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2118年7月1日

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「___、ということで地球は徐々にその気温を下げていき、現在に至るということだ。この辺りは試験でもよく聞かれるぞ~!」

教卓で指し棒を片手にスクリーンに映し出されるグラフを解説していた教師はくるりと体の方向を変え生徒たちを見る。

そして何か見つけたのか、ある一点を見つめる。それにつられて生徒たちは教師と同じように一点を見つめる。


「河水、お前ここ最近の授業全部寝てるぞ。ここで平常点を取らないでどうするんだ。」

静かな怒りの声を発する35歳独身教師。その声は河水の耳のは届かない。セミロングを垂らして、よだれを垂らして寝言を垂れている。彼女の前の席の女子が起きて、と声をかけるももにゃもにゃというばかりで未だ夢の中だ。

彼女は河水 小夜という。真っ黒のセミロングに、若干つり気味の二重、どこか猫を連想させ、アクティブな印象で最初の自己紹介では、 「好きなものは夏です。」と今はもうない季節を口にしていたから多くのクラスメイトの記憶に彼女の存在はインプットされた。
その後も、授業中は寝るが休み時間や体育の時間になるとまるで水を得た魚というのが言い得て妙だった。



ついに起きなかった彼女にしびれを切らしたのか教師は、時代錯誤にも程があるどこから出てきたのか分からないチョークを彼女に向けて投げた。見事つむじに的中し、流石に驚いたのかびくりと体が跳ね、焦点の合わない目で教師を見た。

「…また私寝てました?」
掠れた声で不思議そうに問う。

「あぁ、まただ。これで6時間連続でこの授業寝てるぞ。新記録だなおめでとう。夜遅くまで起きてるはもうやめろよ。」

「あんまり嬉しくない…。あとそれは直せないです。」
寝起きのせいか、休み時間によく見る彼女のテンションとは打って変わってローテンションだ。

そのまま彼女はグッと伸びをしたところで丁度授業終了のチャイムが鳴った。







時刻は変わって午後4時前といったところ、河水小夜とその友人は放課後の教室で何やら話し込んでいた。


「だーかーらー!!“向日葵”をうちの畑一杯に咲かせたいの!!」

「馬鹿かお前!?もうこの気温じゃ向日葵は咲かねぇし育たないわ!」

「でもウチ、その風景実際に見て見たいわぁ。」

「まぁまぁ…小夜が突飛なこと言うのはいつもの事だしさ…。」

無駄に大きな声で叫んだのが小夜、その大きい声が移って大声で怒鳴ったのが凛太朗、関西弁のおっとりは鈴羽、苦労性そうな彼は真人だ。
4人は所謂幼馴染というもので家は勿論に近く幼い頃からよく遊んだものだ。
__それ故に、小夜の突拍子のなさには慣れているつもりだがやはり驚く。

そもそもこの時代においての向日葵はもう自生する事は出来ず、植物園や施設でしか見ることができない貴重な花であった。
向日葵の自生できる気温はおおよそ20℃から30℃が適切だとされる。だが、7月の平均気温が15℃~17℃、100年前で言う秋や春ほどの気温の2118年、今日この頃、向日葵の外での栽培は困難極まりない。

そう有り体に言えば不可能だ。


「やっぱり無理だ!!お前がやって出来るような事なら、もっと凄い人がとっくにやってるし、今頃向日葵が見れてるだろ!」

「そうだけど!見たいったら見たいの!」
こう言ったら、断固として小夜は曲がらない。経験則ってヤツだ。




こうして高校2年の夏を彼女らは向日葵を育てる事に費やす事が決定した。


夏を知らない彼女らは満開の向日葵畑知る見るのだろうか。

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