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第二部

第十五章 うつせみ割れる 其の六 (R18)

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 静は秀忠から顔を背け、目をつぶった。一筋の涙が顔を伝う。恥ずかしさのあまり、静の心臓は早鐘はやがねのように鳴っていた。 

「静。」 
 冷たい声が命令する。 
 今一度、目を固く閉じ、ぐっと歯を食いしばると、静は自分の着物の合わせを左手でわずかに持ち上げ、右手をそっと、自分の茂みの中へとすすめた。そこは既に、じっとりと蜜を湛えていた。 
「潤んでおろう。」 
 秀忠の声が、静を容赦なくなぶる。嫌だと思うのに、自分の手を置いたところはジンジンと疼いてくる。 
「慰めてよいぞ。」 
 女の喉が、ゴクリと鳴った。 同時にイヤイヤと首を振る。
「慰めよ。」 
 ひそやかな、冷たい、冷たい、男の声がした。しかし、静はその声に操られるように、ほんの少し脚を拡げ、自分の蜜を指にとり、そっと十分に膨らんだ花芯に擦り付けた。 
 じわっと甘い快感が軆中からだじゅうを駆け巡る。 

「続けよ。」 
 着物の下の手が丸まったのを見ると、秀忠が再び言葉でなぶった。静がふるふると首を振る。 
「続けよ。」 
 秀忠の変わらぬ固い言葉に、静はさらに固く目を閉じた。
 静の手がそろそろと開き、指が夜着の下でゆっくりと動く。静は心地よさに大きく息を吸い込んだ。静の中で片恋の男が動き始める。 

「…ぅっ……っ………」 
 わき上がる悦びが、静の手を知らずに動かしていく。静は、いつもより感じる我が身に戸惑っていた。 
 (見られている)。 
 そう思うと軆が芯から火照り、余計にトロトロと蜜が溢れてくる。 
 (嫌だ、恥ずかしい)。 
 そう思っているはずなのに、心の臓の鼓動が止まらないように手も止まらない。 
 まるで、片恋の男と秀忠の二人に嬲られているような心地がする。 
 女は歯を食い縛り、せつない声を殺しながらも、次第に片恋の男との逢瀬に没頭していった。恐ろしい秀忠から逃れようとするように。 

「……っ……ふっ…」 
 ピクンと体が動く度に、大きく息を吸い込んでいた静の体のあちこちが、プルプルと波立ち始める。
 眉間にシワを寄せ、荒くなった息をこらえ、苦しそうな顔をしているのに、静の手は止まろうとしなかった。 
 いやそれどころか、いつのまにかいくらか片足立てた脚の真ん中で、いっそう細かく動き、一方の手は袖から入り、静自身の胸の膨らみをつかんでいた。 
 襟元を噛み、忍び泣くように声を殺しているが、そばにいる秀忠には女の切なさとたかぶりが充分に伝わってくる。
 
「声を出してみよ。」 
 黙って見ていた秀忠が、目をつぶったままの静の耳元に口を近づけ、囁いた。静の中でそれは片恋の男の声となる。 
 静が、また大きく息を呑んだ。 
「声を出せ。」 
 再び男の声がした。 
「……さま……ぅっっ…くっ……はぁっ……あっぅぅ…あ…あぁ……はぅう……」 
 静は、はじめて片恋の男のために声をあげた。その声に呼応するように、固く閉じた静のまぶたの裏の男が、(静…しず…)と切なそうに呼んだ。 

 女は堰が切れたように淫らで甘い息を吐き、身をくねらせながら頭を振る。江の声がささやかに妖しく、誰かになにかを求めていた。 
 男を求めて声をあげた静の快楽は、すでに恥ずかしさを上回っている。静の心は片恋の男でいっぱいになっていた。 
 薄い着物は汗ばんだ静のからだに沿い、江の匂いを香り立てる。 
 (江もこのように私を待っているのだろうか……それとも、誰かを思っているのか……?) 
 そう思うと、秀忠は己がいっそう熱く猛々しくなるのを感じた。 

 着物の中で、柔らかな自分の胸をまさぐっていた女の手が、激しく動き出す。 
 静の手が自分の蜜壺を溢れさせるように音をたて、花芯を潰して琴の糸を揺らすように強く早く弾いた。 
「……ふぁっ……ぃいぃ……んぃぃ………ぅくっ……ぁっ…ぁっ…ぁくっ  ぅぅんぅぁあーーっ」 
 静の軆が、ビクビクと絶え間なく揺れ動いたかと思うと、江の高まりの声のもとに時を止めた。女がぐったりと身を横たえると、江を思わせる淫らで甘く荒い息が、月の光射す闇に響く。 
 それは秀忠にとって、江と床を共にし、二人の気が重なりあったあとのごうの息であった。 

 (あなたさま…) 
 床の中の、しどけた江の愛しい姿が秀忠の胸に浮かぶ。 
 まだ荒い息が部屋に満ちる中、秀忠はいきなり静に覆い被さった。自分の着物の裾をまくり、ぐったりした静をそのままに、脚の隙間を割って己を埋める。 
「あぅ、お許しを……」 
 静は秀忠に対してなのか、江に対してなのか、そう呟いた。からだに挟まれたぽっちゃりした腕で、ささやかに抵抗してみる。しかし、それが男に通じるはずもない。邪魔をする腕もそのままに、静の軆に己の躯を密着させながら、秀忠は己の姿勢を探った。 
 静の蜜は今までになく溢れ、引き込むように秀忠を飲み込むと、湿った、限りなく淫靡いんびな音を部屋に響かせる。 
「淫らであった。しとどに濡れておるぞ。尋常ではない。」 
「……いや……そのような……」 
 秀忠の重みが静の腕を潰し、花芯に触れたままの手を潰す。静の軆に先ほどの快感がよみがえる。蜜壺は、男のたくましさに甘い痺れを身体中に這わせる。 
 実と手が擦れ、静が恥ずかしさにうち震えるたび、男のものは強くきつく締め付けられていった。 

「…くっ……」 
 うねるような気持ちよさに、秀忠はたまらず静を抱え込み、さらに己を打ち付ける。 
 互いをとろかす熱さを感じながら、秀忠は江を思い、静は片恋の男を思っていた。
 頭の芯からとろけていく心地よさの中、秀忠は江を抱き、静は片恋の男に抱かれていた。 
「…もっと…乱れよ…」 
 秀忠の昂りが、静の中では想う男の昂りであった。 
「ぁあぁっ!……うっっぅ…ぅくっん…あぁっ!…あぁっ!!……もう…もう…」 
 首を振る静の昇りつめる声が、秀忠の中では江であった。 
「まだじゃ。…乱れよ…」 
 江を罰するように、秀忠は執拗に静に己を打ち込んだ。 
 しとねを握りしめ、身をよじり、腰をうねらせながら、なまめかしく美しい江の声をあげて、再び静は昇りつめていく。 
 静のふかみは片恋の男をつかんで離さなかった。 
「いっ…もう…あぁっ!… あ…あぁっ!…ひっ…あぁ!あぁ!あぅぁああーーーっ!」 
 さやかな月の光のもと、高く艶めいた女の声を追いかけるように、びくびくと身を震わせた男の声が響いた。 
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