
小姓がハッと気づいたように止まり、その場に膝まづくと声をあげた。
「失礼つかまつります。」
秀忠がフッと息を漏らして、江から離れる。
「なんじゃ。」
「大御所さまより火急の文が届いたと大炊頭さまがお呼びにございまする。」
「わかった。すぐに参る。」
呼び出される予感があったのか、きりっとした声で秀忠が返した。
「親父も利勝も野暮じゃの。今宵くらいは月を愛でればよいのに。」
秀忠が頭をカリカリと掻く。江は、夫が何に悩まされているのか知りたかった。
「何か、事件があるのでございますか?」
秀忠は少し考え、もうひとつの懸念事を口にした。
「……主上の御譲位を親父が阻んでおるのじゃ。」
「御譲位を?何故?」
思いもつかなかった答えに、江が目を丸くした。
「さぁのぅ。幕府の金がなければ内裏が立ちゆかなくなるのをよいことに、禁中も束ねようとしているのじゃろう。」
「禁中を?そのように畏れ多い。」
少し苦々しげに淡々と答える秀忠に、江の目はうろうろと落ち着きを失っている。
「うむ。じゃが、私は松のために整えてやりたいのじゃ。」
それは譲位ではなく、もうひとつの大事件を見据えてのことであった。
「松のため…」
「そうじゃ。親父が入内といえば、そうするであろうからな。案ずるな。悪いようにはせぬゆえ。」
江の手にそっと自分の手を重ね、秀忠はまっすぐ江の目を見つめた。
「…はい。」
「行ってまいる。淀の方様への文、頼んだぞ。」
「はい。」
天高く上っている月を江は見上げる。
(姉上…)
じっと月を見上げる美しい瞳から、一筋の涙が落ちた。
姉上が江戸へ出てこられるような文……。
(姉上は、何故大坂城にこだわられるのであろう。殿下が伏見で亡くなられたあと、すぐにあの城に戻られたのは何故……)
それは死してなお、茶々と秀頼を守ろうと思う秀吉の遺訓であった。自分が心血を注いで建てた大坂城が落ちるはずはないと、秀吉は考えていたのだ。
しかし、江はそのようなことも知らず、ただ考え込む。
あの城に居れば、安泰と思うておられるのか、それともやはり、女としての幸せが詰まっている城だからか 。
もし、私ならどうするだろう。
秀忠がいないというのがどうしても思い描けず、江の意識は遠い昔へと飛ぶ。
もし、私ならどうしただろう。
完が男の子で、秀次さまに謀反の疑いがかかったとき、太閤殿下に引きずり出されそうになっていたら。
姉上に「屋敷を出て、殿下に許しを乞いなさい」と言われていたら。
それにすんなり従うたであろうか。
いや、母上と同じように、子だけ逃がし、私は秀勝さまの慈しみの記憶と果てることを選んだであろう……。あの頃であれば……。秀勝さまをひたすら思い、秀勝さまを殺したのは秀吉だと思っていたあの頃であれば……。
ならば、私は今、なぜ長らえているのだろう。
秀忠さまの愛のお陰じゃ。その証の子供たちのお陰じゃ。
姉上は殿下をそうも慕うておられたのだろうか。周りが見えなくなるほど。
姉上を説き伏せられるは、今や秀頼殿だけやも知れぬ。
千……。そなたが頼りなのやもしれぬ。
江は幼い娘にも願いを託さねばならぬのを、豊臣へ嫁にやりながら、徳川の思いを託さねばならぬのを申し訳なく思う。
母上もこのような思いであったのだろうか。
母上が教えたのは、信ずるままに進み、死ぬることであろうか。愛するもののために死ぬることであろうか。
母が子に託するのは、生きることではないのか……。
母上もそうなさったではないか…。それとも、私たちが男子であったら違ったのであろうか。
母上……。
母上……。
どうすれば姉上をお救いできるのか、お教えくださいませ。
江は、心の中で強く念じずにはいられなかった。
今日も大姥局の部屋には、笑いの花が咲いている。
「近頃なにやら賑やかじゃの。」
ひょいと顔を出した秀忠が、笑い声につられるように入ってきた。
「まぁ、これは上様。」
立ち歩いていた大姥局が、慌てて自分の位置に座って迎える。
「よいのか、大姥。そのように動いて。」
「じっとしていると、なにやらムズムズいたしまする。」
フフと笑って、乳母が伝えた。
「そうか。息災ならなによりじゃ。」
上座に腰を下ろしながら、秀忠が柔らかな笑みを乳母に返す。
「ホホ、静が戻って参りましたゆえ。」
老乳母はそれは嬉しそうに報告した。その笑みを見て、静も嬉しくまた有り難く、面映ゆいような笑顔を見せた。
「ほう、戻ったか。」
「静、ご挨拶せよ。」
「戻りましてございまする。」
静は末座から少し前ににじり出ると、秀忠に向き直り、笑顔のまま、より美しくなった礼をした。
「うむ。具合が悪かったと聞いたが、よいのか。」
「はい。すっかりようございます。」
「そうか、また大姥をしっかり助けてやってくれ。」
「はい。身に余るお言葉、心して励みまする。」
秀忠からの言葉が心より嬉しく、静は柔らかな極上の笑みと礼を返した。その笑顔に、自然と秀忠の頬も緩んだ。
「静の笑顔があれば、寿命が延びまする。」
「『女は愛嬌』。じゃものな、静。」
浅茅もふっくらした顔に、二パッと親しみのある笑みを作り、静に目配せする。
「はいっ。さように、ございまする。」
静も気を入れて、大袈裟に、にーっこりと微笑んでみせる。
糸のように細くなった目と深く凹んだえくぼに秀忠が吹き出し、局の中に大きな笑いの花が咲いた。
「これは上様の前で。」
「「失礼つかまつりました。」」
浅茅が平伏し、声を揃えて静が続く。
「よいよい。大姥の寿命を充分延ばしてやってくれ。私の憂いも吹き飛びそうじゃ。」
(久しぶりに腹から笑った)。秀忠はそう思う。
「それはようございました。」
大姥局は、笑いに涙を滲ませつつ、秀忠をいたわった。
このところの秀忠は眉間に皺を寄せ、難しい顔をしていた。大姥局は、それも心配事のひとつであった。
◆◇◆
十三夜の月が上がった夜、秀忠はなんとか政務を切り上げ、家族と共に月見をした。
子供達は順々に寝入り、名残を惜しむように最後までいた勝姫も下がり、今は夫婦水入らずである。
「そなたも飲め。」
「はい。いただきまする。」
江が秀忠に酒を注ぎ、秀忠が江に酒を注いだ。
「完、いえ、忠栄殿よりお礼の文をいただきました。産後ゆえ完が祐筆に書かせたと思ったら、忠栄殿直々のお文で。」
「そうか。もう一月か。直々とは関白殿らしい。」
「はい。『完さんの代わりに』と、なんとも忠栄殿らしゅうございます。完も若君も元気そうで安堵しました。早う完に似た姫がほしいとも書いてございました。」
江が穏やかな微笑みを浮かべ、報告する。
「ふふ、さようか。相変わらず『麿の若紫』と大事にしておられるのであろう。」
秀忠が笑いながら、団子をひとつ、一口で口に入れた。
「はい。よい殿方と巡りあえて安堵しております。」
江は、「姉上のお陰」という言葉が出そうになったのを口の中に残した。
「秀勝殿の血も繋がっていくの。」
月を見上げ、団子を食べながらの秀忠の言葉であった。
「……はい。」
江も月を見上げて、小さく返事をする。
(千に秀頼殿の血を残させたい。)
どちらも声に出さなかったが、二人とも同じように思っていた。
黙り込んだ秀忠の横顔を江が見つめる。
「なんじゃ?」
「あなた様がお疲れだろうから、気を付けてあげてほしいともありましたが。」
忠栄に言われるまでもなく、このところの秀忠の激務を江は案じていた。
「余計なことを。」
盃を飲み干し、秀忠は小さく溜め息をついた。
「なにやら難しいことでもおありなのですか?京との間で。」
江が秀忠の盃に酒を注ぐ。
「大したことではない。」
憮然とした顔の秀忠に、江が目を伏せる。
京では大きな事件が起きていたが、それは、江の耳に入れるにはおぞましいものだった。
少ししょげた顔は、美しい睫毛が格別で、娘時代と変わらず美しい。
「忠栄殿が力になってくれておるゆえ、案ぜずともよい。」
「そうなのですか……。もし、秀頼殿が京にいて、主上のために働いてくれれば、あなた様の、徳川のお役に立つのでしょうか。」
秀忠は、頭を小さく掻き、また黙ってしまった。
家康が将軍について以来、関白の座が空く度に「次の関白さんは太閤さんとこの坊」との噂が京雀の間に拡がった。しかし、それも忠栄が就任する頃には聞かれなくなっていた。
豊臣の力が民からも削がれようとしている。
江は秀忠が疲れているのは豊臣が大坂城から出ないからだと思っていた。
(姉上があの城から動くだろうか……。なにより女として愛された、幸せな時が詰まったあの城から……)
北ノ庄城の落城が甦る。義父上が戦に行かれるまでは幸せな時であった。そして、母上は義父上との死を選ばれた。
(母上も柴田の義父上の元、女子としてもお幸せであったのではなかろうか。)
江の大きな瞳に涙が滲み、月の光を映した。
「…何を考えておる。」
「母上のことを。」
「そうか。江、淀の方様にまた文を書いてくれ。江戸に出て来たいと思うような。」
「はい。」
人差し指で目尻の涙をぬぐう江を、秀忠はそっと抱き締める。
「そのような顔をするな。愛しゅう思うてしまうではないか。」
「あなた様ったら…」
耳元で囁かれる言葉と、秀忠の温かさに、江はまた涙が出そうになった。
パタパタという足音が回廊を近づいてくる。
小姓がハッと気づいたように止まり、その場に膝まづくと声をあげた。
「失礼つかまつります。」
秀忠がフッと息を漏らして、江から離れる。
「なんじゃ。」
「大御所さまより火急の文が届いたと大炊頭さまがお呼びにございまする。」
「わかった。すぐに参る。」
呼び出される予感があったのか、きりっとした声で秀忠が返した。
「親父も利勝も野暮じゃの。今宵くらいは月を愛でればよいのに。」
秀忠が頭をカリカリと掻く。江は、夫が何に悩まされているのか知りたかった。
「何か、事件があるのでございますか?」
秀忠は少し考え、もうひとつの懸念事を口にした。
「……主上の御譲位を親父が阻んでおるのじゃ。」
「御譲位を?何故?」
思いもつかなかった答えに、江が目を丸くした。
「さぁのぅ。幕府の金がなければ内裏が立ちゆかなくなるのをよいことに、禁中も束ねようとしているのじゃろう。」
「禁中を?そのように畏れ多い。」
少し苦々しげに淡々と答える秀忠に、江の目はうろうろと落ち着きを失っている。
「うむ。じゃが、私は松のために整えてやりたいのじゃ。」
それは譲位ではなく、もうひとつの大事件を見据えてのことであった。
「松のため…」
「そうじゃ。親父が入内といえば、そうするであろうからな。案ずるな。悪いようにはせぬゆえ。」
江の手にそっと自分の手を重ね、秀忠はまっすぐ江の目を見つめた。
「…はい。」
「行ってまいる。淀の方様への文、頼んだぞ。」
「はい。」
天高く上っている月を江は見上げる。
(姉上…)
じっと月を見上げる美しい瞳から、一筋の涙が落ちた。
姉上が江戸へ出てこられるような文……。
(姉上は、何故大坂城にこだわられるのであろう。殿下が伏見で亡くなられたあと、すぐにあの城に戻られたのは何故……)
それは死してなお、茶々と秀頼を守ろうと思う秀吉の遺訓であった。自分が心血を注いで建てた大坂城が落ちるはずはないと、秀吉は考えていたのだ。
しかし、江はそのようなことも知らず、ただ考え込む。
あの城に居れば、安泰と思うておられるのか、それともやはり、女としての幸せが詰まっている城だからか 。
もし、私ならどうするだろう。
秀忠がいないというのがどうしても思い描けず、江の意識は遠い昔へと飛ぶ。
もし、私ならどうしただろう。
完が男の子で、秀次さまに謀反の疑いがかかったとき、太閤殿下に引きずり出されそうになっていたら。
姉上に「屋敷を出て、殿下に許しを乞いなさい」と言われていたら。
それにすんなり従うたであろうか。
いや、母上と同じように、子だけ逃がし、私は秀勝さまの慈しみの記憶と果てることを選んだであろう……。あの頃であれば……。秀勝さまをひたすら思い、秀勝さまを殺したのは秀吉だと思っていたあの頃であれば……。
ならば、私は今、なぜ長らえているのだろう。
秀忠さまの愛のお陰じゃ。その証の子供たちのお陰じゃ。
姉上は殿下をそうも慕うておられたのだろうか。周りが見えなくなるほど。
姉上を説き伏せられるは、今や秀頼殿だけやも知れぬ。
千……。そなたが頼りなのやもしれぬ。
江は幼い娘にも願いを託さねばならぬのを、豊臣へ嫁にやりながら、徳川の思いを託さねばならぬのを申し訳なく思う。
母上もこのような思いであったのだろうか。
母上が教えたのは、信ずるままに進み、死ぬることであろうか。愛するもののために死ぬることであろうか。
母が子に託するのは、生きることではないのか……。
母上もそうなさったではないか…。それとも、私たちが男子であったら違ったのであろうか。
母上……。
母上……。
どうすれば姉上をお救いできるのか、お教えくださいませ。
江は、心の中で強く念じずにはいられなかった。
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