魔王様の弟子

tsuyu

文字の大きさ
上 下
6 / 12
第一部

6.魔導具店 銀の月

しおりを挟む
「おはよう」


 火照ほてる顔を手で隠していると、クスクスと笑う声に指の隙間から見ると、ユーリさんは蕩けるような笑顔でこちらを見ていた。

「おはようございます。ユーリさん、何時いつから起きていらしたんですか?」
「いつからだろうね?」

 ムッとした声音にも動じる事もなく、面白そうにしている。
昨日は無表情な印象だったが、どうやらこちらが素なのだろう。ちょっと意地悪だ。

「この数日間ずっと一緒に眠っていたから、今更だな」
「!?」

 なんですと!?
つまりずっと寝顔を見られていたと!?
あ、いや、看病してもらっていたのだから仕方ないけど、え? 数日間?

「あの、私、何日ぐらい意識がなかったのでしょう?」
「私がハルカを見つけたのが四日前。二日間眠ったまま、昨日起きて、あの後また眠ったままだったから、ここに運びましたが、他に質問は? 小さなレディ?」
「…何で、ユーリさんと一緒に寝ていたのでしょう?」
「君は魔力枯渇寸前で倒れていた。魔力回復薬を飲ませたけど、それだけじゃ足りなくて、私の魔力を君に与えていたんだ」
「魔力枯渇…」
「ハルカの魔力量は同じ年頃の子どもより、かなり多いみたいだが、魔力量が1/10以下になると意識を失う事がある。何か心当たりは無いか?」

 知らない間にこの世界に転生? 転移? していて、ユーリさんに見つけてもらった時には既に意識がなくて、その間に何かがあってのだろうけど、全く心当たりは無いし。
 私に魔力があるなんて初耳だから、多分こちらに来た時に付与されたのかなぁ?

 え、私、ゲームやラノベの世界に来ちゃったの? と今更ながら気付く。
昨日は起きていた時間が短かったし、夢かな? とか思っていたけど。
魔力か… ユーリさんみたいに魔法が使えるのかな?

「分かりません。どうして森で倒れていたのかも、魔力があると今初めて知りましたし」
「そうか。今日は動けそうなら、買い物に行こうと思うが、起きていられるか?」
「頑張ります!」
「じゃ、まずは朝御飯だな。準備してくる」

 ガバッと起き上がったユーリさんが着ていたのは、白くて足元まで隠れる長いワンピースのようだった。
やっぱりユーリさんって中世とかのお貴族様なんじゃ…?


 朝食が準備出来た、と迎えに来てくれたユーリさんは、着替えていてスーツを羽織れば英国紳士のような井出立ちで、白いシャツと紺色のベストとズボンがよく似合う。
 昨日は下ろしていた長い黒髪は後ろで三つ編みにして銀色の髪飾りで留め、片眼鏡モノクルではなく銀色の細目の眼鏡をしている。
 白衣も似合うけど、スーツ姿は更に格好良い。
昨日同様抱き上げられて移動し、昨日は入らなかったダイニングの手前にあった左の部屋は、洗面台とトイレとお風呂があった!
 魔導具らしく、動力は電気じゃなくて魔力や魔石らしい。

 今日の朝食はハムとチーズ、レタスみたいなハーブと、トマトに似た瓜科の野菜が挟まれた、ライ麦パンみたいなサンドイッチ。
 セミドライの棗? みたいな果実と、ホットミルクも美味しく頂く。

 私が着ていた薄ピンクのワンピースだけでは少し寒いだろう、とフード付きの小さなポンチョを着せてもらい、ユーリさんはジャケットを羽織り、片腕に乗せてもらい階段を降りると、そこには色とりどりのガラス瓶や魔導具、薬草、キラキラ輝く宝石が綺麗に陳列されたお店だった。


「おはようございます。ユーリ様、小さなお嬢様」

 シルバーグレーの髪を後ろに撫で付けた、いかにも執事! みたいなおじ様が、降りてきた私たちに挨拶する。

「おはようヨハン」
「おはようございます。ハルカです」
「ハルカ様と仰るのですね。私は “ 魔導具店 銀の月シルバームーン ” の店長をしておりますヨハン・セバスチャンと申します。以後お見知りおきを、ハルカお嬢様」

 セバスチャン!! とってもお似合いな名前に興奮するけど、執事じゃなくて店長さんでした!

「ヨハンさん、こちらこそよろしくお願いします! あ、ハルカで良いですよ?」
「いえいえ。ユーリ様の大切なお客様ですし、他の方々にも同じ様に対応しておりますので、お気になさらずに」
「分かりました」

 様付はくすぐったいけれど、ヨハンさんにお嬢様と呼ばれると、良家のお嬢様になったようでおしとやかにしないと、と思ってしまう。

「ヨハン。ハルカの衣類を購入してくるが、何か必要な物はあるか?」
「いえ。ミリアを既に使いに出しておりますので」
「そうか。では、行って来る」
「いってらっしゃいませ」
「いってきます!」

 ヨハンさんに手を振り外に出ると、そこにはヨーロッパのような煉瓦造りの色鮮やかな街並みが広がっていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

処理中です...