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第三部
第十六章 女郎花、露めく 其の五
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日が落ち、虫の音はさらに響きが増している。天空を渡る船のような月が、煌めく星の中に浮かんでいた。
母屋から、ほんの数歩先に小さな離れがある。そこに進もうとした静の耳に、風が強く舞うような音が入ってきた。
わずかな月明かりの中、音の方へ近づくと、嘉衛門と才兵衛が木刀を振っていた。兄弟は片袖を脱いで、すれ違うように向き合い、お互いに打ち込むように同じ調子で一心に木刀を振る。
静はその様子を心強く、ほほえましく見た。
「あっ、義姉上。」
ほの明るい月明かりの元に、めざとく静の姿を見つけた才兵衛が心安く声をかける。嘉衛門も木刀を振るのを止め、振り返って静の方を見た。
「申し訳ございませぬ。お続けくださいませ。」
邪魔をしてしまったと、静は慌てて頭を下げる。
「いや、もう終わろうとしていたところです。腹一杯のあとだからか、こいつの魂が入らぬ。」
弟をコツンと小突くと帯から手拭いをとり、嘉衛門が汗を拭く。首をすくめた才兵衛も同じように汗をぬぐいながら、静を見、口を開いた。
「義姉上はおきれいになられましたね。」
「え?」
嘘のない親しみのこもった口調に、静は驚いて目を見張った。
「お城に上がる前の義姉上より、渋皮がむけたようになったと存じます。」
聞きようによっては『前はそれほどでない』とけなすように聞こえる流行り言葉を、邪気なく義弟は使う。
才兵衛の背中を嘉衛門がパンと軽く叩いた。
「そのような誉め方があるか。静殿、申し訳ない。まだ若輩者ゆえ、お許しください。」
年の離れた弟の頭を掴んで下げさせながら、嘉衛門も静に頭を下げた。
「いいえ、そのような。嬉しゅうございます。」
静は頬を染め、新しくできた兄弟に、にっこり笑って頭を下げる。
「さすが義姉上は、ちゃんとお分かりでございますね。」
弟の調子のよさに、嘉衛門は、かすかな溜め息をついて苦笑した。兄は弟の言葉を補う。
「いや、確かに静殿は驚くほど品良うなられた。」
嘉衛門の言葉に、静は身を小さくするようにモジモジした。
「あの……、『静』とお呼びくださいませ。…義兄上さま。」
栄嘉の言葉を思いだし、長身の義兄を上目遣いに見た静は、小さな声でお願いをする。
「えっ、ああ、さようですね…。では、…『お静』。」
嘉衛門は頭に手をやると、ぎこちなく静を呼んだ。
「はい。」
静がやんわりと頷きながら微笑み、返事をした。
「美津ではないが、なにやら面映ゆいものだな。」
「はい。」
嘉衛門がゴシゴシと手拭いで顔を擦り、静が嬉しそうに穏やかな笑みを浮かべる。
誰とでも気安い才兵衛が、
「そうですか?」
と、しれっと言った。
秋を思わせる冷たい風が、ヒュイと駆け抜る。
「あっ、お風邪を召されると大変でございます。お邪魔をいたしました。義兄上さま、才兵衛殿、おやすみなされませ。」
静は汗をかいている二人の体が冷えることを心配し、慌てて挨拶をした。
「ああ、おやすみなさい。」
「おやすみなさい、義姉上。」
静は胸に手をあてながら、パタパタと離れに向かって早足で歩いた。
竹で組んだ垣根の奥にある、小さな木戸を手前に引いて静は中へと入る。まだ木の香りがする自分の部屋は、一間とはいえ縁側もあり、隔てには立派な障子も立てられていた。
「松吉がねぇ……」
夜具を用意した静は、ほのかな月明かりを頼りに、あちらこちらを触ってみた。弟を思い浮かべると共に、静は女主人を思い浮かべる。
(旦那さま、ありがとうござりまする。)
静は両手を合わせ、大姥局に心の中で礼を言うと、夜具に身を横たえた。
静は、今日の幸せな刻を思い出していた。父母の『静』という声がまだ耳に残る。
(よかった。おとっつぁんもおっかさんも達者で。松吉はやっとお八重ちゃんと一緒になれるみたいだし。)
気持ちが昂っているのか、なかなか寝付けない。慣れ親しんだ家の香りではなく、木の香りと共に新しい夜具の匂いがする。
(『神尾静』……か…)
急に静の胸が握り潰されるように痛んだ。
『お静』。
嘉衛門の声が耳元でする。
(……ああ……)
静は、自分の軆をギュッと抱き締めた。
思うまいと父母を思っていたのに……。
嘉衛門こそが静の片恋の相手である。薄暗がりの中で『お静』と呼んだときの顔が、どのような顔であったか、静には明るい日の光の下で見たように目に浮かぶ。
キリッとした太い眉に、切れ長で涼やかな一重の瞳。細身の優しげな顔が少しはにかんで、『お静』と呼ぶ。
静は自分を抱く手にさらに力を込めた。
(お美っちゃんが嫁いだときに諦めたじゃないの。このままでいいって。ご縁がなかったのに、妹になれたのだもの。充分。)
そう思って目を閉じ、静は眠ろうとする。
コトリ。
小さな物音が木戸の方から聞こえた。ビクリとした静の心臓が、そのまま早鐘のように鳴った。
カタン。
また小さな音に木戸が揺れる。
身を固く小さくし、鼓動が響く中、夜具の中で静は耳を済ます。
クタタタタタタッ……
風音が戸を軽やかに叩いていった。
(風か……)
静はホッとした。と同時に、淋しさが襲ってきた。
(何を考えてるの? 私……)
美津の夫だと解っているのに、足の節の間が静の正直な気持ちを教える。
(見ているだけで、声を聞くだけで充分だったのに。)
城に上がる前、いや、お手付き前の未通女の静はそれで充分であった。
『品良うなられましたな。』
月の下のその眼差しは、妹を見るそれではなかった。城に上がるまで自分に向けられていたただ優しかった男の瞳と今日の眼差しは違った。
それは、夢の中の男と同じ瞳であった。
逢瀬の男と同じ瞳、同じ声であった。
抱いてほしい。
軆がそう言っている。
静の目に、先程見た嘉衛門の厚い胸が浮かぶ。
抱いてほしい……抱いてほしい……。
片恋の男を求めて軆が哭く。
『お静』。耳元で聞こえる声に(…おまえさま……)と呟いてみる。
嘉衛門の横に、白く美しい美津の裸体が浮かんだ。
静の枕元は、冷たく濡れている。
夜風がまた戸をカタカタと鳴らして走っていった。
◆◇◆
翌朝、あけぼのの中を静は井戸へ向かった。熱く火照った目を何とかしなければ、皆に心配をかける。
そっと足音を忍ばせて井戸の近くへ来ると、霧の中、かすかな水音が聞こえた。
「ひゃっ。」
小さな高い声を上げたのは、井戸にいた方である。露にしている上半身を両腕で隠した。
「ああ、お静ちゃん、早いのね。」
美津の小さな声がした。相手が静だとわかった途端、美津は両手を下ろし、濡らした手拭いでまた体を拭き始めた。
朝霧に溶け込むような白い肌、細身の体にたっぷりとした胸。嫁入りの頃より、また丸みを帯びて女らしく美しくなっていると静は思う。
泣きはらした目を見せるのはどうかと、静はほんの刹那に考えたが、ここで引き返すのも変だと思い、素知らぬ顔で井戸へと近づいた。
「お美っちゃんこそ早いのね。」
「子供がいるとゆっくり行水する間もなくて。」
体を拭き終わった美津が、手桶の水を滑らかな自分の両腕にかけ、また手拭いで拭いた。
静はそっと釣瓶を落とし、水を汲む。
体を拭き終わった美津が、グッと腰を伸ばした。形のよい白い胸が天を向く。ウーンと体を伸ばした美津の目に、静の顔が映った。
「どしたの?その目。」
着物の袖に腕に通しながら、美津は静に近寄った。
「あ、家が恋しゅうて……。変よね。すぐ近くに帰ってきてるのに。」
静は心配する幼馴染みに、咄嗟の嘘をついた。
「そんなことない。本当のおとっつぁんとおっかさんに会ったんだもの。……けど、泣かないで。ここがお静ちゃんのうちだから。ね。」
「そうね、ありがとう。」
手を握って覗き込む美津に、静はゆっくり頷いた。
「朝の支度はアタシがするから、離れで休んでて。」
「ダメダメそんなの。バチが当たっちゃう。」
調子っ早い静の言葉に二人が顔を見合わせ、クフフフフと笑う。
「ただいま、お美っちゃん。」
「おかえり、お静ちゃん。」
静はやっと城へ上がる前の自分を思い出した気がした。
「お静ちゃん、早く冷やさなくちゃ。」
「おくどさん焚きながら冷やすわ。すぐに手伝いにいくから。」
美津は水を汲みながら静を心配したが、静の言葉に手桶を下げて先に母屋へと歩いた。
静は、その後ろ姿を見つめる。
やっぱり美津がかわいい。
妹より美津の方が自分を慕ってくれた。仲のよい姉妹と間違われることも度々あった。
よちよち歩きの頃から、自分の姿を探して泣いた美津。なにかと自分の真似をしようと隣にいた美津。
静の思い出の多くが美津と共にあった。それくらい、いつも一緒にいた。だからこそ嘉衛門への想いも胸に沈められたのだ。
美津が嫁に来たあと、安心したように嘉衛門の姉の久が嫁いだ。神尾の女手がなくなり、美津はなにかと静を頼った。静も頼られるのが嬉しく、美津の手伝いをよくしてきた。
手拭いを濡らし、静は目に当てる。
名残の蝉時雨が響き始め、朝日が朝霧を晴らし始めた。
[第十六章 女郎花、露めく 了]
母屋から、ほんの数歩先に小さな離れがある。そこに進もうとした静の耳に、風が強く舞うような音が入ってきた。
わずかな月明かりの中、音の方へ近づくと、嘉衛門と才兵衛が木刀を振っていた。兄弟は片袖を脱いで、すれ違うように向き合い、お互いに打ち込むように同じ調子で一心に木刀を振る。
静はその様子を心強く、ほほえましく見た。
「あっ、義姉上。」
ほの明るい月明かりの元に、めざとく静の姿を見つけた才兵衛が心安く声をかける。嘉衛門も木刀を振るのを止め、振り返って静の方を見た。
「申し訳ございませぬ。お続けくださいませ。」
邪魔をしてしまったと、静は慌てて頭を下げる。
「いや、もう終わろうとしていたところです。腹一杯のあとだからか、こいつの魂が入らぬ。」
弟をコツンと小突くと帯から手拭いをとり、嘉衛門が汗を拭く。首をすくめた才兵衛も同じように汗をぬぐいながら、静を見、口を開いた。
「義姉上はおきれいになられましたね。」
「え?」
嘘のない親しみのこもった口調に、静は驚いて目を見張った。
「お城に上がる前の義姉上より、渋皮がむけたようになったと存じます。」
聞きようによっては『前はそれほどでない』とけなすように聞こえる流行り言葉を、邪気なく義弟は使う。
才兵衛の背中を嘉衛門がパンと軽く叩いた。
「そのような誉め方があるか。静殿、申し訳ない。まだ若輩者ゆえ、お許しください。」
年の離れた弟の頭を掴んで下げさせながら、嘉衛門も静に頭を下げた。
「いいえ、そのような。嬉しゅうございます。」
静は頬を染め、新しくできた兄弟に、にっこり笑って頭を下げる。
「さすが義姉上は、ちゃんとお分かりでございますね。」
弟の調子のよさに、嘉衛門は、かすかな溜め息をついて苦笑した。兄は弟の言葉を補う。
「いや、確かに静殿は驚くほど品良うなられた。」
嘉衛門の言葉に、静は身を小さくするようにモジモジした。
「あの……、『静』とお呼びくださいませ。…義兄上さま。」
栄嘉の言葉を思いだし、長身の義兄を上目遣いに見た静は、小さな声でお願いをする。
「えっ、ああ、さようですね…。では、…『お静』。」
嘉衛門は頭に手をやると、ぎこちなく静を呼んだ。
「はい。」
静がやんわりと頷きながら微笑み、返事をした。
「美津ではないが、なにやら面映ゆいものだな。」
「はい。」
嘉衛門がゴシゴシと手拭いで顔を擦り、静が嬉しそうに穏やかな笑みを浮かべる。
誰とでも気安い才兵衛が、
「そうですか?」
と、しれっと言った。
秋を思わせる冷たい風が、ヒュイと駆け抜る。
「あっ、お風邪を召されると大変でございます。お邪魔をいたしました。義兄上さま、才兵衛殿、おやすみなされませ。」
静は汗をかいている二人の体が冷えることを心配し、慌てて挨拶をした。
「ああ、おやすみなさい。」
「おやすみなさい、義姉上。」
静は胸に手をあてながら、パタパタと離れに向かって早足で歩いた。
竹で組んだ垣根の奥にある、小さな木戸を手前に引いて静は中へと入る。まだ木の香りがする自分の部屋は、一間とはいえ縁側もあり、隔てには立派な障子も立てられていた。
「松吉がねぇ……」
夜具を用意した静は、ほのかな月明かりを頼りに、あちらこちらを触ってみた。弟を思い浮かべると共に、静は女主人を思い浮かべる。
(旦那さま、ありがとうござりまする。)
静は両手を合わせ、大姥局に心の中で礼を言うと、夜具に身を横たえた。
静は、今日の幸せな刻を思い出していた。父母の『静』という声がまだ耳に残る。
(よかった。おとっつぁんもおっかさんも達者で。松吉はやっとお八重ちゃんと一緒になれるみたいだし。)
気持ちが昂っているのか、なかなか寝付けない。慣れ親しんだ家の香りではなく、木の香りと共に新しい夜具の匂いがする。
(『神尾静』……か…)
急に静の胸が握り潰されるように痛んだ。
『お静』。
嘉衛門の声が耳元でする。
(……ああ……)
静は、自分の軆をギュッと抱き締めた。
思うまいと父母を思っていたのに……。
嘉衛門こそが静の片恋の相手である。薄暗がりの中で『お静』と呼んだときの顔が、どのような顔であったか、静には明るい日の光の下で見たように目に浮かぶ。
キリッとした太い眉に、切れ長で涼やかな一重の瞳。細身の優しげな顔が少しはにかんで、『お静』と呼ぶ。
静は自分を抱く手にさらに力を込めた。
(お美っちゃんが嫁いだときに諦めたじゃないの。このままでいいって。ご縁がなかったのに、妹になれたのだもの。充分。)
そう思って目を閉じ、静は眠ろうとする。
コトリ。
小さな物音が木戸の方から聞こえた。ビクリとした静の心臓が、そのまま早鐘のように鳴った。
カタン。
また小さな音に木戸が揺れる。
身を固く小さくし、鼓動が響く中、夜具の中で静は耳を済ます。
クタタタタタタッ……
風音が戸を軽やかに叩いていった。
(風か……)
静はホッとした。と同時に、淋しさが襲ってきた。
(何を考えてるの? 私……)
美津の夫だと解っているのに、足の節の間が静の正直な気持ちを教える。
(見ているだけで、声を聞くだけで充分だったのに。)
城に上がる前、いや、お手付き前の未通女の静はそれで充分であった。
『品良うなられましたな。』
月の下のその眼差しは、妹を見るそれではなかった。城に上がるまで自分に向けられていたただ優しかった男の瞳と今日の眼差しは違った。
それは、夢の中の男と同じ瞳であった。
逢瀬の男と同じ瞳、同じ声であった。
抱いてほしい。
軆がそう言っている。
静の目に、先程見た嘉衛門の厚い胸が浮かぶ。
抱いてほしい……抱いてほしい……。
片恋の男を求めて軆が哭く。
『お静』。耳元で聞こえる声に(…おまえさま……)と呟いてみる。
嘉衛門の横に、白く美しい美津の裸体が浮かんだ。
静の枕元は、冷たく濡れている。
夜風がまた戸をカタカタと鳴らして走っていった。
◆◇◆
翌朝、あけぼのの中を静は井戸へ向かった。熱く火照った目を何とかしなければ、皆に心配をかける。
そっと足音を忍ばせて井戸の近くへ来ると、霧の中、かすかな水音が聞こえた。
「ひゃっ。」
小さな高い声を上げたのは、井戸にいた方である。露にしている上半身を両腕で隠した。
「ああ、お静ちゃん、早いのね。」
美津の小さな声がした。相手が静だとわかった途端、美津は両手を下ろし、濡らした手拭いでまた体を拭き始めた。
朝霧に溶け込むような白い肌、細身の体にたっぷりとした胸。嫁入りの頃より、また丸みを帯びて女らしく美しくなっていると静は思う。
泣きはらした目を見せるのはどうかと、静はほんの刹那に考えたが、ここで引き返すのも変だと思い、素知らぬ顔で井戸へと近づいた。
「お美っちゃんこそ早いのね。」
「子供がいるとゆっくり行水する間もなくて。」
体を拭き終わった美津が、手桶の水を滑らかな自分の両腕にかけ、また手拭いで拭いた。
静はそっと釣瓶を落とし、水を汲む。
体を拭き終わった美津が、グッと腰を伸ばした。形のよい白い胸が天を向く。ウーンと体を伸ばした美津の目に、静の顔が映った。
「どしたの?その目。」
着物の袖に腕に通しながら、美津は静に近寄った。
「あ、家が恋しゅうて……。変よね。すぐ近くに帰ってきてるのに。」
静は心配する幼馴染みに、咄嗟の嘘をついた。
「そんなことない。本当のおとっつぁんとおっかさんに会ったんだもの。……けど、泣かないで。ここがお静ちゃんのうちだから。ね。」
「そうね、ありがとう。」
手を握って覗き込む美津に、静はゆっくり頷いた。
「朝の支度はアタシがするから、離れで休んでて。」
「ダメダメそんなの。バチが当たっちゃう。」
調子っ早い静の言葉に二人が顔を見合わせ、クフフフフと笑う。
「ただいま、お美っちゃん。」
「おかえり、お静ちゃん。」
静はやっと城へ上がる前の自分を思い出した気がした。
「お静ちゃん、早く冷やさなくちゃ。」
「おくどさん焚きながら冷やすわ。すぐに手伝いにいくから。」
美津は水を汲みながら静を心配したが、静の言葉に手桶を下げて先に母屋へと歩いた。
静は、その後ろ姿を見つめる。
やっぱり美津がかわいい。
妹より美津の方が自分を慕ってくれた。仲のよい姉妹と間違われることも度々あった。
よちよち歩きの頃から、自分の姿を探して泣いた美津。なにかと自分の真似をしようと隣にいた美津。
静の思い出の多くが美津と共にあった。それくらい、いつも一緒にいた。だからこそ嘉衛門への想いも胸に沈められたのだ。
美津が嫁に来たあと、安心したように嘉衛門の姉の久が嫁いだ。神尾の女手がなくなり、美津はなにかと静を頼った。静も頼られるのが嬉しく、美津の手伝いをよくしてきた。
手拭いを濡らし、静は目に当てる。
名残の蝉時雨が響き始め、朝日が朝霧を晴らし始めた。
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