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本編

5話

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期末試験が終わった。
シャロン嬢も無事に良い成績を取れたらしい。
あの時教えてあげることができず、少し心配していたが、側近たちはちゃんと彼女に勉強を
教えといてくれたらしい。

ほんの少しの胸の痛みを感じないようにしながら、
今回もまた学年1位だったメイリーンに
「おめでとう」と言っておこうと思い
彼女を探しているのだが、
さっきから見つからない。
もしかしたら、もう寮の自室に帰ったのかもしれない。

(なら、明日言えばいいか。)

そう思い、僕も自分の自室に戻りはじめる。
学園をもう出るというとき、突然女生徒に声をかけられた。

「あの、殿下大変申し訳ございません。
少しよろしいでしょうか。」

「君は…確か、メイリーンの親友の。」

そうだ、確か名前はアリエス・サルビア侯爵令嬢。

「はい、サルビア侯爵が娘、アリエス・サルビアと申します。
突然殿下に話しかけました無礼どうかお許しくださいませ。」

「全然気にしないでいいよ。
それで、僕に何のようかな。」

「はい、実は今日メイリーン様体調不良で早退しておりまして、彼女にに届けなければいけないものがあるのですが、私よりも婚約者である
殿下に届けてもらうべきかと思い、こうして
殿下にお話させていただいております。」

メイリーンが体調不良で早退していたとは、
知らなかった。
親友であるアリエス嬢が届け物をするために部屋に行ったほうがメイリーンも喜ぶと思うけど。
僕も言いたいことがあったし、
体調不良なら婚約者として一応大丈夫か
聞いておく必要があるから、ここは彼女の言う通り
僕がメイリーンの部屋に行くとしよう。
すぐに帰れば、婚約者の部屋に行くぐらいで変な噂がたつこともないだろう。

「分かった、僕がいくよ。
それで届け物というのは?」

そう言うとアリエス嬢が僕に差し出してきたのは
1通の手紙。
誰からのものか気にならないわけではないが、
僕が彼女の交友関係に何か言う権利はない。

「この手紙だけ?」

「左様でございます。」

「分かった。じゃあ、早速届けに行ってくるね。」

アリエス嬢と別れ、公爵令嬢・王族の女性専用の
寮に向かう。
と言っても、今はメイリーン以外に王女も
公爵令嬢もいないから、実質彼女1人のための寮だ。
彼女の部屋に近づくと少し大きな声が聞こえてきた。
この寮にいるのは、メイリーンと彼女の侍女の
イリンだけだったはずだけど、
2人とも大声を出すようなタイプではない。
誰か別の人が来ているのかもしれない。

それか、まさか何かしらの非常事態が起きているのか!?
足音を消し聞き耳を立てながら、早足で彼女の
部屋に向かう。
すると、聞こえてきたのが

「お嬢様、侍女として本来このようなことを言うべきではないのでしょうが、今日こそは言わせてもらいます!
お嬢様はバカです!大馬鹿者です!」

……この声は、イリンか?
いや、でも彼女はメイリーンに忠実な侍女で、
こんな主人にバカなんて叫ぶ人ではないはず。

「殿下とあのシャロンとかいう女のことでただでさえストレスで最近あまり眠れないことが多かったじゃありませんか。
なのに、いつも以上に試験勉強をして…
今回も1位を取って殿下に褒めてほしかったからってこんな無理をしてれば高熱を出すのは当たり前です!
しかも、いつも結局1位をとったって殿下に
嫌味を言うだけって…
毎回とても勉強を頑張っている結果なのに
『これぐらい普通に勉強していれば、当たり前の結果ですわ。皇太子ともあろう方が女の私に勉学で負けるなんて本当に殿下は勉強をしてらっしゃるのですか?』ってただの嫌な女になっちゃってるじゃないですか。
なんでいつも素直に言えないんですか!?」

どういうことだ?
すると、今度はまた違う声が聞こえてきた。

「だって、仕方ないじゃない!
ゴホッ、私だってディオーネ様と普通に話したいけどいつの間にか嫌味を言ってしまうのよ。
ディオーネ様と話すとどうしてもドキドキしちゃって、なぜか素直になれないんですの!
そう、これはあれですわ。
何でしたっけ、確か照れ隠しだったかしら。
私はまさにその状態なのです。
分かりませんの!?婚約が決まった頃からあんなに嫌味を言ってきてしまったのに、ディオーネ様は
私を邪険にするでもなくちゃんとお茶もしてくれるし、演劇も一緒に行ってくれるのよ?
本当に優しくて素晴らしい方なのよ。
ゴホッ、イリン水…」

…まさか、この声はメイリーンか?
本当にどういうことかわからなくなってきた。

「どうぞ、水です。
はぁ、照れ隠しですか。
でも、そうはいってもお嬢様という婚約者がいるのに特定の女性…シャロン嬢と仲良くされていらっしゃるじゃないですか?
そのような方が本当に素敵な殿方だと思いますか?」

「…仲良くなさってると言っても、
あくまで友人の関係としておかしくない範囲よ。」
 
「お嬢様だって分かっているのでしょう?
殿下が彼女に行為を抱いていることを。」

「分かっているわ、分かっているけど。
殿下は私達の婚約が政略婚約だと思っているはずよ。
本当は殿下に惚れてしまった私がお父様にお願いした結果ですけど。」

嘘だろう。
いや、よく考えたらおかしかったのだ。
ラディシア王国と我が国は古くから続く友好国。
わざわざ政略結婚をする必要はない。
それなのに、この婚約が結ばれたということは
どちらかにその意志があったということ。
我が国の方ではないなら、ラディシア王国だ。
しかし、今の国王はわざわざ娘に政略結婚を
させてまで我が国との関係を強めようと思う性格ではない。
となると、必然的にこの婚約に強く関わっているのはメイリーンということになる。

メイリーンには嫌われていると思っていたが、違うのか?
僕に惚れた?本人が言ったこととはいえ、とても
すぐには信じられない。
僕の前では素直になれない?
じゃあ、今までのメイリーンの言葉は本音ではなかったのか。

何がメイリーンの本当の姿なのか。
駄目だ、頭が追いつかない。

その日、僕は彼女に用があったことも忘れ
彼女の寮から出て慌てて自分の自室に帰った。


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