6 / 11
本編
4話
しおりを挟む新撰組と言いかけて、言いなおす。
……危ない。この年だったら、まだ新撰組ではなく、壬生浪士組だ。
歴史の授業で、図書館の本で、大学の資料で、覚えたことをフル活用する。
脳みその奥底から、知識を引っ張ってくる。
年号、出来事。
…………文久3年、1863年、3月12日。
その日は。
「…………何、言ってるの? 璃桜。俺たちまだ、名前なんてないよ?」
奇しくも、松平容保公から“壬生浪士組”の名を賜る、その日。
何故、この歴史的瞬間に立ち会っているのだろうか。
今までの私なら、新撰組の誕生に立ち会えてものすごく感動していたかもしれない。
いや、別に感動していないわけじゃない。
憧れの新撰組に逢える期待で、心の半分は感動で埋め尽くされて今にも倒れそうだ。
けれど。
目の前にいる、武士の恰好をした宗次郎を見つめる。
貴方が、その組に関係していることは、とても、嬉しくない。
何故、よりにもよって、1863年の京なの。
どうして、そうちゃんが、後に新撰組になる、壬生浪士組の隊士なの。
どこかまた違うところなら、そっと静かに暮らしながら平成に変える道を探すこともできるのに。
そこで、ふと気が付く。
………抜ければ、いい?
そうちゃんが、大事な役職なわけない、だって、平成から来たんだから。
しかも、宗次郎なんて人、新撰組にいなかった。
だったら、今のうちに抜けることも出来る?
抜けたとて、歴史を変えてしまうことにはならないのならば。
「………よし」
突然、意気込んだ声をだしたからだろうか、宗次郎はきょとんと首を傾げて名を呼ぶ。
「…………璃桜?」
「ごめん、そうちゃん、なんでもない。行こう」
「ならいいけど」
そこで、ぱっと私の前に回り込み、私と全く同じ薄茶の瞳で見つめて。
「………何かあったら、ちゃんと言うんだよ?」
そう言って、優しく笑った。
「うん」
その笑みに、宗次郎がここにいてくれて本当によかったと、心から安堵した。
「よし、じゃあ行こう? あ、待った、璃桜、その恰好目立つから、少しの距離だけど隠そう。ちょっと臭いけどこれ着てて」
そう言ってリュックを取り上げられ、代わりにばさりと肩に掛けられたのは、濃紺の羽織。
久々に包まれる宗次郎の香りに、どくりと心臓が鼓動した。
誤魔化すように、ぎゅ、と羽織を握りしめた。
0
お気に入りに追加
90
あなたにおすすめの小説

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。
松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。
そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。
しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

ご安心を、2度とその手を求める事はありません
ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・
それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

【コミカライズ&書籍化・取り下げ予定】お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。
ごろごろみかん。
恋愛
仕事と私、どっちが大切なの?
……なんて、本気で思う日が来るとは思わなかった。
彼は、王族に仕える近衛騎士だ。そして、婚約者の私より護衛対象である王女を優先する。彼は、「王女殿下とは何も無い」と言うけれど、彼女の方はそうでもないみたいですよ?
婚約を解消しろ、と王女殿下にあまりに迫られるので──全て、手放すことにしました。
お幸せに、婚約者様。
私も私で、幸せになりますので。


永遠の誓いを立てましょう、あなたへの想いを思い出すことは決してないと……
矢野りと
恋愛
ある日突然、私はすべてを失った。
『もう君はいりません、アリスミ・カロック』
恋人は表情を変えることなく、別れの言葉を告げてきた。彼の隣にいた私の親友は、申し訳なさそうな顔を作ることすらせず笑っていた。
恋人も親友も一度に失った私に待っていたのは、さらなる残酷な仕打ちだった。
『八等級魔術師アリスミ・カロック。異動を命じる』
『えっ……』
任期途中での異動辞令は前例がない。最上位の魔術師である元恋人が裏で動いた結果なのは容易に察せられた。
私にそれを拒絶する力は勿論なく、一生懸命に築いてきた居場所さえも呆気なく奪われた。
それから二年が経った頃、立ち直った私の前に再び彼が現れる。
――二度と交わらないはずだった運命の歯車が、また動き出した……。
※このお話の設定は架空のものです。
※お話があわない時はブラウザバックでお願いします(_ _)

三度目の嘘つき
豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」
「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」
なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる