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アウトフォーカス
裸足
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それは余りに突飛な出来事だった。
私は確かに学校の帰り道の交差点を渡っていたはずだ。あたりにトラックや車なども走っておらず間違っても引かれて死んだ。そしてここは天国だなんてことは有り得ない。夢を見ているのだとしても、眠った記憶は無い。__要するに、“なんの前触れも無く唐突に全く知らない場所”に何故か裸足で突っ立っていた。
「ぇえ……?」
もはや困惑の声しか出ない。むしろそれ以外何があるのだ。
一度、自分の状況を簡潔かつ、冷静に整理すると全く知らない場所に制服のまま立っていた。(何故か靴をはいておらず裸足である。)あんまりに唐突な出来事にポカンと口を開けるしかない。量産型女子高生のアホズラの完成である。
「……は、はい…?えっ……。」
戸惑う他ないですよね、本当に。
辺りは一面の砂、砂、砂、寧ろ砂以外を探すのが難しい。空にはクラゲみたいな月が浮かんでいて、その周りを光が彩っている。月光に照らされて砂漠のデザートピンクはゆらゆらと陽炎の様にその全体をうっそりと写していた。
まさか、無意識のうちに鳥取砂丘でも来てしまったのだろうか。いやいやいや、学校から鳥取なんて新幹線を使わないと来られない。そんなお金私は学校に持って行かないし、絶対に有り得ない。とすれば、
「明晰夢って奴かな…。」
恐らく違うが、と言うか寝てすらないのであり得ないのだが、もはやその希望にすがるしか無い。気分は今すぐにでも雨が降らないと、穀物が枯れ、家族もろとも飢餓で死んでしまう百姓が神に縋っている。そんな気分だ。分からない?残念だがわたしにも分からない。
「…寒い……。」
ほら、こんなに感覚がしっかりしてるのに夢な訳。…エッ?夢ですよね、ほんと勘弁してください。まだ昨日撮った写真を現像してないんです…。
取り敢えず、独りごちていてもしょうがない。此処をサハラ砂漠と仮に名付けてオアシスとやらを目指そう。もしかすると誰かに会えるかも知れない、いや、会えないと場所も分からない上に食糧もない。何より“夜の砂漠”っていうのが危ないから多分、最悪死ぬ。もしかしなくても死ぬ。
とりあえずは
「…歩くか~……。」
あーぁ、全くなんでこんな目にあってるんだろ、私。もしかして、勇気がないのは時代のせいにしてたから、神様ってヤツが、気を利かせてくれたんだろうか。もしそうなら、この場所を選んだ時点でポンコツ確定じゃないか。なんで神様ってのは、どの神話においても完璧じゃないんだろう。7日間で世界を創ったのだって、そもそもバカなんだ。もっとちゃんとしっかり計画を練って作るべきなんだ。いや別に、そんな話はどうだっていい。
暫く歩いていると、前方に蠢く影を見つけたのは良いものの、物凄い勢いでこちらに向かっている。
あっ、これは避けられない。
そう察した私は、これで目が覚めればいい、と潔く目を瞑り衝突の瞬間を待ったが、一向に衝撃がこない、不審に思った私は、恐る恐る目を薄く開けると、ラクダらしき生き物(本物を見た事が無いため言い切れない)に跨った青年が不審そうな目をしてこちらの様子を伺っている。
「止まれたのかい……。」
思わず口から出たのはまさかのツッコミだ。あの勢いで、音なく止まれるなんて思ってなかった。
よほど素っ頓狂な顔をしていただろう。眼前の青年は、私の顔を見て、そして鼻で笑った。
「…ッぷ、アンタ、なんつー顔してんだよ」
「そんなに変顔はしてないと思うんですけど…。」
「なら、アンタは元からその顔なのか、可哀想にな。」
なんて酷い言い草だ。私のプレパラート(正確にはカバーガラス)の様に脆いメンタルを一瞬にして割ったぞ、あの青年。
「んで、アンタ誰?見た事ねー顔な上知らねー服だな。外人さんだよな、なんでこんなトコいるわけ?自殺希望者かい?」
スッと真顔になった青年は、唐突に今までの疑問だったであろうことを投げかける。確かに彼の容姿は日本人の顔立ちではなかった。日に焼かれたのか生まれつきか褐色の肌で目はネコを連想させる大きな一重のツリ目。茶色の短髪で瞳は翠がかった焦げ茶といったところか。
外人で一重なんてお目にかかったことはないが、鼻などは高く、異国情緒溢れる顔立ちというのが私の感想だ。
「気がついたら此処にいたの。多分外人ではあると思うけど…。」
あえて自殺希望者に関してはノータッチ。こういうのは無視するのがいいっていうのは学校で学んだ。
「へぇ…。俺はアンタみたいな人間は初めて見た。真っ黒な髪の毛は、見かけるがどいつもこいつも固そうな毛でな、アンタのとは違うみたいだ。単色の瞳に関しては初めて見た。顔のパーツもだいぶと違うみてぇだしな。」
「……てな訳で、俺は今からアンタを拘束して、商人にでも売っちまおうって考えてんだわ。」
「ん?」
「アンタ、高く売れそうだしな、俺も最近懐が寂しいのなんの。…もし売られたくないのなら、一つ条件を出す。」
突然の人身売買話に驚きそれどころではない私を、無視して彼はペラペラと喋り出す。本当に状況が理解できない。そして条件ってなんだ。頭がパンクする寸前である。
「ッじょ、条件って…?」
「アンタの魔術を教えろ。使えるモンなら売らずに俺が利用してやるぜ?」
「…?魔術ってなんですか?」
そう言うと、彼は虚をつかれたらしく、一瞬動きが停止し数秒経つと何か思いついたらしくニヤリとした笑みを浮かべた。
「よほど自分の魔術を知られるのが嫌と見た。それともアンタ、たまに聞く魔力が少なくて、使えないタイプの人間かい?」
「いやだから、魔術が分からないんです!」
そう叫んだ私の声はだだっ広い砂漠によく響いたと思う。
私は確かに学校の帰り道の交差点を渡っていたはずだ。あたりにトラックや車なども走っておらず間違っても引かれて死んだ。そしてここは天国だなんてことは有り得ない。夢を見ているのだとしても、眠った記憶は無い。__要するに、“なんの前触れも無く唐突に全く知らない場所”に何故か裸足で突っ立っていた。
「ぇえ……?」
もはや困惑の声しか出ない。むしろそれ以外何があるのだ。
一度、自分の状況を簡潔かつ、冷静に整理すると全く知らない場所に制服のまま立っていた。(何故か靴をはいておらず裸足である。)あんまりに唐突な出来事にポカンと口を開けるしかない。量産型女子高生のアホズラの完成である。
「……は、はい…?えっ……。」
戸惑う他ないですよね、本当に。
辺りは一面の砂、砂、砂、寧ろ砂以外を探すのが難しい。空にはクラゲみたいな月が浮かんでいて、その周りを光が彩っている。月光に照らされて砂漠のデザートピンクはゆらゆらと陽炎の様にその全体をうっそりと写していた。
まさか、無意識のうちに鳥取砂丘でも来てしまったのだろうか。いやいやいや、学校から鳥取なんて新幹線を使わないと来られない。そんなお金私は学校に持って行かないし、絶対に有り得ない。とすれば、
「明晰夢って奴かな…。」
恐らく違うが、と言うか寝てすらないのであり得ないのだが、もはやその希望にすがるしか無い。気分は今すぐにでも雨が降らないと、穀物が枯れ、家族もろとも飢餓で死んでしまう百姓が神に縋っている。そんな気分だ。分からない?残念だがわたしにも分からない。
「…寒い……。」
ほら、こんなに感覚がしっかりしてるのに夢な訳。…エッ?夢ですよね、ほんと勘弁してください。まだ昨日撮った写真を現像してないんです…。
取り敢えず、独りごちていてもしょうがない。此処をサハラ砂漠と仮に名付けてオアシスとやらを目指そう。もしかすると誰かに会えるかも知れない、いや、会えないと場所も分からない上に食糧もない。何より“夜の砂漠”っていうのが危ないから多分、最悪死ぬ。もしかしなくても死ぬ。
とりあえずは
「…歩くか~……。」
あーぁ、全くなんでこんな目にあってるんだろ、私。もしかして、勇気がないのは時代のせいにしてたから、神様ってヤツが、気を利かせてくれたんだろうか。もしそうなら、この場所を選んだ時点でポンコツ確定じゃないか。なんで神様ってのは、どの神話においても完璧じゃないんだろう。7日間で世界を創ったのだって、そもそもバカなんだ。もっとちゃんとしっかり計画を練って作るべきなんだ。いや別に、そんな話はどうだっていい。
暫く歩いていると、前方に蠢く影を見つけたのは良いものの、物凄い勢いでこちらに向かっている。
あっ、これは避けられない。
そう察した私は、これで目が覚めればいい、と潔く目を瞑り衝突の瞬間を待ったが、一向に衝撃がこない、不審に思った私は、恐る恐る目を薄く開けると、ラクダらしき生き物(本物を見た事が無いため言い切れない)に跨った青年が不審そうな目をしてこちらの様子を伺っている。
「止まれたのかい……。」
思わず口から出たのはまさかのツッコミだ。あの勢いで、音なく止まれるなんて思ってなかった。
よほど素っ頓狂な顔をしていただろう。眼前の青年は、私の顔を見て、そして鼻で笑った。
「…ッぷ、アンタ、なんつー顔してんだよ」
「そんなに変顔はしてないと思うんですけど…。」
「なら、アンタは元からその顔なのか、可哀想にな。」
なんて酷い言い草だ。私のプレパラート(正確にはカバーガラス)の様に脆いメンタルを一瞬にして割ったぞ、あの青年。
「んで、アンタ誰?見た事ねー顔な上知らねー服だな。外人さんだよな、なんでこんなトコいるわけ?自殺希望者かい?」
スッと真顔になった青年は、唐突に今までの疑問だったであろうことを投げかける。確かに彼の容姿は日本人の顔立ちではなかった。日に焼かれたのか生まれつきか褐色の肌で目はネコを連想させる大きな一重のツリ目。茶色の短髪で瞳は翠がかった焦げ茶といったところか。
外人で一重なんてお目にかかったことはないが、鼻などは高く、異国情緒溢れる顔立ちというのが私の感想だ。
「気がついたら此処にいたの。多分外人ではあると思うけど…。」
あえて自殺希望者に関してはノータッチ。こういうのは無視するのがいいっていうのは学校で学んだ。
「へぇ…。俺はアンタみたいな人間は初めて見た。真っ黒な髪の毛は、見かけるがどいつもこいつも固そうな毛でな、アンタのとは違うみたいだ。単色の瞳に関しては初めて見た。顔のパーツもだいぶと違うみてぇだしな。」
「……てな訳で、俺は今からアンタを拘束して、商人にでも売っちまおうって考えてんだわ。」
「ん?」
「アンタ、高く売れそうだしな、俺も最近懐が寂しいのなんの。…もし売られたくないのなら、一つ条件を出す。」
突然の人身売買話に驚きそれどころではない私を、無視して彼はペラペラと喋り出す。本当に状況が理解できない。そして条件ってなんだ。頭がパンクする寸前である。
「ッじょ、条件って…?」
「アンタの魔術を教えろ。使えるモンなら売らずに俺が利用してやるぜ?」
「…?魔術ってなんですか?」
そう言うと、彼は虚をつかれたらしく、一瞬動きが停止し数秒経つと何か思いついたらしくニヤリとした笑みを浮かべた。
「よほど自分の魔術を知られるのが嫌と見た。それともアンタ、たまに聞く魔力が少なくて、使えないタイプの人間かい?」
「いやだから、魔術が分からないんです!」
そう叫んだ私の声はだだっ広い砂漠によく響いたと思う。
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