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おかしな夫です

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 六歳年下の小姫さまに比べ、私は六歳年上。当年とって二十三。
 姫と呼ばれるのも面はゆい年だけど、年増かも知れないけど、秀忠殿は失礼すぎる。

 江戸としょっちゅう行き来しているから、そう一緒に居るわけではないけれど、伏見にいる時は、寝所を共にしている。
 床を並べて! なのに!
「疲れました。おやすみなさい」
 とさっさと寝てしまうか、寝転がって冊子を読んでいる。
 私は横でじっと待っているけれど、つい欠伸あくびが出て……
「先に寝たらどうですか?」
 と、冊子から目を離さずに言う。
「よいのですか?」
「どうぞ」
 私のほうを一度も見ない。

 確かに、六つも年上だけど!
 年増かも知れないけど!
 正室よめとしてここに来たんだけど!

 そう心の中で悪態をついて、私は横になる。夫に背を向けて。

 秀勝さまはあんなに優しかったのに。
 閉じた瞳から涙が出てくる。
 泣き顔を見せるもんですか。絶対。
 きっと、江戸に若いかわいい人を囲っているはず。
 義父上ちちうえ様の息子だし、むこうには乳母めのと殿もいるそうだし。若様のお世話として用意されているのでしょう。
 私はきっとお飾りの正室。
 まぁ、それも仕方がないか。
 秀勝さまのように、せめて添うて寝てくださればごまかせるのに、それさえなさらぬ。
 私に興味がないのじゃ。
 宮城野には、そう報告した。
「秀忠殿の言うとおりにしておる」
 と。また頭を抱えて溜め息をついておったが。


 完に会いに大坂城へ行くのも止めない。逆に
「ゆるりとしてきてください」
 と、送り出される。なるべく、秀忠殿が留守のときに行くけれど、お祝い事のときは、そうもゆかずに出かけていった。
 完は少しずつ私の顔を忘れていって。
 茶々姉上を「母上」と呼ぶようになっていた。
 私が遊びに行くと、「完、母上がまいられたぞ」と茶々姉上は言うてくれるけれど、小さな完が頭を悩ましているので、私は自分で「叔母上」と言うようになっていった。
 秀勝さまには申し訳ないけれど。
 でも、きっと秀勝さまのこと。
 「江、ようやってくれた」
 と誉めてくださるはず。笑って……。

 そんなことを考えながら伏見に帰ると、寂しくて、寂しくて……
 つい、雁金屋を呼んでしまう。
 それでまた、秀忠殿に嫌みを言われるんだけれど。
 たまには、秀忠殿の衣装を……と思うと、

「私の分はいいです。年貢で上がってくる綿の着ごこちを試さねばならぬ」

 と即答される。
 あぁ、なんか由良が言ってたわね。
 ーー若殿は三河で盛んになっていた綿栽培を、江戸のどこで行うのがよいか、あれこれ試している。って。
 真面目にまつりごとをするのだな。
 と、ちょっと見直した。

「父上の側室おへやの装束をお願いします。ただし、あまり華美でないのを」
 義父上様には、多くの側室がいるけれど、御正室は今はない。
 最初の瀬名姫さまはゴタゴタで命を亡くしたそうだし、そのあと継室となった朝日姫さまも亡くなっている。
 つまり、徳川の女性というか、嫁の中で、今一番上にいるのは私。
 若殿さまの正室だから。
 まぁ、だから義父上様の側室のお世話をするのは何も不思議ではないけれど。
 でも、なんていうの?
 言い方ってあるでしょう!
 「あまり華美でないのを」? 落ち着いた、とか、大人びたとか言いようがあるでしょうに。
 あぁ、なんかイライラする。

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