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第一部
6.魔導具店 銀の月
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「おはよう」
火照る顔を手で隠していると、クスクスと笑う声に指の隙間から見ると、ユーリさんは蕩けるような笑顔でこちらを見ていた。
「おはようございます。ユーリさん、何時から起きていらしたんですか?」
「いつからだろうね?」
ムッとした声音にも動じる事もなく、面白そうにしている。
昨日は無表情な印象だったが、どうやらこちらが素なのだろう。ちょっと意地悪だ。
「この数日間ずっと一緒に眠っていたから、今更だな」
「!?」
なんですと!?
つまりずっと寝顔を見られていたと!?
あ、いや、看病してもらっていたのだから仕方ないけど、え? 数日間?
「あの、私、何日ぐらい意識がなかったのでしょう?」
「私がハルカを見つけたのが四日前。二日間眠ったまま、昨日起きて、あの後また眠ったままだったから、ここに運びましたが、他に質問は? 小さなレディ?」
「…何で、ユーリさんと一緒に寝ていたのでしょう?」
「君は魔力枯渇寸前で倒れていた。魔力回復薬を飲ませたけど、それだけじゃ足りなくて、私の魔力を君に与えていたんだ」
「魔力枯渇…」
「ハルカの魔力量は同じ年頃の子どもより、かなり多いみたいだが、魔力量が1/10以下になると意識を失う事がある。何か心当たりは無いか?」
知らない間にこの世界に転生? 転移? していて、ユーリさんに見つけてもらった時には既に意識がなくて、その間に何かがあってのだろうけど、全く心当たりは無いし。
私に魔力があるなんて初耳だから、多分こちらに来た時に付与されたのかなぁ?
え、私、ゲームやラノベの世界に来ちゃったの? と今更ながら気付く。
昨日は起きていた時間が短かったし、夢かな? とか思っていたけど。
魔力か… ユーリさんみたいに魔法が使えるのかな?
「分かりません。どうして森で倒れていたのかも、魔力があると今初めて知りましたし」
「そうか。今日は動けそうなら、買い物に行こうと思うが、起きていられるか?」
「頑張ります!」
「じゃ、まずは朝御飯だな。準備してくる」
ガバッと起き上がったユーリさんが着ていたのは、白くて足元まで隠れる長いワンピースのようだった。
やっぱりユーリさんって中世とかのお貴族様なんじゃ…?
朝食が準備出来た、と迎えに来てくれたユーリさんは、着替えていてスーツを羽織れば英国紳士のような井出立ちで、白いシャツと紺色のベストとズボンがよく似合う。
昨日は下ろしていた長い黒髪は後ろで三つ編みにして銀色の髪飾りで留め、片眼鏡ではなく銀色の細目の眼鏡をしている。
白衣も似合うけど、スーツ姿は更に格好良い。
昨日同様抱き上げられて移動し、昨日は入らなかったダイニングの手前にあった左の部屋は、洗面台とトイレとお風呂があった!
魔導具らしく、動力は電気じゃなくて魔力や魔石らしい。
今日の朝食はハムとチーズ、レタスみたいなハーブと、トマトに似た瓜科の野菜が挟まれた、ライ麦パンみたいなサンドイッチ。
セミドライの棗? みたいな果実と、ホットミルクも美味しく頂く。
私が着ていた薄ピンクのワンピースだけでは少し寒いだろう、とフード付きの小さなポンチョを着せてもらい、ユーリさんはジャケットを羽織り、片腕に乗せてもらい階段を降りると、そこには色とりどりのガラス瓶や魔導具、薬草、キラキラ輝く宝石が綺麗に陳列されたお店だった。
「おはようございます。ユーリ様、小さなお嬢様」
シルバーグレーの髪を後ろに撫で付けた、いかにも執事! みたいなおじ様が、降りてきた私たちに挨拶する。
「おはようヨハン」
「おはようございます。ハルカです」
「ハルカ様と仰るのですね。私は “ 魔導具店 銀の月 ” の店長をしておりますヨハン・セバスチャンと申します。以後お見知りおきを、ハルカお嬢様」
セバスチャン!! とってもお似合いな名前に興奮するけど、執事じゃなくて店長さんでした!
「ヨハンさん、こちらこそよろしくお願いします! あ、ハルカで良いですよ?」
「いえいえ。ユーリ様の大切なお客様ですし、他の方々にも同じ様に対応しておりますので、お気になさらずに」
「分かりました」
様付はくすぐったいけれど、ヨハンさんにお嬢様と呼ばれると、良家のお嬢様になったようでおしとやかにしないと、と思ってしまう。
「ヨハン。ハルカの衣類を購入してくるが、何か必要な物はあるか?」
「いえ。ミリアを既に使いに出しておりますので」
「そうか。では、行って来る」
「いってらっしゃいませ」
「いってきます!」
ヨハンさんに手を振り外に出ると、そこにはヨーロッパのような煉瓦造りの色鮮やかな街並みが広がっていた。
火照る顔を手で隠していると、クスクスと笑う声に指の隙間から見ると、ユーリさんは蕩けるような笑顔でこちらを見ていた。
「おはようございます。ユーリさん、何時から起きていらしたんですか?」
「いつからだろうね?」
ムッとした声音にも動じる事もなく、面白そうにしている。
昨日は無表情な印象だったが、どうやらこちらが素なのだろう。ちょっと意地悪だ。
「この数日間ずっと一緒に眠っていたから、今更だな」
「!?」
なんですと!?
つまりずっと寝顔を見られていたと!?
あ、いや、看病してもらっていたのだから仕方ないけど、え? 数日間?
「あの、私、何日ぐらい意識がなかったのでしょう?」
「私がハルカを見つけたのが四日前。二日間眠ったまま、昨日起きて、あの後また眠ったままだったから、ここに運びましたが、他に質問は? 小さなレディ?」
「…何で、ユーリさんと一緒に寝ていたのでしょう?」
「君は魔力枯渇寸前で倒れていた。魔力回復薬を飲ませたけど、それだけじゃ足りなくて、私の魔力を君に与えていたんだ」
「魔力枯渇…」
「ハルカの魔力量は同じ年頃の子どもより、かなり多いみたいだが、魔力量が1/10以下になると意識を失う事がある。何か心当たりは無いか?」
知らない間にこの世界に転生? 転移? していて、ユーリさんに見つけてもらった時には既に意識がなくて、その間に何かがあってのだろうけど、全く心当たりは無いし。
私に魔力があるなんて初耳だから、多分こちらに来た時に付与されたのかなぁ?
え、私、ゲームやラノベの世界に来ちゃったの? と今更ながら気付く。
昨日は起きていた時間が短かったし、夢かな? とか思っていたけど。
魔力か… ユーリさんみたいに魔法が使えるのかな?
「分かりません。どうして森で倒れていたのかも、魔力があると今初めて知りましたし」
「そうか。今日は動けそうなら、買い物に行こうと思うが、起きていられるか?」
「頑張ります!」
「じゃ、まずは朝御飯だな。準備してくる」
ガバッと起き上がったユーリさんが着ていたのは、白くて足元まで隠れる長いワンピースのようだった。
やっぱりユーリさんって中世とかのお貴族様なんじゃ…?
朝食が準備出来た、と迎えに来てくれたユーリさんは、着替えていてスーツを羽織れば英国紳士のような井出立ちで、白いシャツと紺色のベストとズボンがよく似合う。
昨日は下ろしていた長い黒髪は後ろで三つ編みにして銀色の髪飾りで留め、片眼鏡ではなく銀色の細目の眼鏡をしている。
白衣も似合うけど、スーツ姿は更に格好良い。
昨日同様抱き上げられて移動し、昨日は入らなかったダイニングの手前にあった左の部屋は、洗面台とトイレとお風呂があった!
魔導具らしく、動力は電気じゃなくて魔力や魔石らしい。
今日の朝食はハムとチーズ、レタスみたいなハーブと、トマトに似た瓜科の野菜が挟まれた、ライ麦パンみたいなサンドイッチ。
セミドライの棗? みたいな果実と、ホットミルクも美味しく頂く。
私が着ていた薄ピンクのワンピースだけでは少し寒いだろう、とフード付きの小さなポンチョを着せてもらい、ユーリさんはジャケットを羽織り、片腕に乗せてもらい階段を降りると、そこには色とりどりのガラス瓶や魔導具、薬草、キラキラ輝く宝石が綺麗に陳列されたお店だった。
「おはようございます。ユーリ様、小さなお嬢様」
シルバーグレーの髪を後ろに撫で付けた、いかにも執事! みたいなおじ様が、降りてきた私たちに挨拶する。
「おはようヨハン」
「おはようございます。ハルカです」
「ハルカ様と仰るのですね。私は “ 魔導具店 銀の月 ” の店長をしておりますヨハン・セバスチャンと申します。以後お見知りおきを、ハルカお嬢様」
セバスチャン!! とってもお似合いな名前に興奮するけど、執事じゃなくて店長さんでした!
「ヨハンさん、こちらこそよろしくお願いします! あ、ハルカで良いですよ?」
「いえいえ。ユーリ様の大切なお客様ですし、他の方々にも同じ様に対応しておりますので、お気になさらずに」
「分かりました」
様付はくすぐったいけれど、ヨハンさんにお嬢様と呼ばれると、良家のお嬢様になったようでおしとやかにしないと、と思ってしまう。
「ヨハン。ハルカの衣類を購入してくるが、何か必要な物はあるか?」
「いえ。ミリアを既に使いに出しておりますので」
「そうか。では、行って来る」
「いってらっしゃいませ」
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